異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
依頼を終えて、その足でクトゥルー男爵に後の処理を丸投げした後、私はフェニハナの街へ帰ってきた。
着いた頃にはもうすっかり日が暮れていて、私もクタクタだ。
何が一番疲れたってクトゥルー男爵とのやりとりだよ。
クトゥルー男爵は自分でやるからって言って聞かなかったけど、流石に全部丸投げってわけにもいかないからなあ。
ドノファンを逃さないためにかなり慎重に色々と確認をする必要があって、大変だった。
ところで、途中で沈没船の引き揚げ方法を説明した際に、クソデカ魔力を探知しなかったか聞かれたけど、あれやっぱりクトゥルフ……ごほんごほん。
「ただいまー」
ギルドでの報告を終えた頃には、すっかり酒場以外に街の明かりは無い。
私もさっさと自室に帰宅した。
少しギルドで飲みに誘われたけど、それは丁重に断らせてもらう。
今日は先約があるのだ。
「お帰りなさいまし、お嬢様」
私の部屋は、ギルドのすぐ近くにある貸し屋だ。
一軒家で、風呂もついてる物件。
立地もあって高いけど、それが払えないほど私の収入は少なくない。
そして待っていてくれたのは、先日再会した時とは打って変わってしっとりした様子のシャロネだった。
衣服も、落ち着いた雰囲気のエプロンドレスに変わっている。
侍従スタイル、と言うべきか。
「ごめんね、少しイレギュラーがあって遅くなって」
「お嬢様のことですから、心配はしておりません。夕飯はいかがいたしますか? 私がお作りしましょうか」
「ううん、出かける前に言ってた通り、私が作るよ」
「ですが……いえ、かしこまりました」
普段シャロネは、街の宿に泊っている。
というか当然だけど、私みたいに家を借りる冒険者は少数派だ。
駆け出しにそんな金はないし、普通の有力パーティは遠征で不在の場合が多いし。
私の家にシェアハウスとかはしていない。
侍従モードなら大丈夫だけど、普段だと寝込みを襲われるからな。
今は大人しくしているので大丈夫、チラチラ視線がイヤらしいけど。
「準備もちゃんとしてあるからね」
言いながら、私は台所のアイテムボックスから色々と材料を取り出す。
出てくるのは、バイソンボアの肉と、パン粉とミルクと玉ねぎ、それから臭み消しの香草だ。
何を作るのかといえば、単純。
ハンバーグである。
「まずは肉を挽肉にしよう」
「お任せくださいまし」
この世界にミンサーなんて便利なものはないので、二人がかりで肉をミンチにしていく。
代わりに魔力で身体強化ができるからそこまで面倒な作業ではない。
「次に繋ぎを作るよー」
「パン粉をミルクでふやかして、玉ねぎを刻んで混ぜるのでしたね」
手際の良さでは、元プロのシャロネには到底及ばない私。
パン粉にミルクを浸してる間に玉ねぎのみじん切りがもう完成してる!
「種を作って、まーぜまーぜ」
「なんだかちょっと興奮して来ました」
「侍従モードでそういうのはやめようよ」
なんで私を睨むのさ、言い方が卑猥? そんなバカな。
んで、ポイントはここからだ。
「この種に……これを入れます」
「これは……チーズですか?」
「そう、さっきのミルクもそうなんだけど、近くの農場で牛のお世話を手伝った時にもらったんだ。これを中に入れると……やばい」
「お嬢様の(しぼった)お乳(で作られたチーズ)!?」
「だから侍従モードで言うのやめなって!」
こほん、出来上がったタネはシャロネに焼いてもらう。
その間に私はソース作りだ。
レシピはこないだのドラゴンステーキにかけたソースの再利用。
ステーキソースは、だいたいの肉にあうから……ね!
と言うわけで、完成だ。
「と言うわけでチーズインハンバーグの完成だあ!」
「はんばーぐ……は以前お作りになっていましたけれど、中にチーズを入れることもできるんですのねえ」
「できます。うまいよ」
「失礼させていただきますわ」
昔から、私たちが作った料理は二人で食べるのが定番だった。
普段の料理は侍従であるシャロネは食べられないんだけど、私の作った料理はそうじゃないからって言い訳して。
あの頃は、シャロネが料理を美味しく食べる姿が、一番の楽しみだったな。
「あら……ソースがお肉によく絡んでます。お肉の食感もよいですし……なにより中から出て来たチーズが味に変化を与えて……美味しいです、お嬢様!」
「うんうん、我ながらよくできたと思うよ」
前に農場でチーズをもらった時に一回試したんだけど、すごい美味しかったのでぜひシャロネにも食べて欲しかったのだ。
そうして二人で、美味しい食事を堪能。
その後は、シャロネが入れてくれた紅茶を二人で飲みながら、今日の成果を報告した。
「と言うわけで、別の不正の証拠は出て来たけど、父様に関する情報は見つからなかったよ」
「そうですか……申し訳ありません、お手数をおかけしてしまいました」
「いいのいいの、別に今の私たちは主従じゃないんだし、役割分担ってことで」
今の私たちは、本当に単なる友人付き合いを続けているだけの冒険者仲間だ。
ともに、亡くなった父様の真実を知りたいと思うもの同士でもあるけれど。
それでも、互いに積極的な調査はしていない。
シャロネが遠征の際に気になる情報を小耳に挟んだら、私がそれを確認しにいくと言う役割分担が自然と出来上がっていた。
