異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
――私はフォッサルに加入しなかった。
自分には、あの場所は眩しすぎたんだ。
もちろん、それはやる気のない私が悪いんだし、別に後悔だってしていない。
仮に自分が今の燃え尽きから抜け出したとしても、加入することはないだろう。
一人のほうがずっと気楽で、ちょっと遠巻きから眺めてる方が好きなんだ。
ただ、冒険に参加する頻度は少し増えていたかもね?
最初の冒険、五人でのダンジョン探索を終えた時、確かに私は楽しかった。
祝いの料理をギルドで頼み、乾杯をした時はこれぞ冒険者って気持ちだったんだ。
笑いあって、肩を並べて、それってすごくアオハルじゃん?
でも、頑張れない私はどこかそれを遠いと思ってしまう。
でも、こうも思ったんだ。
私は人のアオハルを、遠巻きで眺めてる方が好き。
ううん、違う。
――――私は、遠巻きで眺める
一緒に加わって、一緒に頑張っているよりも。
誰かの頑張りを応援して、誰かが成果を出すことを嬉しく思う。
気がつけば、そもそも全部がそうじゃないか。
バカをやってる、ジョセフとアンヌが好きだった。
青春のために、勲章のために、命を賭けるジェナさんの頑張りに私は応えた。
父のようになりたいラスルくんの特訓を見守った。
シェリィ・ブロッサムに青春という新たな道を示した。
そして――アルマちゃんの生き方を肯定した。
私たちにも、アオハルはある。
ああそうだ。
最初から――あったんだ。
■
――そこにいるのは、大型のゴブリンだ。
確か種族名はグレーターゴブリン。
ゴブリンにもホブだのハイだの色々種類があるけど、ノーマルなゴブリンの一番厄介な個体。
統率個体としては上にジェネラルやキング……あと
グレーターゴブリンは、ゴブリンとしてはかなり面倒な存在だ。
何しろ装甲が硬く、生命力が強い。
多少の傷は、戦っている最中にすら回復してしまうほど。
これは火力の足りない冒険者にとっては、”足切り”を意味する。
倒しきれる実力があれば、所詮は普通のゴブリンの上位種。
統率力も大したことはないし、掃討は容易。
でも、今いる4人の中でこいつを倒せるのは――
「私だけ、だね!」
会敵早々、私は勢いよくグレーターゴブリンにケリを叩き込んだ。
天翼をまとった私のケリは尋常ではなく、グレーターゴブリンを吹き飛ばすくらいなんてことはない。
ただ、向こうの装甲は本物で、この蹴りでも傷一つついていない。
ならより高い火力で、焼き尽くせばいい。
このケリはそもそもゴブリンを吹き飛ばしつつ地面にたたきつけて、次の攻撃を確実にゼロ距離で叩き込むことが目的。
しかし――
『ギャア!!』
「むっ!」
ゴブリンは、私のケリの勢いを利用して私の想定以上に吹き飛んだ。
まるで本能的に、最初からこうなると察していたかのように。
「こっちの想定以上にゴブリンが強い!」
グレーターゴブリンと戦ったことはある。
本来のグレーターゴブリンなら、今ので十分地面に叩きつけることが可能。
しかし、今は違う。
「やっぱり!
面倒なことになった。
でも、今は眼の前に集中。
ゴブリンをさっさと倒して、戦闘を終わらせる!
『グギャアアア!』
「遅いよ!」
――想定より強いと言っても、私が倒せないような相手ではない。
なんなら、この状態でもなお私には倒し方を選ぶ余裕すらある。
そのうえで――
「アルマちゃん達に、頼まれたんだ! それに応える強さを、見せつける!」
私は襲いかかってきたゴブリンの拳を、正面からかかと落としで地面に縫い付ける。
『グッ!』
「だって、私のアオハルは――」
手に、炎を浮かべる。
火竜の熱線!
