もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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20話 ***(レゼ)

タイトルに「○話」表記を追加しました。

 

レゼの過去です。少し閲覧注意。

 


 

 

 

 

「Папа! мама!」

 

 

 

 

私はいつどこで生まれたのか。

その記憶はない。

 

記憶の始まりは刺すような冷たさ。痛み。極寒の川の中。

悪魔か、それとも両親か……とにかく何かから逃げていたのだと思う。

本来ならそのまま凍死していたはずだ。

 

だけど私は死ななかった。

拾い上げたのは神様なんかじゃない。

クソみたいな祖国だ。

 

かつてソ連には「秘密の部屋」と呼ばれる場所があった。

そこでは親のいない子どもたちが集められ、国家に尽くすための戦士へと作り変えられる。

少年少女に人権はない。

モルモットとして身体を弄られ、実験データを取るために何百人も犠牲になった。

私も住人の1人だった。

 

 

 

地獄のような環境の中にも善い人はいる。

私と同室の女の子──ミラがそうだった。

()()()()()()()()()

少し年上で、底抜けに優しい人だった。

「秘密の部屋」に入れられてから毎晩泣きじゃくる私を、嫌な顔ひとつせず慰めてくれた。

 

「いつかきっと、自由になれるよ」

 

今思えば、あの言葉はほんの気休め。

だけど何度も救われてきた。

 

 

 

「秘密の部屋」の目的は、悪魔の力を軍事に転用することだった。

死にかけの子供(モルモット)を悪魔に乗っ取らせたり、あるいは悪魔の心臓を埋め込んだりした。

 

「適性アリ」

 

検査の結果、私の体はボム(爆弾)の心臓に対する適性があると分かった。

私は実験()()から()()兵器へと格上げされる権利を得た。

希少だからと、教官たちから多少の優遇を受けられるようにもなった。

だけどミラは選ばれなかった。

 

 

 

ある時、1人の教官がミラを共同収容室から連れ出したことがあった。

しばらくして戻ってきたミラは、目を赤くしていた。

 

泣いていたの?

どうして?

大丈夫?

 

いくら聞いても、ミラは影のある微笑みのまま「大丈夫だよ」と言うだけだった。

そんなことが何回もあった。

 

 

 

何度目か、ミラが教官に連れ出されていたある時、別の教官が収容室に来た。

 

「ミラはいないのか?」

 

彼もミラを目当てに来たらしい。

何の用事ですか、と尋ねた。

……尋ねてしまった。

 

「アイツは───」

 

聞くことすら耐え難い内容だった。

ミラは教官たちの慰み者にされていた。

 

「運が良かったな、お前」

 

私はボムの“適合者”。

来週には手術を控えていて、決して傷付けるなと厳命されている。

だから私だけは無事なのだと、教官は下卑た笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

動揺した私は、帰ってきたミラに問い詰めた。

 

どうして言ってくれなかったの

辛くないの

私は、私は───

 

ミラは首を横に振って微笑んだ。

 

***(レゼ)。エッチな事はね、お互いが愛し合って初めて成立するんだよ」

 

あの行為に愛は無かった。

だから私はまだ純潔を散らしていない──気丈な彼女らしい“言い訳”だった。

本当は辛くて苦しくてたまらないだろうに、私の前ではおくびにも出さなかった。

それが悲しかった。

 

 

 

手術を終えた私が収容室に戻ると、ミラはいなかった。

 

彼女は適合者じゃなかった。

実力はあるのに、優しすぎて兵士としての価値も低いと判断されていた。

だから落ちこぼれとして魔人化の実験で使い潰され、失敗し、殺されていた。

 

ああ、この場所ではありふれた死だ。

それでも私は受け入れられなかった。

 

どうしてミラは殺されて、私だけが生きている。

姉のように、母のように慕っていた。

実力は私より優れていた。

私はたまたま適性があっただけだ。

ミラを守れなかった。

力を手に入れても、護りたい人がいないのでは意味がない。

あの時ミラを問い詰めたことだって、まだ謝っていないのに。

どうして、こうなったの───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラを喪い、私に残されたのは2つ。

新しく与えられた“レゼ”というコードネームと、殺戮兵器としての肉体だけだった。

秘密の部屋閉鎖後も、少しの期間を置いてから連れ戻され、結局自由にはなれなかった。

 

抜け殻のように任務をこなす日々。

考えることをやめて、命令に従うだけの毎日が何年も続いた。

 

 

 

そんなある日、チェンソーなる悪魔の心臓を奪取せよとの命令が下った。

上官に手渡されたターゲットの顔写真を見る。

思わず目を見開いた。

 

(ミラ……!?)

 

生き写しかと思うほどによく似ていた。

 

「……戦力として使えそうなら、連れ帰っても良いでしょうか」

 

なぜそんなことを口にしたのか、自分でも分からなかった。

この女の子はミラと似ているだけの別人なのに。

 

「好きにすればいい。ただし、チェンソーの心臓が最優先だ。そこを履き違えるな」

 

低く、冷たい声だった。

だけどあっさり許可されたのは意外だった。

心臓移植すら確約してくれた。

私の実績が多少なりとも評価された結果なのか、それともチェンソーの心臓にはそれほどの価値があるのか。

 

ただし監視役として、1人の教官がついた。

元日本公安のデビルハンターの男。

老いた今でも優秀だという。

 

「よろしくね」

 

教官にしては温厚そうな人物だった。

どうせ腹の中は真っ黒なのだろうけど……そんな事に興味はない。

 

私は与えられた任務をこなすだけだ。

 

 


 

Q.レゼの実年齢って?

A.不明。

原作52話で岸辺がアキに、レゼの正体を説明していた→アキは秘密の部屋を知らない?→レゼがモルモットだったのは結構昔の話?

てな感じで結構いい年(おばさん)だったというが有力。

 

 

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