もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

27 / 27
26話 失恋・友達・チェンソー

前半と後半の温度差に注意

 


 

  *1

 

作戦は失敗した。

その要因は……挙げ始めればキリがないが、一番はターゲットに──マキマに情を持ったことだろう。

つまり任務開始前から敗色濃厚だったわけだ。

 

不利なフィールドにまんまと誘い出され、逃げ出すこともできずに捕まった。

チェーンで縛られた後も、死に物狂いで抵抗すれば逃げ切れたかもしれないのに、そうしなかった。

スパイがターゲットに絆されるなんて言語道断、しかしそれほどまでに彼女は魅力的だった。

ハニートラップをすればどんな堅物も間違いなくオトせるだろうが、彼女が男に抱かれる想像などしたくないので思考を打ち切る。

 

……現状を改めて把握しよう。

私はなぜか生きていて、おそらく医療施設のベッドに寝かされている。

目は閉じたままだから周囲の状況は分からないけど、そばに彼女がいるのは気配で分かる。

加えて、同じ室内の少し離れた場所にも何者かの気配を感じた。

部屋の外にも、建物の外にも人員は配置されているのだろう。

 

詰んでいる。

未だに自我を保てているのは不思議だが、だからといって暴れる気力はもう無い。

……仕方ないので目を開く。

狸寝入りはバレているかもしれないが、一応“今起きましたよ”という態度を装った。

 

「……信じられない。どうして私を蘇らせたの?」

 

低く、少し掠れた声が出た。

視線を横に動かすと、そばに置かれた椅子に彼女が腰掛け、じっとこちらを見つめていた。

背後は壁。残りの三面は白いカーテンで仕切られていて、外の様子は窺い知れない。

けれどカーテンの向こう側には、やはり誰かがいる。

 

私の問いかけに、彼女は少し誇らしげに答えた。

 

「私は今、素晴らしき日々を送っている。美味しいご飯を食べて、温かいシャワーを浴びて……大切な人もできた。でもね」

 

彼女はそこで言葉を区切り、ミラによく似た金色の瞳で私を見つめる。

 

「レゼがいなくなったら、きっとつまらないよ」

 

私はソ連の人間兵器(モルモット)で、彼女の心臓を奪いにきた暗殺者だ。

胸の奥から湧き上がる割り切れない感情を隠すように、私はわざと冷ややかな声を絞り出す。

 

「……今、私に殺されても同じこと言える?」

「うん」

 

彼女は迷いなく頷いた。

 

「もし私がレゼに負けて死んじゃっても、他の人たちがまた連れ戻してくれるから。……だからレゼも、公安においでよ」

 

冗談を言っている風には見えなかった。

彼女の態度はどこまでも真剣で、瞳は濁りなく澄んでいる。

……一度殺されたことへの恐怖や警戒はあるけど、その真っ直ぐすぎる視線に、胸の奥が痛いくらいに締め付けられた。

 

「無理だよ」

 

彼女の言葉は本気なのだろう。

しかし、ソ連所属の諜報員にして武器人間という私の立場が邪魔をする。

 

日本は既に2()()武器人間(ウェポンズ)を保有しており、これ以上増えると世界のパワーバランスが崩れかねない。

特に、戦力を取り込まれたらソ連上層部は間違いなく激怒する。

最悪の場合、他国と組んで日本を脅かす可能性すらある。

 

私という個人と国際関係……マトモな為政者なら後者を選ぶ。

第二の世界大戦は誰も望まない。

 

「───何が無理だって?」

 

シャッと鋭い音を立てて、カーテンが勢いよく開け放たれる。

カーテンの向こうにいたのは支配の悪魔──デンジだった。

支配の悪魔はマキマの逆──私から見て右側に立ち、淡々と私の逃げ道を塞ぎにかかった。

 

私が頭の中で並べ立てていた“ソ連へ帰還せざるを得ない理由”を、彼はまるで最初から見透かしていたかのように、対話によって徹底的に、一つ残らず潰していく。

頭を下げるのは事前準備(ヤクザ掌握)を行った上で刺客(レゼ)を送り込んだソ連側であり、責任を追及すればソ連は私を手放すしかないのだ、と。

いくら日本に正当性があろうとも、各国から敵対視されてしまうぞと言えば、マキマ(チェンソーマン)を引き入れた時点で覚悟していると断言された。

 

「……マスターは? あの人はどうしたの?」

 

実力は未知数だが上官に推薦されるほどの人物であり、いざ戦えば相応の被害が出るはず。

しかし支配の悪魔は、事も無げに言い放った。

 

「殺した」

 

背筋が凍った。

こちらを見下ろす双眸から、あらゆる感情が抜け落ちてしまったようで───

 

(……いや、違う)

 

この表情は見せかけだ。

強く握りしめた拳が微かに震えている。

落ち着いて観察すれば、他にもあらゆる箇所から感情の揺らぎが見て取れる。

任務の一環として、人間の心理を推測する訓練は行ってきたけど……彼の感情は拍子抜けするほどに分かりやすかった。

 

(悪魔のくせに)

 

教本通りすぎて可笑しいくらいだ。

冷徹に振る舞おうと必死になっているその姿は、あまりにも人間臭い。

いや、流石に演技なのかな?………思考を巡らせていると、不意に私のお腹に指先が触れた。

 

患者衣の上から、お腹のあたりを、マキマが人差し指でそっと横になぞった。

 

「チェンソーでお腹割かれて……痛かったよね? ごめんね?」

 

こちらを覗き込む彼女の顔は、息が止まるほどに蠱惑的だった。

ゾクリとするような甘い温度を孕んだ声。

支配の悪魔とは大違いだ。

この少女の心理をいくら探ろうとしても、まるで深い霧に包まれたかのように、本心がどこにあるのか掴めない。

 

