もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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28話 見舞

刺客篇開始

 


 

  *1

 

花火大会からしばらく経ち、夏の熱気がようやく和らぎ始めた頃。

かつては波乱を予感させたレゼだったが、今ではすっかりこの家に馴染み、マキマやパワーとも仲良くなっていた。

特に、マキマとの距離の詰め方は凄まじい。

現に今も、食卓で朝食を食べさせあうという睦まじい光景を繰り広げている。

 

「ほら、マキマちゃん。あーんして」

「ふぁ? ……あーん」

 

レゼが差し出した箸を、マキマが少し照れくさそうにくわえる。

我が家にやってきた初日はまだ少しの遠慮が見られたというのに、今のレゼの振る舞いはどうだ。

なんとふてぶてしいことか。

 

性質(たち)が悪いのは、レゼの見た目がクソ可愛い美少女であること。

そして何より、マキマ自身もレゼと一緒に過ごす時間を心から楽しそうにしていることだった。

これでは引きはがすこともできない。

 

(レゼが来る前はずっと俺と一緒だったのにな)

 

デンジは朝食を早々に食べ終えており、リビングのソファからその様子をぼんやりと眺める。

内心で小さな不満をこぼし、しかしすぐに我に返った。

 

(馬鹿が……何考えてんだ俺は)

 

マキマはチェンソーの心臓を持つ少女。

そして自分はチェンソーマンのファンであり、今はマキマの保護者。

マキマを女性として見ないと誓ったならば、独占欲じみた感情を抱くなど言語道断。

むしろ同性の親友が増えたことを喜ぶべきだ。

 

悶々としているデンジをよそに、マキマとレゼは百合の花を咲かせ、パワーは白飯を掻き込む。

なんだかんだで平和な朝だった。

 

 

一本の電話が入るまでは。

 

 

「あー、俺が出る」

 

ソファから腰を上げ、受話器を取る。

耳に当てた瞬間、スピーカーの向こうから聞こえてきたのは荒井の切迫した声だった。

 

『デンジさん、緊急事態です!』

「荒井? 少し落ち着けよ」

『京都のデビルハンターたちが襲撃を受けました! 3人のうち2人は死亡、黒瀬さんは比較的軽傷でしたが入院中。犯人は逃げたそうです!』

 

京都のデビルハンター──スバルと黒瀬、天童のことだ。

マキマの護衛を頼もうと東京に呼んでいたのだが、移動中に狙われる可能性を失念していた。

 

「………分かった。今すぐ向かう。場所は?」

 

入院場所を聞き出してすぐ、デンジは受話器を叩きつけるように置いた。

ただごとではない空気を感じ取ったのか、食卓のマキマたちが一斉にこちらを振り返る。

 

「ちょっと出てくる」

 

それだけ言い残し、デンジは血相を変えて玄関を飛び出した。

 

(マキマを狙う前にこっちの戦力削りに来やがったのか? ……クソッ!)

 

車を呼ぶ時間すら惜しかった。

デンジは人目も憚らずに3階から飛び降り、能力を惜しみなく解放した。

デンジの指先から“鎖”が打ち出され、ビルの屋上の柵にガチリと強固に絡みついた。

振り子移動の最中、さらに空中でもう片方の手から次の鎖を射出し、隣のビルの外壁へと引っ掛ける。

ビルからビルへ、地獄のヒーロー(チェンソーマン)式の高速移動。

凄まじい風圧が頬を叩き、景色が目まぐるしく切り替わる。

 

そうして驚異的な速度で件の病院に辿り着き、デンジは清潔な廊下を早足で歩く。

黒瀬の部屋の前に立つ荒井とコベニを一瞥し、深呼吸した。

 

(スバル……天童……)

 

落ち着け、まずは刺客の情報を手に入れることだ───自分を律し、病室のドアを静かに開けた。

 

頭に包帯を巻いた黒瀬が仰向けになっている。

顔色は多少悪いが、命に別状はなさそうだ。

 

「見舞い来たぜ」

「デンジさん………」

 

デンジを見る黒瀬の眼差しは沈痛だった。

布団の上で拳を握りしめ、怒りと哀しみが混ざった声で呻いた。

 

「天童とスバルさんは……」

「ああ、死んだんだってな。それは聞いた。……今回は無理して参加しなくても───」

「俺にも参加させてください。お願いです、(かたき)を討ちたいんです……!」

 

