もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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14話 挟み撃ち

 ゾンビはマキマたちが、ヤクザは荒井とコベニが対応している。

 討ち漏らしがあったとしても、他の人員がいるから問題無し。

 沢渡とサムライソードを捕らえれば一件落着だ。

 

「大人しく投降してくれると有り難えんだけど」

「……嫌だと言ったら?」

「ん〜、力ずくで逮捕だな」

 

 デンジにとっては殺しても罪悪感が湧かない相手だが、利用価値はあるから生かす。

 力ずくで逮捕するにせよ、“支配”した後は手緩い処遇で済ませるつもりだ。

 

「じゃあ斬り殺してやるよ」

 

 そんなデンジの思惑など知る由もなく、2人は抵抗を選んだ。

 サムライソードが居合の構えを取る。

 デンジは両腕に“鎖”を巻き付け、嘲笑した。

 

「やってみろよ、バァ〜カ」

 

 次の瞬間、サムライソードの姿が消えた。

 風切り音が耳に入る頃には、既に背後。

 すれ違いざまの一閃は、しかし甲高い金属音を響かせるだけだった。

 

「俺の居合を見切るだと…!?」

 

 渾身の斬撃を受け流されたサムライソードは驚愕したが、デンジの背にも冷や汗が流れる。

 

(今のは少しヤバかったな)

 

 デンジや岸辺なら問題無い。

 もっとえげつない攻撃を知っているから。

 しかし経験の浅い暴力コンビ(荒井とコベニ)にとっては、初見で対応できるか怪しいレベルだった。

 自分が相手で良かった──デンジは安堵し、小さく息を吐いた。

 

「ヘビ、尻尾」

 

 蛇の悪魔が再び姿を現し、尻尾を槍のように打ち出す。

 デンジは迫り来る尾へと跳び、突き刺さる直前に踏みつけた。

 うねる巨体の上を駆ける。

 

「猿か!?」

 

 曲芸じみた動きに、声を上げるサムライソード。

 しかしすぐに我に返って居合の構えを取る。

 

(蛇と沢渡に気を取られてやがる……今が好機)

 

 既に居合の間合いからは離れているが、初速さえ乗せれば届(・)く(・)。

 その場からサムライソードの姿が消えた。

 

 

 

 その一方。

 自らに向かってくる脅威に、沢渡の思考が一瞬止まった。

 回避ではない。迎撃でもない。

 “突っ込んでくる!”──僅かに遅れて理解した。

 

「ヘビ、噛み千切れ!」

 

 蛇の口が大きく開かれる。

 無数の人の腕が絡み合う、その隙間から鋭利な牙が覗いた。

 

 

 

 前方は蛇、背後は居合。

 

(挟み撃ちか)

 

 デンジが左腕に巻き付けた鎖を解き放つ。

 伸びた鎖が蛇の口へ絡み付き、上下の顎をまとめて縛り上げた。

 そのまま引っ張り、閉じた口を支点にして振り子のように移動。

 蛇の頭上へ着地すると同時に、サムライソードの斬撃を右腕の鎖で受け止めた。

 

 刀と鎖が噛み合い、金属が軋み、火花が散る。

 サムライソードの表情が歪む。

 歯を食いしばり、押し返そうと力を込めるが、デンジの腕はびくともしない。

 

「俺を斬り殺すんじゃねえのか?」

「ぬかせ…ッ!」

 

 ダメ押しに“支配(暴力)”の力を発動し、右腕を振るって刀を弾き飛ばす。

 急激に強まった膂力に耐え切れず、よろめくサムライソード。

 その顔面に左拳がめり込んだ。

 折れた歯が飛び散り、顎の骨は砕け、脳味噌までぐしゃりと潰れ──サムライソードは息絶えた。

 

「なっ……」

 

 デンジは呆然とする沢渡を横目に、サムライソードを俵抱きの形で持ち上げると、蛇の頭上から跳び降りた。

 

