もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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32話 闇の悪魔

戦場となったデパートから遠く離れた郊外の団地、その古びた階段に1人の女が腰掛けている。

艶やかな黒髪を豊かな胸元に流し、妖しげな微笑を浮かべる異国的な美女───サンタクロース。

非モテを殺すと名高い縦セーターを纏うその姿は、街中を歩けば男の目を引いてやまないだろうが……あいにくと、この場に在るのは自我無き人形の群れだけだった。

 

人形の調達は骨の折れる作業だった。

誘拐の悪魔が掌握している人間───ぼんやりとした生気のない目つきが目印だ───を人形にすると足がつく危険性が極めて高い。

故にわざわざ他地域から人形をかき集める必要があり、かなりの手間が掛かった。

しかしウェポンズのおかげで日本到着から現在までの損耗はゼロ。

手間を差し引いても大きなプラスだ。

 

「彼らは十分に役立ってくれました」

 

脆弱なこの肉体に残された寿命はもって半年。

リスクを背負ってまで日本に来たのは、闇の悪魔のお零れにあずかり不老長寿を叶えるためだ。

対価として指定されたチェンソーマンを地獄に落とすために、「成功すれば人権を与える」と精巧な人形を介してウェポンズを唆し、捨て駒として公安と戦わせた。

 

「ですが、もう用済みです」

 

人形にして操れるのは人間だけ。

闇の力を取り込めれば変わるかもしれないが、少なくとも現状では武器人間は人形にできない。

サンタクロースにとっては、身中の虫に変じる危うさを秘めた存在で……ずっと目障りだったのだ。

だからチェンソーマンや公安だけでなく、最初からウェポンズ諸共地獄へ送り込んで始末するつもりだった。

 

前もって精巧な人形にしていたトーリカと老人は、既にデパートへ送り込んでいる。

老人はドイツの子供3人を代償に地獄の悪魔を召喚し、トーリカは闇の悪魔への使者となる。

もし地獄でトーリカが殺されたとしても、契約を履行したことと、肉片を要求するという意思は示せるから問題ない。

この計画は見事に成功した。

 

不意に虚空から一本の腕が現れた。

サンタクロースに向かって伸ばされたそれは、2本の指でを摘んでいる。

 

「これが闇の悪魔の肉片……」

 

サンタクロースは恍惚とした表情で漆黒を舌に乗せ、一息に飲み込んだ。

 

「ふ……ふふふ………」

 

周囲にあった数十の人形がサンタクロースに取り込まれ、見る間に1つの異形へと変貌した。

 

「素晴らしいです。全てを理解していきます」

 

建物の影に立つだけで、自らを蝕んでいた病が瞬時に消え失せた。

 

「ああ………」

 

勝てる。もう何も怖くない。闇の一端を身に宿した今、この地上で敵はいない。

サンタクロースの悍ましい肉体を、身震いするほどの全能感が満たした。

 

 

 

 

 

  *1

 

ほんの一瞬、ふっと視界が暗くなった。

気づけば私たちはデパートではない場所にいた。

足元には草や花が生え、なぜかバスタブが転がり、空を無数のドアが覆い尽くしている奇妙な空間。

呑気で穏やかなムードだけど、雨が降っているわけでもないのに空気が粘っこくて重い。

何より、魔人たちの怯え方が異常だった。

パワーちゃんは苦しげに膝をつき、クァンシの魔人たちも激しく動揺している。

 

「あ、あっ、ああっ、あっ」

「どうして!? どうしてここに…?」

 

私たちが武器を突きつけて脅していた時も強気な態度は崩していなかったのに、見る影もない。

特に黒髪ポニーテールの魔人はこの場所を知っているらしい。

彼女の目には何が“視えて”いる?

 

「パワーちゃん、ここが何処なのか分かる?」

「殺される……皆殺される……ここは地獄じゃ……もうダメじゃ……おしまいじゃあ……」

 

ここ最近はマシになってきていたけど、負けん気が強くて理不尽な王様みたいなパワーちゃんがここまで怯えるのは見たことがない。

 

「暴力の悪魔からも警告があった。……『()()()()()()奴等に敵意を向けるな。その場から動かず救援を待て』とのことだ」

「暴力さんがあんな事言うなんて……私たち、生きて帰れるんですか……?」

 

暴力の悪魔と五感を共有している荒井さんとコベニさんも、不安そうに顔を見合わせた。

 

「奴等って?」

「“根源的恐怖の名を持つ悪魔”だ。“暴力”と同等かそれ以上の力を持つ悪魔が、ずっと先から俺たちを見ている……らしい」

 

自信なさげに、半信半疑といった様子で伝言する荒井さん。

とにかくヤバいことは分かるが、姿も出口も見えない状態ではどうにもならない。

飛行できるレゼが空に浮かぶドアを片っ端から開ければ現世に帰れるかもしれないけど、扉の先でクソ強い悪魔に出くわす危険を考えると下手に動きたくない。

大人しく救けを待つしか────

 

