転生者が生前のジャンヌを火刑から救う話   作:クソ眼鏡3号

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結末にて

 

 

天草四郎時貞は討伐された。

 

「はぁ……はぁ……」

 

トドメを刺した本人であるジークは呼吸をするのが精一杯だった。

そして呼吸をする度に激痛に呻く。

全身が悲鳴を上げている。先ほどのフランケンシュタインから受け継いだ第二永久機関の代償だ。

だが、宝具である『磔刑の雷樹』を使用してない為か、重傷ではあるがまだ回復できる範囲の負傷で収まっている。

 

「マスター!」

 

「ジーク君!」

 

アストルフォとジャンヌがジークに駆け寄る。

肉体の負傷はまだいい。

問題はジークの持つ特殊な令呪『竜告令呪(デットカウント・シェプター)』を使い果たした事による代償の方だ。

ジークは既にカルナとの戦いで令呪を使い果たしている。

そして、何よりも令呪の失った右手がズキズキと疼き、黒い何かがジークを飲み込もうとしている。

もう先は長くない事を悟らざる負えない。

 

近い内、おそらくジークは一日と持たずに半端な竜種へと成り果てるだろう。

 

「ジーク君、大丈夫ですか⁉︎どこか痛い所はありますか⁉︎」

 

「マスター!マスター!喋れる?黙ってるって言葉また変なコト考えてないよねぇ⁉︎なんか返事しろー!」

 

そこまで悟ってジークは自分を心配してくれる自分のサーヴァントと女性を見る。

この2人の大切な存在を護れたと確かに思える。

 

何も無く無為に消費される筈だったホムンクルスには過ぎた幸福だ。

ジークはこの幸福を精一杯噛み締めた。

 

 

 

その一方で、完全に蚊帳の外でありながら一連の出来事を観測していた魔術師がいた。

その魔術師の名はカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

何も出来なかった。

見ている事しか出来なかった。

天草四郎時貞と戦うサーヴァント達と、ジークを応援するくらいしか出来なかった。

ジークにかつて自分のサーヴァントだった黒のバーサーカーの要素を受け継いでいる事を察した時はめちゃくちゃスッキリしたが、それでも悔しさは感じてしまう。

ただの魔術師でしかないカウレスに出来る事などたかが知れているのは分かっている。

それでも多少の悔しさを感じずにはいられなかった。

 

「おい、ユグドミレミアの現当主」

 

悔しさを噛み締めているカウレスに唐突に声がかかった。

カウレスに声をかけたのは先ほどジャンヌが召喚したセイバーのサーヴァント。

その真名はヴィクトル。火刑に処される筈だった聖女を救った聖女の騎士。

その騎士に突然声をかけられてカウレスは思わず驚いてしまう。

 

「あの大聖杯、どう見る?」

 

その言葉にハッとして、カウレスは魔術師としての自分に切り替えて少々破損した大聖杯を観察する。

 

「完全に起動しているな。天草四郎時貞の願いを聞き入れて第三魔法を具現化させる機械になってる。多分もう止められない」

 

魔術師としての己の見解を述べる。

残酷な事だが、大聖杯には天草が先に触れていたのだ。

ましてやその中に入って願いを口にし、その願いを叶えるように大聖杯は変質している。

 

この戦いは天草の勝ちだ。

正に試合に勝って勝負に負けたといった所だろう。

 

「そうか」

 

その言葉を受けて、ヴィクトルはそう言ってしばらく考えてカウレスに問いを投げかける。

 

「なら、()()()()()()()()()()()()()?」

 

その言葉に驚愕する。

確かに破壊すれば大聖杯の活動は止まる。

 

「破壊できるのか⁉︎」

 

しかし、それを実行するには些か威力不足だ。

アストルフォの宝具では破壊は不可能。

ジャンヌの宝具はそもそも攻撃する宝具も持っていない。

だがヴィクトルにまだ宝具があるならば話は別だ。

 

