腹を空かせた可愛い女の子には、腹いっぱい飯を食わせねーといけねえ。
公安のデビルハンター──デンジさんが運転する黒塗りの車の中で、私たちは互いの名前や境遇、私を公安で雇ってくれることなど色々な話をした。
その中で私がヤクザに飼われていた時の話をしたら、デンジさんが無言で、だけどはっきり分かるほどに怒っていた。
それが不思議で「見ず知らずの私が虐められてたからって、どうしてそんなに怒れるんですか」と聞くと「マキマは俺の“ヒーロー”に選ばれた人間だからな。好きな奴の好きな奴が虐められたら嫌だろ」と返された。
「ヒーロー…?」
「そ。地獄で会った事があんだよ。クソ格好良かったんだぜ〜?」
「ポチタと知り合いだったんですか?というか、地獄って…」
「おー、俺悪魔なんだよ。どんな悪魔なのかは規則で言えねーけど。……怖いか?」
「いえ全然。ポチタだって悪魔でしたし」
そう、本当に優しい悪魔だった。
だから私の身代わりになって───
「いや死んでねーぞ」
「………はい?」
「俺は鼻が効くから分かる、ポチタは死んでねえ。悪魔の体ってのは人間とは色々違えからな。マキマの心臓として今も元気に動いてる」
あっけらかんとした様子で言い放つデンジさん。
とても嘘を言っているようには見えない。
ポチタ、本当に生きてるんだ……
「ポチタはマキマのことが大好きだったんだな」
まるでこちらを慈しむような、今まで向けられたことのない視線を向けられた。
汚い臭いと言われてスケベな奴以外は近寄りもしなかったこの私に、こんな優しくしてくれる人がいるとは思わなかった。
なんだろうこの感じ…デンジさんは男の人なのに、まるでお母さんのような…。
「そろそろパーキングエリアに着くぜ。なんでも好きなもん食っていいからな。…あと、そんな血まみれだと目立つからこれ着とけ」
そう言うと右手でハンドルを握りながら左手でジャケットを渡してくれた。
どうしよう、会ったばかりなのに惚れそう。
というかもう惚れてる。好き…
「うどんをください。あとフランクフルトも……いいですか?」
「おー食え食え。なんでも食ってもいいぜ」
「じゃあアイスも…!?」
期待を込めて尋ねると「なんでもだぜ、マキマ」とニヤリと笑って返してくれた。
値段が恐ろしいことになっているけど、こんな機会は二度と無いかもしれない。
だから遠慮したら損だ、とにかくなんでも色々頼もう。
「串焼きと、焼きそばと──」
「そんじゃ俺はカレーうどんを──」
超最高な気分で注文しまくっていたら、いきなり頭から血を流したおじさんが割り込んできた。
デンジさんが事情を聞くと、おじさんの娘さんが悪魔に攫われたらしい。
……人間を攫うってことは悪い悪魔だね。
早く助けに行かないと───
「おっとストップ。マキマはここで待ってな」
「でも…」
「一日中戦ってフラフラなんだろ。大丈夫!俺ぁ超超超強えからな。すぐ戻るぜ!」
言うが早いか、デンジさんはあっという間に森の方へ走り去ってしまった。
そして数分後、森の方から小さく「死ねぇ!!」という声が聞こえた瞬間、轟音と共に遠くの木々がぶっ倒れていった。
「えぇ……?」
◆◆
パーキングエリアに到着し、2人(3人)で美味い飯を食おうと思っていたのに、急に
「オメーか、この子攫った悪魔は」
「ち、違うんです!この悪魔さんは悪くないの!」
少女曰く自分は父親に虐待されていて、駐車場で殴られていた所をこの悪魔に救われたのだと言う。
……小学校1,2年生くらいだろうか、幼い少女の背に隠れる悪魔の姿は、確かに一見すれば無害そうに見える。
しかし悪魔は悪魔だ。デンジのように人間に好意を抱く悪魔は少ないし、そういった悪魔は人間に近い姿を持って生まれる傾向にある。
悪魔というのは大抵見た目通りにヤベー奴か、見た目は可愛くともヤベー奴の二択なのだ。
大方、この少女は脅されるか洗脳されているのだろうとデンジは判断した。
「ふ〜ん…そういうことなら嬢ちゃんと悪魔、どっちも公安で保護してやってもいいぜ?」
「ほんと!?」
「ああ。人間に悪さしねーんだったらな。手続きとか面倒くせーけどそこは俺がやるから───」
「あはっ…いいの…?」
突然少女が動き出しデンジの腕を掴もうとしたが、咄嗟に大きく後ろに下がって回避。
能力発動のトリガーは接触だろうか。
「どうした嬢ちゃん、握手でもしてーのか?」
「うん、仲良しのしるし」
「………」
十中八九、ヤベー方の悪魔だという確信はある。
だが未だほんの僅か、理性的な悪魔である可能性も残されている。
……もしデンジの予想通りだとすれば、この悪魔を少女から引っ剥がせば能力は解除される。
「仲良くする前に確かめてえ事あんだけど」
「……なあに?」
デンジは十本の指先から“鎖”を放ち、自らの手に巻き付けた。
天使の悪魔という前例もあって、直接触れられなければ能力は発動しないだろうと見込んだのだ。
本来の“鎖”の用途とは違うが、単純に拳の破壊力が増すのでデンジはよくこういう使い方をする。
熟達した今では手首のスナップだけで器用に巻き付けられるくらいだ。
「え、何を───」
戸惑う少女(?)へ凄まじい速度で接近し、悪魔を引っ掴んでアンダースロー。
ピッチングマシンで打ち出されたボールのような直線を描き、悪魔は木に叩きつけられた。
……これで本当に無害な悪魔なら謝罪すれば済む話なのだが───
「何やってくれてんじゃボケェ〜!」
やはりヤベー方の悪魔だった。
一つ目の可愛らしい姿だったのが、巨大化して眼球も増え、より悪魔らしい見た目へと変貌。
よほど能力に自信があるのだろう、とにかく素肌に触れようと近づいてきた……が、相手が悪すぎた。
「ひっ…助けて、お兄さん…!」
この悪魔の名は“筋肉”。
触れた者の筋肉を自在に操るという能力は確かに強力だが、格闘戦力は特段高くない。
囮を用いた不意討ちに失敗した時点で詰んでいたのだ。
「死ねぇ!!」
最早遠慮が要らなくなったデンジは“
先ほどの比ではない力で殴られた筋肉の悪魔は、木々をへし折りながらぶっ飛び絶命した。