嫌われることして生きていく 作:新芽
「え? ゲームまでするようになったの?」
驚くので忙しそうな浦島くんの視線の先にあるのは家庭用のビデオゲーム機や周辺機器が並ぶ棚。サブカルといえばテレビゲームも抑えておくべき。そんな考えから置いているけど、毎日のスケジュールの都合であまり触れられていない。
前世では結構触れていたけど、肉体は空くん由来であるのでパッドでの操作すら手こずるゲーム音痴だ。
なので今はオンライン対戦可能な短期決着するパズルゲームを空き時間に行うくらい。対戦後に誰に向けるでもなく口汚く罵詈雑言を発しては使用人の人らを驚かせてしまっている。
申し訳なくは思うものの癇癪の練習は日々の積み重ねが大事だと、なにかで読んだので辞めるわけにもいかない。
「ぶよぶよ、やるんだ。これも意外だね」
「たまにね」
「ふーん」
話しながらもテレビに接続されている機種の電源を入れゲーム機を起動する浦島くん。
大画面モニターに目が異様に大きい少年と奇怪な異型が現れ、特徴的な声でセリフを口にしている。デモプレイが流れ、下手くそな土台が築かれていく後ろで軽快なBGMが流れ続ける。
「ちょっとやってみない?」
そういえば彼はよく遊びに誘う際、この世界の男にしては珍しく一緒にゲームでもしようと誘ってきた気がする。加えて学院にて携帯ゲーム機をポチポチする姿をよく見た覚えもある。
今もゲームパッドを握っているだけだというのに、なんだか熟れた感じを受ける。
なので返答は決まっている。
「やだね」
「えー……ちょっとくらいならいいじゃんかぁ」
頬を膨らませぶーたれる浦島くん。でもそれに絆されるわけにもいかない。
空くんはそうでもないけど、俺はわりと負けることが嫌いだ。
オンライン対戦にて自分の不甲斐ないプレイで敗北すると、寝る前に敗北の原因となった自身のプレイングがフラッシュバックしてくるほどだ。
なのでここは対戦を避けたい。ボコされた場合、寝付きが悪くなるしボコされる公算が非常に高い。それにオンライン対戦じゃないこともあって物理的な妨害に打って出てしまう可能性もある。
「ぶよぶよはちょっとでも嫌。けどマリコならいいよ」
「マリコ? いいね、やろやろ」
マリコとはスーパーマリコシスターズの総称で、マリコという名の小太りのおばさんが主人公の名作アクションゲーム。ちなみにマリコの妹も操作できて、4人まで同時にプレイが可能。
対戦じゃなくて協力プレイなら大丈夫。
オンラインモードがあるようだけど、オフラインにて協力してステージをクリアしていくモードをなら安心だ。浦島くんが手慣れた様子でソフトを切り替え、マリコのスタート画面まで持ってきて待機しているので、彼の横──テレビの前に座る。
とりあえずお客さんでもある浦島くんには主人公のマリコの操作を譲る。俺が操作する妹のルリコは痩せたおばさんかつ幸が薄そうだけど、そこがまた良い味を出している。都合の良いおばさん感もして好きなキャラだ。
そんなわけでルリコを拙い操作でもって動かし、最初のチュートリアル的なステージを進んでいく。案の定、浦島くんが操作するマリコが画面の中を縦横無尽に動き回る。
俺が操作するルリコの頭を踏みつけ、ギミックを超え、ルリコの頭を踏みつけつつ自身の強化や残機が増えるアイテムも独占してルリコの頭を踏みつける。
黙ってプレイを続ける。
たくさん死ぬ。
残機が心許なくなってくる。
頭を踏みつけられる。
ついつい舌打ちが出てしまう。
我慢する。動かない指にイライラが募る。
偶然、亀の甲羅を手にする。
魔が差してついついマリコに向かって投げつける。
華麗に回避しつつも甲羅を踏みつけ、手に持って投げ返される。
負けじと華麗に踏みつけようとするも、甲羅に激突して残機を減らす。
「今の……わざと?」
浦島くんがやや怒ったような、困ったような声で問うてくる。
「は? 違うけど?」
違うので、違うと答える。
「そう?」
「ふん」
ステージのゴール地点で浦島くんが操作するマリコよりも高い位置のポールを掴もうとした際、おかしな掛け声が出てしまったが結果は伴わず、マリコのお尻を拝むことになってしまった。
「ふん?」
熱くなりすぎないようクールな空くんを維持しつつ、その後は互いに黙ってステージをクリアしていく──と、思いきや不意に甲羅がこちらへと飛んでくることもあれば、こちらから投げつけることも起きる。
有利になるようなアイテムは譲り合うなんてことは起きず、最終的には直接的な行為に発展。
互いが互いのキャラクターを持ち上げ、敵や落とし穴に投げ込むような行為を延々と繰り返す。
ここに至って、ゲームタイトルの選択が間違いであると気付く。
もっと早くに気付けないものかとも思うも、少々熱くなっていたので正常な判断力が欠如していたので仕方がない。
それに1:5くらいの割合でやられていたのはこちらで、これはこれで浦島くん的には楽しめていたはず。少しばかりギスギスしているけども。
「薫」
「うーん? あ、ここ隠しだよ──ア゛ヅ」
「フホ……もっと協力できるようなのにする?」
このギスギスした流れを変えようと動き出す今日の俺って頑張っている。
不特定多数に嫌われることが最大目標であっても、身近な人には優しくあれという心持ちからくるこの徳の高さは……えーっと、うん、適切な言葉が出てこないけど、とにかくすごくえらい。
