もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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15話 飲み会

「飲み会しない?」

 

 昼でも薄暗い路地裏。

 黙々と悪魔の死骸を解体するアキに、煙草を咥えた姫野が唐突に提案した。

 

「飲み会?」

 

 アキは手を動かしたまま問い返し、姫野は紫煙を吐き出しながら答える。

 

「そ。4課全員集まったことないしさ、新人歓迎会と送別会を兼ねて…ね?」

「……アンタが飲みたいだけだろ」

「に〜」

 

 バレたか、と悪戯っ子のように笑う姫野。

 その横でアキは、肉塊の中から銃の悪魔の肉片を摘(つま)み上げてケースに収めた。

 

「まあ、俺も飲み会には賛成です。デンジさんに聞きたいこともありますし」

「聞きたいことって、マキマちゃんのこと?」

 

 アキは小さく頷き、煙草を咥えた。

 その先端に姫野が火をつける。

 

「マキマは本当に、世界中から狙われるくらい重要な存在なんでしょうか」

 

 アキと姫野を含め、特異4課に残留したメンバーは、“チェンソー”の心臓が狙われているとの説明を受けている。

 

 武器人間──悪魔の心臓を持つ人間で、人間・悪魔・魔人のどれとも違う特殊な存在。

 人格は人間のまま、トリガーを引けば復活するという不死性を備えている。

 確かに強力だが……外交的なリスクを負ってまで奪う価値があるのか?

 

「確かに。……じゃあデンジさんを酔わせて聞いてみよっか?」

「アンタ飲みたいだけだろ」

「正解っ」

 

 

 

 

 

  *1

 

 ヤクザ襲撃の翌日、私は夜の居酒屋にいた。

 

「カンパーイ!!」

 

 特異4課の人たちとジョッキをぶつけ合い、中のお茶を一気に半分くらい飲み干す。

 成人している人たちは美味しそうにビールを流し込んでいるけど、その中にデンジさんはいない。

 仕事が立て込んでいるから遅れるとのこと。

 

(お酒ってどんな味なんだろ)

 

 大人たちを眺めながらギョーザをつまむ。

 うん、美味しい。

 

「おら、若いんだからもっと頼め!食え!」

 

 左隣に座る大柄な男の人が豪快に煽ってきた。

 この人も民間に移るらしい。

 言われずとも沢山食べたいから、メニュー表を見て注文しようとするけど……

 

「う〜ん……」

 

 困った、読める漢字が少ない。

 ひらがなとカタカナなら問題ないけど、それだけじゃ分からない料理が結構多い。

 ……あ、“生姜焼(しょうがや)き”。

 これは読める。こないだ作ったから。

 

 指でなぞりながら確認していると、ふと“キスの天ぷら”という料理名が目に入った。

 右隣に座る姫野先輩に聞くと、どうやらキスは魚の名前らしい。

 

「何を想像したのかな〜?」

「デンジさんとキスするとこです」

「あっうん……全部言っちゃうんだね」

 

 残念、姫野先輩に対する恥じらいはもう無い。

 デンジさん本人に聞かれなきゃ平気だ……そう思った瞬間、入口の引き戸が開いた。

 

「ワリぃ、遅れた」

 

 黒いコートを脱いで壁に掛け、デンジさんがこちらへ向かってくる。

 ……さっきまでキスの妄想をしてたから、まともにデンジさんの顔見れないな。

 

「姫野、少し席詰めてくれ」

「は〜い」

 

 しかも私の隣に座ってきた。

 顔熱い……うわ、姫野先輩めっちゃニヤニヤしてる。腹立つ……。

 

「マキマ、なんか顔赤くね?」

「ちょっと店の中が暑いだけです」

 

 

 

 しばらくしたら顔の熱さは引いたので食事再開。

 パワーちゃんと唐揚げを奪い合っていると、デンジさんと早川先輩が飲み比べを始めていた。

 姫野先輩も一応参戦してるようだけど、もう酔っ払ってるんじゃ…?

