異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
わいわいがやがやがややんす。
今日もギルドは盛況だ。
時刻は夕方、仕事から帰ってきた冒険者が楽しげに酒盛りなんかをしていた。
「あの子は今日中にフェニハナへ到着し、今日のうちに登録を済ませて明日から本格的に冒険者を始める……とナラーシャから聞いている」
「おおー」
そんな中、怪しい雰囲気の変なやつが二人。
私と男爵である。
私はコートを脱いでサングラスをかけ、男爵は男装をしている。
以前の仮面舞踏会と違って、もうちょっと地味な感じ。
でもなんかこう、スーツっぽい。
サングラスをかけているのも相まって、謎の組織のエージェントみたいだ。
逃走したら追いかけてきそう。
「しかしミツキよ、我々は……目立ってないか?」
「エー、ソンナコトナイトオモイマスヨー」
「目立っているのだな……」
そりゃ目立つでしょ。
私はフェニハナ一の有名人で、となりの男爵は男装しているのに胸がクソデカイ。
そんな二人が柱の陰からギルドを観察しているのだ。
観察されるこちらの方が目立つのは、至って自然なことである。
むしろ男爵は本気で隠れてるつもりだったのだろうか……
「それより、あの子じゃないですか?」
「よく解ったな」
「だってナラーシャさんそっくりだし……」
透き通るように美しく長い紫の髪、細くスラッとした手足。
年齢はアルマちゃんと同じくらいだけど、身長はこちらの方が高め。
どことなく大人っぽい雰囲気の、しっかりしてそうな子だ。
名前はええと――
「彼女はリリーシャ、よろしく頼む」
「リリーシャちゃん。うんうん、かわいいねぇ」
物陰から、そんなリリーシャちゃんを観察する。
おそらく初めてやってきたであろうギルドの中を、リリーシャちゃんは物怖じせず歩いていく。
受付に声をかけて、冒険者登録を行っているらしい。
その受け答えもハキハキしていて、見た目通りのしっかりものという印象。
「彼女はすごいんだよ、ナラーシャの技術の全てを吸収し、メイドとしてもパーフェクトなのさ」
「ええー、うちのシャロネの方がすごいよ。変態であることを除けば、シャロネだってパーフェクトだー」
「その一点だけで全てを台無しにしているがな」
「そうだね」
へっくしゅん。
なんかどっかから、盛大にくしゃみが聞こえた気がした。
「お、登録終わったみたい。これで新たな冒険者の誕生だぁ。はっぴばーすでーい」
「うむ、めでたいな。ところで――」
「――うん」
そして、リリーシャちゃんは受付のルクスラちゃんにお礼を言ってから背を向けて、なんというか、こう……
アレですね。
「こっち向かってきてますね」
「待て、おかしいぞ。我々は隠密行動中のはずだ。それに私は認識阻害も行っている」
「やっぱり本気で隠れてるつもりだったんだ……」
で、私たちのところまでやってきたリリーシャちゃんは、壁の柱に隠れた私たちをみて、言った。
「あの……何をなさっているのですか?」
なんか、普通に心配そうな口ぶりで。
というか……度胸あるな。
現在私たちは、めちゃくちゃ注目を集めている。
すなわち、私たちに声をかけたリリーシャちゃんまでめっっっっっちゃ注目を集めるということだ。
それを恐れることなく、リリーシャちゃんは私たちに声をかけている。
じっと、こっちに視線を向けながら。
「え、えーとこれは……だな……」
「私は謎の冒険者M! ミっちゃんって呼んでくれてもいいよ!」
「そういうノリで行くのか!?」
ノリノリに決まってるじゃないかぁ。
こういうのは適当でいいんだよ、適当で。
「こほん、ではあれだ。私は……謎のだんしゃ……ちがう、なぞの男装令嬢Cだ。ク、クーちゃんってよんでくれても……いいのだぞ?」
「かわよ」
「えっ」
「なんでもないでーす」
恥じらう超弩級爆乳未亡人は……可愛かった。
なお。
「他の冒険者の方の迷惑になりますので、そういったことは避けるべきかと」
「はい……」
すっげぇマジレスされた。
しゅん……
■
それから私たちは、場所を移して話をすることにした。
ギルドには人の目をさけて話ができるスペースがあるため、そこを借りて。
私が念のため、音が漏れないよう魔術をかけたのを確認すると、リリーシャちゃんは一つ息を吐いてから私たちに一礼した。
それから、またもじっとこちらに視線を向けてくる。
目を合わせて話をすることを重んじるタイプなのかな、礼儀正しい子だ。
「改めまして、リリーシャと申します。お久しぶりです、男爵様。そしてお噂はかねがねお聞きしております、ミっちゃん様」
「あ、ミっちゃん呼びで行くんだ……」
「そうご所望されましたので……ミツキ様、とお呼びいたしますか?」
「ううん、なんか楽しそうだからミっちゃん呼びでお願い」
というわけで、改めてリリーシャちゃんとご対面である。
うーん、すっごい真面目な感じ。
昔のシャロネを思い出すかのようだぁ。
「ところで……男爵様はどうして椅子の上で正座をなさっているのでしょう」
「異大陸から流れてきた書物に書いてあったよ……反省を表すための所作である……と」
「それ私があげた本だよね」
懐かしい……そして真に受けてるよ男爵。
なんだかこころなしか、しゅんとした様子の長身爆乳男装令嬢であった。
子持ち未亡人が自分から令嬢と名乗っていくのかぁ……
いや既婚なんだから令嬢じゃないよね?