復讐に燃える黒瀬とは対照的に、デンジの視線はなぜか冷え切っていた。

 

「ふーん………で、オマエは誰だよ

 

デンジが右手を伸ばし、黒瀬が動き出すより早く、その首を鷲掴みにした。

 

「あ゙ッ゛───!?」

 

爪を立てて絞め上げる。

黒瀬がベッドの上で激しく跳ね回り、窒息から逃れようと必死にもがくが、より強く絞められるだけで意味はなかった。

 

「まあ見当はついてるけどな。“三兄弟”だろ?」

 

“三兄弟”──アメリカで殺し屋まがいの何でも屋をしているデビルハンター。

3人は皮の悪魔と契約しており、触れた死体の身なりを奪ってなり変わることができる。

 

「暴れんな」

 

首を掴む腕にビシリと血管が浮かぶ。

黒瀬の皮を被った何者かがぶくぶくと泡を吹き、身体が痙攣する。

 

「仲間のガワなら油断するだろってか? 残念だったな、俺ぁ特別に鼻が利くんだよ」

 

抵抗が弱まり、ピクリとも動かなくなった瞬間。

何の前触れもなく男の()()()()()()

 

「……………」

 

名も知らぬ男の頭に“鎖”を打ち込み記憶を読む。

 

「……嫌なモン見せやがって」

 

デンジの表情が歪む。

男は三兄弟の長男として、外道なりに弟たちを大事にしていたらしい。

銃の悪魔によって家族を亡くし、頼れる人間がいない状況で、生きるために手を汚す選択をした。

銃の悪魔さえ現れなければ、違う未来もあったのだろう。

 

そして恨むべき銃の悪魔も既に倒され、各国が分割して()()している。

かつて人間によって生み出され、自我なく強大な力を振るい、今は人間に利用されている。

……兵器としてはある意味正しい在り方だが、真実を知った時は怒るより先にやるせない気持ちになったものだ。

 

聞き耳を立てていた荒井とコベニにその場を任せ、デンジは外に出た。

弟2人の場所は記憶を読んで把握済み。

今は民間人の皮を被り、病院の駐車場に車を停めて待機している。

 

(あの車だな)

 

一台の車へ迷いなく歩み寄る。

ロックを引きちぎろうとしたが、その前にドアノブが折れてしまった。

 

「なっ、なんだテメェ!?」

 

プラン変更───今度は窓ガラスをブチ割り、助手席の男を引きずり出して地面に叩きつけた。

そしてマウントパンチ。

男の頭部は一撃でミンチにされた。

 

「うわああああ!?」

 

今度は指先から鎖を射出し、逃げる男の胴へ巻き付けて拘束。

そのまま鎖をグンと引き寄せ、貫手で腹を突き破って心臓を潰した。

 

これまで各国で暗躍してきた“不死身の三兄弟”の最期は、実にあっけないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「へいひゃはははは………───」

 

場所は変わって、デビルハンター東京本部庁舎。

赤、白、黄、緑……色とりどりの派手な衣装を着た笛吹きの男が屋上で軽妙に踊り、それを横目にデンジと岸辺が話している。

 

「中国からクァンシが来るってよ。どうする?」

「直接やり合うのはゴメンだな。全人類が集まって素手で殴り合う競技があったなら、一位がクァンシだ」

「でもホントは会いたいんじゃねえの?」

「……お前にだけは言われたくないな」

「……ま、警戒しても仕方ねえか。敵になるとも限らねえ。もっとヤベーのは──」

「ドイツのサンタクロース。それとウェポンズだな」

「来ると思うか?」

「サンタクロースは寿命で死んだという噂も聞くが……天に召されてるのを祈るか」

 

2人の眼下では群衆が整然と行進している。

老若男女の区別も、混乱やざわめきも無く。

笛の音に導かれるように、これから繰り広げられる激闘の邪魔にならない場所へと移動していた。

 

 

 


 

 

京都の三人組

デンジと結構仲良しだった。

特にスバルとは長い付き合いだった。

 

誘拐の悪魔

公安に飼われてるオリジナル悪魔。

おそらく今回きりの出演。

根源的恐怖の悪魔ほどではないが、古くから存在する悪魔なのでかなり強い。

物理的な力はそこそこ止まりで、能力が凶悪なタイプ。

モチーフはグリム童話。

 

 

 

*1
三人称視点 デンジside

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