異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
アレだけ背徳だのなんだのと、バカみたいなことをしていても、眠くなってくると人は寂しくなってくる生き物だ。
私とアルマちゃんは、肩を寄せ合って星をみあげながら、ぽつりぽつりと話をしていた。
「セレスティア家は、確か少し前にご当主が急病で亡くなられて、ゴタゴタしていると聞いたけど」
「……よくご存知だわ、お師匠様」
「若干、私のくせに、みたいなニュアンスを感じるぞう」
「そ、そんなことないわ! たとえ思っていても、態度に出さないようにするわ! だって私は誇り高き始祖アンジェリカ様の血を引いているのだから!」
ほんとぉ?
まぁとにかく、私が知っている理由はクトゥルー男爵が教えてくれたからだ。
もともとネクロノミコン領は帝国に近い位置にあり、帝国貴族とも交流がある。
というか、以前男爵がなにかいいたげだったのはこれが理由だったんだな。
思い返すと、なぜか「案の定」という単語が浮かんでくる。
うーんこれは、伏線回収というよりもフラグ回収……
「……お父様が亡くなって、セレスティア家は没落寸前よ。後継に男児がいなかったのよね。姉さま達はすでに嫁いでしまっていて、婿を取るわけにもいかないし……」
「アルマちゃんは、まだそういう年でもないものね」
「だから、決めたのよ。私が当主になって、家を守るの。幸いセレスティア家の始祖は戦争で活躍して貴族位を貰ったアンジェリカ様。功績があれば女当主も認められるわ」
普通、令嬢は当主になれない。
クトゥルー男爵は女だてらに領を切り盛りしているけれど、それはあくまで息子が大きくなるまでの処置だ。
たとえ始祖が平民から成り上がった女性だったとしても、二代目以降の後継は男子が継ぐのが普通。
相変わらず、貴族の世界だけは男女差別が中世並だなぁ。
「それで、今は叔父が一時的にセレスティア家を取り仕切って、私は冒険者として立身を目指すことになったの」
「それ、結局叔父に家を乗っ取られない? 仮に冒険者として成功して跡を継いでも、貴族としての教育が足りてないから叔父の傀儡になるよ?」
「織り込み済みよ、叔父は悪い人ではないもの。だからこそ、背負わせたくないの。あの人は貴族が向いていないからって弟のお父様に家督を譲った人なのに」
「……そっか、ごめんね」
「いいえ、普通なら誰だってそう思うもの、当然よ」
そうやって苦笑するアルマちゃんには、どこか諦観の色が感じられた。
そりゃそうだ、客観的に見ればあまりにもアルマちゃんのやっていることは無謀である。
家を叔父に乗っ取られ、せめてもの抵抗として始祖の逸話にすがっているのだ。
実情がそうだったとしても、そうでなかったとしても、”思って”しまうことはあるだろう。
私はふと思い立って、焚き火で沸かしていたお湯を使って紅茶を入れる。
夜は少し肌寒く、身体を温める必要があるだろう。
「ありがとう、お師匠様」
「ううん。……それで、お話、聞かせてくれる?」
「……そう、ね」
アルマちゃんの話は、実家のことを話せば終わり……というわけではないだろう。
むしろそれは、前提に過ぎない。
アルマちゃんの中で一番強く渦巻いている感情は、実家に対するものではないはずだ。
「私思うのよ、ダグラスや他の冒険者を見るたびに、いいなぁ……って」
「……」
「冒険者って、一人で生きていくための職業なのよね。自分の生き方を自分で選んで、それを貫くための職業よ。そういう自由を、羨ましく思ってしまうこともあるのよね」
――冒険者は、自由が多い。
フリーターのまま、大金を稼いで英雄になれるような職業だ。
無論、そうなるためには才覚も必要だけど、明らかに前世のそれよりもハードルは低い。
選択肢だって豊富だ。
ある程度実績を積んだところで就職して腰を落ち着けてもいいのである。
だからこそ多くの人が冒険者になり、そして自分なりの人生を歩んできた。
特に冒険者は若さが命だから、自然とそれは――
「……青春、だねぇ」
「青春……」
青春という概念は、この世界でも伝わる。
アオハルと言い換えると、なにそれ? みたいな顔をされるが。
「人には人の青春があり、冒険者には冒険者の青春がある。私の知り合い……っていうか、フォッサルのメンバーは実に冒険者らしい青春を送ったんだよね」
「冒険者らしい青春……」
「未踏のダンジョンに挑んだり、強大な魔物と戦ったり。すっごいいろんな冒険を成功させている。あそこにはシャロネもいるから、私としても少し鼻が高いんだ」
「あああの……厭らしい方……」
おいこら待て。
何あんまり面識のない相手に厭らしいヤツだって認識されてるんだ、お前は!