「うん。いいよ」
「じゃあ、よし」
「あ……」
画面から目を離してこちらに顔を向けた浦島くん。そのがら空きの隙を見逃さずにマリコをマグマへと放り込んでおく。エフェクト音にてその結果を知った浦島くんが二度見してくるので立ち上がる。
「たくさんやっつけたから別にいいけど……空のそういうところってさぁ……なんだかなぁ」
奥歯にものを挟ませたような物言いをする浦島くん。
それを努めて無視して古来より伝わる協力ゲーを提案する。
「風呂入ろ」
「はい? お風呂? ゲームするんじゃないの? え? 本当に? ここで脱いでくの? え、ちょっと──」
裸の付き合い。これこそが争いをたまにしか生まない協力ゲーの王道。
ポコチンの大小でのマウント合戦にさえ気を配れば大丈夫。
そもそも我々は戦力差がほぼゼロな雑魚世代であるので問題とならない。
自分でも怖くなるほどの発想力だ。
□
個人用の浴場にて共に湯船に浸かり、浦島くんと学院の院歌を熱唱する。
最初は乗り気がじゃなかったものの、そのうち興が乗ってきた浦島くん。流行りのポップスを口ずさむまでになったので、こちらは湯船の縁を手で叩いてちゃんと接待する。
ペチペチバシバシとリズムを刻む。刻みつつ、合間合間にラップを挟んでリリックをライムしてフロウする。うん、悪くないかもしれない。
中途半端なピアノの腕前に比べれば競争率の問題的にも未成年のうちくらいは通用するやもしれない。配信者を目指すのを止めて、日焼けして筋トレしてタトゥ入れていくのも有りかもしれない。
「空? その、すごくノリノリのところ悪いんだけど……ちょっと邪魔かも」
「それな」
「うん? そうなの?」
少し湯当たりしたかもしれない。頭と体を冷やすべく湯から上がり、冷水のシャワーを頭から浴びて胸のあたりをパシパシと叩く。とくに意味はなくとも、なぜだかやってしまう癖。
空くんもこの癖の持ち主であったようで、動作に違和感が微塵もない。
「……空ってやっぱり変わってるよね」
「薫ほどじゃないでしょ」
「はい? ボクは普通だよ?」
「女子とよく話すのって普通?」
我々が通う学院内では勿論、おそらく思春期ど真ん中の男子というのは女子と言葉をほとんど交わさない。
男子は圧倒的に少数で、女子は圧倒的多数で──なおかつ多数派の女子は総じてハンターだから。それが思春期ど真ん中にある男子の普遍的な考えであるようで、姉らが口うるさく空くんに干渉しようとする原因だと思われる。
そんな世の中にあって、浦島くんは女子と普通に話す異端児。顔面が可愛らしいことに加えて、抜群の社交性をも備える浦島くん。
空くんに比べてさえ学院内での人気は圧倒的である。
「別に……普通に話すだけだし、遊んだりはしないし」
「これだからゆるチンは……ハア」
「なにその溜息……あと意味はよくわかんないけど、すごく嫌なこと言われた気がする」
「家族に言われたりしない?」
「え?」
「女子とあんまり話すなって」
「……する、けど」
ぼそっとそう口にする浦島くんを視界に収めつつ、冷たいタイルの上で横になって頬杖をつく。
「やっぱり。ったく、ハア……」
「行儀、悪いよ」
「ん? ああ、これ? でもチンチンを緩々させてるよりかは行儀は良いと思うけど?」
「よくわかんないけど緩くないよ! みんなすぐそうやって……もうッ!」
ざぱっと音を鳴らして立ち上がる浦島くん。その緩々のポコチンは、まあ、うん、普通。
空くんのものと比べてもあまり違いがない。
「まあでも薫を見習って女子とも話していこうかな」
「ええ!? 空が!? うそ!? なんで? どうして?」
「薫のほうが人気があるのってむかつくから、かな?」
「……意味わかんない。人気なんて──」
「勝手に順位付けはされてるでしょ。学内で」
その事実を知った当時の空くんは、それはそれは女を気味悪く思っていた。
お姉ちゃんダイスキー! という思想を加速させた一因とも言える。
「知ってたんだ、アレ」
「うん」
でも今は中身が入れ替わっているので汚らわしいなんて思わない。
転生特典を思えば人気を獲得する練習はしていて損はないし、バキバキに目が決まっている女子らと話すことに忌避感もそんなにない。そんなには。
問題が生じたとしても、小学生相手ならどうとでもなるはず。従者たる守川くんも居るわけだし──それでもダメそうなら姉らに頼れば……いや、なしかな。
「でも無理じゃない? 空って、その……アレじゃん……許嫁とすら、その、さ?」
「薫」
「……ごめん」
「違う。別に怒ってない」
婚約者の存在は空くんの記憶を辿らずとも体のほうがしっかりと覚えている。
彼女が与えてくる圧は空くん的には相当に厳しかったようで、2人きりになった際はすぐに逃げ出し、何度も姉らに助けを求める行動に出ていたほどで、そんな空くんを知っているらしい浦島くんの懸念はごもっとも。
「そ、そうなの?」
「うん。あいつともちゃんと話してみようと思ってるし」
「え、話すの? でも……話せるの? 大丈夫?」
「大丈夫。余裕。平気」
「ほんとかなぁ?」
相手は同年代の少女。
彼女から圧は受けても暴力を振るわれたり、理不尽な目に合わせられるようなこともない。空くんは苦手意識を持っているようだったけど、今の俺なら問題にならない。
そもそも髪の毛やら爪を求めてくる程度なら許容すべきラインだろう。