さて、今回はそんな合宿中に起きた、不思議な出来事のお話です
【合宿1日目】
黒森峰の、全国大会に対する闘志は凄まじい!
全国大会まで1か月と迫った、金曜日の夕暮れ。
今日から黒森峰の戦車道履修者は1か月後まで、寮で合宿を行うのだそうだ。
今年は、少しだけ開催が遅れる為、合宿期間が延びて皆喜んでいる。
俺は元から寮生で、特に気に留めることもなかったが、隊長さんから「今日から毎晩24:00に寮の見回りをするから、起きてチェック表を取りに来るように」と言われたもんだから、堪ったものではない。
...着替えを見られたことをまだ根に持っているのだろうか?つくづく怒らせたくない先輩である。
今日はひときわ熱の入った訓練だった!らしい...いつも通り空を飛びまくって、模擬爆弾を落として、模擬空戦を行う。
みな疲れ切っている。今晩はぐっすりだろうから、熟眠を妨げるモノを排除する事が、俺の任務というわけか。
時刻は午後11時を回る。さて、いつでも寝られる準備をしておこう。
コンコン....
ん?こんな時間に誰だろうか...
「開いてますよ。入ってください」
シーン...
「(いたずらだろうか?)」ガチャリ
そこには誰もおらず、真っ暗な廊下が奥へ奥へと、不気味に伸びていた。
思い返してみれば、俺は男子生徒であるから、このフロアには誰も住んでいない。
...恐怖するための材料は出揃ってはいるものの、それ程重要なことではないように思えた。今はただ、自分のベッドで眠りたい気持ちが勝る。
一日目の見回りは、風のせいか廊下の所々から異音がしていて、寮の古さを感じて終わった。
【2日目】
今日は生憎の雨により、会議室に集まって戦術会議を行った。勿論一番前の席を取り、一文一句頭に叩き込んでやった。
板書を雨でぬらさないように服の中にノートを入れていると、小梅さんが傘を貸してくれたので、二人で濡れないように帰ってきた。春の雨は少し肌寒いが、なぜか小梅さんは赤くなっていた。疲れがたまってるのだろうか?
さて、今夜も今夜とて見回りを行う。しかし、今日の様な土砂降りの日には、雨漏りをしていないか心配になる。この建物の古さも相まって、だ。
1~4階と順番に見回りをする。
「(皆さんもう寝静まっているな。雨の音が心地よいのだろう)」
しかし、興奮して眠れない生徒も一定数いるようで、特に4階では女子トークなるものが聞こえてくる部屋があった。
注意しようか迷ったが、やめておいた。『次も連覇しようね!』と聞こえてきて、彼女らがやる気に満ち溢れているのが感じられたからだ。俺も彼女らをサポートできるようにもっと訓練しよう!
今日も特に異常は見られず、雨音の心地よい夜だった。
【3日目】
今日は快晴で、水はけのよい校庭は、コンクリートのように固くなり、戦車が来るのを待っている。
実戦練習を行った。すこぶる調子がよく、模擬爆弾を使い5両の戦果を出したので、隊長さんから褒められてしまった。これは嬉しい!
しかし、今日の訓練では残念なことが起こってしまった。キューポラから顔を覗かせて戦況を伺っていた生徒の付近、砲塔正面などに砲弾が直撃し、何名かかすり傷を負ってしまった。
スツーカで演習場から病院まで運んであげたところ、医学的な処置が施され、安全が保障された。
病院に立ち寄ったこともあって、帰るのが遅くなってしまった。特別に22時30分から風呂を使わせてもらい、その足で見回りをした。
道中、お手洗いか何かに行く途中の生徒とすれ違い、少し話した。彼女は何故か制服を着ていたが、どこの所属かは分からない。しかし、尋常じゃない程使い込んでいる様で、かなりヨレていた。激戦と日々の鍛錬の証、ベテランなのだろう。俺もそのまま飛行服を着ていたので、話が盛り上がって楽しかった。
見回り、終わり。
【4日目】
午後から雨が降り出してしまい、楽しみにしていたロードワークがお預けになってしまった!
