今回は、そんな彼の決勝戦前夜までのお話です。
それでは第40話、動きます。
その日、俺はソファーの上で小休憩していたところ、いつのまにか深い眠りについていた。本来なら朝まで熟眠するつもりだったが、今晩に限ってカーテンを閉め忘れてしまい、顔に差す月の光で起きてしまった。
重い瞼を必死にこじ開け、時計を探す。これは参った、まだ深夜の2時じゃないか。
プラウダとの試合を終えた時、俺は疲労困憊だった。雪原を長時間走り回った脚は筋肉痛になり、常に操縦桿を握りしめていた右腕の筋も、こわばって未だに震えている。どうりですぐ寝てしまうわけだ。
ガラっと窓を開け、深く深呼吸。真夜中の丑三つ時、こんな時間に俺と同じことをしているヤツはいないと考えると、この空気はとてもキレイで、澄んでいるように感じられる。
「あぁ、すっかり目が覚めたな...散歩でもしようか」
大洗女子学園に立ち寄った時、倉庫の電気の消し忘れに気づいた。
「誰だ。ただでさえお金がないんだから、電気代くらい節約しろよな...」スタスタ
壁を越え、いつもの正面通り。夜の学校というのは非常に神秘的で、どこか底知れない海の様な怖さを持ち合わせている。いつもの正面通りも、脇の茂みがガサガサと音を立てるだけで心臓が跳ね上がった。早く抜けよう...
ガラガラッ
「誰ですか、こんな夜遅くまで残ってるのは...」
ホ「ん?ああ、ユキオじゃないか。どうしたの、こんな夜中に」
「じ、自動車部の皆さん!?こんな時間まで一体何を...」
ホ「今日、じゃなくて昨日使った戦車の修理かな。今日も訓練するんでしょ?」
「ま、まぁ...」
ホ「それなら使えるようにしておくのが私たち自動車部の役目だしさ。あんたの愛機もキッチリ整備しといたし、また好きなだけ飛びなよー」カチャカチャ
これを縁の下の力持ちと言わずして何と言うべきか!自分たちの睡眠時間を削ってまでチームの為に尽くす。彼女らは戦車に乗って戦う事はできないが、整備という銃後の役に徹することで、確実に我々の勝利に貢献してくれているのだ!
「...いつもありがとうございます」
ナ「いえいえ。あ、そうそう。これからは私たち自動車部が君の機体を整備することにしたよ。多少『乱暴』に扱っても平気なくらいにしといたから、今度の試合は一緒に頑張ろうな」グッ
「はい!...え、一緒に?」
ナ「あれ、聞いてないの?ポルシェの修理が終わって、次から私たち自動車部も参加するようになったんだ」
縁の下の力持ちは、遂にその根を地上にまで伸ばしたのだった。
ガラガラっと倉庫の扉が開かれる。
シュトゥーカのコックピットに朝日が差し込み、瞼越しに強い光を感じる。よし起床!
沙「おはよー!...ってユキオくん寝ぐせボサボサじゃん!はい、寝ぐせ直し!」
「これは恥ずかしい。ありがとうございます!」
シュッシュッ
ん~!女性モノにしては珍しい、シャキッとしたキレのある香りだ。しっかりと髪になじんで、段々とボリュームがいつも通りになっていく。
梓「おはようございます!...あれ、なんかいい香りしません?」
「ははっ!おはよう梓くん、今日もいい朝だね!(キリッ」
梓「もしかして井波くん香水使った?しかも沙織さんと同じ香りが...」
「身だしなみも礼儀のうちだが、そんなことはどうでもいい!さぁ、走りに行こうか!」グイッ
梓「ち、ちょっと!///いきなり手引っ張らないでよー!も~///」タタタッ
華「ふわぁ~眠いです...あら?どうされたんですか沙織さん。すごく儚げな顔をして」
沙「ねぇ華。私の青春っていつくるんだろうね...」シミジミ
華「うーん...
梓さんと朝のメニューをこなし、時刻は午前7:00を迎えた。ランニング・ストレッチ・軽い筋トレ...いつもはぴよたんさんとするトレーニングも、別の人とやってみると案外新鮮だ。
しかし、ぴよたんさんはこれに少しだけ機嫌を損ねてしまったみたい。まるで幼い少女の様なヤキモチ焼き。
さっと着替えて倉庫の前に集合!自動車部によってポルシェティーガーのお披露目が行われ、秋山さんが目を輝かせる。しかし生徒会の反応はその正反対だ!エンジンから出火してるじゃないか!
杏「義援金でヘッツァー改造キットと、四号のシュルツェン買ったから取り付けよっか!」
「いーなー戦車ばっかり...」
河「そう肩を落とすな。航空隊の為にも、新しい機体を購入したんだ」
「え!?もしかしてフォッケウルフとかじゃ!!」
河「見ろ、最大爆装量1.5t!Ju87D-3だ!」
対艦用の1t爆弾を積めるのはとても魅力的だ!だが少しくらいは相談して欲しかった...
