もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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19話 仕組まれた出会い

劇場版『チェンソーマン レゼ篇』大好き!

 


 

デートの翌日から、公安の仕事が再開した。

デンジさんとは公安本部の前で別れ、私はパワーちゃんと共にパトロールへ向かう。

ここ数ヶ月はずっと先生との訓練漬けで、朝からパトロールをすることは無かった。

久しぶりの平和だ。

 

賑やかな街中を歩いていると、街頭で募金活動をしている人たちが目に入った。

 

「悪魔被害を受けた子供たちに、募金をお願いします!」

 

少し様子を見ていると、ほとんどの人は見向きもしないで通り過ぎてしまう。

だけど、たまに小銭を募金する人もいるみたいだ。

 

(今日は気分も良いし、少しくらいならいいかな)

 

財布から十円玉を取り出し、紙箱の中にチャリンと落とした。

 

「ありがとうございます!募金してくださった方に花をプレゼントしています!」

 

差し出された小さな白い花を受け取りながら、軽く会釈をする。

 

「ほぉ、なかなかに可憐な花じゃのう。ワシによこせ!」

 

パワーちゃんが横から手を伸ばすので、私は素直に花を渡した。

すると次の瞬間、パワーちゃんが躊躇なく花を口に入れた。

そのまま数度咀嚼して飲み込んでしまう。

 

周りの人たちがドン引きしている。

(花食ってる……うわぁ……)という感じだろうか。

けれど私は、それを見てもあまり驚かなかった。

 

(懐かしいなあ……)

 

デンジさんに拾われる前は、私もその辺の草や花を食べていた。

大抵は美味しく食べられたけど、たまにお腹が痛くなったっけ。

 

 

 

しばらく歩いていくと、少しずつ人の流れが途切れがちになっていく。

空模様も急に怪しくなってきた。

灰色がだんだん濃くなっていき、とうとう雨が激しく降り出した。

 

「ガハハ、雨じゃ雨じゃー!」

 

パワーちゃんが両腕を広げ、くるくると回りながらはしゃいでいる。

 

「ちょっと、風邪引いちゃうよ」

 

口に出してから気づいたけど、魔人や武器人間は風邪を引くのかな?

……いや、今はそんな事どうでもいいか。

とにかく濡れるのは嫌だ。

パワーちゃんを引っ張って、近くの電話ボックスに飛び込んだ。

 

「傘、持ってくればよかった……」

 

ぐしょ濡れになったワイシャツが、肌に張り付いて気持ちが悪い。

雨が止んだら一旦本部に戻ってシャワーかな……考えていると、1人の女の子が電話ボックスに駆け込んできた。

年齢は私と同じくらいか。

彼女も傘を忘れたらしい。

3人も集まると窮屈だけど、雨をしのぐためだから仕方ない。

 

「どうもどうも……いやいや、すごい雨ですね」

 

息を整えながら、軽く笑うように彼女が言う。

濡れた長い前髪が、彼女の両目を隠していた。

 

「急でしたよね……天気予報は確か──」

 

彼女が前髪を横に払い、こちらを見て──いきなり笑い出した。

 

「ごめっ、すいませ……あははは!」

「……なんで、泣いてるんですか?」

 

彼女は笑いながら、泣いていた。

 

「いやいやすいません……アナタの顔、死んだウチの()に似ていて……」

「………」

 

何も言えなかった。

 

私は普通の家族を知らない。

母親は物心がつく前に死んだと聞いている。

父親は飲んだくれで、よく私を殴った。

 

小さい頃、殺されそうになったから反撃して──逆に私が殺してしまった。

それから父親がヤクザに作っていた借金を背負うことになった。

もしポチタと出会えていなかったら、私もすぐに死んでたと思う。

 

……でも目の前の彼女には、きっと優しい家族がいたのだと思う。

私とは違いすぎる。

だから慰めの言葉ひとつも浮かばなかった。

重たい話を聞いたからか、珍しくパワーちゃんも黙っている。

 

すごく気まずかったけど、雨はすぐに止んでくれた。

さっさと公安本部へ戻ってシャワーを浴びようと、電話ボックスから出ようとしたその時。

 

「あのっ」

 

彼女に声を掛けられた。

なぜか少し顔を赤くしている。

 

「私、この先の“二道”ってカフェでバイトしてるんですけど、もし良ければタオルとか貸しますよ。その……下着も見えちゃってますし」

 

下を見ると、確かに白いシャツ越しに下着が透けている。

……このまま帰って、シャワーを浴びる前にデンジさんに出くわしたらマズい。

まだ見られる心の準備はできていない。

 

「じゃあ……お言葉に甘えて」

 

そうして、そのカフェへ向かうことにした。

 

 

 

