転生者が生前のジャンヌを火刑から救う話   作:クソ眼鏡3号

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大体三話くらいで終わるのでできればお付き合いください


転生者が生前のジャンヌを火刑から救う話

 

 

俺の前世は満ち足りた人生だったと思う。

 

もう俺の意識は目覚める事は無いと思っていたのに、次に俺が気がつくと、俺は転生していた。

前世の事は殆ど明確に覚えている。

だから今の俺の生まれた時代がはっきりと分かる。

俺の生まれた時代は百年戦争末期のフランスの時代。

 

聖女ジャンヌ・ダルクが活躍した時代。

 

俺はその時代で彼女の敵国だったイングランドの貴族として生を受けた。

 

貴族といってもほぼ没落寸前の貴族だ。

領地も屋敷もあるが、古臭くて荒れている。

領地があると言ってもそこに住む領民もいない。他の貴族から貴族の恥晒しなどとよく馬鹿にされていた。

 

俺の家は魔術師の家系。

本来の役目は国のお抱えの魔術師だった。

 

“だった"というのはつまりは過去の栄光という事。

他の魔術師の貴族達に陥れられて俺の家は没落寸前にまで至っている。

 

だが、家がそんな状況でも俺に不満は無かった。

今世に於ける俺の親が魔術師とは思えないほど善良な人だったからだ。

 

今世の俺を産んだ母親の事は詳しくはないが、俺を育ててくれた父親には感謝している。

 

魔術を教えてくれたのは当然父からだ。

 

魔術師というのはその合理的な考えから人でなしな側面がどうしても出てくる。

でも俺の父は人の心を捨てていなかった。

 

「この家の魔術は俺の代で終わりだ」

 

父が俺に魔術を教えてくれる時、その理由を最初に教えてくれた。

 

「魔術というのは簡単に言ってしまえば無駄な事を極める事だ。人の生を生きる上で魔術は必要無い」

 

「ましてや衰退して魔術回路すら減り始めて存続すら危ういこの家で魔術師となる事ははっきり言って真の意味で無駄だ」

 

「でも、私はお前に魔術を教えると決めた」

 

どうして?と俺は気になったので聞いてみたら、父は笑って答えた。

 

「魔術というのは便利だからだよ。火を起こすにも道具はあまり必要じゃないし、肉体を強化魔術で強化すればいざって時に役に立つだろう?」

 

「お前のこの先の人生には必要のない物でもお前の人生に役立つ物だと思ってお前に魔術を教えるんだ」

 

この人と過ごしていく内に俺は確信した。

俺の父は人がいい。善か悪かで言えば間違いなく善良に部類される人間だ。

 

「宮廷の魔術師は私を魔術師とは認めないと言っていたが、それは仕方ない事だ。以前の私ならともかく今の私のままでは魔術師を続ける事は出来ない」

 

政治争いでこの家を打ち負かした相手の魔術師は俺の家を「魔術師に相応しくない」と糾弾していたらしい。

俺の父を馬鹿にした事をどうにも納得いかないので相手の魔術師に文句を言いたかったが、父に止められた。

 

「いいさ、その怒りは胸に閉まっておけ。情けない話だが事実だ」

 

父は笑って相手を許していた。

本来ならば魔術師に魔術師ではない!と罵倒されるのは許せない筈だ。

少なくともムカっときてもいい筈だ。

なのに父は相手を許していた。

それに気になる事もある。父は先ほど“以前の私"と言っていた。

その“以前の父"と“今の父"にどんな違いがあるのか気になるので質問すると、父は恥ずかしそうに答えてくれた。

 

「以前の私はね、魔術にしか興味がなかったんだ。あらゆる情熱を魔術に注いで根源の渦を目指していた。魔術師の家に生まれた事を誇りに思っていた」

 

今の父からは考えられない告白に俺は驚愕した。

そんな魔術師然とした時期があったのならば、何がどうなって今の仕方なく魔術を続けてる今の父になったのだろう?

