もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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27話 花火

レゼ篇エピローグ(2回目)

 


 

  *1

 

「あ〜……盛り上がってっとこ悪(わり)ィんだけどよ、こっからは真面目な話するぜ」

 

 デンジさんは少しだけ気まずそうに、でも真剣な表情で話し始めた。

 事態はそれなりに緊迫しているらしかった。

 

 まず、日本公安がソ連でも有数の戦力───レゼとマスターを撃退したこと。

 マスターに至っては“羆の悪魔”という超強い悪魔を召喚した上で倒されたため、各国の警戒度が跳ね上がる。

 

 そして一番の問題は、私の力がまだ不(・)完(・)全(・)であるということ。

 世界中がデンジさんを恐れる一方で、ポチタ(チェンソーマン)が弱っている今が好機だと判断する国も必ず現れる。

 私もかなり強くなったつもりでいたけど、地獄にいた頃はこんなモンじゃなかったらしい。

 

「刺客はいつ来るか分からねえ。マキマの安全を確保しつつ、外の連中へのデカい牽制が必要になる」

 

 デンジさんはそう言って、未だに私を抱きしめているレゼを指差した。

 

「そこでレゼの出番だ。レゼには今日から俺たちの家に住んでもらう」

 

 レゼ(友達)が私たちの家に住む。

 私は楽しそうだなあとしか思わなかったけど、レゼとデンジさんは少し違うみたいだ。

 

「……私を、そんな近くに置いていいの? 気が変わって、またマキマちゃんの心臓(ハート)を狙うかもしれないよ?」

「ソ連に対する忠誠が無いことは知ってる。他んところで気がかりはあるけどよ……仕方ねえから我慢してやる」

 

 なんだか険悪なムードだ。

 2人とも大事な人だからできるだけ仲良くして欲しいんだけど……どうしてこうなるかな。

 

 

 

 

 

「…おじゃましま〜す」

 

 病院から一度私たちの家に帰ると、レゼはいつもの大胆さが嘘みたいに、少しぎこちない様子だった。

 いくらレゼでも、突然他人の家に転がり込むのは気まずいのかもしれない。

 そんなレゼを仁王立ちで待ち受けていたのは、あからさまに不機嫌な顔をしたパワーちゃんだった。

 

「ウヌもここに住むのか」

 

 パワーちゃんはのっしのっしと歩み寄り、舐め回すようにレゼを見る。

 パワーちゃんからすれば、初対面のカフェの時から「怪しい」と敵視していた相手だ。

 しかも本当にソ連の刺客だったわけだから、警戒するのも無理はない。

 けれど、ここからのレゼは本当に凄かった。

 

 質問して、褒める。

 にこにこと笑顔を絶やさずに繰り返す。

 パワーちゃんの可愛さと強さを、これでもかと強調する。

 単純だけど効果はてきめんだった。

 

「もっとワシを敬うが良い!」

「うん、パワーちゃん!」

「ワシのことはパワー先輩と呼べ!」

「はいっ、パワー先輩!」

「ガハハハハ!!」

 

 昼食を食べ終える頃には、2人はすっかり仲良し(?)になっていた。

 たぶんパワーちゃんの目線だと、レゼは『自分に負かされて我が家に加わった新しい子分』。

 逆にレゼの目線だと、パワーちゃんは『力は強いけど扱いやすい子供』といったところだろう。

 ……まあ、ギスギスされるよりはマシかな。

 そんな2人を横目に私は洗濯物を畳み、デンジさんは皿を洗う。

 遊んだ後に家事をするのは面倒くさいからね。

 

 

 

 

 

 家事を済ませた後は、みんなで歩いて花火大会の会場へと向かった。

 まだ完全には日が暮れていないからか、想定よりも空いている。

 

「まさかホントに来れるとは思ってなかったよ」とレゼが嬉しそうに言う。

 

 ……正直言うと、私も想像していなかった。

 あの時浜辺で誘ったのは、レゼを逃がしたくなくて咄嗟に言っただけ。

 繋ぎ止める口実が「遊びに行こう」なんて子供っぽいし、くだらない。

 でも、実現できてよかった。

 

「ほほぉ〜、どれも美味そうじゃ! デンジ、手始めにたこ焼き買うから金を寄越せ!」

「へいへい。マキマもついてやってくれ」

「はーい。……ちょっとパワーちゃん、1人で先に行かないで」

 

