もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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第一部
1話 チェンソーウーマン


楠木ともりボイスで脳内再生すると楽しいかも

 


 

私は非正規のデビルハンター。

今しがた倒した“トマトの悪魔”をヤクザの親分──ほかの人間からは“会長”と呼ばれている──に買い叩かれている。

 

「よくやった()()()。闇市でコイツの死体売りゃ相当良い値になる。報酬は40万だ」

「ありがとうございます」

「そっから借金と利子引いて17万、さらに仲介手数料とその他諸々を引いて…残りは7万だな」

「………ありがとうございます」

 

“会長”から7万円の入った封筒を受け取り、歩きながら考える。

一日中、木を切り続けて月収7万。

悪魔を一体殺せばだいたい30万。

だけど残る借金は3804万。

しかもあれこれ理由をつけて手取りをごっそり減らされる。

 

「この7万から水道代を払って、他のところにしてる借金を払うと、残りは1800円。……考えれば考えるほどクソだね、今の状況」

 

同意するようにポチタが「ワン!」と吠えた。

体を売れば安全かつそこそこ高額な報酬が貰えるとも聞いたが、ジジイとエッチするくらいなら死んだほうがマシだ。

しかしヤクザ共に扱き使われるうち、「この生活から抜け出してやる」という思いは薄れてしまった。

 

「雨が降ってきた。急ごう」

 

市街地から少し離れた山の上にあるトタン壁の小屋。

そこだけが私とポチタの安らげる場所だ。

 

「ふぅ…疲れた」

 

小屋に着いた私は土っぽい座布団を尻に敷き、簀の子を背に食パンを食べる。

 

「この間聞いたんだけど、普通の人たちは食パンにジャムを塗って食べるんだって」

 

そしてそれを聞いた後にスーパーに立ち寄ったが、ジャムの値段を見てすぐに買う気が失せたことをポチタに話す。

というか、なんであんな小瓶に入る大きさのものが食パンと同じ値段なのだ。

ジャムを買う金があるなら食パンをもう一つ買ったほうが腹にたまる。

…きっと、そういう無駄遣いをできることが“普通”なんだろうな。

 

8枚切りの食パンを食べ終えた後はポチタを抱いて寝転がる。

明日も朝早くから重労働だ、早く寝ないと。

 

「お腹空いて眠れない…」

 

きっと借金は死ぬまで返しきれないだろう。

逃亡生活を始めたとしても捕まって殺されるか、野垂れ死ぬのがオチだ。

…そんな事ばかり考えていたら余計に目が冴えてしまった。

 

「決めた、今日はとびきり幸せな夢を見る」

 

朝ごはんは食パンにジャムを塗って食べて、ちょっぴりお洒落な服を着て買い物したい。

夜になったら大きなベッドで、ポチタと私と、できれば格好いい男の人も一緒に眠りたい。

 

「最高でしょ?」

 

ポチタは「ワフッ」と返してくれた。

やっぱり可愛い。あと抱き心地もいい。

 

少し安らかな気持ちになっていると、水を差すように血が込み上げてきた。

堪えきれなくなって大量に吐血する。

 

「私のお母さん…心臓の病気で、血を吐いて死んだんだって…」

 

私に両親はいない。

母親は病気で、父親も首を吊って死んだ…らしい。

小さな頃の話だったから覚えていないが、“会長”が言うならそうなのだろう。

 

「マキマ、悪魔が出た。仕事だぞ」

 

噂をすれば早速“会長”からの呼び出しだ。

……こんな夜更けにデビルハントに駆り出されたことは滅多にない。

しかも“会長”自ら車を運転して来るなんて…

少し不審に思いつつ、促されるまま後部座席に乗り込んだ。

そして数十分後、見知らぬ廃工場に到着した。

 

「こんな所に悪魔が出たんですか?」

 

月明かりを頼りに辺りを見渡しても、それらしき影はない。

私たちの存在に気づいて隠れたのかもしれないが…嫌な予感がする。

 

「マキマよぉ、俺達はテメェに感謝してんだぜ」

「……はい」

「犬みてぇに従順だし、犬みてえに安い報酬で働いてくれる」

 

そうなるように“躾けた”のはお前らだろ。

内心で愚痴るも、それは表に出さない。

 

「でも俺ぁ、懐かねえ犬は嫌ぇだ」

「え…、───!?」

 

鋭い何かが背中に突き立てられた、と認識した瞬間には既にポチタ諸共刺し貫かれていた。

驚きと激痛で頭がいっぱいになる。

まさか“使い道”がある内に、ヤクザに“捨てられる”とは思っていなかった。

 

「俺達ヤクザもよぉ、もっと強くなって稼ぎてえからよぉ、テメエみてえに悪魔と契約するコトにしたんだ…。俺達が望むのは悪魔の力…」

僕が望むのはデビルハンターの…!!

 

暗闇から異形の悪魔が現れ、“会長”の背に自らの臓物を突き刺す。

そしてその背後にもおびただしい数のゾンビの悪魔がナイフを持ち立っている。

 

こいつらバカだよ!めっちゃバカ!悪魔の力あげるっつったらさぁ!自分達から僕の奴隷になってやがんの!

