今回は珍しく長めです。
8話目が永遠の悪魔戦になったのは偶然です。
時間が経ち、新人さん2人の精神に限界が来てしまった。
男の人──荒井さんは現状に怯え、1人で部屋に閉じこもっている。
女の人──コベニさんは意味不明なことを喋りながらトイレの水を飲もうとしたので、姫野先輩に絞め落とされた。
……ちなみにパワーちゃんはノーベル賞を考えていた。まあ多分いつも通りでしょう。
その後もフロアを探索し続けて水と電気は制限無しに使えることが分かった。
さらに宿泊客が置いていった荷物からおにぎりやサンドイッチ、ジュースといった食料も発見。
これで全員2週間は死なずに済む。*1
「暇だ〜」
「暇ですね」
このフロアにあるめぼしい物は全て漁り尽くしたので姫野先輩の隣のベッドに寝転がる。
早川先輩はずっと悪魔を捜し回っているけど、飽きたり疲れたりしないのかな。
「ねえマキマちゃん、暇つぶしにお喋りしない? アキくんに話聞いてから、ずっと聞きたい事があるんだけど」
「はい、何でしょう」
「デンジさんのこと好きなの?」
「すっ…!?」
急だったから驚いたけど、考えてみたら別に恥ずかしがるような事じゃないか。
「……好きです」
「おぉ〜……私まで少しキュンとしたわ」
スイッチが入ったのか姫野先輩は他にも色々と質問攻めしてきた。
好きになった理由や、関係の進み具合、家でのデンジさんは何をしているのか等々。
お返しに先輩にも質問を投げると、待ってました!と言わんばかりに早川先輩の惚気をぶちまけてきて軽く引いた。
1個聞いたら10個くらい返ってくるんだもん…。
生々しいというかエッチすぎてあんまり参考にもならないし。面白いけど。
そんな感じでガールズトーク(で合ってる?)を楽しんでいると、疲れた表情の早川先輩が部屋に戻ってきた。
「姫野先輩…タバコ残ってます?」
「え〜最後の一本なのに!」
「2人で吸えばいいでしょ。あとマキマに変なこと吹き込まないでください」
「ありゃ、バレてたか」
ライターで煙草に火を付け、流れるように間接キスをキメる2人。
カップルってこんな感じかぁ…。
「フー…悪いニュースがある」
早川先輩が煙草の煙を吐き出しながら言うには、パワーちゃんが殺した悪魔がどんどん大きくなっているらしい。
急いで廊下に出ると、そこには人間の肉を寄せ集めたような気色悪い悪魔がいた。
「人間…愚かな人間達よ。私は契約を交渉する」
「契約だと?」
「そこのマキマという人間を私に食わせろ…そいつの死体でもいい、私に食わせろ…そうしたら他のデビルハンターは全員無事に外へ帰す…」
ようやく見つけた脱出への糸口。
それを聞きつけ部屋から出てきたコベニさんが、包丁を手に私へ突進してきた。
先輩2人にあっけなく鎮圧されたけど、グループ全体の雰囲気がイヤ〜な感じに変わってしまった。
「アキくん、キツネで飲み込めば終わるんじゃない?」
「コン。………やっぱりキツネは来ませんね。ここは外と断絶されてるんだ」
「キツネの体は京都にあるからね。じゃ、私のゴーストでやるか」
透明な掌が悪魔の体をグチャグチャと抉っても、悪魔は痛がるばかりですぐに再生。
それどころか肥大化した。
「げ〜…デカくなった!」
「無駄だ…私の弱点は8階にはない。私と契約する以外生きては帰れない」
「どうせ私を殺しても外には出さないくせに」と呟くと、即座に姫野先輩が否定してきた。
「それは無いよ。悪魔が使う“契約”って言葉には強い力があるの。契約を守れず破った方は死ぬ。…だから、マキマちゃんを殺せば外に出られるのは本当だよ」
荒井さんも廊下に出て、布団に包まりながら「申し訳ないが殺すべきだ」と同調する。
しかし今度は早川先輩が「マキマの死が悪魔側の利益になるから契約しない」と主張して、姫野先輩もそれに乗っかった。
パワーちゃんは私を殺す派だけど、悪魔と魔人は契約できないらしいのでノーカウント。
生かすか殺すか、2対2だ。
「でもさアキくん。実際外に出る作戦はあるの?このままじゃ全員餓死しちゃうぞ」
「……限界が来たら奴の言葉がブラフである可能性に賭けて、総攻撃を仕掛けます」
「それは流石に望み薄すぎでしょ」
「俺たちはデビルハンターです。最期まで殺すのは悪魔だけだ」
マズいな、姫野先輩も否定寄りだ。
このままだと本当に食い殺されてしまいそう。
「姫野先輩、部屋で話したいことがあります」
だったらその前に先手を打つ。
上手くいくか分からないけど、何もせずに死ぬよりはずっとマシだ。
◆◆
「マキマちゃん、アンタ最高にイカれてるよ」
◆◆
話を終え、私たちは再び廊下へ出た。
「アキくん。マキマちゃんが契約することに同意したよ」
「なっ…姫野、マキマに何を言ったんだ!?」
「別に強制されたわけじゃありません。これは私の意思です。……ただ、契約する前におにぎりを食べさせてください」
エネルギー補給のためにおにぎりを要求すると、私の最後のご飯になると思ったのだろう、荒井さんが「すまん」と謝りながら手渡してくれた。
中の具はアンチョビだった。*2
「ご馳走様でした。それでは姫野先輩、契約を」
「うん。……“マキマちゃんが死んだら私達全員を無傷で外へ帰して”」
「いいだろう、“契約”成立だ」
この悪魔はゴーストの攻撃を受けた時に痛がっていた。
ホテルに閉じこもってばかりで、深い傷を負うほどの戦いをした経験が無いのだと思う。
だったら死にたくなるまで痛め続けて自殺させれば、能力が解除されて私も脱出できるはず!
