もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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34話 勧誘

サメの魔人であるビームは、デパートから少し離れた場所でずっと待ちぼうけを食っていた。

下手に暴れさせると連携を乱したり、手駒として使える敵を食い殺しかねないため、デンジに予備戦力として待機してろと命じられていたのだ。

意味もなく地中を泳いだり、とにかく暇を持て余していた。

 

そんなタイミングで人形が大量出現したものだから、ビームは嬉々として暴れまわった。

ただ、サンタが取り込んだ闇の力は人形にも作用しており、半端な損傷では問題なく稼働し続けてしまう。

首を食い千切る程度ではダメで、行動不能にするには全身を粉々に噛み砕く必要があった。

一体一体は大した脅威ではない。

しかし数が多すぎた。

 

「ギャウウ…ウアアア!?」

 

流石のビームも押されに押され、濁流のように迫る人形に飲まれかけたその時───

 

「コン」

 

巨大な狐の頭が地面から飛び出した。

何十体もの人形をまとめて喰らい、口に収まりきらなかったぶんも高々と打ち上げ、落下ダメージにて粉砕した。

 

「ギリギリセーフってとこか…大丈夫かい、魔人くん」

「ギャウウウウ!!!!」

 

闖入者に向けてビームが歯をむき出しにして威嚇する。

極度に興奮しているが、言語化するとしたら───余計なことをするな、オレは潜りながら戦えば自分一人で勝てたんだ!といったところか。

 

「だいぶ気が立ってますね。副隊長、不用意に近づかないほうがいいですよ」

「ま、自由に暴れたほうが力を発揮してくれそうだな。そんじゃあ俺たちもいっちょ働くか」

 

副隊長のさばけた号令を合図に、東京公安退魔2課の面々が躍動する。

多くの人外職員で構成された特異課に比べれば派手さは控えめだが、訓練と実戦を積み重ねた堅実な立ち回りで順調に人形の数を減らしていく。

その後は岸辺や、マキマを護衛していたが避難してきた職員たちとも合流し、数時間もの消耗戦を耐え抜いた。

そして───

 

「ハロウィン! ハロウィン!」

「な、なんだ? 人形が襲ってこない?」

「でも何だよハロウィンって」

 

日が暮れてしばらく、突然人形の挙動がおかしくなった。

 

「宇宙の魔人…クァンシが連れてる魔人の能力だな。どうやらサンタクロース本体を倒し切ったらしい。ここからは掃討戦だ、引き続き人形に触れないよう注意しながら始末するぞ」

 

岸辺の言葉に、疲労していた退魔2課が奮い立つ。

 

「朗報ですね。とっとと片付けましょう」

「何をそんなに急いで…そういや付き合って1か月でしたっけ? いいなあ、俺もあんな美人な彼女欲しいっすよ」

「すまねえな野茂。もうお前とは合コンに行ってやれん」

「はあ~…一応聞きますけど、岸辺さんは」

「行かない」

「ですよね」

 

疲れを滲ませながらも彼らは気安い調子で、かつ油断なく人形を駆逐していく。

残党狩りが終わるのはもはや時間の問題だ。

 

 

 

 

 

デンジたちの視線がクァンシらに注がれる。

当のクァンシはさして気にした様子もなく、静かにデンジを見返した。

 

「邪魔者は消えた。久しぶりに少し話そうか」

「昔話でもすんのか? 今は敵同士だろ」

「……何が言いたい」

 

マスターとは最期まで相容れなかった。

今度こそは喪いたくない───デンジはクァンシをまっすぐに見据えて言った。

 

「また公安に来てくれ」

「分かった」

「俺にできる範囲なら何でも……ああ?」

 

あまりにもあっさりとした返答に、デンジは間の抜けた声を漏らした。

難題を吹っ掛けられる程度ならまだマシで、気が変わってこちらに突撃してくる可能性すら覚悟していたのだが。

 

「単純な話だ、ここ最近は世界中がきな臭い。より戦力のある国に移り住んだ方が楽だ。対価を支払えば“使われてやる”」

「……要求は?」

 

果たしてどんな要求をされるのか、デンジは身構えながら問う。

 

「私の女たちに人権と義務教育を。……それだけで良いのか、って顔だな。魔人と人間を同列に扱う国は希少なんだ」

 

想像の数百倍は慎ましやかな内容だった。

理性ある魔人と人間の共存……確かに様々な苦労はあるものの、国がサポートすれば達成できるはずだ。

実際、デンジはパワー(血の魔人)と同居している。

 

中国にとってもクァンシは最重要クラスの戦力だろうに。

どんな扱いをされていたのかと呆れる一方で、自分の覚悟が空振りに終わった虚しさも込み上げた。

(こっちにとっちゃ最高だけどよォ……ええ……?)という戸惑いが表情にも表れている。

 

「最初から公安に入るつもりなら、どうして俺らと戦ったんだよ……」

「腑抜けているようなら中国に潜伏した方がマシだと思っていた。だがまあ、及第点だな」

 

クァンシの口元がほんの僅かに緩んだ。

 

(あれ、さっき笑ったか……?)