 他にも唐揚げ、ポテト、ベビーカステラ、肉巻きおにぎり、かき氷などなど。

 皆で色々な物を買い食いした。

 家で作った方が断然安上がりだけど、屋台で買うと違った美味しさがある、気がする。

 

 ちなみに射的は私とパワーちゃんだけがやって、戦果は小さめのお菓子が数個。

 レゼが参加しなかったのは「屋台のおじさんが可哀想だから」とのこと。

 

 そうこうしている内にすっかり日が暮れて、随分と人も増えてきた。

 

「……浴衣」

 

 レゼが小さく呟いた。

 すれ違う浴衣姿の女の子を、羨みと諦めが混ざったような目で見ている。

 

 私たちは全員が普段着だ。

 パワーちゃんはダボダボのTシャツ、私はデンジさんに買ってもらった白い半袖のブラウス、レゼは黒リボン付きの白い袖無しシャツ。

 そしてデンジさんは公安のスーツだった。「変な虫が寄り付かないように」と言ってたけど、個人的には私服を見たかった。

 

 ……それはともかく、花火大会に行くと決めたのは昨日のことだ。

 浴衣を準備する暇もなければ、そもそも浴衣を着て出かけるという発想すらなかった。

 私が何か言おうとするより早く、少し前を歩いていたデンジさんが言った。

 

「来年着ればいいだろ」

 

 振り返らず、ぶっきらぼうに。

 護(・)衛(・)任(・)務(・)が(・)終(・)わ(・)っ(・)た(・)後(・)も(・)ここにいていいと遠回しに伝えた。

 

「来年はワシが一番豪華な浴衣を着るぞ! 血で染めたみたいに真っ赤なやつじゃ!」

「いいね。レゼはどんな浴衣がいい?」

「……これから、考えるよ」

 

 

 

 

 

 夜が深まるにつれて、周りの熱気はますます高まっていた。

 どこを見渡しても人、人、人。

 人混みにもみくちゃにされて、少しでも気を抜いたらはぐれてしまいそうだ。

 

「ぬおおっ、おっ、押すな人間ども!」

「パワーちゃん、私の服引っ張らないで! 破れちゃう───」

 

 まさか力尽くで押し退けるわけにもいかず、慣れない人波に呑まれかけていた、その時だった。

 

「ほら、2人とも。こっち」

 

 ぎゅっと、私の右手がレゼに掴まれた。

 レゼは私の手を掴んだまま、もう片方の手でパワーちゃんもしっかりと確保している。

 いつの間にか、左にパワーちゃん、真ん中にレゼ、右に私という並びが出来上がっていた。

 

 レゼが真ん中で、私たち2人の盾になるようにして人の波を掻き分けてくれる。

 その足取りは驚くほど安定していて、頼もしかった。

 

「ありがとう、レゼ」

「ふん、なかなかやるのお」

 

 普段のレゼはもっと人懐っこい感じなのに、時々デンジさんみたいに大人っぽい一面も見せる。

 そういえば、レゼの年齢ってまだ聞いてないな……そんな事を考えながら、人混みから頭一つ突き出たデンジさんの金髪を目印にして歩き続ける。

 デンジさんの背が高くて助かった。

 

 しばらく歩き続けて、立ち止まれる程度には人の少ない場所まで来れた。

 街路樹の下でほっと一息ついた瞬間、ヒュゥゥゥゥ──……と、高い音が聞こえた。

 一瞬遅れて夜空に大きな花が咲き、また少し遅れて炸裂音が腹の底までずしんと響く。

 一度では終わらず、形を変えて何度も何度も打ち上がる。

 色とりどりの火花が闇を鮮やかに塗り潰す。

 次々に打ち上がる光に照らされて、デンジさんの横顔もきらきらと輝いていた。

 

 


 

次回から刺客篇です。

 

レゼの精神年齢がよく分からなくなってきた。

育った環境が歪すぎるんじゃあ……

 

 

(おまけ)

マキマ「レゼって年いくつ?」

レゼ「え〜、いくつだと思う?」

マキマ「私より少し年上、18歳!」

レゼ「……………正解!」

 

 

 

*1:
マキマside

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