転生者が生前のジャンヌを火刑から救う話   作:クソ眼鏡3号

6 / 8
後編って書いてありますけど、まだ2話続きます。


聖杯大戦にて 後編

 

 

突如現れたサーヴァントに天草四郎はルーラーとしての能力でその真名を看破する。

ジャンヌの逸話は天草も知っている。サーヴァントがサーヴァントを召喚する宝具など規格外だが、天草はその経験からまだ常識の範囲内だと断じて天草は冷静さを取り戻す。

 

「ラスボス…ですか。貴方が聖女を通じて事情を理解しているなら何故貴方は私と敵対するのですか?私の目的は人類の救済。私と敵対する相応の理由が貴方にありますか?」

 

冷静に問う天草によって召喚されたセイバーのサーヴァント、ヴィクトルが笑みを浮かべて応えた。

 

「あるとも。お前は彼女を悲しませ、追い詰めた。それだけで敵対する理由としては充分だ」

 

ヴィクトルの答えに、天草は内心でため息をつく。

 

「では、“赤”の陣営の頭目として応対しましょう。敵である貴様を大聖杯で押し潰そう」

 

天草は大聖杯との接続した。

聖杯との接続は無尽蔵の魔力を有しているのと同じ。

それを1人のサーヴァントが相手取るなど無謀の極み。

だが、天草が相対する敵は普通のサーヴァントではない。

そのサーヴァントは聖女を護る騎士であり聖女の切り札だ。

 

故に天草は最初から全力で行った。

大聖杯に接続した両腕を起動し、その聖杯に満ちた魔力から白い魔力の巨人を生成する。

それは正に魔力の塊。

白い魔力の巨人はジャンヌ達の前に立ち塞がり、その巨大な腕を振り下ろす。

 

天の槌腕(ヘヴンフレイル)、落ちろ」

 

その一撃は“赤”のバーサーカー(スパルタクス)の全力の一撃に相当する威力があった。

 

それをヴィクトルは迎撃の構えを取る事すらなく受け入れる。

それは無抵抗という意味ではない。

これは信頼の証だ。

ヴィクトルが示す、彼女への信頼の証。

 

「“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”!」

 

ジャンヌが旗を振るってその結界宝具を展開し巨人の腕を迎撃する。

ジャンヌの全身が震え、骨が軋む音がする。

それを無視してジャンヌは宝具を展開する手を緩めない。

 

ジャンヌにはまだ迷いはある。

ジークとヴィクトルの関係など、分からない事がまだ沢山ある。

それでもまた“彼”を失う訳にはいかない。

その思いが彼女を突き動かしていた。

 

ジャンヌが巨人の攻撃を防ぐのを確認すると、ヴィクトルは駆けた。

 

狙いは天草。ではなくジャンヌに腕を振り下ろした白い魔力の巨人だ。

 

「そら」

 

自身の片刃の大剣を一閃する。

だが、天草の見る所によると白い巨人を掻き消すには威力が足りない。

だというのに形容し難い不安が天草の頭に走る。

その不安は的中する。

 

瞬間、白い巨人はまるで巨大な消しゴムで削り取ったかのように抉られ消滅した。

 

「なっ…」

 

天草の顔が驚愕に染まる。

当然だ。あのサーヴァントの放った一撃は巨人を掻き消すには到底威力が足りなかった。

だというのに巨人が消滅したのは、何らかの力が働いている事が分かる。

真っ先に思い当たるのは宝具かスキルだろう。

だが、天草の直感が告げていた。

アレはそんな生易しい物ではない。

 

「死徒を知っているか?天草四郎時貞」

 

ヴィクトルの声が天草に響く。

その声に言いようのない悪寒が走る。

まるで、天敵に遭遇したかのような錯覚すら覚える。

 

「英霊が人類史を肯定する者なら、死徒はその真逆、人類史を否定する者だ。俺はどういう訳か死徒でありながら英霊でもある()()()()()()()という訳だ」

 

死徒?目の前のサーヴァントが?