「いや、今の俺には破壊は無理だ。生憎と俺の宝具は一つだけだ」

 

その言葉にがっくりとするカウレス。

ヴィクトルの宝具は自分の言った通りの一つだけ。

それは先ほどジャンヌが使った『聖女の騎士』だ。

例えどんな状況でもジャンヌの危機に駆けつける宝具。

それがヴィクトルの唯一の宝具でありジャンヌとの共通宝具。

そしてジャンヌが使用して初めて真価を発揮する宝具だ。ヴィクトル単体ではただのステータスを上昇させる強化宝具でしかない。

 

「じゃあどうすんだよ⁉︎」

 

「お前もさっきの戦いを見ていたなら分かるだろう?俺はサーヴァントに対して特攻能力がある」

 

ヴィクトルと天草の戦いは確かにカウレスも見ていた。

聖杯に接続した天草をそのサーヴァントの特攻能力で圧倒していた。

 

「それはサーヴァントの話だろう⁉︎大聖杯はサーヴァントじゃない!」

 

ヴィクトルのサーヴァント特攻はあくまでもサーヴァントのみが対象だ。

その他の物にはその対象にならず特攻能力を発揮できない。

 

「なら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

ヴィクトルの言葉にカウレスは驚愕する。

確かに相手をサーヴァントと思い込めば特攻対象になるかもしれないが、思い込むだけでそう上手くいくのかと疑問に思う。

 

「思い込みの力はバカにできないぞ?世の中には思い込みだけで竜種に変身した人間が日本にいるくらいだ。令呪を使ってもらえれば大聖杯をサーヴァントと思い込むくらいは出来るだろう」

 

そんな出鱈目な精神異常者が居てたまるかとカウレスは内心で突っ込む。

カウレスの疑問はもっともだが、ヴィクトルの言う通り思い込みの力というのはバカに出来ない。

ましてやヴィクトルの持つサーヴァントへの特攻能力は英霊死徒となった彼の生態として備わった現象だ。

その本人の認識さえ変える事が出来れば、あらゆる存在にその特攻能力を発揮できる筈だ。

 

「俺が気になるのは聖杯を壊した後の事だ。このまま聖杯を壊した場合、どうなると思う?」

 

まだ疑問は残るがカウレスはヴィクトルの言葉を素直に受け止める。

 

「俺の想像になるぞ?」

 

「構わない、少しでも意見が欲しい」

 

ヴィクトルにそう言われてカウレスは聖杯が破壊可能としてその後に起こる事を頭の中でシュミレートする。

そして導き出された答えは

 

「多分、破壊したら大聖杯に溜め込まれた魔力が霧散する。けど、その場合は周囲にいる奴に第三魔法の影響を受けると思う」

 

今の大聖杯は願望機ではなく人類を不老不死にする全自動不老不死生産機だ。

天草がそうなるように作り替えたのだ。当然だろう。

中途半端に破壊すれば聖杯は自動的に霊脈まで移動し再び人類救済行脚を再開する。

だが、この大聖杯を完全に破壊した場合、その内に秘めた魔力が周囲に霧散し次第に消え去るだろう。

だが、その零れた魔力に触れた場合、第三魔法が実行される可能性が高い。

 

「なら、ジークがその魔力に触れた場合、どうなると思う?おそらくあのままだとアイツは死ぬぞ」

 

令呪を使い切り、ジークの体の節々に黒い箇所が増えている。

あのまま放置すれば、彼はその“黒”に飲み込まれ死に至るだろう。

処置を施そうにも、処置をする時間も無ければ、処置をする方法すらも分からない。

 

もはやジークは死を待つだけの存在となりつつある。

 

「分からない。でも助かる可能性はあるかもしれない」

 

「あの大聖杯に、もしまだ願望機としての機能がまだ残っているなら、その願いを込めながら破壊すれば…もしかしたら」

 

