もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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23話 ボムガール

  *1

 

 突然のことにレゼが呆然としていると、いつの間にか悪魔と魔人がマキマの後ろに立っている。

 理解が追いつかず、それでも咄嗟に大きく後ろに飛び退いて距離を取った。

 

 悪魔は上半身だけなら人間の女に近いが、白くすらっとした脚が8本、黒いロングスカートから露出している。

 魔人も見た目はほぼ人間の女だが、頭に2本の赤い角が生えている。

 そういえば、この魔人はマキマと出会った時にもいた。

 

 素足の裏に伝わる、細かく乾いた砂の感触。

 月明かりが照らす海の向こうを見ても、他の陸地は見当たらない。

 ここは無人島だ。

 

(ああ……そっか)

 

 レゼの計画はとっくに破綻していた。

 マキマに騙されていた──そんな考えが浮かび、しかしすぐに打ち消した。

 騙されていた? 違う。

 元々騙して連れ去ろうとしていたのは自分だ。自業自得ではないか……そう自嘲した。

 

「おうおう、ウヌがスッパイかァ〜?」

「スッパイじゃなくて、スパイね」

 

 角の女の発言をマキマがさらりと訂正する。

 何とも間の抜けたやり取りだが、それに突っ込むだけの余裕は無い。

 蜘蛛女はともかく、角の女はかなり手強そうだ。一対一でも手こずるだろう。

 

「私のこと、いつ気づいてた?」

「ううん、私は気づかなかったよ」

「マキマは騙せても、ワシは騙せんということじゃ! ま、相手が悪かったと諦めるんじゃな」

 

 マキマ曰く、まず角の女──パワーの鋭い嗅覚によって、レゼが武器人間であることを知った。

 そしてその報告を受けた支配の悪魔が調査し、レゼがソ連の諜報員であることを暴いたそうだ。

 

 もはや祖国に連れ帰るどころの話ではない。

 かといってマキマを殺すこともできない。

 ……情を持ちすぎた。

 今すぐ“ボム”に変身して逃げ去ろうと、レゼが首のピンに指を掛けて───

 

「明日さ、一緒に夏祭り行こうよ」

「………え?」

 

 ピンを抜こうとした手が止まった。

 彼女は何を言っている?

 相手が人外で、スパイで、自分の心臓を奪おうとしている悪党だと知りながら、なぜ一緒に夏祭りに行こうと誘う?───レゼは困惑した。

 公安側に計画がバレていると言われた時以上に戸惑っていた。

 

「何を言ってるの? 私がマキマちゃんと仲良くしていたのは作戦のため。心臓を奪うためだって、知ってるでしょ?」

「だったら初めて会った時に、さっさと殺しとくべきだったね」

 

 正論だった。

 心臓を奪うだけなら、駆け込んだ電話ボックスの中でピンを抜き、有無を言わさず爆殺すれば済む話だ。

 

「……じゃあ私は逃げるから」

 

 これ以上の対話は無駄だ。

 夏祭りと公安加入はイコールであり、支配の悪魔に飼われて自我を喪うのは御免である。

 

 今度こそピンを抜いた。

 頭部が爆発し、ほんの一瞬意識が寸断されるも直ぐに再生。

 激痛と共にレゼはボムへと変身した。

 爆弾に歯が生えたような形状の頭部に、ダイナマイトや爆竹を連ねたような装束を纏ったその姿はまさしく悪魔だった。

 

 そして自らの足裏を爆発させることで飛翔し、マキマたちが飛びつけない高さまで上昇。

 名残惜しそうに地上を見つめ、完全に飛び去ろうとする間際、レゼは先ほどの授業ごっこを思い出していた。

 

(マキマちゃん、ホントはね。私も学校行ったことなかったの)

 

 

 

 

 

  *2

 

 レゼが爆発で浮き上がっていくのを、パワーは興味深そうに見つめていた。

 

(この飛び方、ワシの能力に似とるなあ……これワシのじゃないか?)