「ヘビ───」

 

 沢渡が指示を出す頃には、既にデンジは手印を結び終えていて。

 

「コン」

 

 狐の悪魔──巨大な頭部が地面から現れ、蛇の悪魔へと喰らいついた。

 

「こいつは蛇の悪魔だね……飲み込んでいい?」

「よし」

 

 狐の悪魔は霧のように消え、ピクリとも動かない蛇の尻尾だけが残された。

 絶望したようにへたり込む沢渡。

 

「終わりだな」

 

 2人の脳にデンジが鎖を打ち込み、“支配”し、思考を書き換えた。

 

 

 ◆◆

 

 

 大人しくなった沢渡とサムライソードは、と(・)り(・)あ(・)え(・)ず(・)警察へ引き渡されることになった。

 運良く荒井とコベニに出くわさなかったヤクザの残党も全て制圧され、残るは事後処理のみ。

 

(俺どんだけ書類仕事させられんだろ……)

 

 ビルを見上げながら深い溜息をつくデンジに、背後から声が掛かる。

 

「デンジさん」

「んぁ、円(まどか)か」

 

 四角いメガネの、鼻から頬にかけて大きな傷跡がある男が、淡々と報告する。

 

 こちら側に死者やケガ人は出なかったこと。

 ただのヤクザには釣り合わないほどの武器や、1kgを超える銃の悪魔の肉片が押収されたこと。

 そして……軽く聞き込みした結果、ヤクザが特異課を襲撃する計画を立てていたこと。

 

「今回の事態をどこまで想定していました?」

「全部だ。放っといたら特異課が銃撃に遭って、ほとんど全員死んでたな」

 

 小動物を使って徹底的に調査した結果である。

 余談だが、ソープを経営していることも発覚し、しかもデンジが利用したことのある店だった。

 

「最近の特異課はきな臭え。辞表を出すなら今のうちだぜ」

「……分かりました」

 

 この情報は特異4課に所属する人間全員に共有され、その多くが民間への転職を選んだ。

 人外職員を除くと、残留したのは4人だけだった。

 

 

 

 

 

  *1

 

 ヤクザとの戦闘を終え、公安本部へ戻った私はシャワー室へと直行した。

 ゾンビを相手にしたせいで、腐った臭いが身体に染み付いている気がする。

 このままでは落ち着かないし──何より、デンジさんに臭いと思われるのは絶対に嫌だった。

 

 温かいシャワーを浴びて、ようやく一息つく。

 

「疲れたぁ……」

 

 気を張っていた反動か、どっと疲労が押し寄せてきた。

 ……そういえば、サメの魔人に妙に懐かれたな。

 あれは少し面白かった。

 懐いてたのは私というよりも、ポチタ(チェンソーマン)に対してだった気がするけど。

 

 ……まあ、それでもいいか。

 立派な筋肉をベタベタ触らせてもらえたのは役得だった。

 私の心はデンジさん一筋だけど、それはそれ。

 

「ふぅ、さっぱりした」

 

 シャワーを終え、身支度を整えて外に出ると、デンジさんとパワーちゃんが待っていた。

 

 今日の夕食について話しながら、3人で歩いて家に帰る。

 これが今の私の“いつも通り”だ。

 

 ヤクザに飼われていた頃とは違う。

 クソみたいな環境で使い潰されるだけの道具じゃない。

 隣を歩くデンジさんの横顔を、ちらりと見ながらそう思った。

 

 


 

というわけで、ヤクザぶっ潰し&過去との決別回でした。

マキマにとってはようやく掴んだ平穏ですが、デンジ視点だとここからが本番っていう。

 

次回は飲み会です。

永遠の悪魔→ヤクザ→飲み会→岸辺ブートキャンプ→レゼ……この順番で進行します。

展開がグチャグチャすぎる!

 

 

*1:
マキマside

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