 

 

 

 私がお腹いっぱいになった頃、ちょうど早川先輩もダウンした。

 テーブルの上には空になったジョッキが沢山。

 でもデンジさんはまだまだ余裕そうな表情で飲み続けている。

 

 姫野先輩はだいぶ前から気持ち良さそうに寝てしまっていたけど───

 

(あっ)

 

 のそのそと起き上がって早川先輩の元へ向かい、覆いかぶさるようにキスをかました。

 

(えっちだ…!)

 

 唇を重ね合わせるだけじゃなくて、舌をくちゅくちゅと絡ませる濃厚なキス。

 ドキドキしながら見入っていると、姫野先輩の体がビクリと震えた。

 

(えっ!?)

 

 まさかの嘔吐。

 姫野先輩のゲロが早川先輩の口に流れ込む。

 

「ギャハハハハハハ!!」

 爆笑するデンジさん。

 

「トラウマだなこりゃ……」

 同情する男性職員。

 

「うっ」

 もらいゲロしかけるコベニさん。

 

「何か拭けるものを貰ってきます!」

 慌ててゲロの処理をしようとする荒井さんと、店員さん。

 

「ウボァ」

 ゲロキスに耐えかね、自分も吐いてしまった早川先輩。

 

 ほんの少し前まで平和だったのにまるで地獄だ。

 結局、その後は慌ただしく後始末をしてお開きになった。

 

 

 

 家に帰ると、デンジさんは靴を脱いだところで大きく欠伸をした。

 

「……ねみぃ」

 

 帰り道を歩く時の足取りはしっかりしていたし、受け答えも普通だった。

 でも目はとろんとしている。

 いつもより少しだけ……子供っぽいというか。

 

「俺、もう寝るわ」

 

 スタスタと寝室まで歩き、ベッドへ倒れ込んでからわずか数秒で寝息が聞こえてきた。

 私が思っていたより、デンジさんも酔いが回っていたらしい。

 

 ……大丈夫なのかな。

 先ほどの大惨事(ゲロキス)を思いだし、不安になったのでゴミ箱をベッドのそばに置いた。

 穏やかな寝顔を見つめていると、ふと良くない考えが浮かぶ。

 今ならキスできるんじゃ?

 

「デンジさん、起きてますか」

 

 耳元で囁いても反応無し。

 完全に眠っている、はず。

 ゆっくりと顔を近づけて──唇が触れる寸前、なんとなく嫌な予感がした。

 

 予感に従って顔を離した瞬間、ガラッと勢いよく扉が開いた。

 

「なんじゃ、もうデンジは寝とるのか」

「デンジさんもいっぱい飲んでたからね」

 

 何事もなかったかのように答える。

 

「私はデンジさんが心配だからここで寝るね。パワーちゃんも、おやすみ」

「むぅ………」

 

 少し不満そうにしながらも、パワーちゃんは部屋を出ていった。

 扉が閉まり、また静かになったところで、私は大きなため息をついた。

 

(悪いことはできないなあ……)

 

 キスは別の機会にとっておこう。

 そう思いながら、ベッドにもたれて目を閉じた。

 

 

 

 

 

  *2

 

 しこたま飲んだ翌日の朝。

 デンジはゆ(・)っ(・)く(・)り(・)と(・)目を開けた。

 なんだか今日は目覚めが良い。

 

 朝食を作ろうと上体を起こすと、ベッドに寄りかかってマキマが静かに寝ている。

 その横にはゴミ箱もあった。

 

(ずっとここにいたのか……)

 

 軽く頭を撫でる。

 起きる気配が無いので、そっとベッドに寝かせてから寝室を出た。

 

 


 

《公安に残った理由》

アキ→銃の悪魔を諦めきれない

姫野→アキを死なせたくない

コベニ→金が欲しい

荒井→コベニを死なせたくない

 

コベニの家庭環境が気になる……。

 

 

*1:
マキマside

*2:
デンジside 三人称視点

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