ちょっとした雑談をしながら、私たちは彼女に連れられて小さなカフェへと入った。

歩いているうちに服はそこそこ乾いていた。

でも今さら「もう大丈夫です」と言うのも少し違う気がしたから、何も言わないままにしておく。

 

店の中はコーヒーのいい匂いでいっぱいだった。

 

「レゼちゃん、遅刻だよ」

「え〜…少しくらい、いいじゃないですか〜」

「いやダメだって……遅刻した分、給料から引いとくからね」

「ケチ〜」

 

彼女──レゼはエプロンを身につけながら、ちょび髭のオジサン(マスター)と仲良さげに話している。

それを横目にテーブル席へ座った。

 

「2人ともせっかくだし、コーヒーでも飲みません?」

 

レゼがこちらに向き直って提案してきた。

 

「コーヒー……」

 

デンジさんの缶コーヒーを一口だけ飲んだことがあるけど、とんでもなく苦かった。

あれは飲めるドブだ。

香りは好きだけど、味はドブ。

 

「私は甘い飲み物の方が……パワーちゃんは?」

「んぁ? ……ああ、ワシも甘いモンがいいのう」

 

そう言うと、マスターはカフェオレを出してくれた。

 

「お待たせしました、お客様〜」

 

レゼが運んでくれたカップに口をつける。

……美味しい。

牛乳たっぷりで丁度いい苦さだ。

なお、パワーちゃんはこれでもまだ苦いらしい。

「飲めなくはない」とのこと。

 

「私もコーヒー飲みたくなっちゃった。へいへいマスター、私にもコーヒーを!」

「店員でしょアンタ」

「いいじゃないですか〜、モーニングにしか客なんて来ないんだし」

「もお〜……」

 

と言いつつ、マスターは手際良くコーヒーを淹れている。

なんだかんだ緩い職場らしい。

 

「お隣失礼しますね〜」

 

レゼが私の右隣に座る。

左隣にはパワーちゃんもいるから、2人に挟まれる形になった。

淹れたてのコーヒーを美味しそうに飲むレゼ。

じっと見つめていると、視線に気づいたレゼがニヤリと笑った。

 

「コーヒー飲みたくなっちゃった?」

 

頷く。

もしかしたら缶コーヒーとは違う味がするかもと、少しだけ期待している。

 

「私の飲みかけでいいなら、飲んでいいよ」

「いいの? ありがとう」

 

礼を言って差し出されたカップを受け取り、温かいコーヒーで口中を満たす。

目を閉じて味わってみる。

 

………にっっっがい。

苦すぎて顔がくしゃくしゃに歪み、それを見たレゼが軽く吹き出した。

 

「なにその顔〜!」

「うん、やっぱりドブだよこれ」

「ドブ〜!?あはははは!子供だ子供!」

 

パシパシと肩を叩かれる。

バカにされてるはずなのに、悪意や敵意は感じ取れない。

だから不思議と嫌な感じはしなかった。

 

「私の名前はレゼ……って、さっきマスターが言ってたか。キミの名前は?」

「マキマ」

「マキマ……マキマちゃん。───マキマちゃんみたいな面白い人、はじめて!」

 

 

 

その後もカフェオレをちびちびと飲みつつ、レゼと他愛もない話をした。

飲みきったタイミングで財布を取り出すと、マスターから「これはサービス。暇なときにまたおいで」と言われた。

 

外に出ると快晴で、さっきまでの雨が嘘みたいだった。

また来たいなと思いながら歩いていると、カフェからそれなりに離れたところで、ずっと静かだったパワーちゃんが口を開いた。

 

「マキマ……気づいとるか?」

「なに?」

「あの女、人間じゃないぞ」

 

足を止める。

 

「……どういうこと?」

「女の体から変な匂いがしたんじゃ。雨とコーヒーの匂いで良く分からんかったが……マキマみたいに、悪魔と人間が混ざったような匂いじゃった」

 

武器人間──悪魔の心臓を持つ人間で、人間・悪魔・魔人のどれとも違う特殊な存在。

もしレゼがそうなのだとしたら、カフェで働けるはずがない。

 

『マキマの選択肢は2つだ。公安で働くか、悪魔収容センターで飼われるか』

『今のマキマは半分悪魔みてーなモンだからな。野放しには出来ねえ』

 

デンジさんの言葉を思い出す。

レゼを疑う心が膨れ上がっていく。

 

『各国から刺客が来る』

 

確かにレゼの顔立ちは日本人離れしていた。

肌も綺麗な白だった。

 

レゼは──ポチタ(チェンソーマン)を奪おうとしている?

 

 

◆◆

 

  *1

 

「ふうん、あの子がターゲットかい?」

 

「………」

 

「連れ帰るのはいいけど、チェンソーの心臓を優先しないと上の人たちが怒っちゃうからね?」

 

「はいはい、分かってますよ〜……───教官(マスター)

 

 

 

*1
***side

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