異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
貴族だった頃の私には、一つ年下の侍従がいた。
侍従であると同時に、私の友人として、あるいは側近として彼女は私に仕えることととなったのだ。
結果、当時のやる気に満ちていた私に影響を受けて彼女は魔術を学び。
さらに私の護衛となるべく、剣術にも打ち込んだ。
それがシャロネだ。
父が死んだ後、私は燃え尽きたなりに使用人たちのその後の面倒だけは見た。
家が食い物になっている最中にそんなことを気にしているのは、腐れ貴族には奇異に見えたかもしれない。
だけど私にとっては、もう維持する気力もない家よりも、そんな家に残った使用人の将来の方が心配だったのだ。
そんな中、シャロネだけが私についてきた。
共に冒険者となり、シャロネはフォッサルへ加入して、私はソロ。
まあフォッサルとはかなり深い付き合いなので完全にソロってわけでもないんだけど。
まあでも冒険者になった後の私はそれまでのやる気が嘘のように、今みたいな燃え尽き女と化したわけだけど、それでもシャロネの態度は変わらなかった。
特に有り難かったのは、私に再起を期待しなかったこと。
家の再興とか、ほとんど考えてなかったからな、当時の私は。
今もだけど。
多分シャロネ自身、疲れてしまっていたんだろう。
生まれた時から私の側近として滅私で仕えることを求められ、それを貫き通すのは。
シャロネが女体に偏執的な執着を見せるようになった……あるいは本性を曝け出すようになったのは、冒険者になってからだ。
同じ穴の狢ってわけ。
それにしても、シャロネはどうして女体に目覚めてしまったのだろう。
それ以前は私が勉強で疲れてるからってお風呂で体を洗うのを全部任せても、着替えを下着まで任せても動じなかったのに。
たまに疲れで頭が茹だってる時にめちゃくちゃ絡みついても動じなかったのに。
どうしてシャロネは女体に目覚めてしまったんだ!
ともあれ、そんな私達だが、どちらから言い出したわけではないけれど、ある取り決めを交わしていた。
その取り決めに関する話をするときだけ、シャロネは私をお嬢様と呼ぶ。
まあ要するに、過去の清算に関する話だ。
◼︎
その日私は珍しく冒険者として依頼を受けた。
いや、普段も週一くらいで冒険には出かけてるんだけどね。
ダンジョンを適当にぶらつくか、護衛として知り合いの商人にひっついてく程度なんだけど。
たまに料理のために肉を狩猟したりもする。
ただまあ、フェニハナの圏内から出るのは久しぶりだ。
そして私が外に出るのは、大抵別の目的を果たすついでである。
「よっと、ついた」
夜明けから“灼緋の天翼”を起動して、ずーっと空を飛び続けること数時間。
午前中に私は目的地へと到達した。
そこは比較的規模の小さな漁村だ。
ちょうど前に話題に出たクトゥルー男爵の所領でインスマス村という。
やべえ名前だなおい。
住人たちの顔は普通である。
なんでこの世界でクトゥルー男爵のところだけ名前がおかしいんだ。
「すいませーん、“沈没船の引き揚げ依頼”を受けて来たミツキって言うんですけどー」
近くにいた村人に声をかける。
すると村人ははて……と少し考えて、それから思い至った様子でポンと手を叩いた。
「おー、あの依頼を受けてくれたのかい! うちらとしちゃ今年中に受けてくれる冒険者が出てくればいいなあ、くらいの依頼だったんだけどね」
「いえいえ、私としてもちょーっと気になることがあったので」
「ところでお嬢ちゃん、一人で回収するつもりかい? そりゃいくらなんでも無茶ってもんじゃ……」
「安心してください。私はミツキ、一級冒険者なんです」
「へえー、そりゃすごい。じゃあ任せても大丈夫そうだね。……ん、一級冒険者のミツキ?」
と言うわけで、村人の案内を受けて現場に向かう。
話としては、こうだ。
今から少し前、この村近くの海域で沈没船が見つかったと言う。
数年前に行方不明になった船で、とある貴族が所有していた。
その貴族が、沈没船を引き揚げたいって言うんで出た依頼だ。
だから村人は、あくまで部外者。
依頼を受けた冒険者がやって来た時の案内と状況説明。
必要なら船を出すよう指示を受けていると言う。
「ま、こっちとしちゃそれでちょっと小遣いもらえるわけだから、ありがたい話なんだけどねえ。ただその貴族ってのがほら、評判の悪いドノファン侯爵だっていうじゃない」
「クトゥルー男爵はあまりいい顔しなさそうですねえ」
「実際そうだって話だよ。今回の依頼も、男爵様はだいぶ渋ったって……」
なんて話をしながら、私は海辺に立つ。
船は必要ないと言うと村人には大層驚かれたけど、天翼を見せれば納得してくれた。