それを――
「誰かを
地面に叩きつけた反射で火柱が登るくらい――全力で、全力で。
ただ、ぶつけた。
■
――それから、掃討作戦はあっさり終了。
ゴブリンは残らず退治することができた。
まぁそりゃ、敵の大型はグレーター一匹。
そいつさえいなけりゃ、ダグラスくんたちにとってすら容易な依頼である。
むしろ、それくらい容易でないと困るってもんだ。
「――ただ、これで終わりじゃないんだよね」
「……どういうこと、かしら」
「リリーシャちゃんが言ってたでしょ、フェニハナに来る前ゴブリンの襲撃を受けた……って」
「……そう、ですね」
現在、私たちはゴブリンの退治報告を村に済ませ、その御礼を受けた後にあてがわれた宿で相談をしていた。
宿というか、村長さん宅だね。
外からやってきた客を止めるための施設も兼ねているのか、ここは結構でかいのである。
一人一部屋あてがわれるくらいには。
まぁ、今はアルマちゃんの部屋に集まってるけど。
「普通ありえないんだよ、だってリリーシャちゃんは馬車を使ったんだもん」
「……馬車が通るルートは、可能な限り魔物が通らないように工夫がされてるんだったな」
「そもそも魔力の流れ的に魔物が湧きにくい場所だったり、魔物が攻めにくい場所だったり、わざわざ結界を用意してる場所もあるね」
――つまり、何かしらの異常が起きている。
「何が起きているのかしら……」
「そうだね……理屈としてはこの大陸そのものがダンジョン化してるんだ。いや、そもそも魔力が溜まって魔物が湧いてくるって時点でこの世界はダンジョンとそう変わらないんだけどね」
定期的に、中の空間がねじれて構造が変わったりはしないけど。
あと、宝箱も湧いてこない。
そこら辺は、異空間であるダンジョン特有の減少だ。
宝箱は、異界の道具を異空間を通じて呼び寄せることで発生する……なんて説もあるし。
いや、それは余談だな。
「そしてダンジョンには、ある特定の現象が発生することがある。それは冒険者にとっては稼ぎ時なんだけど、地上で起きると困ることになっちゃうんだよね。リリーシャちゃん、わかる?」
「――
「正解。現在、大陸全体でゴブリンの大量発生という活性期が起き始めてるんだ」
「……それ、大変じゃないかしら!?」
ざわり、と緊張感の走るアルマちゃんパーティ。
まぁ話だけ聞けばそうだよね。
でも実際は――
「んや、案外
「……へっ!?」
「よくある……とまでは言わないけど、まぁ数年に一度は起こりうる現象だからだよ」
そもそも、本当にヤバい現象ならもっと仰々しい名前がつけられて、一般人もその存在を知ってるはずだ。
しかし実際は、ちょっと魔物について勉強しないとこういう事例には出くわさない。
だって、そこまで問題にならずどれも対処されているから。
多少被害は出るかも知れないけど、それは活性期でなくとも常に起こりうる危険なんだ。
この世界の死は、前世よりもどうしても、近い。
「活性期といっても、本格的に魔物が大発生するまでには猶予があって、その間に誰かしらはそのことに気づく。そしたら強い冒険者に解決を依頼して、その冒険者が事件を解決したら終わりなんだ」
「ええっと、それってつまり……」
三人の視線が私を向く。
まぁ、そうだね。
こういうのを発見したら、冒険者には報告する責任がある。
報告しなかったことがバレたら、冒険者としての資格剥奪まであり得るくらい。
で、仮に私――特級に近い実力の冒険者がそれを報告したら。
「ま、私が解決する流れになるだろうね」
――そして私には、それが可能だ。
正直面倒くさい、だるい、燃え尽き少女になんて横暴だと思う。
でも、やらないわけには行かないよな。
「あ、あの……お師匠様!」
「どうしたの?」
「――わ、私たちにも……何かできることはないかしら!」
そして、案の定というべきか。
アルマちゃんはそう言ってきた。
ダグラスくんもリリーシャちゃんも、積極的に止めるつもりはないみたい。
「危険だよ?」
「足を引っ張ることは、絶対にしないと誓うわ。できるところまで、お師匠様が許す限りでいいの!」
「……」
私は、その瞳を見て頷く。
うん、私のやりたいことは最初から決まってる。
誰かの応援だ。
こうして、私についてきたいという教え子の応援だって、同じこと。
「――活性期を止めるには、その核を破壊する必要がある。当然この核は魔物で、とても強い」
「……捜索の、お手伝いはできませんか?」
「魔物ってことは、どれだけ大きかろうが空飛び回って見つけられるほどのサイズじゃねぇだろ」
「移動の際に野宿が必要なら、私たちが見張りをする。そうすればお師匠様は捜索に集中できるはずよ」
そして多分、三人だってそうなんだ。
三人の
「……そうだね、探す方法は大地に流れる魔力の線をたどるのが一番早い。大陸の大地には血管みたいに魔力が流れてて、その血管を辿ればいずれ魔力が溜まってる場所にたどり着く。けどこれは地上を移動しながらじゃないと難しい」
「……なら!」
その言葉に三人は笑みを浮かべて――
私は、力強く頷く。
「――うん、力を貸して、三人とも」
かくして方針は決まった。
後は、それを全うするだけ。
ああでも、少しだけ思うんだよね。
やっと私は、自分の青春に気づけた。
それはきっと、アルマちゃんという似た者同士と交流したことと――父の件にケリをつけたことが理由。
私の中で、自分の生き方と向き合う余裕ができたから。
でも、だけど。
思っちゃうこともある。
――今更じゃ、ないかって。
なんて、三人には絶対に、口にできることじゃないけどね。
というわけでゴブリンの活性期をどうにかします。
今回の話はこれをどうにかしたら一旦一区切り。
次回の更新はもう少しお待ちください。
来月くらいには……