ツッコミどころしかない。
「男爵様。男爵様はクトゥルー家の現当主なのですから、それにふさわしい振る舞いを心がけるべきかと」
「はい……」
「無論、日々の政務にお疲れであることは理解しております。羽根を伸ばすことも必要なことです。ですが、あまり目立つような行動はお控えください。認識阻害があるとはいえ、誰が男爵様に気付かないとも限りません」
「はい……」
「特に男爵様は、とにかくデカ……目立つお方なのですから」
「はい……」
こわい。
「そしてミっちゃん様」
「ひいっ!」
「……なぜそのように怖がるのですか? そしてどうしてミっちゃん様まで正座を……?」
「あ、なんか、つい……」
こう、流れで……
「これから、フェニハナの街で冒険者として活動させていただきます。何卒及ばない点あるかと思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「めちゃくちゃ真面目な挨拶だ!!」
「真面目な子なんだよ……」
なんか、横で男爵が立派になったなぁ、みたいな雰囲気を出している。
いやまぁそれはわかるんだけど、爆乳男装令嬢状態で、かつ正座しながら言うことではない。
「し、しかしアレだね……本当に真面目でいい子だね……リリーシャちゃん」
「……? はい、ありがとうございます」
「ところで気になったんだけどさ、どうして冒険者を目指そうと思ったの?」
なんというか、性格的にも雰囲気的にも、冒険者というより侍従として働いている方が似合ってそうな少女だ。
来ている服装からして、おそらく魔術師。
リリーシャちゃんのことだから、器用で優秀なんだろう。
そう考えると、そもそも仮に侍従にならなくても冒険者以外にも道は色々あったと思う。
だっていうのに、わざわざ冒険者を選んだんだ。
並々ならぬ理由があっても、不思議じゃない。
「……憧れている方がおりまして」
「え、何? そうなの? んふんふ」
「……君のことではないぞ、ミツキ」
「えっ」
えっ。
ガーン。
ガーン……ガーン……ガーン。
「ミ、ミっちゃん様のことも憧れております! 魔術師を志したのも、ミっちゃん様のようになりたいと思ったからです!」
「シャキーン」
「復活が早い」
えへへ……(てれてれ)
ん、そうなると、本当に一体誰を理由に冒険者を志したんだろう。
「その方は、フェニハナでもっとも優秀な冒険者パーティに所属しており、多くの冒険を成功させてきたそうです」
「ああ、うん。私は冒険者としては不真面目だからね……」
「あ、えっとその……」
「あ、ごめん。つづけて、つづけて」
話の腰を折ってしまった。
……ん? 優秀な冒険者パーティって、それつまりフォッサルだよな?
「何より、その方は母様も認める非常に優秀な侍従であった、とも」
「……えっと」
「まさしく、私の目指す冒険者の理想そのものなのです」
――――つまり。
「シャロネ様は!」
…………えっと。
「……男爵? ちなみに聞きたいんだけど、この子シャロネの今については……」
「そもそもシャロネがナラーシャと顔を合わせようとしないからね……」
「ああうん……」
たまに男爵の護衛を務めたり、私と一緒に男爵家に行ったりするけど。
会うのさけてたんだね、シャロネ……
「ああ、早くお会いしたいです! 凛々しく、剣士としても優秀! ああ、シャロネ様……!」
………………………………………………………………どーしよ。
やべぇぞ!
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