「行くよ、ポチタ」
ワイシャツの隙間からスターターを引っ張る。
ヴ ヴ ン
ゾンビを皆殺しにしたあの時と同じ痛みと振動が、私のテンションをぶち上げる。
「契約は守りますが、死ぬまでに抵抗しないとは言ってません」
「私も加勢するよ!」
後はひたすら攻撃戦だ。
チェンソーを振り回し肉の壁を斬って斬って斬りまくる。
攻撃する度にぶくぶくと肥大化して、遂にはフロア全体が垂直に傾いた。
それでも私たちは攻撃の手を緩めない。
「無駄だチェンソー共ォオオ!私のッ、永遠の悪魔の心臓はここには無いいいい!殺す事は出来ないぞおおおお!!」
「止めて欲しいなら自殺してください」
「誰がするかあああ!痛ァいぃ!アアア!」
しかし悪魔もやられっぱなしではなく、無数の口で噛みついてきた。
ゴーストの手でもカバーしきれず、脇腹をごっそり抉られたのでもう一度スターターを引く。
「完治」
再びチェンソーを振るうも、今度は悪魔から何本もの腕が伸びて私の両腕を握り潰した。
これではスターターを引けない。
「哀れチェンソー!昔よりずっと弱くなってる!」
「うるさいですね…!」
私を嗤う顔面に噛みつき血を啜る。
「ドブみたいに不味い血ですが、今は許しましょう」
「私の血を飲んでる!?気持ち悪い!」
悪魔をぶった斬って、流れた血を飲む。
無限に戦い続けるための永久機関が完成した…と言いたいけど流石に限界はある。
実際にやってみて分かったけど、血を飲んでも体力は完全に回復するわけじゃない。
だから保険として、他の人へ悪魔が手を出せないように、契約の文言を少し変更した。
“悪魔が私を食べたら”──この言い方だと、私を食べる前に他の皆にも危害が及びかねない。せっかく命を張ったのに全滅したら最悪だ。
だから“私が死んだら”他の皆を脱出させる。
今の私は心臓になったポチタに生かされている状態で、心臓をチェンソーでズタズタにすれば多分死ねるからね。
だけどポチタを殺すのは嫌だ。
それに……さっき姫野先輩から散々惚気を聞かされて、こんな状況なのにずっとムラムラしてる。
デンジさんと“そういう行為”をするまでは絶ッ対に死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
だって───
「まだ1回も!エッチしてないんですよッ!!」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!」
「これが私の急所です…私の心臓です…すいませんでした… 痛いィィィ 早く殺してください…もう痛いの無理…」
何度も何度もエンジンを吹かしてどれだけ経っただろう。
ようやく永遠の悪魔が心臓を差し出したから無言で真っ二つにすると、傾いていたフロアがゆっくりと元に戻った。
よかった…本当に倒せたんだ。
「やったね…マキマちゃん…」
目の下に酷いクマを作った姫野先輩に、私はVサインで応えた。
ホテルの外に出ると、さっきまで血のプールにいたのが嘘みたいな快晴で。
安心しきった私たちは2人仲良く気絶した。
「マジかよ姫野先輩まで…!……荒井、2人を病院に連れて行ってくれ。パワーを公安本部に送ったら俺も行く」
「あっ、あの、私は…」
「コベニも本部に来い。今回の事をデンジさんに報告するんだ」
「えっ…えぇぇぇ……」
(TIPS)
マキマはハイになると悪魔にも敬語になる。
(Q&A)
Q.カースはどうした?
A.アキと呪いの悪魔は契約していない。
代償が重すぎる割に効果がしょぼいのでデンジに封印された。
多対一の戦闘じゃ乱発できないし、不死身の武器人間が相手だと時間稼ぎにしかならない。
公安はいつだって人手不足なのに、隊員を雑に使い潰すなど言語道断!