もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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33話 人形の悪魔

  *1

 

「オラァッ!!」

 

 デンジが鎖を巻いた拳を振り下ろし、サンタの右腕4本をひしゃげさせる。

 しかしサンタは顔色1つ変えず、残った左腕4本を撚り合わせてデンジに殴りかかった。

 ガード……すると見せかけてスウェーで回避。

 

(羆よりかマシだけど、毎回受けてたら腕が持たねえ)

 

 サンタの巨腕がブォン!とデンジの耳元を掠めたが、振り抜いた隙を突いて胴を蹴り飛ばす。

 サンタは衝撃で大きく浮き上がり、柵を越えてそのままデパートの屋上から落下していった。

 

「……よし」

 

 状況はあまり良くないが、なんとか立て直す時間ができた。

 地獄で両腕を斬られた面々は、そのままでは戦力として弱すぎる。

 人形と戦う片手間で、まずは血を飲んでも身体が癒えない人間が、血を飲めば復活する人外職員に血を分け与えた。

 その後、人間たちはプリンシと共に避難を開始。

 切断された腕は後でプリンシのワープゲートに放り込み、事態が落ち着いてからくっつければ問題ない。

 ついでにウェポンズもデンジの支配下に置き、トリガーを操作して再生。

 人外職員と共に人形の処理に従事させた。

 クァンシや仲間の魔人はどこかに行ってしまったが、気にしている暇はない。

 

 そして肝心のサンタクロースには、デンジとマキマとレゼの3人があたった。

 

 地上へ飛び降りて戦闘再開。

 マキマが腕を斬り、デンジが殴り飛ばす。

 普通の人間なら……いや悪魔にとってもかなりの重傷のはずだが、建物の影に入っただけですぐに再生してしまった。

 デンジが苦々しげに「闇の肉片の力か」と呟く。

 

「その通りです。あと半年で死を迎えるハズだった体が、こんなにも再生するのですね」

「ふ〜ん、暗い場所で回復するんだ。じゃあこれはどうかなッ!?」

 

 レゼがパチンと指を鳴らす。

 切り離した指先を射出して爆発させる、レゼがよく使う能力の応用パターンだ。

 しかしサンタの背後から現れた人形たちが盾となり、本体にダメージは通らなかった。

 

「まずはアナタの番です」

 

 爆発───熱と音、そして光を伴った破壊作用。

 先ほどは無傷で凌いだものの、サンタはレゼが一番厄介であると判断したらしく、レゼのもとに人形が襲いかかった。

 

「コン」

 

 デンジが引っ掻くような手の形を作る。

 それに呼応して狐の右腕が現れ、人形たちをまとめて薙ぎ払った。

 人形から逃れたレゼは再びサンタへ接近して指爆弾を撃ち出すも、屈んで避けられてしまった。

 

「……む〜、避けるかあ」

 

 1度見せた技は学習される。

 次も当てるなら不意を突くか、動きを制限しなければ当たらないだろう。

 サンタの回避先に飛び込んだマキマがチェンソーを振るい、腰を一文字に断つ。

 しかしサンタの体は影にあったため、真っ二つにした身体もすぐに繋がった。

 

 見かけ上は3人が圧倒しているものの、サンタは影にさえ入ればいくらでも継戦できる。

 人形の妨害もあってなかなかトドメを刺せず、戦況はやや膠着気味だった。

 そんな中、先に手を打ったのはサンタだった。

 

「アナタたちはこの人形を殺せますか?」

 

 サンタは人形達の見た目を本物の人間に近づけた上で、人間のように振る舞わせた。

 

「え?」

「なんだなんだ!?」

「体っなんか勝手に動くぞ!?」

「うわああああ!!」

 

 怯え、戸惑い、悲鳴をあげながら人形の群れが突撃してくる。

 鋭い刃に変形した腕を、手近にいたマキマに突き刺そうとするが───

 マキマは躊躇いなく袈裟懸けに斬った。

 