「しかしお嬢ちゃん、炎魔術師なんだろう? 海に潜って大丈夫かい?」
「任せてくださいって。ああ別に海を蒸発させたりはしないから安心して」
「いやいや流石にそれは無茶だってアタシでもわかるよ。シェリブロのハイター男爵じゃないんだからさ」
できます。
そしておばさんシェリブロ見てるんすね……ちょっと胃が痛い。
まあ何にしても、あとはこのまま船を引き揚げるだけだ。
さっさと行ってこよう。
「んじゃ、行ってくるね」
「おー行ってらっしゃい。……ん、あれ、炎の翼のミツキ……って、もしかして不死の竜姫!?」
あ、バレた。
にっげろー(逃げる必要はありません)。
◼︎
私が悪徳貴族っぽいおっさんの船を引き揚げる、一見不思議な光景だが、理由は単純だ。
そこに父の死に関する手がかりがあるかもしれないから。
父は暗殺された可能性が高い。
だからこそ、私はその首謀者が知りたかった。
「”炎熱の浮玉“」
私は海の中に魔力で探りを入れて、魔術を起動する。
沈没船の場所はだいたいわかった。
船には色々と魔道具が眠っていて、それを探知することが私には可能。
そして魔力が濃い反応を示す場所に向かって、魔術を使うのだ。
使う魔術は気球の魔術というべきもの。
炎属性の浮遊魔術で、浮き玉というものを頭上に浮かべて浮遊する。
多分気球と同じ原理なので、私はそう表現していた。
まあ海の中でも平気で使えるから、物理法則を利用した魔術が物理法則に喧嘩を売ってるんだけど。
「よし、当たり」
沈没船そのものではなく、あくまで魔力の塊に当たりをつけているだけなので一発で引き揚げられるかはなんとも言えなかったけど、ちゃんと引き揚げられた。
ただ、これとは別にクソでかい魔力の塊を私は探知してるんだけど、なんだあれ……
まさか本物のルルイエ!? それとも本物のクトゥルフ!?
こわいよー! 怖すぎて確かめる気にはなりませんでした。
引き揚げた船は数年前に沈没したものなのでそこまで朽ちてはいないけれど、中は荒れていた。
私は先日の女子会で話題に出た隠密ローブの上位互換を羽織ると中を散策する。
依頼では中を漁らないようにと言われているのだが、中を漁るのが目的なので、証拠が残らない隠密魔術を使っているのだ。
そうして色々と調べてみたものの。
「今回もハズレ、か」
父に関する証拠は見つからなかった。
まあ海の中に眠っているものなので、あまり期待はしていない。
私がこうして父の死について調べているのは、区切りをつけるためだ。
首謀者を見つけて、それを断罪するかどうかは……正直よくわからない。
そもそも私は父が何を考えていたのか、全く知らないのだ。
だからそれを知りたいのであって、首謀者に対するけじめまでは、正直今のところ考えを巡らせていない。
それに、積極的に動くつもりがあるなら、父が死んだときに動くべきだったのだ。
あの時の私は完全にメンタルが死んでたのでできなかったけど。
何にしても、今更真実を追い求めて、答えが出るとは思っていない。
むしろ、出てほしくないのではないか、とすら思っているのだ。
もし仮に本気で父が私を道具としか思っていなくて、父は悪事に加担する側だったとして、それを受け入れられるかわからないから。
それでも何もしないというのも、私は耐えられず。
こうしてシャロネの持って来てくれた情報を確かめるという形で、色々と発散しているのだった。
ところで。
「父に関する証拠はなかったけど、これ……不正の証拠じゃない? この魔道具、王室が持ってるものじゃない? ここにあっちゃダメだよね?」
私はそれとは全く別の証拠を見つけてしまった。
……多分、ドノファン侯爵はこれがここにあっちゃいけないってわかる人が依頼を受けるとは思わなかったんだろうなあ。
一部の有力貴族でないとわからないし。
加えてちゃんと調べるな、とも指示を出している。
さらにはよっぽどのことがない限り引き揚げは大人数でやるから、フットワークが重いし、介入は容易のはずだった。
本当は自分で引き揚げたかったんだけど、クトゥルー男爵が横槍を入れてくれたおかげで、私が一人で引き揚げるっていうピンポイント不運を引いたわけだ。
……いや、クトゥルー男爵の策略か?
まあどっちにしても、このことはクトゥルー男爵に任せるのが一番だな。
かくして、私はなんか思ってもみないものを引きあげて、ちょっとテンションがどっちつかずになったまま、帰路に就くことになるのだった。
……父様、本当に一体どういうつもりで私を育てていたのですか?
そんな疑問に、未だ答えは出ていない。
それもこれもXXX(某人物の本名)ってやつに性壁を粉微塵にされたのが悪いんです。