嫌われることして生きていく 作:新芽
最終回が嫌いだ。長編の小説やドラマの最終回は見ないことが多い。
感情移入して楽しんでいた作品ほど見れないし、最後を知るとその作品世界も終わる気がして最初からもう一度見れなくなる。
だから結婚式も大嫌いだった。
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包帯を両手にぐるぐる巻きにした三女の姉。
そんな中々にハードな生活をしているっぽい彼女と学校が休みの日の午後、ゆるーく流れる時間を共に過ごす。
お茶をしつつも朝まで討論する生放送の録画をダイジェスト再生していたら、この世界について気になる話題が目についた。なんでも昨今、祖父母の世代や親世代の女による男への性犯罪やセクハラが酷いそうな。
口元をフガフガさせた司会者が色んな立場の者や意見をフォローをしつつ、場を回すかと思いきや持論を長々と語りだす──が、かなり聞き取りづらいので耳を大きくして集中する。
「空くん? 聞いてる? ねえ、ねえ……」
「シッ!」
お黙りと口元に指を立てて姉の声掛けを止める。
「ご、ごめんね?」
姉を黙らせ、司会者の持論を傾聴していると多少なりともわかった。
どうにも上の世代──とくに祖父母の世代となる頃はまだまだ男が中心であった社会の名残りがあって、男が女に対して性的なアプローチを踏むことが多かったそうな。重婚が法的に認められるようになった頃でもあって、男はハーレムだと喜んで──地獄を見た。
要因はひとつではないにしろハーレムを構築すると女同士の争いが絶えず、放置すると凄惨で陰惨な事態になる場合が多く、それを防ごうと男は解決に奔走させられることが多発したそうな。
加えて囲ったと思っていた女らに本当は逆に囲い込まれていて、鳥籠の中の種馬にされていたことを知り、ハーレムなんてものに幻想を抱いていたことを多くの男は悟った。心と肉体、どちらへの負担が大きく、ハーレムの運営管理を甘く見ていた世の男は地獄を見て、そしてついには家畜化していった。
家畜化した男の下に生まれた子供は自然と女はハンターであり飼育員であると、そう考えるようになり、男の性犯罪率やセクハラの数は減少し、男は主に被害を受ける側となったことで男性専用車両は当然として、昨今では男性専用のタクシーやバスが登場する契機となったそうな。
「雪姉さんは痴漢したくなっりするの?」
「え? 自分が? 痴漢を?」
どうでもいいけどこの三女の雪は一人称が『自分』だ。
姉妹でどつき合いをするものの、性格は真面目な方で将来はお堅い仕事に就きそうな印象がある。
「うん。真面目な人でもしたくなったりするもの?」
真面目な上に彼女は積極的な肉体への接触は少ない方で──所謂、本物感がある。
彼女の自室の本棚に並ぶBLものの漫画やラノベに紛れるようにある魔法少年が凌辱されちゃう系の同人作品の内容は、端的に言って危うい。
「痴漢なんてリアルでしたいなんて思わないよそもそも電車に乗る機会があまりないし乗るときは指定席だし男の人を触ったところで別にだしわたしには痴漢する人の気持ちがわかんないかな」
なるほど。危うい。
母や祖母に彼女の趣味について報告しておこう。
□
夏休みが終わり2学期が始まり、授業が再開され──体育のコマがやってきた。
以前までの空くんは体育の授業をよく見学をしていた。持病があるわけではなく、女子らの熱を帯びすぎた視線が苦手であるからという理由によって。
空くん以外のクラスの男子だと酒呑みフェイスな寡黙な彼がたまに見学していて、お互いに無言のまま見学していたという記憶がある。
