もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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2話 支配のデンジ

  *1

 

 彼がデンジと名付けられる前──即ち地獄にいた頃、彼はとても臆病だった。

 地獄には圧倒的強者が犇めいていて、“格下を支配する”という能力を使いこなせぬまま、強者の蹂躙を恐れ縮こまって生きていた。

 

 そんな時にチェンソーマンの戦いを目撃した。

 単身で強大な悪魔を蹴散らす様はこの上なく痛快で、脳を焼き焦がされた。

 それから彼はチェンソーマンのファンになり、戦いを遠くから眺めるようになった。

 

 しかしある日、彼は悪魔によって殺されかけていた。

 超越者と呼ばれる化け物ほどその悪魔が強かったわけではない。

 それ以上に彼は弱かった──自らを弱(・)い(・)と(・)思(・)い(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)。

 

「た、助けて……チェンソーマン……」

 

 チェンソーマンに助けを求めた悪魔はバラバラに殺される。

 しかし既に彼は、悪魔の肉体をもってしても復元できないほど傷ついていた。

 どうせ殺されるならチェンソーマンに、というのは前から決めていたのだ。

 

 しかしチェンソーマンは彼を傷つけず、自らのファンへ最期の慈悲を与えた。

 チェンソーを引っ込めた4本のゴツい腕で──優しく抱きしめたのだ。

 

 彼は歓喜に打ち震えた。

 チェンソーマンはやる事全部がめちゃくちゃで、最高にクールなヒーローだと思っていたが、こんな優しい一面もあったのだ。

 それを俺には見せてくれたんだ──!

 

 やっぱりチェンソーマンかっけえ。

 チェンソーマン最高。

 彼の脳は幸福で埋め尽くされた。

 死ぬ恐怖なんか欠片もなかった。

 

 ただ…転生してこの記憶を喪うのは嫌だった。

 そこで彼は一計を案じ“弱い自分”を支配した。

 お前のモノは俺のモノ。弱い自分の記憶は、強く生まれ変わる自分の糧。

 某ガキ大将のような無茶苦茶な理論だが、悪魔の力は割となんでもアリであった。

 そうして無事に記憶を引き継いだ上で現世へ生まれ変わり、そこからなんやかんやあって日本公安に流れ着き今に至る。

 

「ありがとよチェンソーマン……俺ぁアンタのおかげで夢みてーな生活できてる」

 

 今も地獄で元気いっぱいに暴れ回っているであろう英雄に胸を張れるように…そして衣・食・住・仲間・風俗の5つが揃った最高の生活を守れるように、デンジと名付けられた支配の悪魔は努力していた。

 

 

 

 そんなデンジにとってマキマとの出会いは、チェンソーマンに抱かれた時以来の衝撃だった。

 姿形こそ人間の女であったが、優れた嗅覚とチェンソーマンへの愛を持つデンジがその匂いを忘れるはずがない。

 むせ返る血と鉄錆の匂いの中で立つこの少女がチェンソーマンだと直ぐに気づいた。

 

 態度には出さないよう努めたがデンジの心境は複雑だった。

 またチェンソーマンに会えたという喜び。

 なぜチェンソーマンがここにいる?という困惑。

 チェンソーマンが知らねえ奴の身体の一部になっていた衝撃と、少しの嫉妬。

 

 すると少女が後ろへ倒れ込みかけたので咄嗟に抱きしめた。

 

「っと。大丈夫か、嬢ちゃん」

 

 デンジはスケベだが普段は紳士だ。

 それに“支配”という概念は人間との関係が深く、本能レベルで人間に好感情を持っている。

 人間界に生きるデビルハンターとしての常識も持ち合わせており、その行動に下心はなかった。

 なかった、が───

 

 むにゅ。

 

 少女は長年ヤクザに虐げられており栄養状況は劣悪だったが、その割に発育は良かった。

 だから当然、抱きしめれば“当たる”。何がとは言わないが“当たる”。

 

 とはいえ、デンジは人間界に生を享けてウン十年であり、エロ方面の経験も豊富だ。

 今まで抱いた娘(コ)の中にはこの少女以上に胸部が発達()している娘だっていた。

 

 しかし少女の変身が解け素顔が見えると、いよいよデンジは驚いた。

 有り体に言えばクソ可愛かったのだ。

 テレビで見る女と比べても引けを取らない。

 普段は凛々しく涼やかであろう顔立ちから疲労が滲み出ているのも、デンジの庇護欲を煽った。

 

