もしもマキマがチェンソーマンだったら   作:訥々

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9話 生姜焼き定食

  *1

 

 森野ホテルから公安4課の6人が脱出してから半日、マキマは夜の病室で目を覚ました。

 

「お、起きたか」

 

 マキマが首だけを動かして横を見ると、ベッドのそばに置かれた椅子にデンジが座っている。

 

「眠らないでず〜っと戦ってたって聞いたぜ。よく頑張ったな。…リンゴ持ってきたけど食うか?」

「……食べます」

 

 デンジは病室の電気を点けて器用にリンゴの皮を剥きながら、マキマを──正確にはマキマの心臓となったチェンソーマンの存在を諸勢力が狙っていることを説明した。

 デンジの予想が永遠の悪魔への尋問によって確定した形である。

 

 なお、チェンソーマンが持つ“食べた概念を消失させる能力”についてはま(・)だ(・)言わない。

 寝起きで、しかもデンジに見惚れていたマキマは話の内容を完全には理解できなかったが、とにかくヤバい状況であることは察した。

 

「マキマをいいように使ってたヤクザもチェンソーの心臓を狙ってるから、手始めにソイツらを潰してーんだけど…協力してくれるか?」

 

 擁護できない外道でも、マキマにとっては長年の付き合いがある相手だ。

 “飼ってた”ではなく“いいように使ってた”と表現したのはデンジなりの気遣いである。

 戦力は足りているので、無理してヤクザ襲撃作戦に参加させる必要もない。

 故にデンジはそう問いかけたのだが──

 

「はい、もちろん」

 

 その気遣いは杞憂だった。

 ヤクザに対する愛着なんか全く持ち合わせていないし、デンジに頼まれたなら大抵のことは何だってやる。

 公務員とヤクザの元奴隷、頭のネジのぶっ飛び具合だけなら後者の方が上回っているのだ。

 

「そっか、ありがとな。……ほい、リンゴ剥けたぞ」

「いただきます」

 

 上体を起こして皿に乗ったリンゴをつまんだ瞬間、マキマの腹がぐぅぅ…と鳴った。

 

「腹減ったか?」

「……」

 

 顔を真っ赤にして頷くマキマと、それを見て微笑むデンジ。

 

「リンゴ食ったらもう帰るか。病院食じゃ物足りねーだろうし」

 

 気絶したのは単なる疲労と睡眠不足の結果であり、検査入院は必要ない。

 それに今のマキマは不死身の武器人間で、健康状態に気を使いすぎる必要性も薄い。

 姫野は休暇を兼ねてもう1日入院するらしいが。

 

「今日の飯はつくね鍋だ」

 

 デンジの手料理には高確率でミンチにしたデンジの肉片が混ざっており、今回のつくね鍋も例外ではない。

 高位の悪魔の血肉を取り込んで力を付ければマキマが自衛しやすくなるし、“黒い”チェンソーマンの再来も期待できるという一石二鳥のアイデアだ。

 ただし倫理的な問題に目を瞑る必要がある。

 

 ちなみにマキマはこの事実を知らされておらず、目を輝かせているのは肉をガッツリ食えるのが嬉しいからである。

 決して食人趣味ではない。

 ……いや、もし知っていてもデンジの肉なら喜んで食うかもしれない。

 

 

 

 

 

  *2

 

 デンジさんのつくね鍋を食べた翌日。

 パトロールの報告をして家に帰る直前にデンジさんから5000円札を渡された。

 「明日の襲撃の準備で帰りが遅くなるから、パワーと2人で適当に夕飯食ってくれ」とのこと。

 ………え、明日?

 近い内にカチコミするのは知らされていたけど、それが明日なのは初耳だった。

 

「計画が早めにバレて、ヤクザ側に備える時間を与えたら面倒くせーからな。逆にこっちが殴り込まれる可能性だってある」

 

 デンジさんの手料理を食べられないのは残念だけど、理由があるなら仕方ない。

 このお金で何を食べようか、帰り道を歩きながら考える。

 外で食べてもいいし、自分で作ってもいい。

 

「せっかくだし、私も料理してみようかな」

 

 今まではデンジさんに任せきりだったからいい機会だ。

 隣を歩くパワーちゃんに何を食べたいか尋ねると、元気な声で「肉!」と返ってきた。

 好きな材料を使って、好きな味付けにして、好きなだけ食べる…なんだかワクワクしてきたな。

 とはいえマトモに料理をした経験なんか無いし、どんな料理があるのかすらよく分からない。

 

 まずは家に帰ってレシピを調べるところから始めた。

 漫画に混じって本棚に置かれた数冊の料理本を手に取る。

 読みがなが振ってあるから私でも読める。

 ところどころに折り目やシミが付いていて、使い古された感じがした。

 デンジさんも昔は料理下手で、この本を見ながら料理してたのかな…なんて妄想を膨らませつつ流し読む。

 

「………生姜焼きと、味噌汁にしようかな」

 

 メニューは決まったので家に無い食材を買い出しにいざスーパーへ。

 この時にパワーちゃんを野放しにしたら絶対面倒くさいので、手を繋ぎながらの入店である。

 

「ここにある肉は全部ワシのもんじゃ」

「そんなお金ないよ」

 

「ここにある菓子は全部ワシのもんじゃ」

「だから買えないってば」

 

 パワーちゃんがカゴに入れた商品を戻しながらの買い物は思っていたより疲れる。

 留守番させて私が居ないときに問題を起こされたらもっと不味いと思ったから連れてきたけど、家ではいつもニャーコと遊んでるから無駄な心配だったかも。

 

 苦戦しつつも買い物を終え、後は作るのみ。

 まずは醤油・みりん・酒・はちみつ・生姜を合わせたタレを用意する。

 それから豚肉の赤身と脂身の境目にある筋を切ってめん棒で軽く叩き、小麦粉を薄くまぶしたら油を引いたフライパンで焼く。

 肉に火が通ったらタレを回しかけて、軽く煮詰めれば完成だ。

 

「いただきます」

 

 うん、美味しい。

 やっぱり本の言うとおりにすればまず失敗はしなさそうだ。

 だけど味噌汁は、生姜焼きと同時に作ったせいで混乱して手順を間違えた。

 案の定、味噌の匂いが少し飛んでいる。

 

 ………いや十分美味しいし、パワーちゃんもがっついて食べてる。

 それでも不満が出てくるあたり、私はもうデンジさん(の料理)でしか満足できない体になってるのかもしれない。

 

 


 

マキマ「冷蔵庫に入ってたお肉、何のお肉なんだろう?」

※レシピ本には“豚肉の”生姜焼きと書いてあったため、マキマは冷蔵庫の肉を使わずスーパーで豚肉を買いました。

 

Q.マキマが肉片を食ったらデンジ弱体化しない?

A.概念を消す能力は“黒いチェンソーマン”か“デンジーマン”に変身してる時だけ使える設定。

回転寿司でバルエムが話していた内容を考えると、通常形態だと概念は消せない。

 

 

 

*1:
三人称視点

*2:
マキマside

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