従者な守川くんは心配そうにチラチラとこちらの様子を伺いつつも、授業にはしっかりと出ていたし、浦島くんと彼の従者も揃って積極的に参加していて──浦島くんはその尻軽っぷりを発揮して、あろうことか女子と合同で行われるダンス、はては体術や剣技にも女子と一緒に参加するほどだった。彼の人気があるのもその積極性や尻軽っぷりにあるのだろうと予想されるので、空くんの中の人である俺も体育には参加するつもりである。
それはそうと男子専用の更衣室に足を運ぶ段階から守川くんが謎にそわそわしていたけども、学院指定の体育着に着替えようとパンイチになってゴソゴソしていたら声が掛かった。
「空、ほんとに見学しないの?」
「うん」
「そっか……というか着替えないの? なにしてるのさ。さっきから鏡の前で変なポーズしてるけど……先行ってるよ?」
「ふんッ!」
浦島くんが何か言っているけど白ブリーフに白ソックスは何度見ても素晴らしい。ついついフロントラットスプレッドを決めてしまったほど心の内側が熱くなる。
前世でも最期のその時までこのスタイルで通していたのでしっくり感が極めて高い。許されるのであればこのまま外を走り回りたくなるほどだ。
そんな衝動を理性にて抑え込んで体育着に着替えてグラウンドに。
陸上トラックの内側が全面芝生となる我が校のグラウンドは、手入れが行き届いているらしく芝がめくれている部分なんて皆無で無性にスライディングをしたくなって──体が自然と動き始め、既にピッチに立ってボールを転がしている浦島くん目掛けてスライディングを敢行。
チィッ! 躱された!
「あぶな! なにしてんのさ!」
「HEY! パス!」
「……え?」
「パス! HEY! パス!」
「……うん、はいパス」
要求がとおり足元へと転がってきたボールを拾い上げる。
「手使うんだ……」
「薫、サッカーは好きか?」
小脇にサッカーボールを抱えマジトーンで問う。
「うん? まあ、うん。結構好きだよ?」
「じゃあ、今日のミニゲームは二組との勝負じゃなくて僕と薫は別々のチームに別れて勝負だ」
「じゃあ? じゃあの意味が──」
「いいから勝負だ」
体育の授業は基本的に合同で1組と2組で行われる。男女別に行われることが多い都合上、合同であっても男子の数はフル参加でも10人と少ない。
とはいえ、本日は男子がフル参加デイである上に1組と2組の女子らは目と鼻の先の陸上トラックにて授業が行われるわけだからギャラリーは多い。
そろそろ学院内での人気ランキングを刷新しなくてはいけない。こちとら前世でウイイレを嗜んでいたしブラジル人の友達もいたしオフサイドにも詳しいんだ。
「で、でもさあ、空がそうしたくたって、先生が──」
「先生には薫が。生徒へは守川が」
「わかりました」
守川くんは浦島くんのご学友と目線を交わしてなにやら頷きあったあとに各々男子と校舎の方へと小走りに駆け出していく。ぽかんとしたままの浦島くんに歩み寄ると、何故だか身構えられてしまう。
「チーム分けはお願いすれば、たぶん大丈夫だろうけど……最近の空って一段と変になるというかノリが怖いというかさぁ……どうしたの?」
「まだわからない?」
「わかんない」
「そう」
小脇に抱えたままのボールを浦島くんに突き出し、踵を返してピッチの状態を確かめるべく適当に歩く。しばらく歩き、トイレにでも行っておこうかと考えているとクラスメイトの梅さんが1人、熱心に柔軟をしている姿を見つけてそちらへと足を向ける。
「梅」
「え? 桃姫川くん? な、なんですか?」
声が掛かるとは思いもよらなかった。表情からはそう読み取れるし、柔軟の途中であるのに体が硬直したのか両手を頭の上でピーンと伸ばしているクラスメイトの梅さん。
「梅は野球してるの?」
彼女は同じクラスの女子のなかでは色々と一番をいく。背丈に加えて厚みはダントツで、クラスや学年どころか初等科全体の中でも一番だろう肉体の持ち主で、惚れ惚れする。