 

散々他人を食い物にしてきた奴の最期が、悪魔に騙されたことによるゾンビ化か。

どうせ死ぬなら私に関係ない場所でくたばってほしかった。

 

デビルハンターは僕ら悪魔殺すから嫌い!だから殺しちゃうんだ!みんな!バラバラにしてゴミ箱にでも捨てちゃって!

 

1ヶ月後か1年後か、そう遠くないうちに死ぬとは思っていたけど、ゾンビに滅多刺しにされて殺されるなんて嫌だ。

外へ逃げようとするも、再び吐血してしまい動きが鈍る。

 

「あ゙っ」

 

追いついてきたゾンビの群れが私の腕を切り落とし、両足を、心臓を貫き、頭を──────

 

 

◆◆

 

 

……目が覚めると、私はポチタと一緒にゴミ箱の中で体を丸めて寝ていた。

だけど現実じゃないことは何となく分かる。

夜なのに、昼間みたいに視界がはっきりしているのが証拠だ。

 

「ポチタ…」

 

そういえば、ずいぶん前に私が死んだら体を乗っ取ってほしいとポチタに頼んだ事がある。

ヤクザなんかとは無縁な普通の暮らしをして、普通の死に方をしてほしい、とも言った。

そのことを思い出し「私の体、ちゃんと奪えた?」と問いかける。

 

…私は、マキマの夢の話を聞くのが好きだった

 

ポチタって喋れたの?しかも声カワイイし。

…いや、ここは現実の世界じゃない。

ポチタはそこらの犬猫よりもずっと賢いから、夢の世界(?)でなら会話もできるんだろう。

 

これは契約だ。私の心臓をやる。かわりに…マキマの夢を私に見せてくれ

 

 

◆◆

 

 

ポチタの遺言めいた言葉を合図に、今度は真っ暗なゴミ箱の中で目が覚めた。

ゾンビ共に斬られた体はなぜか完治している。

跳ね起きてポチタを探すがどこにもいない。

その代わり、私の胸の間からポチタの尻尾(スターター)が伸びている。

夢の中での言葉は嘘じゃなかった。

私の身代わりになってポチタは死んだわけだ。

 

んん? バラバラにしても生きてんの?

 

私が生きていることに気づいたゾンビの悪魔が、元ヤクザ・現ゾンビというクソのような存在たちを再びけしかけてきた。

咄嗟に胸のスターターロープを引っ張る。

 

エンジン起動。間もなく激痛。

両腕と頭蓋からチェンソーが飛び出す。

私に押し掛かるゾンビを手当たり次第に斬り裂き、慌てて“こちらは仲間だ”と言い始めたゾンビの悪魔本体も、目玉をチェンソーでぶち抜きそこから真っ二つにした。

 

「あなた達はもう人間じゃない。悪魔です」

 

私は非正規だけどデビルハンター、だから悪魔は全て殺す──誰に向けるわけでもない言い訳を内心でしつつ、残りのゾンビに向けて突撃。

内側で響く力強い音と振動を感じながら、人生最高にハイなまま私は暴れ回った。

 

 

 

───私が全てのゾンビを殺し尽くす頃には、外はもうすっかり明るくなっていた。

強烈な疲労と憎きヤクザをブチ殺しまくった達成感で茫然としていると、朝日眩しい廃工場の入口に1人の男性が現れた。

 

「チェンソーマン…?」

 

彼の呟きの意味はよく分からなかったが、彼の姿を見た瞬間胸が高鳴った。

公安の黒いジャケットに包まれた筋肉質で大きな体。

少しボサッとした金髪と鋭い三白眼。

一言で言うならイケメンだった。

こんな男の人に抱かれたら幸せだろうなと思いながら、疲労が限界に達した私は後ろへ倒れ込む。

 

「っと。大丈夫か、嬢ちゃん」

 

抱かれた。

いや地面に叩きつけられないように受け止めてくれただけだけど。

男の人の体って凄いな…もう夢が一つ叶っちゃったよ。

 

「俺は公安のデビルハンターで、ゾンビの悪魔を倒しに来たんだけどよ。コイツら全部嬢ちゃんが殺したのか?」

「はい」

「おー、さすがチェンソーマンだな。いや今はチェンソーウーマンか?」

 

その後も彼はケガの有無など、こちらの体調を気遣ってくれた。優しい。

しかも死ぬほど空腹だと伝えたらご飯を奢ってくれる事になった。クソ優しい。

……ヤクザに裏切られてポチタを殺されたと思ったら格好良い男の人に拾われるとか、ほんの数時間で状況が激変しすぎて怖くなってきた。

 

 


 

今作のマキマ

大体原作のデンジと同じ。

ただ少しだけ疑り深かかったり、好意を寄せた相手に対する執着心が強かったりする。

頭のネジはそれほどぶっ飛んでないが、好意を寄せた相手が絡むと国家すら敵に回す。

やっぱり100点じゃないか。

 

 

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