異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
「そういえば、ナラーシャの娘さんが冒険者になるらしいぞ」
「ぶーーーっ!」
突然クトゥルー男爵がびっくりするようなことを言ったから、呑んでいた紅茶を吹き出してしまった。
あぶなっ! 原稿濡れてない!? 大丈夫!?
「行儀が良くないぞ、ミツキ」
「男爵がいきなり変なこと言うからじゃないかぁ!」
ここは私の私室、何故かベッドにクトゥルー男爵が寝転んでいて、本を読みながらぼんやりとしているのだ。
なんで……?
あとこの人、豊満すぎる自分の胸を本置きにしてるぞ!?
ええと、どうしてこうなったかといえば、私のシェリブロ原稿がもうマジ限界ギリだからだ。
催促に来た男爵が、そのまま居座って私の原稿完成を見張っているわけ。
暇人かよ!
いや、ドノファンの一件も落ち着いて時間はあるんだろう。
それはそれとして、多分少し貴族としての重圧から逃れて、のんびり羽を伸ばす意味合いもあるんだろうな。
もう息子さんも、常に面倒を見てなきゃ行けない年齢でもないし。
で、話を戻そう。
「ナラーシャさんって……うちのナラーシャさん?」
「そうだ。君のところの侍従長で、君が没落した後に、うちで引き取ったあのナラーシャだ」
「む、娘さんいたんだ……」
「それは結構前からいたぞ……」
私の家が没落する前から既婚だし、子どももいたらしい。
それで、今年で十三になるから冒険者としてやっていくことにした、とかなんとか。
「はえー、時間の流れってはっやいねぇ。ナラーシャさんってすっごく若くて美人だったじゃん」
「今も若くて美人だぞ……どうやってあの美貌を維持しているのだろうな……子持ちだぞ」
「鏡とってこよー」
お前もやろがい!
なんだそのシミ一つない肌は! なんだそのシワ一つない顔は!
え、私も将来的にはそうなる? まぁそんな気はしてるけど……
「というか、私って男爵からシェリブロの原稿を催促されてるんだよね!? なんでそっちから集中が切れるようなことを!?」
「作業を始めてからそろそろ一時間だ。少し緊張を解したほうがいいと思ってな。それに、もうすぐ完成するのだろう?」
「んまー、あと少し……最後の〆の部分が決まらなくって」
そこさえ決まってしまえば、あとはぱぱっと仕上げるだけでいいだろう。
けどなぁ、その最後の一文がピンとこないんだよなぁ。
「ふむ、確か事前に聞いていた話だと、今回もシェリィが青春とは何かを考える話だったか」
「ざっくりとしすぎている理解だ……というか、今回もって何さ今回も……って」
「……まさか、気づいていないのか? 最近のシェリブロはずっと青春の話をテーマにしているとばかり思っていたんだが」
え? あ、あー、なんか最近読者からの評判も、ここ最近の中ではいい方だった気がする。
だけどそれは、話に一貫性が感じられたからなのか。
ごめん、作者そこまで考えて話書いてません……
「君が弟子を取った頃から、シェリブロは青春路線だったと記憶しているが」
「あー、そうだっけ。アルマちゃん頑張ってるからねぇ、青春感じちゃってるのかも」
「それはいいのだが……いや、いいか。君が面倒を見ているなら、
「ん?」
今なんか行った?