死徒でありながらサーヴァント?

天草は混乱する。

ヴィクトルのそんな逸話など当然天草は知らない。この世界には刻まれていない闇の歴史だ。

 

「俺は人理を肯定し、人理を否定する。生前は半分人間で半分死徒だったからか、こんなあやふやな存在に成り果てた訳だ」

 

では何故、死徒でありながらヴィクトルは英霊となったのか、それはヴィクトルが半人半死徒だったからだ。

人理を否定する死徒でありながら人理を肯定する矛盾した半人半死徒の半端者。

それがヴィクトルの正体。

だとしても先ほどの巨人を抉り消した能力は異常だ。

幾ら人理を肯定し否定しようともそこまでの力を有する意味が分からない。

 

天草は更に白い巨人を生み出す。

今度は単体ではない、合計8体。

一気に生成し、ヴィクトルへとその腕を振り下ろす。

 

「不思議に思うか?当然だ、俺も生前からこんな力を持ってた訳じゃない」

 

「それにこれは宝具でもスキルでもなく生物としての生理現象に近い」

 

ヴィクトルは言った。

人理を肯定し、人理を否定する。

死徒でありながら人の歴史を肯定して存在している彼は確かに英霊だ。

だが、彼の否定する人理とは何か?

人理は半端者を取り込み、何を生み出したのか?

 

「俺が否定するのは人理ではなく()()()()()()だ。相手がサーヴァントである限り、お前は俺に勝てはしない」

 

片刃の大剣が横薙ぎに一閃される。

八体の巨人は距離という概念を超越した斬撃によって巨人達を掻き消した。

 

斬撃によって距離を殺して敵に斬撃を届かせるなど、本来ならば剣聖の絶技だ。

 

多少のステータス補正が入ってるとはいえ平均的なサーヴァント程度の能力しかないヴィクトルにはそんな神業は無理だ。

それこそ聖杯のような物に接続しない限りヴィクトルにはそんな神業は無理だ。

 

「まさか…」

 

もしやと思い、天草は白い巨人の生成を止めて、別の魔術を行使する。

先ほどのような純粋な魔力で押し潰すのではなく、大聖杯が持つ無尽蔵の魔力によって魔術を行使する。

行使する魔術は強化魔術。

聖杯の持つ無尽蔵の魔力を天草の肉体の強化に注げば、必然的に天草の肉体は耐えられない。

故に天草の持つ両腕の宝具が、天草の肉体を壊れないように補助し、天草は音を置き去りにして駆けた。

そのかの人類最速の英雄(アキレウス)に匹敵する速度でヴィクトルに迫り、その手に持つ日本刀を振るう。

 

それにヴィクトルは反応し、その刃をその手に持つ大剣で防ぐ。

 

無論、天草も一撃では終わらない。

そのまま二撃、三撃とは収まらず、一気に数百の斬撃がほぼ同時に全方位からヴィクトルを襲う。

それをヴィクトルは天草と()()()()()()大剣を振るいそれを迎撃する。

 

それから展開されるのは怒涛の剣戟空間。

刀と大剣が撃ち合う音が響き渡る。

 

その撃ち合いの中で天草の思考はそれよりも速く動き、ある答えを導く。

 

剣が交わる時間が百秒を超えた頃、天草は唐突に己にかけていた強化魔術を解除する。

 

先ほどまでの人類最速に迫る速度は見る影もなく普通のサーヴァント程度の戦闘力に戻り、その刀を振るう。

先ほどまでの天草と互角に渡り合っていたヴィクトルには決して届かないだろう。

だというのにヴィクトルの動きもまた天草と同程度の速度に落ち込み、天草の一撃をその大剣で防いだ。

鍔迫り合いの形を取る。

 

「なるほど」

 

この攻防で天草は確信した。

 

「相手のサーヴァントによって出力が変わっていますね?相手のサーヴァントの力が強ければ強いほど貴方の利用できる力は大きくなる。それが貴方のサーヴァントとしての能力ですか?」