 

「気になるか?少し恥ずかしいが、せっかくだし教えておこう」

 

「私が変わったキッカケはね、とても簡単な事だったんだよ」

 

勿体ぶる父に俺はヤキモキしながら答えを待つ。

そんな俺の様子を見て、父は笑っていた。

 

()()()()()()、それも一目惚れ。相手は勿論、お前の母さ」

 

「いつかお前にも分かる時が来る。何せお前は私の息子だ、きっと私と同じような時が来る」

 

「その時に便利な物が一つでも多いと役に立つぞ?その為に魔術をお前に教えるんだ。さあ、始めようか」

 

父の言う“その時"とはこの時の俺には何の事がさっぱり分からなかったけど、父とする魔術の修行は正直楽しかった。

 

月日が流れ、俺はこの国の兵士になっていた。

 

別に魔術師になりたい訳ではなかったし、没落寸前とはいえ貴族なので国に仕える職業として軍人という道を選んだ。

 

ただ軍人になってからという物、所謂周囲のやっかみが少しばかりキツい。

 

軍の貴族出身の兵士からは没落寸前だからと見下され、平民出身の兵士からは貴族だからと疎まれ、正直言って職場の居心地が悪い。

 

だからといって辞める訳にはいかない。

父が俺が兵士を志した事を伝えたら、あちこち駆け回ってなんとかして兵士になれたんだ。

父の厚意を無駄にする訳にはいかないので、今日も今日とて俺は一兵士として働いていた。

 

この百年戦争の時代に生まれた俺はてっきり兵士として戦場に駆り出される事を想定していたが、俺が兵士となる頃にはもう百年戦争は終わっていた。

兵士達の噂では、既に聖女ジャンヌ・ダルクはこのイングランドの捕虜となっており

 

もう異端審問にかけられて、異端の魔女として処刑を待つ身だという事も聞いた。

それも処刑方法は火刑という惨い処刑法で。

 

前世の知識として知ってはいたが胸糞悪い話だ。

 

出来れば助けてあげたいが、ただの一兵士でしかない今の俺には何の力も無い。

貴族として大した権力も持っていない。

 

そう考えるだけで憂鬱だ。

これじゃあ仕事にも支障が出る。

今はただ兵士としての仕事を真っ当しよう。

 

ある時、上司から看守としてジャンヌ・ダルクの部屋の掃除をしろと命じられた。

 

捕虜として囚われた彼女の扱いは酷いモノだった。

まるで性奴隷のように扱い、尋問という名目で彼女を男達の性欲の捌け口として扱った。

 

彼女が受けた仕打ちは想像すらしたくない。

 

俺はただ自分の心を殺して、自分の仕事をこなそう。

出来れば彼女と会話もする事も無く、牢屋の男達の体液塗れの部屋を掃除しよう。

 

そんな鬱屈した思いを抱えながら俺は彼女のいる牢屋を訪れた。

 

そこには確かに聖女がいた

 

牢屋の中は酷い有様だった。

彼女を陵辱した下衆な男達の体液があちこちに散らばってる。

そんな辱めを受けながらも彼女は祈りを捧げていた。

身に纏う衣服は破れて殆ど無いに等しく、肌の露出が激しい。それに身体中に男達の精をぶち撒けられていて酷い臭う。

それに節々に暴行を受けた打撲や擦り傷が見えてとても痛々しい。

 

だというのに、彼女が祈る姿はとても美しかった。

 

見惚れていた。

部屋に酷い匂いが充満して、吐き気を催すくらいなのに夢中になって俺は彼女を見ていた。

 

「すまない」

 

しばらく見ていたら、仕事を思い出してつい声が出てしまった。

俺の声に反応して、彼女がこちらに振り向いた。

邪魔するつもりはなかったのに、声を出してしまったせいで彼女の祈りを邪魔してしまった。

 

「……」

 

彼女は無言で俺を警戒していた。

それはそうだ、俺は敵国の兵士。向こうからすれば先ほど彼女に暴行をしていた連中と大差は無い。

こんなに警戒されては掃除もままならない。

どうにか話をしてみよう。

というか望まぬ行為だったとはいえ目のやり場に困る。

念の為に彼女の着替えを用意して置いて良かった。

 

「祈りの最中で悪いが着替えだ。あと身体も綺麗にしてくれ。自分で出来るか?」

 

俺の問いに彼女は無言で頷いた。

 

「よし、俺は部屋の掃除をするから勝手に着替えておいてくれ。見ないようにするからそこは安心してくれ」

 