 

 無論、そんなことはない。

 この飛行方法はレゼのオリジナルだ。

 

(ワシのじゃ!)

 

 だが生まれついての虚言癖持ちであるパワーにとっては「自分の便利な能力をパクられた」ことだけが真実であり───そう思うが早いか、自らの足裏に“血のバネ”を生成した。

 

「マキマ! ワシの手を掴め!」

 

 マキマとパワーが互いの手を握りしめる。

 そしてパワーが軽く飛び、全力で地面に向けて蹴りを叩き込んだ。

 インパクトは一瞬。

 大地から得た爆発的な反発力を利用し、2人の体を打(・)ち(・)上(・)げ(・)る(・)。

 

「たっっっか!」

「ガハハハハハ!」

 

 デンジの血肉によって(知らぬ間に)強化された肉体をもってしても、レゼの高度にはまだ届かない。

 それでも尚パワーは獰猛な笑みを崩さず、両手でマキマの手首を掴んだ。

 

「ふんぬぅぅぅっ」

「ちょっ、パワーちゃ───」

 

 ビシリ、とパワーの両腕に血管が浮かび上がる。

 

「っらァアアア!!」

 

 そして咆哮。

 空中で体をひねり、今度は遠心力を乗せてマキマをぶん投げた。

 

「んん゙─────ッッ!?」

 

 放たれた体は再び加速する。

 スターターを引き、変身しながら一直線にかっ飛んだマキマは、とうとうレゼの高度に追いついた。

 

「嘘でしょ!?」

 

 それに気づいたレゼはギョッとしながらも爆発で引き離そうとして───失敗した。

 

「チェーン!?」

 

 マキマの両腕から伸びたチェーンがレゼを絡め取っていたからだ。

 

「逃がさないよ」

 

 マキマはチェーンを引き寄せ、そのままレゼを抱き締める。

 これで2人の距離はゼロになった。

 もう逃げ場はない!

 

「ああああアアア!?」

 

 ヴヴヴヴヴヴヴヴ───エンジンが唸り、チェンソーがレゼの胴体を断った。

 

 ようやく捕縛完了……しかし一息つく間もなく、今度は高度が下がり始めた。

 

「あっ、やば」

 

 そういえばここは高度何メートルだ?

 

「〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

 重力に従い、風切り音と共に凄まじい速度で落ちていく。

 私は不死身の武器人間だから大丈夫だ!と自己暗示をしながら、歯を食いしばり落下の衝撃に備える。

 

 そして海面が目前まで迫り、もうすぐ着水(というより着弾)するというタイミングで───

 

「チェンソー様ああああ!!」

 

 ザッバーン!!と水面が爆ぜ、巨大なサメが海中から飛び出した。

 ぼよんとした腹で受け止め衝撃を殺し、マキマとレゼは空からの生還を果たした。

 ……レゼは死んでいるが、ピンを抜けば生き返るので誤差である。

 

 ビームの上から海面に視線を向ければ、すでに落下していたパワーがぷかぷかと浮かびながら大笑いしていた。

 彼女もビームに受け止められていたらしい。

 

 そして、3人を救った功労者であるビームは……

 

「きゃ……き……」

 

 受け止めた時の衝撃が大きすぎてグロッキーになっていた。

 

 


 

デンジ(の肉片)を食べて血の悪魔に近づいた結果、パワーちゃんがちょっぴり戦闘狂になりました。まあ誤差でしょう。

 

《補足》

プールに入ってる時に転移したのはレゼを濡らして爆破能力を弱化させるためです。

無人島に転移したのは人が居ない+四方が水に囲まれているからです。

マキマが追いつけたのも爆発力(=飛行速度)が若干低下してたからです。

そしてこれはどうでもいいですが、今回のレゼは裸エプロン、マキマは全裸でした。

 

次はデンジ VS 教官(マスター)です。

 

 

*1:
三人称視点 レゼside

*2:
三人称視点

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