 

ヴィクトルは答えない。

そのまま鍔迫り合いを解いて、天草に斬りかかり、それを天草は受け止める。

 

その大剣の衝撃を受け流す事なく、天草は吹き飛ばされながらヴィクトルと距離を取る。

飛ばされながら懐から黒鍵を取り出し、着地した瞬間に展開する

 

「──告げる(セット)

 

合計8本の黒鍵がヴィクトルに向けて投擲される。

ヴィクトルを全て叩き落とし、一呼吸置いて2人は向き合う。

 

「そうだ、俺と敵対するサーヴァント全てが俺の特攻対象だ」

 

そして…と続けて一泊置いて

 

「それに俺自身の力を上乗せする。それが英霊としての俺の能力だ」

 

次の瞬間、天草の目の前まで移動していたヴィクトルは、天草の右腕を斬り落とした。

 

「───ッ⁉︎」

 

完全に天草の反応速度を上回っていた。

右腕を切り離された天草はその痛みを無視してヴィクトルの言葉の意味を咀嚼する。

 

そして理解する。

目の前のサーヴァントが、どれほど聖杯戦争において悪辣かつ理不尽かを。

 

「マスターぁぁぁ!!!」

 

右腕に続けて天草を両断しようとしたヴィクトルの大剣を、突如現れた瀕死の重傷を負った“赤”のアサシン(セミラミス)が止めに入る。

魔術で生み出した鎖がヴィクトルを拘束し、天草を護る。

 

天草がセミラミスに振り返る。

“赤”のセイバー(モードレッド)との戦いで致命傷を負いつつも生き残り、自身を助けに来てくれた事に礼を言いたかったが、今はそれどころではない。

急いでヴィクトルから距離を取らなければ、近くにいたら間違いなくやられる。

足を強化して跳躍し、一気にセミラミスの元に駆け寄る。

 

「たわけ!我に令呪を使え!!」

 

セミラミスの言葉の意味を、天草は瞬時に理解する。

今の致命傷を負うセミラミスにヴィクトルを拘束する力はそこまで無い。

だが令呪を使用すれば、拘束する時間を引き延ばす事はできる筈。

 

「令呪を以て命ずる!我がアサシンよ、その力で目の前の敵を縛りつけろ!」

 

令呪を使用し、セミラミスの魔術をブーストさせる。

例え致命傷を負い、セミラミスの霊核が破損していようと令呪のブーストがあれば多少は効果はある。

 

増えたな?

 

瞬間、ヴィクトルの全ステータスが上昇する。

天草と戦っていた時とは違い、その能力は一気に倍加する。

鎖を瞬時に引きちぎり、大剣を振るう。

その剣閃は再び距離を殺す斬撃となり天草とセミラミスではなく、その背後にあった大聖杯を削った。

 

「聖杯が⁉︎」

 

動揺する天草をよそにセミラミスは再び魔術を行使し、大量の鎖を生成する。

令呪の効力はまだ持続している。

鎖を千切られようと、片っ端から生成し続けて拘束すればいい。

ヴィクトルに全方位から大量の鎖が襲いかかる。

 

その全てをヴィクトルが迎撃している最中に、天草は削られた大聖杯をよく見ておく。

 

「よかった…まだ生きてる!」

 

幸い、削れただけでまだ接続は生きているし、機能もまだ生きている。

これなら時間はかかるがまだ天草の人類救済を続けられる。

 

「マスターよ!彼奴(こやつ)はなんだ⁉︎手短に伝えよ!」

 

セミラミスは己の認めたマスターに問う。

唐突に現れたサーヴァント。

それも大聖杯に接続した天草をも圧倒するその未知数の能力。

状況は完全に天草側の不利だ。

もしこの場に向こうにサーヴァントがもう一騎増えれば、確実に天草達は負ける。

 