「ひぃっ、人殺し!」

「あっああっ、悪魔だ!!」

 

 人形たちがマキマを恐れ、責め立てる。

 しかしマキマは萎縮するどころか、サンタに向かって挑発した。

 

「人のマ(・)ネ(・)をさせたって無駄です。闇の力を持ってる割にやり方がみみっちいんですよ」

 

 地獄で見た闇の悪魔はこんな狡(こす)い手段を使わずとも、存在そのものが絶望だった。

 あれと比べればまだどうにかなる。

 もしサンタが人形化を部分的に解除して精神を人間に戻していた場合、本当に殺人者になっているのかもしれないが……

 まあいいか、正当防衛が通じるはずだ、とマキマはそれ以上考えるのを止めた。

 修羅場を乗り越えたマキマはまた一段と図太くなっていた。

 

(大体、こっちはとっくの昔に親殺してるんですよ。今さら人形殺すくらい平気です)

 

 彼女の父親は飲んだくれで借金こさえて暴力を振るうような男で、殺したことへの罪悪感は当時からほとんど無かった。

 それでも父親を殺したという事実に変わりはなく、見ず知らずの人間を模した人形を殺すことよりは重い。

 マキマにとってサンタの作戦は効果が無い、とまでは言わないが、ほとんど誤差として無視できる程度の意味しかなかった。

 

 そしてデンジとレゼも百戦錬磨の戦士だ。

 多少やり辛そうにしつつも順調に人形を撃破していた、が───

 

「マズいな……夜になっちまった」

 

 押し負けることはなかった。

 だが時間を稼がれてしまった。

 どれほどの数を集めていたのか、人形軍団は未だ尽きる気配がなく。

 サンタ本体も濃密な夜の闇に浸かり、さらなる異形へと変貌した。

 肌が黒紫になり、腕が何十本と増え、頭からは牛のような角が生えている。

 

「ふふふふふ……これが闇の力なのですね」

「だいぶキモくなってますけどね」

 

 マキマの侮辱を馬鹿にするようにサンタが薄く嗤う。

 次の瞬間ふっと姿を消し、瞬きする間にマキマの眼前へ現れ、腕を束ねてラリアットを叩き込んだ。

 マキマは腕をクロスして防御したが、先ほどまでよりもずっと疾くて重い一撃だった。

 ガソリンスタンドまで派手に吹き飛び、事務所のシャッターをブチ抜いてようやく止まった。

 

 今度はレゼが超低空を飛翔し、サンタ目掛けて爆撃を敢行するも全弾回避される。

 爆発の光で多少動きは鈍っているがそれでも止まらず、サンタはデンジとのタイマンに移行した。

 

 レゼのサポートのおかげでサンタの力は弱まっており、2人の殴り合いは成立している。

 殴られたデンジが口の端を切って血を流し、蹴られたサンタの脇腹がぐしゃりと潰れる。

 手数ならサンタが圧倒的だが、デンジの頑強な肉体はそう簡単には崩れない。

 一発あたりの威力ならデンジに軍配が上がるが、サンタの自動回復(リジェネ)を破綻させるには至らない。

 

 互いに決定打の無いまま拮抗していた戦局。

 それを動かしたのは、またしてもサンタだった。

 

 デンジの背後のビルから、薄い壁を突き破って人形の群れが押し寄せた。

 雑魚は狐の右腕で一掃し、再びサンタに向き直ったのだが……失策だった。

 背後の敵はまだ潜んでいたのだ。

 

「ッ!?」

 

 普通の人形と比べてやたら大柄な人形が後ろから強襲した。

 間一髪……振り向きざまの蹴りで破壊するも、その隙をサンタは逃さない。

 長い腕がデンジの腹を貫いた。

 

「が……っ!」

 

 デンジが血を吐き、それを見たサンタが笑みを深くした瞬間───爆炎が2人を包み込んだ。

 

(なっ、仲(・)間(・)ご(・)と(・)私を焼き殺すつもりですか!?)