 

デンジがそう思った次の瞬間には、もういつもの無表情に───いや、試すような鋭い眼差しをデンジに向けている。

 

「最後に聞く。私と魔人4人を引き入れる為だけに、世界を敵に回す覚悟はあるか?」

 

アメリカ、欧州、ソ連の刺客は全て殺すか戦力として吸収した。

そしてクァンシらを取り込めば中国との敵対も避けられず、全世界に中指を突き立てる(ファックサイン)のと同じだ。

が、今さら問題にはならない。

マキマを受け入れた時から腹を括っている。

 

「当然だろ。むしろお釣りが来るぜ」

「そうか、なら日本で暮らすための家も用意してくれ。できるだけ広いところがいい」

 

即座に飛んだ追加の要求を、デンジは少し困ったように笑いながら受け入れた。

そして事情を知らないマキマとレゼは、終始ぽかんと口を開けていた。

 

 

 

 

 

刺客との戦いを終えた翌日、公安本部内の防音処理が為された一室にて、クァンシと岸辺が2人きりで対席している。

 

「わざわざこんな場所に呼び出して、いったい何の用だ? こっちは物件探しに忙しいんだ。下らない用事なら───」

「デンジの話だ」

 

クァンシの纏う空気がわずかに緊張感を帯びた。

 

「まず、アイツが地獄のヒーローに入れ込んでることは知ってるな?」

「話だけは聞いている。一応は機密扱いらしいが、“上の方”にはずいぶん昔から知られていた」

 

───助けを叫ぶとやってくる

───叫ばれた悪魔はチェンソーで殺され、助けを求めた悪魔もバラバラに殺される

───そんなだから多くの悪魔に目をつけられて殺されるけど、何度も何度もエンジンを吹かして起き上がる

───そのめちゃくちゃな活躍にある者は怒り、ある者は逃げ惑い、ある者は崇拝する

───そして悪魔に最も恐れられる理由がもうひとつ

 

チェンソーマンが食べた悪魔は、その名前の存在がこの世から消える

 

「そんなとんでもない悪魔が、弱りきった状態で現世に現れたなら……当然、利用しようとする馬鹿も出てくる」

 

懐いた人間(マキマ)がヤクザに飼われていて、ある程度の年齢になってから露見したのは不幸中の幸いだったな、と岸辺が付け加える。

 

「なるほどな。デンジは弱体化したチェンソーマンが殺されるのを恐れていて、復調するまで面倒を見ていると?」

()()()()()()おそらくそうだったろうな。だがアイツは悪魔のくせに頭のネジがやたら固いから、マキマに対しても情を持ち始めている。飲みに誘った時も『家に帰って飯を作る』の一言で断られたくらいだ」

「それは単にお前と飲みたくなかったからじゃないのか?」

 

岸辺は何も言わず、スキットルの中身を一口飲んで息を吐いた。

 

「……そんな事はどうでもいい。大事なのはマキマの身に何かあった時、()()()()()()()()()だ」

 

クァンシは視線を上に向け、ぽつぽつと述懐した。

 

「デンジには……昔から敵が多かった。現世に生まれた瞬間から敵視されるか利用されるか。そんな環境下にいたから、味方に対する“依存度”が大きかった」

 

日本公安に送り込んでから、デンジは多くの味方に囲まれるようになった。

部下もできて慕われるようになり、“依存先”は分散したが、マキマ(チェンソーマン)という特大のイレギュラーと邂逅した今のデンジは……

 

「流石に考えすぎだとは思うが、備えを怠って平穏をブチ壊しにされては困る。元バディのよしみだ、その時は協力してやるさ」

 

これで話は終わりか、とクァンシはさっさと部屋から出ていった。

残された岸辺は椅子にもたれて、スキットルに残った酒を飲み干した。

 

 


 

デンジ

経験と常識は身につけたものの、根っこは原作のデンジと大体同じ。

むしろ公安生活で頭のネジが締まったぶん、ぶっ壊れた時の深刻さが増してる。

 

クァンシ

口には出さないが心配している。

岸辺の扱いは雑だが、「コイツは放っといても大丈夫だろ」という信頼の表れでもある。

 

副隊長

原作のレゼ篇で狐の頭を使ってたイケメン。

合コンでクソ可愛い彼女をゲットした。

 

野茂

原作のレゼ篇で狐の腕を使ってた人。

「野茂さんの良さを分かってるのは私だけだろうなあ……」と考えてる女が何人かいる。

 

 

次は過去回です。

 

 

 

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