「飲み会しない?」
昼でも薄暗い路地裏。
黙々と悪魔の死骸を解体するアキに、煙草を咥えた姫野が唐突に提案した。
「飲み会?」
アキは手を動かしたまま問い返し、姫野は紫煙を吐き出しながら答える。
「そ。4課全員集まったことないしさ、新人歓迎会と送別会を兼ねて…ね?」
「……アンタが飲みたいだけだろ」
「に〜」
バレたか、と悪戯っ子のように笑う姫野。
その横でアキは、肉塊の中から銃の悪魔の肉片を
「まあ、俺も飲み会には賛成です。デンジさんに聞きたいこともありますし」
「聞きたいことって、マキマちゃんのこと?」
アキは小さく頷き、煙草を咥えた。
その先端に姫野が火をつける。
「マキマは本当に、世界中から狙われるくらい重要な存在なんでしょうか」
アキと姫野を含め、特異4課に残留したメンバーは、“チェンソー”の心臓が狙われているとの説明を受けている。
武器人間──悪魔の心臓を持つ人間で、人間・悪魔・魔人のどれとも違う特殊な存在。
人格は人間のまま、トリガーを引けば復活するという不死性を備えている。
確かに強力だが……外交的なリスクを負ってまで奪う価値があるのか?
「確かに。……じゃあデンジさんを酔わせて聞いてみよっか?」
「アンタ飲みたいだけだろ」
「正解っ」
◆◆
ヤクザ襲撃の翌日、私は夜の居酒屋にいた。
「カンパーイ!!」
特異4課の人たちとジョッキをぶつけ合い、中のお茶を一気に半分くらい飲み干す。
成人している人たちは美味しそうにビールを流し込んでいるけど、その中にデンジさんはいない。
仕事が立て込んでいるから遅れるとのこと。
(お酒ってどんな味なんだろ)
大人たちを眺めながらギョーザをつまむ。
うん、美味しい。
「おら、若いんだからもっと頼め!食え!」
左隣に座る大柄な男の人が豪快に煽ってきた。
この人も民間に移るらしい。
言われずとも沢山食べたいから、メニュー表を見て注文しようとするけど……
「う〜ん……」
困った、読める漢字が少ない。
ひらがなとカタカナなら問題ないけど、それだけじゃ分からない料理が結構多い。
……あ、“
これは読める。こないだ作ったから。
指でなぞりながら確認していると、ふと“キスの天ぷら”という料理名が目に入った。
右隣に座る姫野先輩に聞くと、どうやらキスは魚の名前らしい。
「何を想像したのかな〜?」
「デンジさんとキスするとこです」
「あっうん……全部言っちゃうんだね」
残念、姫野先輩に対する恥じらいはもう無い。
デンジさん本人に聞かれなきゃ平気だ……そう思った瞬間、入口の引き戸が開いた。
「ワリぃ、遅れた」
黒いコートを脱いで壁に掛け、デンジさんがこちらへ向かってくる。
……さっきまでキスの妄想をしてたから、まともにデンジさんの顔見れないな。
「姫野、少し席詰めてくれ」
「は〜い」
しかも私の隣に座ってきた。
顔熱い……うわ、姫野先輩めっちゃニヤニヤしてる。腹立つ……。
「マキマ、なんか顔赤くね?」
「ちょっと店の中が暑いだけです」
しばらくしたら顔の熱さは引いたので食事再開。
パワーちゃんと唐揚げを奪い合っていると、デンジさんと早川先輩が飲み比べを始めていた。
姫野先輩も一応参戦してるようだけど、もう酔っ払ってるんじゃ…?
私がお腹いっぱいになった頃、ちょうど早川先輩もダウンした。
テーブルの上には空になったジョッキが沢山。
でもデンジさんはまだまだ余裕そうな表情で飲み続けている。
姫野先輩はだいぶ前から気持ち良さそうに寝てしまっていたけど───
(あっ)
のそのそと起き上がって早川先輩の元へ向かい、覆いかぶさるようにキスをかました。
(えっちだ…!)
唇を重ね合わせるだけじゃなくて、舌をくちゅくちゅと絡ませる濃厚なキス。
ドキドキしながら見入っていると、姫野先輩の体がビクリと震えた。
(えっ!?)
まさかの嘔吐。
姫野先輩のゲロが早川先輩の口に流れ込む。
「ギャハハハハハハ!!」
爆笑するデンジさん。
「トラウマだなこりゃ……」
同情する男性職員。
「うっ」
もらいゲロしかけるコベニさん。
「何か拭けるものを貰ってきます!」
慌ててゲロの処理をしようとする荒井さんと、店員さん。
「ウボァ」
ゲロキスに耐えかね、自分も吐いてしまった早川先輩。
ほんの少し前まで平和だったのにまるで地獄だ。
結局、その後は慌ただしく後始末をしてお開きになった。
家に帰ると、デンジさんは靴を脱いだところで大きく欠伸をした。
「……ねみぃ」
帰り道を歩く時の足取りはしっかりしていたし、受け答えも普通だった。
でも目はとろんとしている。
いつもより少しだけ……子供っぽいというか。
「俺、もう寝るわ」
スタスタと寝室まで歩き、ベッドへ倒れ込んでからわずか数秒で寝息が聞こえてきた。
私が思っていたより、デンジさんも酔いが回っていたらしい。
……大丈夫なのかな。
先ほどの
穏やかな寝顔を見つめていると、ふと良くない考えが浮かぶ。
今ならキスできるんじゃ?
「デンジさん、起きてますか」
耳元で囁いても反応無し。
完全に眠っている、はず。
ゆっくりと顔を近づけて──唇が触れる寸前、なんとなく嫌な予感がした。
予感に従って顔を離した瞬間、ガラッと勢いよく扉が開いた。
「なんじゃ、もうデンジは寝とるのか」
「デンジさんもいっぱい飲んでたからね」
何事もなかったかのように答える。
「私はデンジさんが心配だからここで寝るね。パワーちゃんも、おやすみ」
「むぅ………」
少し不満そうにしながらも、パワーちゃんは部屋を出ていった。
扉が閉まり、また静かになったところで、私は大きなため息をついた。
(悪いことはできないなあ……)
キスは別の機会にとっておこう。
そう思いながら、ベッドにもたれて目を閉じた。
◆◆
しこたま飲んだ翌日の朝。
デンジは
なんだか今日は目覚めが良い。
朝食を作ろうと上体を起こすと、ベッドに寄りかかってマキマが静かに寝ている。
その横にはゴミ箱もあった。
(ずっとここにいたのか……)
軽く頭を撫でる。
起きる気配が無いので、そっとベッドに寝かせてから寝室を出た。
《公安に残った理由》
アキ→銃の悪魔を諦めきれない
姫野→アキを死なせたくない
コベニ→金が欲しい
荒井→コベニを死なせたくない
荒コベの関係や、コベニの家庭環境も深堀りしてみたいですが、本編優先で進行します!
《投稿頻度》
4月以降はおそらく投稿頻度がカスになります。
月1〜2回くらい?
完結まで年単位で掛かりそうですが、ちまちま書くので応援よろしくお願いします!