 しかも話を聞けば、ゾンビの悪魔の群れ相手に一晩中チェンソーをぶん回して戦っていたという。

 地獄にいた頃よりずっと弱っているのだろうが、しかし本質は変わっていない。

 さすがはチェンソーマンが選ぶ女なだけはあると、後方腕組み彼氏面をしながら、うんうんと頷いていた。

 

 

 

 ……と、チェンソーマンの降臨に喜ぶ一方で、デンジの理性は少女──マキマに迫る危機について考えていた。

 悪魔の心臓を持つ人間──通称:武器人間というのは、数少ないながらも実例がある。

 それらは核兵器に変わる大国間の抑止力としての役割を担っているが、チェンソーマンの存在はとびきりの厄ネタだ。

 そして日本はスパイ天国であり、秘匿したとしてもチェンソーマンの出現は間もなく露呈するだろう。

 そうなればマキマの奪取或いは殺害に向けて各国が動き出す可能性は極めて高い。

 公安内で厳重に管(・)理(・)しなければならない。

 

「マキマの選択肢は2つだ。公安で働くか、悪魔収容センターで飼われるか」

 

 前者は痛くて苦しい思いを散々することになるが、人権と多少の自由を得る。

 後者は安全だが、悪魔として扱われ自由を喪う。

 なお、どちらを選んでも衣食住は保証する。

 

 ヤクザよりはマシだろうが、それにしても酷え条件だ。チェンソーマンを自由に暴れさせることも、マキマを普通の人間にしてやることもできない──デンジは申し訳なく思ったが、マキマは大喜びだった。

 

「公安って…デンジさんと一緒に働けるって事ですか!?」

「……今のマキマは半分悪魔みてーなモンだからな。野放しには出来ねえ」

 

 結局、マキマは公安で働くことを選んだ。

 選ばれたからには2人のために頑張るほかない。

 かなりの激務だし、先行きも不透明だが……

 

(……ま、シリアスな事(こた)ぁ後で考えりゃいいか)

 

 とにかく今はチェンソーマン(プラス可愛い女の子)との会話を楽しもうと、平静をそれなりに取り戻したデンジは呑気に構えていた。

 そしたらヤクザに飼われていた頃の重〜い過去を聞かされ、デンジの情緒はまた掻き回された。

 マキマとチェンソーマンは1日の食事が食パン1枚で、トタンのボロ小屋に住み、ヤクザの下っ端に犯されかけた事があり、チェンソー1つでデビルハントに駆り出されて何度か死にかけ、挙句の果てには裏切られて殺される……クソオブクソ、クソオブザイヤーな生活を送っていたらしい。

 

 人間は好きだが、人間を傷付ける人間は許さない。推しが相手なら尚更だ。

 ヤクザをブッ壊す決意を固めたデンジは、静かにキレながら安全運転を心がけた。

 

 


 

・今作のデンジ

解釈不一致でも「こういうのもアリだな!よろしくなあ!」と全肯定するタイプのオタク。

抱きしめられて満たされた結果、厄介オタク要素はかなり薄れた。

牙を抜かれて頭のネジが締まったとも言える。

 

原作マキマさんよりも策謀に弱く、小動物を用いた情報収集も控えめ。戦闘IQは原作通りに高い。

人間は好きだが、基本的には自分と自分の周りさえ良ければいいや的な思考。

別に博愛主義者ではないし、世界を支配したいとも思ってない。

 

実はソ連に転生して、中ソ対立期にクァンシ経由で日本に引き取られたという裏事情があったりするけど、それが本編に関連することは特に無いと思われる。(レゼとは時代も場所も違う)

 

食欲・物欲・性欲*2の全てを満たしてくれた日本公安に懐いた。いっぱいちゅき。

仕事もきっちりこなすため、上層部にしてみれば理想の駒。

「公安は福利厚生が一番いいんだよ」←支配の悪魔のセリフか?これが…

 

でもやっぱり最優先事項はチェンソーマン。チェンソーマンのためなら恩義を無視して国を壊す。眠れる獅子(ガチ)。

普段は大人しいけどやっぱり100点。

 

 

*1:
デンジside

*2:
公安「オスはメスにブチこめば元気出すんだよ」

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