「奴はジャンヌ・ダルクの宝具によって召喚されたサーヴァント!奴はサーヴァントに対する特攻能力を持っています!そして恐らくその特攻能力とステータスは相対するサーヴァントの性能と数によって増幅(ブースト)します!」

 

天草の手短な説明にセミラミスは驚愕する。

なんとデタラメなサーヴァントか。

カルナやアキレウスといったデタラメな性能をしたサーヴァントはいたが、ここまでサーヴァントそのものを殺す事に特化したサーヴァントは前代未聞だろう。

 

相手サーヴァントが強力であればある程、ヴィクトルもまた強力に強化されサーヴァント特効の出力が上がる。

そして相手サーヴァントの性能が弱ければ、相応の出力となる。

 

まるでサーヴァントという光を反射する鏡の様な性質を持ったサーヴァントだ。

 

もし仮に赤の陣営の七騎全てのサーヴァントがこの場にいたとして、それはヴィクトルにとっては自身の力を増幅させるパワーアップアイテムに過ぎない。

その特攻能力はおそらく英霊を否定するように作り替えられた死徒としての能力だろう。

ステータスの上昇はそれに付随するオマケ程度のモノだ。

ここまでサーヴァントに対する特攻能力を持っているのは死徒でありながら英霊となったありえないバグ故だろう。

だが、その代わりに本来ならば死徒に通じない筈の“人が生み出した宝具”や“神が人の為に生み出した宝具”が通じるという欠点もある。

天草の使用する三池典太による攻撃をその大剣で防いでいるのがその証拠だ。

 

ヴィクトルのサーヴァント特攻を掻い潜りながら殺すには、それこそサーヴァント並みの実力を持つ現代の人間や人の身で宝具を扱うような魔術師が必要だ。

怪物は人を殺し、怪物は英雄によって殺され、英雄は人によって殺される。

そんな三竦みが存在するとして、ヴィクトルは怪物でありながら英雄を殺す者だ。

そして彼を殺すには英雄ではない“人”が必要だ。

だが、天草にとって残念な事に赤の陣営には人間の戦力など無く、ヴィクトルの弱点を突くことができる駒は無い。

 

「手立ては有るか⁉︎」

 

セミラミスの叱咤が天草の耳に響く。

もはや、この最終局面でサーヴァントについて考察するなど時間の無駄。

問題はこのサーヴァントを切り抜ける方法があるかどうかだ。

令呪の効力はもうすぐ消える。天草達に残された時間は少ない。

思考を加速させ、天草は突破口を探る。

そしてその思考の中で思い出す。

彼もまたサーヴァントである事を。

 

「有ります!!」

 

突破口は見つけた。

後はそれを実行するのみ。

ヴィクトルはジャンヌのサーヴァントだ。

よって召喚したマスターであるジャンヌが退場すれば、ヴィクトルもまた退場する。

問題は幾重にもある。

まずはジャンヌの持つ旗の宝具の鉄壁な護りを突破する事。

そしてそんな攻撃を繰り出すには相応な溜めが必要だ。

しかもそれをヴィクトルのサーヴァントへの特攻効果のある攻撃を掻い潜り、ジャンヌへ大ダメージを与えるなど至難の業だ。

 

だが困難だろうと天草にはやる以外の選択肢は無い。

 

「俺の執念を甘く見るな、聖女の騎士!この程度の苦難、何度だって超えてきた!」

 

それに天草の中にまだ糸口はある。

それはヴィクトルが最初に見せた白い巨人を掻き消したあの一撃。

いくら大聖杯に匹敵する力を利用できようと純粋な魔力で生成された白い巨人はただの斬撃程度で簡単に消えはしない。

あの一撃はサーヴァント特攻の威力などではない。

あの巨人はサーヴァントによって生み出された力だが、それに特攻が働くのは少しおかしい。

 