俺はそう言うと、彼女は少し驚いた様子でこちらを見ていたが、俺はその視線を無視して部屋の掃除を開始する。

今の部屋の状態で会話するのは気が引ける。

 

「着替え、終わりました」

 

その後、無心で掃除をしていたら彼女の着替えが終わっていた。

彼女は捕虜であり、いずれ処刑される身だ。

そんな身で良い衣服なんて与えられない。

だが、どんな見窄らしい衣服でも彼女が着ると異様に輝いて見えるのは俺の気のせいだろうか?。

そんな事を考えながら俺は掃除を続ける。

お互い無言じゃ彼女も居心地が悪いだろう。少し話をしよう。

 

「少し、聞いてもいいか?」

 

俺の質問に彼女はビクッと反応する。

怖がっている様子だ。無理もないな、先ほどまで集団で暴行を受けていたのだから本能的に男性という生物を怖がってしまっても仕方ないだろう。

 

「貴女はなぜ、まだ神に祈るんだ?あんな酷い仕打ちを受けて、人や神を恨んだりしないのか?」

 

「今の貴女の現状は見捨てられたと受け取ってもいい筈なのに」

 

純粋に俺が気になっていた事を聞いた。

彼女の受けた壮絶な仕打ちは想像を絶する。普通なら周りを恨み、神を恨んでも仕方ないだろう。

なのに、彼女は神に向けて祈りを捧げていた。

それが疑問だった。

俺の問いに、彼女は驚いた顔をした後、笑みを浮かべて答えてくれた。

 

「主を恨むなどあり得ません。ましてや人に向けて敵意を向ける事はあれど、恨むつもりはありません」

 

その答えが意外とは思わなかった。

彼女は生粋の聖女だ。それは前世から知っていた。

それでも「どうして?」と聞かずにはいられなかった。

 

「私は、兵士達を旗を振って扇動し多くの人を手にかけました。私の受けている仕打ちは当然の報いですから」

 

なんでもない事のように、彼女はそう答えた。

常人ならばそんな思考は出来ない。

彼女の境遇を考えれば誰だって彼女には人を恨む権利があると思うだろう。

なのに彼女は人を恨まない。

それが彼女、ジャンヌ・ダルクという女性なのだから。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だからこそ、そう聞かずにはいられなかった。

報いだからと言って、誰だって今の状況から助けてほしいとは思うだろう。

人はそう簡単には割り切れはしない。

 

「私は、主にこの身を捧げると決めました」

 

助けてほしいかどうかを聞いてるのに、そんな事は聞いていない。

彼女は既に諦めている。

今の絶望的な状況を。

誰かに助けてもらう事など諦めている。

 

「それとも貴方が助けてくれるんですか?」

 

彼女の意外な質問に俺は面を食らった。

そうだ、俺には助けるという選択肢があるんだ。

 

「無茶を言うな、俺にそんな権力なんて無い」

 

ちょうど掃除が終わった俺はそう返して、牢屋を出た。

彼女を政治的に助ける力は俺には無い。

だが、俺には父から教わった魔術がある。

俺の命を賭ける必要はあるが、助けられる可能性はある。

 

彼女を助けるという行為は、歴史に干渉する事を意味する。

下手をしたら特異点も発生しかねない。もしかしたらカルデアがこの時代にレイシフトするような事態になるかもしれない。

だが、それでも俺は助けたい。

 

聖女ジャンヌ・ダルクが火刑から救われる世界が、一つくらいあってもいいじゃないか

 

俺は彼女を助ける為の魔術礼装を取りに行く為に兵士の仕事を放り投げて家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百年戦争の時代、15世紀の時代は公開処刑というのは娯楽の側面もあった。

ルーアンにて行われるジャンヌ・ダルクの処刑。

それが、国の一大行事として民衆達も集まる一種のお祭り状態だ。

 

この国イングランドではジャンヌ・ダルクは悪魔の声を聞き、戦争で旗を振って兵士を扇動し多くの者を虐殺した異端の魔女として広まっている。

 

何も知らない者からすれば戦争犯罪者を処刑をするような物。

ましてやカトリックの信仰が生活に根付いたこの時代で、悪魔の声を聞いたというだけでも軽蔑の対象だろう。

 