今日から決勝までの間は、D-3の慣熟飛行を兼ねた実戦練習をする。しかしいくら実戦とはいっても、仮想敵が明らかかそうでないかでは、その質が大きく異なる。
俺は、学校一の情報屋である
「失礼します。一年生の井波です」ガチャリ
王「これはこれは井波さん!どうされたんですか?」
「決勝戦の相手が知りたいんですけど...」
すると書類の山から一枚の紙を取り出し、何やら神妙な顔になる。
王「あ~...えーっとですねぇ.....」
「どうしたんです?」
王「黒森峰女学園ですね」
「懐かしいな...因みに試合の詳細なデータってあります?」
王「もちろん!」
「それって貰えたりってしませんかね~」チラ
王「いいですとも、はいどうぞ!あ、それじゃ代わりといっては何ですが、取材させてもらえませんか?」
「ええ、いいですよ」
王「それではまず!いつも急降下爆撃で戦車を撃破していますが、何かコツはあるのでしょうか!」
「練習です!それでは!」ガチャリ
王「あー!ちょっとぉー!!」
「黒森峰には30機以上撃墜のエースがいるのか。これは厳しい戦いになるな」
その日は、家へ航空隊のメンバーを招いて作戦を練った。負け腰になってはならない。戦車に乗った彼女たちは空に何を想い、自分たちは何を以て応えるべきなのか。今一度皆で再確認した。
そしていよいよ決勝前日となった。新しいシュトゥーカも手足のように操れるし、ももがーさんも空戦の腕に更なる磨きをかけた。
泣いても笑っても明日で最後。どの道終わるなら、笑える方がどれほど幸せなことか!
今はプライドや世間体といった、くだらない自己実現欲求などどうでもいい。
ただただ、大洗女子学園の明日を守るために全員が必死なのだ!
河「練習終了!やるべきことはすべてやった。後は各自明日の決勝に備えるように!」
一同「はいっ!!!」
「さっさと帰って熟眠するかー」スタスタ
み「ねぇねぇ井波くん!」
「はい何でしょう!」
み「これから家でご飯会やるんだけど井波くんも来ない?」
「いきますぅー↑」
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛!こんなにおいしいカツは初めてですよ~!」
秋「いつでもお嫁にいけますよ!」
沙「...重大な発表があります。実は私...」
秋「婚約したんですか?!」
「確かに沙織さんはモテモテです」
華「彼氏もいないのに?」
「ファッ!?」
沙「モテモテなのは否定しないけど違うわよ!」
なんと沙織さんは、アマチュア無線2級に合格していたのだ!ちなみに合格率は50%を切っているそこそこ難しい資格なのだそう。
沙「明日の連絡指示は任せて!どんなとこでも電波飛ばしちゃうから♪」
「心強いなぁ...!」
華「そうですよね!でも婚約はだま先になりそうです...笑」
沙「華ってばひどーい!あ、ずっと聞こうと思ってたんだけどさ、ユキオくんって好きな人とかいるの??」
「実は昔幼馴染と付き合ってたんですけど、俺が大洗に行くって言ったら別れを切り出されちゃって...もう恋人はシュトゥーカで十分です」ハハ
沙「えー何それ!遠距離恋愛って手段もあるのにね!ユキオくんは嫌じゃなかったの?」
「そりゃヤですよ!でも付き合ってたら今こんなに飛べてないなって」
み「ぽ、ポジティブ...」
秋「(私と同じ匂いがするであります)」
冷「そういや最近、やけに梓とくっついてるじゃないか。あれはどうなんだ?」モグモグ
「あー...あれは保健の先生が、俺に無理させないように見張り役を頼んでるんですよ。そう、ただの見張り役」
沙「ムムム、これは怪しいぞぉ~?」
「ま、まぁ俺の話はこれくらいにして。俺、みほさんの恋バナに興味があります!(唐突)」
み「え、えぇ...///」
話の流れを強引に捻じ曲げ、折角のカツが冷めてしまう前に口へ放り込む。うん、おいしい!
華「私もみほさんのそういう話、気になります!」
み「私は...私は、今みんなといるのがすごく楽しいから...沙織さん、華さん、麻子さん、優花里さん、井波くん、みんなの事が大好きだから」
秋「西住殿に告られました~!」
「これで明日も頑張れます!」
沙「嬉しいけど、色々と間違ってるよ、それ...」
み「え、えぇ~!///」
皆が笑顔で笑い合い、心も優しい気持ちで満たされていく。
彼女達のために、いつまででも飛び続けていたい。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
次回も乞うご期待!