 

 レゼの放ったナパームがサンタの全身にへばりつき、激しく燃え上がる。

 高温だけならまだしも、光はマズい!

 たまらず消火のために距離を取ろうとして───動けなかった。

 

(腕が抜けない……!)

 

 腹を貫いた腕が掴まれている。

 振りほどけない。

 重傷を負い、今も炎に焼かれながら、それでもデンジは離そうとしない。

 

(なんという力! しかも私の腕が貫通しているというのに……この男は死にたいのですか!?)

 

 サンタの体が少しずつ崩れていく。

 闇の力をもってしても治癒が追いつかない。

 さらに追撃を狙うレゼが迫り、恐怖に駆られたサンタは手刀でもって自らの腕を斬り落として離脱した。

 

 レゼはサンタを追わなかった。

 腹からボタボタと血を流して崩れ落ちたデンジを抱えあげて、むしろサンタから距(・)離(・)を(・)取(・)っ(・)た(・)。

 サンタは己を苛む炎にばかり意識を向けていて、その行動に疑問を持つ余裕がなかった。

 

「これが私(・)た(・)ち(・)の─────」

 

 真上から迫りくる、ガソリンにまみれて鈍く輝く重量物(普通自動車)に、サンタクロースは直前まで気づけなかった。

 

「光の力だあああああ!!!」

 

 ナパームで熱せられた空気にガソリンが触れ、轟音と共に大爆発が巻き起こる。

 強烈な熱と光がサンタクロースを呑み込み、その衝撃は攻撃したマキマすらも吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 レゼは自分の指を噛みちぎり、断面から滴る血を瀕死のデンジの口に流し込んだ。

 

「まったく、2人とも無茶しすぎでしょ」

「ゲホッ……俺ごとナパームぶち撒けたくせに……よく言うぜ……」

「あー、それはごめん」

 

 デンジの体が少しずつ修復されていく一方で、サンタの肉体は爆発の衝撃で無惨にもバラバラになっていた。

 放っておいても焼け死ぬだろうが、闇の狗と化していたサンタは首だけになってもまだ辛うじて生きている。

 少し離れた場所で、同じくレゼの血で復活したマキマと何やら話しているが、もはやサンタ自身には何もできまい。

 

(いや、コイツが死んでも人形は残るんだったか?)

 

 何処に行っても人形がついて回る生活が始まるかもしれない……デンジはゲンナリした。

 それでも山場は切り抜けたと、デンジとレゼがほっと一息ついたその時、後ろから声が掛かった。

 

「サンタクロースは倒したか」

 

 振り向くとすぐそばに弓矢の武器人間に変身したクァンシが魔人を引き連れて立っていた。

 2人は強く警戒するが、クァンシたちは気にせずサンタに歩み寄る。

 

「仕事だ、コスモ。こいつに特大のハロウィンを食らわせてやれ」

「ハロウィン!」

 

 宇宙の魔人、コスモ。

 彼女の能力は宇宙の情報全てを流し込み、思考の全てを“ハロウィン”で塗りつぶすことである。

 

「ハ〜ロ〜ハ〜ロ〜………ウィイイイイイイイイイイイ〜ン!!」

 

 某有名漫画の必殺技の要領で、コスモが“ハロウィン”を与えた。

 そして、サンタは死ぬまでハロウィンのことしか考えられなくなった。

 

「……ハロ、ウィン……ハロウィンハロウィンハロウィン………」

 

 壊れたラジカセのように“ハロウィン”を垂れ流しながら、サンタは完全に燃え尽きた。

 コスモが流し込んだ情報は、全世界に存在する人形という名のバックアップにまで波及し、現世で人形の悪魔が復活する可能性も完全に消えた。

 

「さて」

 

 クァンシが変身を解いてデンジに向き直り、淡々とした口調で言った。

 

「邪魔者は消えた。久しぶりに少し話そうか」

 

 

*1:
三人称視点

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