よってあれは、おそらくヴィクトルにとっての吸血行為だ。

英霊を喰らう英霊死徒。

ヴィクトルにとって英霊こそが餌。死徒としての血に変わる食糧だ。

その餌を大剣から啜ったのだ。

サーヴァントの魔力を喰らうのは、ヴィクトルにとってはただの食事。

 

ならば英霊の魔力を喰らうならば、食い切れないほどフルコース料理を振る舞うまで

 

左腕(レフトアーム)

 

三池典太を口に咥え、残った左腕に大聖杯の膨大な魔力を注ぎ、その魔力回路を暴走させる。

激痛が脳に走る。

左腕だけじゃなく、体内までもぐちゃぐちゃに掻き回されてるようだ。

終いには脳が沸騰し、溶けそうになる錯覚すら覚える。

右腕を失ったこの状態で暴走する左腕の魔力回路を制御するなど正に奇跡でも起こせないと無理だ。

だが、天草四郎時貞という英霊は奇跡を起こす英霊。

いつだって、どんな時だって、天草四郎時貞は奇跡を起こしてきた。

 

零次集束(ビッククランチ)!」

 

それが発動する前に咥えた三池典太で左腕を切断し、聖女へ向けて蹴り飛ばす。

 

そして切断された左腕に起こるのは膨大な魔力の暴走。

その左腕は爆発ではなく収束という現象を起こした。

 

左腕に収束された膨大な魔力は媒介となる左腕を飲み込み、一つの巨大な質量の物体となる。

巨大な質量は高密度の重量を生みだし、周囲の空間を呑み込み始める。

それは正に魔力のブラックホール。

その暗黒天体の前に聖女の旗など意味は無い。

 

「させるか!」

 

故に、その暗黒天体が聖女に迫れば、必然にその騎士が前に出る。

その暗黒天体を喰らおうと、その大剣で暗黒天体を迎え撃つ。

 

「勝つのは俺だ!人類の救済はたかが人類の敵程度に防がせはしない!」

 

両腕は無く、もう武器は持てない。

脳は既に半分以上機能を停止し、魔術どころか二度と両足で立てる事すら無理だろう。

 

それでいい、それで人類が救われるなら安い代償だ

 

執念と意思。

それが天草の持つ両腕の宝具に勝る最大の武器だ。

 

「グッ…重い…ッ⁉︎」

 

その執念が形となったようなブラックホールの前にヴィクトルは苦戦を強いられる。

天草の予想は当たっていた。

ヴィクトルは自らの血を通したその大剣を通して吸血していた。

勿論、一度に吸血するには限界がある。

大抵の場合はその魔力を喰らう事に許容量を超える事は無い。

今回は桁が違った。相手は疑似とはいえ暗黒天体。

大質量の魔力の塊を喰らうには余りにも重すぎた。

ヴィクトルの喰らうキャパシティを大きく逸脱している。

大量に盛られた大盛り料理を前に苦戦するのと同じだ。

だとしても吸血の手を緩める訳にはいかない。

一瞬でも吸血の手を緩めればすぐに暗黒天体に飲み込まれヴィクトルもジャンヌも終わる。

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

故に全力で吸血を行う。この暗黒天体を飲み込んでみせる。

そして大剣と暗黒天体は拮抗しているが、今はヴィクトルが不利といった所。

当然だ、サーヴァント2体分の増幅程度ではこの暗黒天体は消せはしない。

故に後押しが必要だ。

 

令呪を持って、我が騎士に命ずる

 

その後押しをするのは当然、彼が最期まで尽くした聖女以外に他ならない。

 

その剣で暗黒天体を消滅させよ!