「あ! ああ〜! 終わっちゃった! 終わった!」

 

突然、ポニテールの魔人が叫んだ。

恐怖に耐えきれなかったのか、泣きながら笑っていた。

彼女はもう正気を失っている。

その視線は空のある一点、無数のドアの1つへ釘付けになっている。

 

「あ……来る……闇の悪魔………」

 

呆けたように、か細い声で悪魔の名を呼んだ。

 

 

 

ドアが開き、泥のような黒が地面に落ちて。

闇が全てを包み込んだ。

 

胴が分かれた宇宙飛行士たちの亡骸。

それらは一直線に並んで合掌し、何かに祈りを捧げていた。

奥にぼんやりと見える、白い何か。

おそらくあれが───闇の悪魔。

 

  ゲコ

 

腕に衝撃を感じた瞬間、この場にいた全員の両腕がボトリと落ちた。

不思議と痛みはない。

いつの間に闇の悪魔が背後に立っていた。

 

(速い……なんてもんじゃない)

 

クァンシに首を斬られた時も“何かがデパートへ突っ込んできた”ことくらいは認識できた。

でも今度はそれすらできなかった。

構えも音も無く、“斬られたという結果”だけが残っているようで気味が悪かった。

 

そして私たちに背を向ける闇の悪魔の正面に、見知らぬ1人の男が立っていた。

その男も両腕が無く、闇の悪魔の味方ではないのかなと思えば、跪いてこう言った。

 

「私は人形の悪魔です。契約の通り、チェンソーの心臓を持ってきました。私にどうか……地上を統べる力をください」

 

発言の内容に口を挟む暇もなく、闇の悪魔は男の首にそっと触れて、そのまま“取った”。

最初からくっついていなかったんじゃないかと錯覚するほどに抵抗が無かった。

 

(これは………)

 

これは、ダメだ。

チェンソーを振り回してどうこうなるレベルの相手じゃない。

敵意を抱いたら殺されるのは本当だ。

だから感情の矛先を別の方向に向けた。

敵意ではなく、一番信頼できる味方への祈りで心を満たした。

 

(助けて、デンジさん!)

 

果たして、その祈りは届いた。

プリンシさんが仰向けになり、開いたジッパーからデンジさんと眼帯女(クァンシ)が出てきた。

死んだ目のクァンシが蹴りを叩き込もうとして、見えない斬撃でバラバラになった。

しかしその間にデンジさんは指先から鎖を出して、人形の悪魔と名乗った男の脳に接続した。

生首がパクパクと口を動かす。

 

『地獄の悪魔よ……私の全てを捧げます。なのでどうか、私達をお帰しください』

 

視界が白で埋め尽くされた。

そうして、私たちは地獄から現世へと戻された。

 

 

 

デパートの屋上からは、鮮やかなオレンジ色の夕焼けが見えた。

 

「デンジさん……ありがとうございます」

 

本当に死ぬかと思った。

全員が無傷で還れたのは間違いなく奇跡だ。

もしも助けが来なかったら……想像するだけで寒気がする。

 

「安心するのはまだ早えぜ」

 

デンジさんの視線の先、フェンスを飛び越えて1体の悪魔が現れた。

黒く長い髪に、8本の作り物の腕、人形の頭が重なってできたトーテムポールみたいな足。

いや、ここ屋上なんだけど……まさかここまでジャンプしてきた?

 

さらに階段から人形が殺到して、悪魔と挟み撃ちにされてしまった。

打ち合わせで「人間が触れたら人形になる」と説明された、あの人形がうじゃうじゃいる。

 

「はじめまして、デンジ」

「お前が本物のサンタクロースか……ツラは悪かねーけど、他で全部台無しだな」

 

見た目は確かに気持ち悪いけれど。

 

「ふふふ……貴方にも闇の力の素晴らしさを教えてあげましょう」

「興味ねえよ」

 

……この戦いは、結構長引きそうだ。

 

 

 


 

Q.トーリカの罪悪感イベントはどうした?

A.師匠が画面外で別のイベントを用意して実行しました。

マキマを殺させて人形化とか、闇の肉片を入手してない状態じゃ無理です。

 

Q.サンタが求めたのは「デンジを殺せる力」じゃないの?

A.原作マキマさんとは違って残機が無いので、頑張れば自力で殺せたんじゃないかなって。

 

Q.闇の悪魔、コイツ結局何がしたかったんだ?

A.私が知りたい。

寂しかったから遊び相手が欲しかったんじゃないすかね(適当)

 

闇「いらっしゃい、チェンソーマン!」

(宇宙飛行士ズラー)(歓迎の意)

マキマ「なんだァ? てめェ……」

(警戒)(漏れ出る“殺る気”)

闇「ヒエエエエ……」ゲコ

 

 

 

*1
マキマside

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