「だから、初めてフェニハナの冒険者ギルドを訪れた時、お師匠様をみて感じたの」
「私を?」
「――アタシと同じなんだな……って」
「……」
まぁ、そうだな。
私はアオハルを、どこか一歩引いたところから見ている。
そして何より――アルマちゃんと同じ没落令嬢だ。
父を失い、家を失い、一人で生きるため冒険者になった。
根底にあるものはだいぶ違うけれど、それでも――
「お師匠様は、ギルドの片隅でお酒を飲みながら、どこか愛おしそうに他の冒険者をみていたの。なんだか不思議な光景だったわ。でも、普通なら目に入らないような光景なのに、目に焼き付いてしまうくらい……」
「それで、私の弟子になったんだ」
「ええ、それに……お師匠様に”自分のもの”って言われて……ちょっとときめいてしまったから」
「ソッカ」
記憶にないです、ごめんなさい。
こほん。
こほんこほん、げほっ、ごほごほっ。
むせた!
「お師匠様、大丈夫!?」
「大丈夫だよ、げほっ。いいの、気にしないで」
「え、えぇ」
だって自業自得ですし……
と、とにかく、だ。
「……なんていうか、私もさ」
「はい、お師匠様」
「アルマちゃんと同じなの。――ずっと昔に、父が死んで没落したんだ」
「え……」
ああまったく、こうやって他人に自分の素性を語るって……小っ恥ずかしいな。
正直、他人に過去を語ることなんてほとんどなかった。
こうやって過去を語る時って、自分がナーバスになってる時くらいだから。
私は常に燃え尽きてて、どこか自分の感情に一線を引いてるから、誰かにそれをぶちまけることもない。
シャロネという、語らなくても伝わる理解者もいるから、なおのこと。
「あ、全然元貴族令嬢には見えなかった……って思ってるでしょ」
「そ、それは……えと、ごめんなさい」
「素直だなぁ。ま、私も同意見だけどさ」
苦笑しながら、続ける。
「だから、私とアルマちゃんは似てるんだよ。冒険者になった後、自分の青春を持てなかったところまでそっくり」
「……そう、だったのね」
「でもね、思うんだ。――きっと、私やアルマちゃんにだって、青春はあるよ」
いいながら、紅茶を口に含む。
二つ分の湯気が、ぼんやりと夜の闇に消えていく。
「それはきっと、普通に青春を送ってる人たちのものより、見つけにくいものかもしれない。実感しにくいものなんだろう。それでも――」
「……それでも?」
「アルマちゃんは、今の生活……嫌い?」
視線を向けたアルマちゃんは、少しだけ考える素振りを見せてから……こちらを見上げた。
そうだ、少し考えはするけれど、でもすぐに答えが出る問いかけなんだ、これは。
「――好きよ。ダグラスには世話になってるし、お師匠様とお話するのは、とても楽しいわ」
「なら、よかった。……うん、そうだね」
私は燃え尽きている。
だから、やりたくないことは避けるように生きてきた。
つまりそれは、やりたいことをやって生きているということで。
「私も好きだよ、冒険者」
まあきっと、そういうことなんだろう。
答えはまだ出てない、今日出ることはない。
それでも私とアルマちゃんは、互いに笑みを浮かべて紅茶で身体を温めながら眠くなるまで、楽しく話を続けた。
ちなみに寝る時は一緒に寝たぞ、いいだろー!
ところでアルマちゃんて案外……いやいいや、シャロネみたいにはなりたくないし。
黙っておこうね、うん。
あのやらかし祭りから真面目な方向に行きました。
なお罪が消えたわけではありません。
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