 

令呪は具体的な命令にこそ効果を発揮する。

 

「任せろ」

 

聖女の声を聞いた騎士は笑みを浮かべて応える。

令呪による後押しで、大剣と暗黒天体が拮抗し始める。

 

「おのれ…まだだ!まだ我が希望は潰えない…!!」

 

拮抗する暗黒天体を前に天草は何もできない。

既に打てる手は打った。出せるカードは出し切った。

なのにまだ足りない。

まだ まだ まだ

 

「負けるものか!これは人類の希望そのものだ!お前に人類の救済を邪魔する権利があるとでも言うのか⁉︎聖女の騎士⁉︎」

 

絶叫する。

最早暗黒天体を応援するしかできない現状に天草は歯噛みしながらヴィクトルに問う。

これから行われるのは人類の希望そのもの。

そんな物を邪魔するなど悪以外の何だと言うのか。

 

「勘違いするな、俺は別にお前の言う人類救済を阻止したい訳じゃない。むしろそれが可能なら一度やってみても良いんじゃないかとすら思う」

 

予想外の言葉が飛んできた。

ならば何故⁉︎と天草が言葉を発する前にその答えは返ってきた。

 

「俺はただ、彼女を悲しませたお前が許せないだけだ。彼女を悲しませ、追い詰め、俺が召喚されるほど絶望させるように赤のキャスターを(けしか)けたお前が気に食わないだけだ」

 

「俺は彼女の騎士だ。彼女の絶望を払うのが俺の役目だ。恨むなら、あそこまで追い詰めた赤のキャスターを恨め」

 

そう、ヴィクトルは聖女を護る騎士。

聖女を追い詰める存在から護る絶対的な聖女の味方。

彼女を追い詰める存在を彼は絶対に許さない。

例え相手が救世主だろうと彼は敵対する。

 

「それともう一つ、これは親切心で言うんだが、俺というイレギュラーに集中するあまり最後の最後で見落としたな」

 

その親切心は、きっとヴィクトルの前世で同じ場所で戦っていた事による物だろう。

例え今は敵対している立場にあろうと同じ職場だった同僚に感じる物があるように。

 

「この聖杯大戦で最大のイレギュラーがすぐそこに向かったぞ。多分ソイツがお前に向かう理由も、きっと俺と同じ理由な筈だ」

 

その言葉に天草は瞠目する。

そうだった。

ヴィクトルというサーヴァント殺しのサーヴァントに注目するあまり失念していた。

この聖杯大戦で生まれ、生き延び、サーヴァントに変身し、この聖杯大戦を乱したもう一つのイレギュラーを。

 

行け、ジーク

 

ヴィクトルの声と共に、天草の視界に彼が飛び込んで来た。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

そのイレギュラーの名はジーク。

ジークが天草へ向かって全力で走っていた。

その手にアストルフォの剣を構えて。

万全の天草ならば軽く受け流せる程度の攻撃だ。

そもそも脅威にすらならない。

 

だが、両腕も無く、それに抵抗手段も無い天草にはこの上ない脅威だ。

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

ジークの存在にいち早く気づいたセミラミスが、魔術を行使する。

再び大量の鎖を召喚し、ジークを拘束しようとする。

先ほどのヴィクトルとは違い、ジークはマスターだ。

デタラメな力は無い。

故に簡単に拘束できる。

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

当然、それを防ぐのがジークのサーヴァントの役目。

共に来たアストルフォが己が跨る『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』でセミラミスに突撃する。

 

ジークに注目していたセミラミスはなす術なくその突撃によって宙を舞った。

 

そして、ジークは天草の目の前まで辿り着いた。

ジークが何故天草へ攻撃を開始したのかは、実を言えばジーク自身もよく分かっていない。

ただジャンヌが傷つき、ピンチに陥っている。

その事実がジークを突き動かしていた。

魔術回路を爆走させ、その一撃に全てを賭ける。

加速するジークの魔術回路に付随するその永久機関が躍動を開始する。

 

「ああああああああああァァァァ!!」

 

その影響でジークの肉体のあちこちが崩壊と再生を繰り返して加速を続ける。

それは聖杯大戦の中でジークが黒のバーサーカーから受け取った宝具。

磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』その恩恵によって受け継がれた第二永久機関の機能がこの土壇場で解放されていた。

 

溢れ出るその魔力は雷となり、ジークの剣が天草の胸を貫いた。

 