「でも、レゼは大切な友達だから。あんな酷い場所に行かせられない」

 

───友達。

その言葉が頭の中で反響する。

考えれば考えるほど、公安に降るのが一番良いように思えてくる。

ああ、私の完敗だ。

だけど一つだけ、どうしても納得がいかない。

 

「マキマちゃんのことは……友達だと思ってないから」

 

彼女は意外そうに、首を小さく傾げた。

 

「友達じゃなくて、もっと大切な人」

 

心臓が激しく脈を打つ。

 

「私はね───マキマちゃんのことが好き

 

言った。

言ってしまった。

もう、あとには引けない。

 

それならいっそ、ハジケてしまおう

 

 

◆◆

 

  *2

 

「えっ」「は?」

 

2人の声が重なった。

レゼの爆弾発言を受け、マキマとデンジは完全に思考を停止させていた。

 

Q.不利な展開に持ち込まれた。どうすればいい?

A.全部吹き飛ばせ。

 

実にボムガールらしい一手であった。

数秒の気まずい沈黙の後、デンジより先にフリーズから復帰したマキマが問いかける。

 

「友達として……じゃ、ないよね」

「うん」

 

レゼは食い気味に肯定した。

白い頬を林檎のように赤く染めながら、レゼは力強く肯定した*3

マキマは困ったように眉を下げ、視線を泳がせながら、直球すぎるその想いに真正面から応えた。

 

「……ごめん、女の子のことを恋愛的な目では見れない」

 

あまりにも真っ当で、残酷な拒絶。

しかしレゼの心は折れなかった。

会話の主導権は今やレゼの手中にある。

最初からその答えを予期していたかのように、悪戯っぽくおどけてみせた。

 

「知ってるよ。友達でいられるなら十分」

 

レゼはおもむろに上体を起こし、パッと勢いよく両手を左右に広げた。

 

「友達の証、ぎゅ〜ってして」

「ええ……?」

 

失恋した直後とは思えないその切り替えの早さに、マキマはまたしても面食らった。

あれ、私フったんだよね?

とはいえ「友達」として受け入れられたなら、マキマに断る理由はない。

「それでいいなら……」と、戸惑いながらもレゼの広げた腕の中へと、素直にその身を委ねた。

 

(や、やわらかい……ふわふわ……)

 

マキマの首筋に顔を埋めるレゼの呼吸は、なぜか妙に荒い。

かすかに震える肩と、耳元で繰り返される熱い吐息に、マキマは不思議そうに声をかけた。

 

「どうしたの?」

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

レゼはそれだけ呟き、さらに力を込めてマキマを抱きすくめる。

失恋の寂しさを埋めているのか、それとも別の感情が高ぶっているのか……

 

そして、少し離れた場所に立つデンジは。

目の前で繰り広げられる百合を、ただ無言で、苦虫を噛み潰したような、これ以上ないほど複雑な表情で見ていた。

 

 


 

次回は久しぶりに掲示板回。

花火大会もその後にやります。

 

 

 

*1
レゼside

*2
三人称視点

*3
ソ連「お前は冷酷な女スパイじゃなかったのか!? 教えはどうなってんだ教えは!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

デンレゼ過激派転生者(作者:翁。弁当)(原作:チェンソーマン)

まずは厄介オタクを生姜焼きにしてやるか。


総合評価:1999/評価:8.75/連載:42話/更新日時:2026年05月24日(日) 21:00 小説情報

星のカービィin呪術廻戦(作者:春風春嵐)(原作:呪術廻戦)

▼無限の力を持つ伝説のヒーローこと、ピンクの悪魔…こと星のカービィ。▼平和な日々を送っていたら、別世界に放り込まれていた!?呪術とか呪霊とかよくわからないけれど、おともだちになれば大丈夫だよね。▼我らが星のカービィが呪術廻戦の世界でてんやわんやする話。▼呪術廻戦再熱して最後まで読んだんですが、結構なにわかなのでどうかご容赦ください。


総合評価:1608/評価:8.88/連載:7話/更新日時:2026年03月29日(日) 01:52 小説情報

役立たずの三輪(作者:メカ丸ゥゥゥウウウ!)(原作:呪術廻戦)

最強の術師は誰か?▼ある生徒は現代最強の五条悟を挙げ、ある従者は呪いの王両面宿儺を挙げる。そして羂索は一人の男の名前を挙げた。▼蘆屋貞綱。それは羂索の子であり、シン陰流開祖。そして、宿儺を知る羂索をもってしても最強と断言する術師である。▼新宿において最強による三つ巴。生き残るはただ一人。最強は新宿で何を見るのか?▼「大好きな人がいるんだ」▼その声に反応して、…


総合評価:2924/評価:8.02/連載:39話/更新日時:2026年03月31日(火) 18:00 小説情報

内緒やで、ぶっちゃけダサいと思っとんねん。術師が得物使わんの(作者:器用貧乏ならっこ)(原作:呪術廻戦)

これはもし直哉が得物をしっかり使って戦闘してたら、そんなお話。▼掲示板形式のタグは番外編にやるつもりで付けてます。▼2026/03/24 本編完結しました。


総合評価:6547/評価:8.45/完結:21話/更新日時:2026年04月10日(金) 20:11 小説情報

禪院直哉の想望(作者:端取合)(原作:呪術廻戦)

禪院直哉(成り代わりの姿)が足掻く話。▼別名義で書いた小説の再録② 再録にあたって一部加筆修正済み


総合評価:7491/評価:8.36/連載:8話/更新日時:2026年01月27日(火) 17:50 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>