っと行けない、折角男爵が話のテーマを指摘してくれたんだ、いい感じに考えないと。
「青春、青春ねぇ。私ってあんまり青春ってピンとこないからなぁ」
「何を言っている。今まさに青春を謳歌している最中だろう、君は」
「私がぁ? めっちゃ燃え尽きてるけど……」
「私からすれば、君はまだまだ若い。それに、君が思うほど君は枯れてはいないのさ。燃え尽きてはいるけどね」
「なにおう」
一応、前世の年齢を足せば私のほうが男爵より年上だ。
前世の経験、何も活かせてる気がしないけど、それはそれとして。
「男爵的には、私もまだまだ青春の只中に見えるわけだ」
「そうだぞ。燃え尽きているからと言って、青春に君が加わっちゃいけないわけではない」
「まあそれはそうなんだろうけど……」
どうしても、一歩引いて見ちゃうからなあ。
こればっかりは、燃え尽きてるだけじゃなくて、大体のことが私と直接関わりがあるわけじゃないのも大きい。
前世の記憶も、少し足を引っ張っている。
「……ん、あそーだ。今のを今回の話の〆に使っちゃおう!」
「ほほう」
「シェリィって、今は自分にまつわるいろんな事件が解決して成長して、大人になっちゃったじゃん。でも、シェリィだってまだまだ青春真っ盛りなんですよ。って話にまとめればいい感じになる!」
「ふむ……」
そんな私の言葉に、男爵は少し考えてから……
「それは、君と同じだな」
「んへ?」
「今の君は、父君のことにケリをつけ、自由になった身の上だろう」
「あー…………あー……………………」
確かに。
ドノファンからオルゴールを取り返し、私は父様が私を愛してくれていたことを知った。
確かにそうだ。
今の私は、人生に一つの大きなケリをつけたところなんだ。
だったら、シェリィみたいに青春真っ盛りでもいい……のか?
「でもまぁ……父様の仇を討ったわけじゃないしなあ……」
「君の父君だって、そこまで求めてはいないさ。君自身も、父君の考えが知れればそれでよかった。だから、深入りはしようとしないだろう」
私の父は、ドノファンとその仲間に殺された。
男爵の旦那さんもそうだ。
だから男爵は、その犯人を追っている。
しかし今は、息子が独り立ちすることを優先しているのだ。
きっと、息子が独り立ちしたら男爵は隠居して本格的に仇を追うだろう。
その時私は、どうするんだろうな。
「だがそれも、まだ数年先のことだ。ミツキ、君の青春が終わってからだろう」
「その時に、答えを出せばいいってこと?」
「ああ、そして復讐を選ぶ必要もない。私と違って、君には未来があるのだから」
「そっか」
そうして、私は作業に戻る。
私のことと思えば、最後の一文を結ぶのに三十分すら必要なかった。
ささっと書き上げて、男爵に原稿を渡す。
それを確認した男爵は満足げに頷くと、ニッと笑みを浮かべた。
「さて、青春の話をするならば……だ。一つここは、実際に青春してみると言うのはどうだ?」
「青春はそんな単純じゃないよー、なんかこう、若さに溢れた行動を取らないと行けないんだから。一人で青春は難しい!」
「ならばいいことを教えてやろう。実は例のナラーシャの娘……今日からこのフェニハナで冒険者をするらしい」
「マジで!?」
え、今日!?
そんな急に!?
っていうかフェニハナなんだ。
男爵のところにナラーシャさんがいるから、てっきりネクロノミコン領で冒険者になるものとばっかり。
「ナラーシャとしては、自分の目の届くところじゃなくて、遠いところで頑張ってほしいみたいだな」
「その上で、私やシャロネがいるから、万が一の時は安心……と」
「娘の口から、君たちの近況を聞きたいと言う考えもあるだろうさ。私がこうしてたまに様子を見に来てはいるけれど、ナラーシャ本人と君はなかなか顔を合わせないからな」
男爵に呼ばれた時は会う時もあるけどね。
まあそれでも、なんとなくお互いに遠慮があるんだ。
負い目、と言ってもいいかもしれない。
「でもそっか……フェニハナで冒険者になるんだ」
「ああ、そうだな」
「…………」
「…………」
私と男爵は、互いになんとなくしんみりとした様子で見つめ合う。
時間の流れの速さとか、青春のこととか、これからのこととか。
まあ色々思いを馳せるものはあるからね。
まあ、とはいえ。
「様子を見に行っちゃうかあ!」
「うむ!」
こうなる前振りって意味の方が強いけどね。
って言うか、わざわざこのために今日一日を休みにしたでしょ、男爵!
目を逸らすな!
うひょー、みたいなテンションで突撃!
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