「フランケン…シュタイン…だと⁉︎」

 

かつて天草が翻弄したサーヴァントが巡り巡って牙を剥いた。

 

「何故だ…なぜお前も人類の救済を拒む…ホムンクルス⁉︎」

 

天草には理解出来なかった。

60年以上を生き、様々な修羅場を経験し、辿り着いた答えを生まれてから一か月も満たないホムンクルスに否定された。

それだけが天草には納得できなかった。

 

「すまない、お前は俺を恨んでいい。多分これからも恨まれるだろう」

 

天草の怨嗟の言葉をジークは真正面から受け止める。

たしかにジークのやった事は人類に対する裏切りだ。

人類にとっての夢を撃ち落としたのだから。

 

「それでも──俺はルーラーを傷つけたお前を許せない」

 

ヴィクトルと同じ理由で、ジークは天草に立ち向かった。

大切な人を護るという人類の業。

とても人間らしい理由でジークは動いていた。

その事実が天草には気に入らなかった。

 

(ルーラー…叶うなら私は全ての同朋達を人間と暮らせるようにしたかった)

 

天草の脳裏に浮かぶのはかつてのマスター。アインツベルンによって造られた女性型ホムンクルス。

第三次聖杯戦争を共に挑んだ天草のマスター。

通常のホムンクルスならばありえない、分布相応な壮大な願いを抱いていたホムンクルス。

天草が護る事ができず、銃撃され、天草の腕の中で呆気なく最期を迎えたホムンクルスのマスター。

 

「ホムンクルス…いや」

 

ふざけるな ふざけるな 

人間ではないホムンクルスなクセに。

俺が理想とする存在なクセに。

俺が護れず、死なせてしまった彼女と同じ存在なクセに。

 

(全ての人が私達のようなホムンクルスを受け入れられないのは分かってる…だから私達のようなホムンクルスが人と共に歩む未来が欲しかった)

 

そう言って彼女は死んだ。

自我が芽生え、自身の同朋を思い、自分の願いを手に入れた彼女。

 

彼女の願いを叶えたかった。

 

皆が彼女のように在ればいいと思った。

皆が彼女のように無垢な存在で在ればいいと思った。

皆が彼女のように無為に死なないように在れればいいと思った。

 

ホムンクルスにしか成れなかった彼女と同じホムンクルスなのに、どうして彼女が成れなかった存在に、お前が近づいている?

 

「ジークッッ!!!」

 

憎しみと怒りを捨てた筈の感情に再び火が灯り、業火となって燃え上がる。

ただ目の前のホムンクルスが憎くて、イラついて、気に食わなくて、天草は怨嗟の声を上げる。

 

「お前だけは…ッ!キサマだけは…ッ!!」

 

“絶対に殺してやる”と続く筈が、その言葉を遮るようにジークはただ一言だけ告げた。

 

「知るか」

 

立場も思想も、正義も悪も知った事か。

ただの純粋な怒りからジークは剣に宿った魔力を炸裂させる。

炸裂させた魔力は雷となり、天草の体内を駆け巡り、天草を内側から焼き尽くした。

 

「キサマぁぁぁぁァァァァ!!!」

 

肉体が燃える。激痛すら生易しい痛みが体を駆け巡る。

その壮絶な痛みも無視して、天草は怨嗟の声を上げてジークへと捨てた筈の憎悪と殺意を向ける。

 

絶対に忘れはしない

お前という悪を

お前という存在を

 

喋る事も出来なくなったのに、その眼差しだけでジークにそう告げた。

 

それをジークは天草から目を逸らさずに受け止めて、その最期を見届けた。

 

“黒”と“赤”の聖杯大戦はこの時、決着を迎えた。

 