私はフェニハナを離れたがらないから、遠征であちこち出かけるシャロネの方が情報収集に向いてるし。
私だったら天翼が使えるから確認に向いている。
後まあ、私が大々的に調査をしてると、普通にバレる可能性あるからね。
貴族時代は位が高かったし、今は特級クラスの一級冒険者だ。
私が貴族の令嬢だったという事実は公には存在しないことになってるけれど、一部の人――クトゥルー男爵とか――には公然の秘密である。
「……お嬢様は」
「どうしたの?」
「いえ、失礼いたしました」
「別に気にしないよ、私とシャロネの仲でしょ」
ふと、報告を終えた私にシャロネが何かを言いかけて辞める。
しかしそこで止まると気になってしまうのが人の性。
私が続きを促すと、シャロネは紅茶を飲んで一呼吸入れてから問いかけて来た。
「……お嬢様はもし、本当にもし、ご当主様が悪事に加担していれば、いかがいたしますか?」
「……」
それは、これが初めての問いではなかった。
だから私の答えは決まっている。
「別にどうもしないよ、そうだったのか……って納得して終わり。そりゃまあ、父様が悪事に加担してない方が嬉しいけどね」
「……そう、ですね」
「いっそ、解らないほうがいいんじゃないかって……そう思ってる?」
「……っ!」
私の言葉に、シャロネは顔を伏せた。
やっぱり、シャロネも同じ事を思い始めているらしい。
シャロネは冒険者になったころ、燃え尽きた私よりもずっと真相を知りたがっていた。
それが女体に溺れたり、フォッサルのサブリーダーとしてフェニハナでの立場が大きくなってくるにつれ、そう言う面が表に出なくなっていったのだ。
……私以上に、シャロネは真実を恐れている。
以前この質問をした時は、少なくともそうだった。
でも、今は? どうして今、同じ質問を私にするのか。
「……お嬢様はかつて、神童と呼ばれていました」
「急に話が変わったね。って言うかその呼ばれ方は恥ずかしいな」
ある意味で、若気の至りだよ。
「当時のお嬢様は、魔術においてもそれ以外の分野においても、類稀なる実力を発揮しておられました。才能に恵まれた魔術においては、この世に並び立つ者がないほどに。そうでない分野においても、お嬢様は素晴らしい能力を身につけました」
「褒めすぎだよ、シャロネ」
「ですが、
「……そうだね」
私は魔術こそ、本当に才能や運に恵まれていた。
魔力が人の数倍あり、魔術の使い方に前世で培ったオタクとしての感性が役に立った。
前者は才能で、後者は幸運。
でも、それ以外はそうじゃない。
私は魔術以外にもダンスや礼儀作法、様々な習い事に勤しんだ。
それらにおいて、私の才能は――
「まあ、
「……申し訳ございません」
「別に責めてないって」
じゃあどうやってそれを一線級まで仕上げたかっていえば、簡単だ。
「お嬢様はそれを努力で補ったのです。朝から晩まで多くの教師に師事しながら」
「当時は大変だったねえ、夜は疲れてほとんど自分じゃ動けなかった。それをシャロネが面倒見てくれたんだよね。ありがとう、シャロネがいてくれたおかげだよ」
「いえ。……今にして思えば、その練習量は常軌を逸していました。およそ、十にもならない子どもに耐え切れるものではないかと」
まあ、そうだね。
でも私はやった。
「それは……期待されてたからだよ。神童として、あの家の一人娘として」
前世の私は、期待なんて一切されない存在だった。
両親からの愛情なんて得られず、学校や職場でも居場所なんてない。
だから腐ってしまったんだろう、前世の私は。
でもこうして生まれ変わって、才能と期待という機会を手に入れた。
だったら頑張る
期待に応えなきゃって、ずっとそればかり考えてたな。
「……お嬢様、私は……」
「どうしたの?」
「……今のお嬢様の方が、素敵だと思います」
「……そっか」
多分それこそが、シャロネが言おうとして口をつぐんだことなんだろう。
唐突すぎたし、言う勇気もなかった。
そんな感じかな。
「私は今の私を燃え尽きたと思ってる。それは多分そう間違ってないし、実際シャロネだってそう思うことはあるはず」
「……」
「――それくらい、あの頃の私と今の私は全然違うでしょ?」
でも、これが本当の私なんだ。
ろくに頑張らず生きてきた、これからだってそうだろう。
一般的にそれを、素敵な人間と思えるのは――過去に頑張った私があったからでしかない。
まぁ、流石にそんなこと、シャロネに面と向かって言えるわけがないけどさ。
「紅茶が切れたな」
「お入れいたします」
「ああいいよ、自分でやるから」
シャロネの分はまだ残ってるのに、手間なんてかけさせられない。
今の私とシャロネは主従ではないんだから、自分でやるべきことはやる方がいいのだ。
そうして立ち上り、台所へ向かう。
だからシャロネの独り言が、私の耳に届くことはなかった。
「それでも私は、お嬢様が今も昔も、ずっと素敵でお優しい方であると知っています。見守っております、側で、ずっと」
これは、燃え尽きてしまったミツキと言う人間の、それでも振り切れない過去のお話。
まあ、なんてことはない、一人の人間の苦労の話だ。
ここまでがプロローグとなります。
お読みいただきありがとうございます。
だいたいこんな感じの主人公と、こんな感じのお話です。