「う、うん、一応……やってます」
「ポジションは?」
近くからマジマジと眺めて気付く。大きな上半身に目が奪われそうになるけれど、下半身も実に素晴らしい。投打のみならず走塁意識も高そうな下半身をしている。
「ど、どこでもやるけど……ピッチャーが一番多い、かも」
「へえ、今度キャッチボールでも──」
「あれ? 桃姫川くんと……なんで梅が? あ、もしかして女子に何か用があったりした? ならわたしに伝えてくれればいいよ。委員長のりっちゃんとは仲良しだしさ」
梅さんの球を是非とも受けてみたい。けれど彼女のクラス内での立ち位置も含めて周りが見えていなかったかもしれない。
梅さんとの間にカットインしてきた女子は──たぶん同じクラスだと思う。
「別に用なんてない」
「あ、ないんだ……そ、そういえばさ! 桃姫川くんって夏休み明けから結構日に焼けてたし……えっと……邪魔しちゃったかな?」
「うん」
「あ、え……そ、そうなんだ……ごめんね?」
カットインしてきた女子──体育着に書かれた名前を確認するに桜井というらしい彼女に近寄る。突然の俺の行動に後退る桜井へと更に詰め寄り、手を伸ばす。
頬をつねられたことで体を硬直させた桜井の視線がすごく泳いでいる。
「あ、あの……」
「桜井は野球するの?」
「へ? ひ、ひないはな?」
「ふーん」
「へっと……野ひゅうのふなしひてたの? ふめ、野ひゅうすほいらひいもん、ね?」
汗ばんできたからか指先が滑る。なので親指をフックさせて桜井の口の端を引っ掛ける。
「もッ!? ひょれ……」
「桜井」
「はほ」
「変な顔」
「……はふ」
ませた雰囲気に加えてこの学院ではあまり見ない悪タイプの顔立ちに加えて、おそらく性格もそれに近い桜井への対応はこれくらいでいいだろう。
ヘイトはこっちに来たはずだと思いたい。少なくとも梅にヘイトが向くようなことにはならないはず……。
□
スライディングでボールを奪取しにきた浦島くんを認めるのと同時、アナログスティックをぐるりんと回すイメージで交わす。
数度のボールをタッチする間に良さ気なパスコースを探すも──残念ながらない。
そうこうしているうちに相手ディフェンダーの肩と接触。浦島くんのご学友の彼は主人の代わりとばかりにグイグイと体重をかけてくる。足裏でボールを押さえ込み、上体の制御を意識しつつ視界の端に映る敵味方の位置をざっくりと把握するのに努ヅゥ!
「ぐぅ……」
審判役の教師が鳴らすホイッスルを耳にしながら痛みを発する右足首をさする。
痛みが引いていくのに合わせてこの原因を作った人物へと目を向ける。くりっとした目をした可愛らしい面した浦島くんは背後からの力づくのチャージを体育の授業だってのにやってきた模様。
それは、まぁ良い。それほど悪質なプレイではなかった可能性もある。
でも許せないのは審判役の教師に対して、ボールにいったんだと主張しているその姿にある。
いやオマエ……サッカーというかスポーツって本来はそういうんじゃなくない?
もっとこう、お互いの技だとか知恵を比べる部分に良さであったり楽しさがあってさぁ……よし、そうしたいならそうしてやろう。
未だに抗議を続けるその背後へと近づき、背後から浦島選手の股間を掴む。
「ギャッ!」
すかさず手を離して審判役の教師へと故意ではないと主張する。ボール違いであるとの主張を繰り返そうとするも──この手の下ネタに耐性がないのか、お尻の大きな体育教師がフリーズしてしまった。
あと浦島くんがものすごく怒っているけど、今はそれどころじゃないので言葉が入ってこないすごく邪魔。大人の女が完全にフリーズすると、こうなるのか。時間停止ものの良さがいまいちわからなかったけど、今ならわかる。
これは良い。