なので、先日使用した会議室で、安全について話し合った。何しろ、8年前のこの時期に、昨日の様な事故で2人が亡くなってしまったらしい。一人はキューポラに砲弾が直撃。その破片で右腕が、もう一人は整備中の戦車の下敷きになりを左腕を切断された。その後出血多量でこの世を去ったらしい。なんと恐ろしいことか....
当時録画された映像が流れ、間近で見ていた生徒の経験談が語られる。制服はこのころはこれが主流だったのか、と驚く。今でもたまにこれを着た生徒と会うが、絶対こっちの方が可愛い気がする。
今晩も、昨日の女子生徒と会った。今日は2人連れだった。3人で安全について話しながら見回った後、部屋に招いてトランプをして遊んだ。ああ、俺の何と弱い事か!全部負けてしまったぞ!その後は3連覇に向けて、お互いの抱負を語りあい、士気を高めた。
今日の見回りはむしろ楽しかった。
【5日目】
訓練帰りに、隊長さんと旧校舎廊下で偶然にも会った。
古い資料を取りに来ていたようで、相変わらず向上心の尽きない立派な人だ、と感心した。
「実は次の大会、俺は大洗で出ようと思っています。隊長」
ま「ふふっ、そういうだろうと思っていた。だったら、Ju87B-2と新しく配備されたJu87D-5を持っていくといい」
「え?!2機もいいんですか?!」
ま「ああ。ユキオに使われた方がきっと嬉しいだろうからな。敵ながら期待しているぞ?」
「ありがとうございます!!隊長さんも、3連覇に向けて頑張ってくださいね!」
ま「...3連覇?我々は一昨年の9連覇で記録は止まったはずなのだが...」
3連覇を達成したのはちょうど8年前だそうで、あの痛ましい事故が起こった年だった。
俺は隊長さんに、見回りで会った生徒達の事を必死に説明した。直感的に、上級生である事は間違いないと思ったからである。
ま「っ......そうか、もう見回りには行かなくていい」
その後、エリカさんと小梅さんが入学した年に、制服は統一されたことを知った。
見回り表もよく見れば、4階に住んでいる生徒どころか、今は使われてすらすらなかった。
すべてが繋がり、誰もいない4階を見上げる。
そんな生徒もいるもの、という認識でやってきたが、今ようやく理解した
「なに、今更怖がるほどでもない」
「だって.....」
―――会った時から、元々片腕なんて付いてなかったのだから
しかし、最後の最後まで黒森峰を3連覇させる為、2人は真剣であり、熱意に満ち溢れていた。
もうこの世にいないが、彼女らの崇高なる闘志は死して尚、今の黒森峰女学園に受け継がれ、それは
その夜、いつものように部屋で談笑しているところに、隊長さんが来た。最後の命令を伝えにきたのだ。
「私は諸君らに感謝の意を表し、これを以て戦車搭乗の任を解く...今までご苦労さまでした、先輩方...」
2人は素直にそれを受け止め、Jawohl!!と涙ながらに応える。今、彼女らの戦車道が終わったのだ。
そして、2人を故郷まで送り届けるのが黒森峰で下された俺の最後の任務となった。
偶然にも実家は大洗にあるらしい。
恐らく憑いたのだろう、少し肩が重くなったが、誇らしい気持ちになった。なによりも光栄な任務だからである。
俺も大洗が、みんなが恋しいのだ。さぁ帰りましょう、先輩方。
故郷...いいですよね。死して尚、黒森峰優勝へ向けて意気込んでいましたが、彼女らの時間は、事故が起こる日で何度も止まってしまっていたようです。
しかしながら、2度も死ぬ必要はありません。まほさんなりの正しい選択だったのでしょう。
さて、今回のお話はいかがでしたでしょうか?ご感想等待ってます!
それでは、次回も乞うご期待!