人理「半分死徒とはいえウチに組み込まれたならこれくらい改造してもいいよね?」
という感じで半人半死徒なのをいい事にヴィクトルをあんな感じに魔改造しちゃいました。

それと終盤辺りの天草のマスターの所は、ふとApocryphaのアニメを見返して見たら天草は前のマスターに何らかの重い感情がありそうだな…と思って、そしてそのアイリ似のホムンクルスのマスターは表には出さないけどこんな願いとかあったのかな…みたいな事を妄想していたら、天草みたいな壮大な願いを持ったサーヴァントなら、壮大な願いを持ったホムンクルスのマスターが相応しいかなと思ってああいう描写になりました。




オマケのサーヴァント詳細

【ヴィクトル・ド・ボーン】

ステータス

筋力 B
耐久 B
敏捷 C
魔力 B
幸運 D
宝具 A(単体時はE)

保有スキル
対魔力 A(単体時はE)
聖女の騎士としてジャンヌに尽くした事によって授かった聖女の恩恵によるスキル。
A以下の魔術は全てキャンセルするスキルだが本来の対魔力スキルと違い、ジャンヌと同じく無効化ではなく“逸らす”スキル。
対魔力スキルのランクが高いのはジャンヌに召喚された場合による限定的な物であり、ジャンヌ以外に召喚された場合はEにランクダウンする。


魔術 C
生前に魔術師の子として基本的な魔術を修得しており、特に変化魔術を得意としている。また対象の構造を理解し、全く逆の組成をぶつけることで如何なる堅固な物質も破壊する魔術『理導開通』も例外的に使用できる。

英霊死徒 EX
本来ならばあり得ない途方もない例外な存在であるヴィクトルが保有するスキル。
厳密にはスキルではなく生態現象に近い。
人理を否定する死徒でありながら人理を肯定する英霊という矛盾した存在。
それ故に、本来の死徒とは違い人理を否定出来ず人の生み出した物で攻撃を受ける事になるが、人理を肯定する存在であるサーヴァントに対して特攻効果を獲得している。
相手が強いサーヴァントであればあるほど特攻効果の出力とステータス補正が高まるが、相手の出力によって特攻の出力とステータス補正が上下する為、あまり安定しない。
対象のサーヴァントが複数いる場合はその人数分だけ特攻効果とステータス補正が加算される。
サーヴァントの魔力は彼にとって食糧であり吸血対象でもある。
よってサーヴァントの魔力によって編み込まれた装備や魔術はその吸血によって喰らう事が出来るが、大規模の魔術や高密度の魔力の塊などは吸血が追いつかない場合もある。

特攻効果はヴィクトル本人の認識によって起動し、ヴィクトルが敵として認識したサーヴァントにのみ特攻効果が起動する。
特攻対象はあくまでもサーヴァントのみであり、サーヴァントが作り出した合成獣のような使い魔などのサーヴァントの枠組みではない存在には特攻効果は起動せず、ヴィクトル自身の実力で戦う事を強いられる。
故に直接戦わないスタンスを取る事が多いキャスタークラスには天敵が多いが、敵対するサーヴァントさえ認識すればステータス補正はかかるので場合によっては打倒も可能。
またサーヴァントに匹敵する実力を持った現代人はステータス補正もかからずヴィクトルとしては天敵中の天敵。

装備
【紅い片刃大剣】
エンハウンス。兵士自体の剣を変化魔術で改造し、サーヴァントとなった今では己の一部となった大剣。
己の一部となった為、大剣からサーヴァントの魔力を取り込む事が可能になった。


宝具

【聖女の騎士】

ランク A(単体時はE)

種別 対人(自身)宝具
レンジ 1人
最大捕捉 1人

生前にジャンヌを救ったヴィクトルを召喚するサーヴァントを召喚する召喚宝具。なのだが、ヴィクトル単体ではただのステータスを上昇させる強化宝具になってしまう。
そのステータス上昇の振れ幅もサーヴァント特攻起動時の上昇と比べれば弱く、単体ではほぼ意味を成さない宝具となっている。
ただしジャンヌが近くにいる場合、ステータスは大幅に上昇するが、通常の聖杯戦争においてそんな事例はまずあり得ない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。