もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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31話 乱戦

 大国同士は対立する。

 二次大戦が消えたこの世界でも同じことであり、ウェポンズ(西側)とクァンシ(東側)は呉越同舟の間柄だ。

 積極的な連携は望めないし、互いに望まない。

 先ほどクァンシが軽く暴れたのもつ(・)い(・)で(・)だ。

 

 クァンシが戦場から引き離され、公安の戦力も増強されたことで、ウェポンズはまた劣勢に追い込まれていた。

 対人戦のスペシャリストである日下部と玉置。

 DV彼氏に似た軽薄さを纏い、しかも民間所属でありながら、岸辺と同等の格闘戦力を持つ吉田。

 かつてデンジと戦い、今は忠実な部下に作り変えられたサムライソードと沢渡アカネ。

 クァンシの魔人たちが加わったものの、これらの戦力が迎撃し、相殺してしまった。

 

「ほら、もう少し気張りな」

 

  ヴ ヴ ン

 

 サムライソードが剣の男を引きつけ、その間に沢渡がマキマのスターターを引いて蘇生する。

 

「………すいません、今の状況は?」

「あの女(クァンシ)はデンジさんと先生(岸辺)が外へ引きつけた。4人の魔人は私たちが対処する」

「つまり、私は引き続きあの武器人間と戦っていればいいんですね?」

「そういうこと」

 

 赤黒いチェンソーヘッドに変貌したマキマは不敵に言い放った。

 

「じゃあ私はラクでいいですね、馬鹿みたいにチェンソー回してればいいだけですから!」

 

 無様に殺された苛立ちと自虐。

 そして剣の男に対する侮りや挑発が込められた一言だった。

 

「ナメやがって……ッ!」

 

 お前が相手ならそ(・)れ(・)だ(・)け(・)で(・)勝てると言われたようなモノだ。

 剣の男は怒りのままにサムライソードを振り切り、マキマへ突撃する。

 強烈な痛みと怒りによって脳のリミッターが一時的に解除され、平時と比べて爆発的な身体能力を発揮していた。

 ……だが、それでもクァンシと比べれば遥かに遅い。

 あの理不尽の権化たる彼女に殺された後に見てしまうと、悲しいほどにスローで、動きも単純すぎた。

 

「がッあァ!!?」

 

 剣をチェンソーで受け止め、がら空きの股間に蹴りを一発。

 剣の男はふらつきながらも体勢を立て直すが、地力も疲労度もマキマが優越している。

 精々残り数手で決着がつくだろうと、双方が確信していた……その時。

 

 突然ゴオッ!と灼熱が吹き上がり、マキマの背を焼いた。

 痛みに悶えながら振り向けば、全身傷だらけの火炎放射器の男が迫っていた。

 荒井もマスクを外して必死に追いかけるがまだ距離がある。

 

 「逃げろ!!」

 

 荒井が叫ぶが、マキマの取った行動は逃走の真逆。

 今さら距離を取っても逃げ切れないと判断し、炎へ突っ込んで左腕をぶった斬った。

 2つある噴射口のうち1つを潰し、炎の威力を半減させる。

 

 しかし男もただでは終わらない。

 口元を裂くように開き、露出したパイプ状の口唇をマキマの首元へ突き刺した。

 

「ぁ、ぐ……っ!」

 

 焼かれる痛みに、刺傷の痛みと血を抜かれる不快感も加わった。

 チェンソーを振るうも先ほどまでのキレはなく、後ろに跳んで避けられた。

 せっかく斬った左腕も再生済みだ。

 

 とはいえ、マキマも不死身の武器人間。

 エンジンを吹かして怪我を治し、荒井との連携で2対2に持ち込めば十分に勝てる。

 さあ、今度こそ襲撃者どもに引導を渡してやろうと、胸のスターターに指を掛けたのだが。

 

「───彼女に、触れるな」

 

 鬼気迫る勢いでレゼが文字通り飛んで来た。

 爆発で生んだ速度をフル活用した渾身のハイキックが、火炎放射器の男にクリーンヒット。

 鋭角にかっ飛び2階へ突っ込んだ男と、再び飛翔して追いかけるレゼ。

 先ほどまでレゼと戦っていた槍の男はどうしたのかと思えば、マネキンの仕返しと言わんばかりに、無残にも四肢を吹き飛ばされた状態で転がっていた。

 これではトリガーを引き抜いて復活することもできない。

 

 少し遅れて剣の男もマキマに斬りかかっていたが、タイマンなら結果は目に見えている。

 そこに荒井も来てしまえば、もはや逃走すら不可能だった。

 

 

 

 

 

 火炎放射器の男は瓦礫の中でゆっくりと身を起こした。

 いい加減限界だった。

 荒井との戦いで深手を負い、それでも「チェンソーの心臓の奪取」という目的を果たすため、やっとの思いで奇襲を成功させたというのに。

 

(あーダメだ、血が足りねえ)

 

 ボムガールはすぐそば。

 再生しようにも血を失いすぎた。

 

「損な役回りだよなあ………」

 

 ならばせめて相討ちに持ち込み、少しでも戦力を削ってやる。

 頭部の燃料タンクへ右の噴射口を向け──発射。

 

 自爆。

 薄っぺらな諦念と執念を込めた最期の一撃。

 熱と光に包まれ、男の意識が途切れる間際、ピィンという澄んだ金属音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 焼け焦げた死体が2つ転がっている。

 それらは容姿の判別もできないほどの損傷具合だったが、片方が再生を始めた。

 まるで時間を巻き戻しているかのように、みるみるうちに身体組織が復元されていく。

 そうして復活したレゼはおもむろに立ち上がり、死体を見下ろしながら言った。

 

「追い込まれてどうしようもなくなったら、当然そう(自爆)するよね。でもキミは下手くそ」

 

 敗北を悟った相手は時としてこの男のような行動を取ると、レゼは経験で知っている。

 マキマからも、岸辺という圧倒的な格上を相手に自爆を利用し、攻撃を掠らせた事があると聞いていた。

 それだけ有効な戦術なのだ。

 

 だから当然、警戒していた。

 攻撃と同時に首のピンを抜くことは予め決めていたし、それが妨害される可能性まで考慮して、ピンに指を掛けながら殴りかかっていた。

 しかしこの男は何も考えず、ただ自爆しただ(・)け(・)。

 

「……あーあ」

 

 ふと自分の体に目を向けると、纏っていた衣服の全てが燃え尽きて灰になっていた。

 肉体は治せても流石に服は無理だ。

 マキマに捕まった時もそうだったが、非常時とはいえ、部屋の外でMAPPAになるのは流石に恥ずかしい。

 今のレゼはソ連の兵士ではなく、日本のデビルハンターとして働く“永遠の18歳”なのだ。

 

「まあ、いっか」

 

 吹き抜けから1階を見下ろせば、他のメンバーも戦いを終えていた。

 ウェポンズは全員殺害し、魔人たちはクァンシと交渉するために生かして捕縛している。

 全員で袋叩きにすれば恐らく勝てるだろうが、何やらデンジや岸辺とは浅からぬ縁があるようだったし、戦略的にも心情的にも戦わずに済むならその方がいい。

 そこまで考えて、とりあえずクァンシのもとへ向かうなら固まって動いたほうがいいだろうと、階下へ飛び降りた。

 

「………え?」

 

 着地したレゼの素足は草を踏みしめていた。

 

 

 


 

マキマ「断言します、睾丸とは内臓なのです。仮に皮膚1枚に包まれた心臓が股間にぶら下がっていたなら、戦闘時どれほどの弱みとなることか」

レゼ「外出もできないね……」

 

 

 

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