カウレスは正直に自分の考えを述べる。

聖杯は本来は願望機。

今も動いているのはその願望機としての機能故だ。

天草によってその機能を変質させられても願望機としての機能がまだ僅かに残っているならば、その第三魔法を用いてジークを救う可能性があるかもしれない。

 

だがこれは非常に可能性が低い賭けだ。

 

願いを込めながら破壊して願いが叶うなどそんな都合の良い事はまず起こらない。

そもそも願いを叶える願望機を破壊しては願いを叶える所の話ではない。

 

仮にそれで願いが叶えられたとしても天草が隅から隅まで聖杯をその様に改造した可能性も高い。

この聖杯大戦での天草の用意周到さを考えれば当然だ。

 

実行しても成功する保証など何処にも無い。

 

「なら、その可能性に賭けよう。このまま死ぬよりかは全然マシだ」

 

そう言って、ヴィクトルは歩みを進めた。

 

「どうしてだ?どうしてあのホムンクルスと会ったばかりのアンタが、そんな賭けをしようと思うんだ?」

 

カウレスには理解出来なかった。

カウレスの視点からすればヴィクトルは突然現れたポッと出のサーヴァント。

ジークにそこまでする義理はない筈だ。

ヴィクトルの逸話を考えれば、彼にとってジャンヌこそが第一ではないのか?と思っていた。

 

「アイツが死ぬ事で彼女が悲しむ。俺が動くのにそれ以上の理由はいらない」

 

あまりにも単純なその理由に言ってヴィクトルはジーク達に歩み寄る。

 

ヴィクトルがジーク達に事情を説明し、ジャンヌやジークはその賭けに乗った。

その性格を考えれば当然の事。

黙って死を待つより、少しでも抗うのが英雄という生き物だ。

 

そんな彼等を見て、カウレスは思う。

 

(なら、俺も頑張ってみるか)

 

カウレスにこれから起こるのはユグドミレミアの当主として降りかかる様々な苦難。

聖杯大戦後の事後処理。

魔術協会とこれからどのように交渉したものかと頭を悩ませる。

なんだか勇気を分けてもらった気がしてカウレスは「僕も残るー!」と言って聞かないアストルフォを引きずってこの場を去っていった。

 

 

 

 

 

そして、この場に残るはジーク、ジャンヌ、ヴィクトルの3人。

 

「それでは行きます」

 

ジャンヌの依代となっているレティシアへ第三魔法が降りかかり不老不死となる可能性がある為、大聖杯をどうにか視認できる程度にまで離れて、令呪を起動させる。

 

令呪を持って、我が騎士に命ずる

 

我が騎士よ、聖杯をサーヴァントと認識せよ

 

令呪はその命令が単純であればあるほど効力を発揮する。

その単純明快な令呪を受けて、ヴィクトルは目の前の大聖杯を完全にサーヴァントと認識する。

そして敵として相対するサーヴァントを前にしたヴィクトルにサーヴァントに対する特攻能力が始動する。

膨大な魔力を持ったサーヴァントに対して相応の出力を出せる攻撃力。

そしてそれに対応できる身体能力を獲得し、ヴィクトルは大聖杯へと跳躍する。

 

「お前にまだ願望機としての機能がまだ残っているなら、俺の願いを聞き入れろ」

 

目の前のサーヴァントに対して語りかけながら、ヴィクトルはその紅い片刃の大剣を振りかざす。

 

「ジークとジャンヌが、共に現代(いま)を歩む世界を寄越せ」

 

そして…俺にもそれを見届けさせろ

 

誰にも聞こえないような小さな声で、自分のささやかな願いを口にしながらその剣を振り下ろした。

 

振り下ろされた剣閃は、サーヴァント特攻が乗り、大聖杯を必殺する一撃へと変化し、大聖杯はその一撃によって破壊された。

 

この瞬間、聖杯大戦は終わりを迎えた。

 




聖杯でこんな方法で願いを叶えるとか無理ですって?
はい、無理です

でも、せっかくならハッピーエンドが良いですよね?
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