故に彼女が処刑場まで連れて行かれるまで、民衆から罵詈雑言が飛び交っていた。

中には彼女に石を投げる者までいた。

 

「………」

 

その全てを彼女は黙って受け止めていた。

 

痛々しい手足を引きずりながら、彼女は処刑場に向かっていく。

ジャンヌ・ダルクの処刑法は木の柱に縛られ火を着けて燃やして焼き殺す火刑。

異端者に科される最も重い刑。

 

彼女の処刑を見る者達は誰もがそれが当然の報いと思っている。

 

俺はそうは思わない

 

例え彼女の行動で人が死んだとしてもここまでの仕打ちを受けるのは納得がいかない。

 

家から持っていた霊薬の入った小瓶を握り締めて、俺は民衆に紛れて彼女を追っていた。

 

誰もが魔女という烙印を押された聖女の処刑に目が入ってる中で、俺は持ってきた霊薬の中身を一気に飲み干す。

 

空になった小瓶を投げ捨てて、ジッと薬の効果が現れるのを待つ。

彼女に罵声を浴びせる群衆への怒りを耐えながら。

 

今にも助けに飛び出したい衝動を必死に抑えて、まだかまだかと薬が回るのを待つ。

 

そうしていると彼女が、広場に建てられた木の柱に縛られて始めた。

ああ…処刑が始まる。

 

まだ、薬の効果は現れ始めたばかりなのに

 

彼女の足下に藁や木が積まれる。

後はもう、火を放つだけ。

 

まだか まだか まだか まだか まだか

 

怒りと焦りが俺を支配する。

頭がどうにかなりそうだ。

霊薬が不完全だったのか?まだ効果が少ししか表れていない。

だが、今になってはそんな事はどうでもいい。

どうする?

このまま突っ込むか?

無茶だ、いくら魔術が使えても多勢に無勢だ。

それにこんな衆目の場で魔術を披露したら、例え逃げ切れてもこの時代の魔術協会から目を付けられてしまう可能性もある。

だから、わざわざ超人的な力を発揮できる薬を調達したというのに。

 

彼女の足下の藁に火が放たれようとしていた。

 

だが、それで彼女を死なせてしまっては何の意味も生まれない。

 

感情が高ぶる、ああもう無理だ。行ってしまえ。

俺は無我夢中で広場に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌは己の死を受け入れていた。

主の嘆きを聞いた時から、この結末は覚悟さしていた。

恨みは無い。

女としての尊厳を奪われ尽くされて尚、彼女は誰一人憎悪していなかった。

後悔は無い。

己の行為で多くの人の命を奪った事を、彼女は後悔していなかった。

 

故にこの結末は当然だと納得していた。

 

周りからは彼女への罵詈雑言が飛び交う。

誰もが彼女を魔女と言い、相応しい裁きを願っている。

 

そんな罵声など別に当然の報いと彼女は受け止めた。

 

辿り着いた広場にて、柱に縛られ、足下に藁が積まれる。

これから彼女は最も重い処刑法である火刑に処させる。

想像を絶する痛みが襲うだろう。

そして、その果てに己は死ぬ。

その痛みと死は既に覚悟している。

今、その時が来ただけだ。

故に最期に彼女はありったけの祈りを主へと捧げた。

 

「主よ、この身を捧げます」

 

それが自分のできる最期の祈り。

ここまでやって来れた事への主への感謝。

万感の思いを込めて、彼女は目を瞑り祈りを捧げた。

 

これから彼女の足下に火が放たれようとしたその時

 

「君の命を捧げられても向こう側は困るだけだと俺は思うぞ」

 

不意に少年のような声がジャンヌの耳に届いた。

 

「───え?」

 

驚いたジャンヌが目を見開くと一人の青年がジャンヌの足下の藁に火をつけようとした兵士を殴り飛ばしていた。

その青年は、先程飲んだ薬の影響か、髪が白い銀髪に、瞳が紅い目に変わっていた。

 

「遅れてすまない」

 

青年はそう言って、己の持っている支給された剣でジャンヌを縛っていた縄を斬って彼女を解放して告げた。

 

「助けに来た」

 

その日、彼女(ジャンヌ)は運命に出会った。

 

 

 

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