闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
多分王道冒険譚です。多分。
第一話 大剣使いの復讐者
酒場の喧噪。その端にある一角では重い雰囲気が漂っていた。
俺の目の前には四人の美女が座っているというのに、何故こんな空気になっているのか? それはシンプルな理由であり……俺の目の前に居る美女達が原因だった。
「……新人だ。決を採りたい」
重く、低い声でそういうのは大剣を背負った傭兵のような女性だ。
他の三人の美女へと伝える彼女は今にも人を殺しそうな程に鋭く暗い目と、重苦しい雰囲気で場の空気の温度を下げている。
その見た目は例えるなら……生まれ育った村を燃やされ、家族を殺された事で復讐のために生きてきた女剣士と言った風情だ。もしくは、冷酷な女軍人と言った風情かもしれない。
「……入れても良いかどうか、判断を」
「新人?」
そう聞くのは小柄な少女だが、その表情は冷たい。
感情を一切出さず、声にも出てこない。だというのに、その空気は怜悧で気に入らなければ排除すら躊躇わない非情さを感じさせる。
まるで、暗殺者として幼い頃から育てられたかのような無表情無感動な少女。
「……本当に使えるの?」
そう冷たく突き放すように言ったのは、険のある表情で他人を寄せ付けないような雰囲気をした魔女と言った風貌の衣装に身を包んだ美女だ。先程の二人に負けずとも劣らない視線の鋭さは見ているだけで睨み殺されるのではないかと思ってしまう。
「そんな言い方は良くないですよ?」
にこやかに言う集同腹へ身を包んだ彼女は今までの三人に比べれば優しく慈愛に満ちた人に見える。しかし、その笑顔が作られた笑いにしか見えない。どこか浮世離れした雰囲気も併せて、裏のある胡散臭さを感じさせていた。
「……私が拾った。問題があれば、私が責任を持つ」
リーダーである大剣の美女はそういって、彼女たち3人を見渡す。
……重すぎる。酒場も併設しているのだが周囲に人気が無いのは多分、彼女たちが原因だろう。まるで死刑執行を待っているかのな気分になってくる。重圧というのが形を持っているなら、多分俺が潰れかけている姿が見えるだろう。まあ彼女たち以外に見る相手はいないんだが。
「何が出来るの?」
暗殺者少女から、色々とすっ飛ばしたストレートかつ残酷な一言。
少女が腰へつけているナイフよりも鋭い発言に、思わず呻き声が出そうになる。何ができるのか……何ができるんだろう? つい、哲学的な領域に踏み込みそうになりながら、考え抜いて俺は言葉を紡ぐ。
「……あー、その。出来る事は……」
「もしかして、何も出来ないの? 他人の面倒を見るほど余裕はないけど」
魔女は俺に視線を向けずにそう言ってのける。
……いや、だって仕方ないじゃん。実際に拾われて連れてこられた俺からすると、どんなチームなのかの空気なのかすら分からなかったのだ。もっと雰囲気の軽いチームなのかと思ってたので発言の準備していなかった。
「アメリアさん、ダメですよ。新人として入ってきた方にそんな言い方をしては。教会で、そのような物言いは怒られますよ?」
「……そうね。失礼したわ」
俺をフォローするように言ったのは聖職者さんだった。その言葉に素直に従って魔女さんが謝罪する。視線はこっち向いてなかったけども。
味方……というほどではないが、聖職者さんはそこまで悪し様に見ていないらしい。とはいえ、ニコニコと俺の言葉を待っている……つまり期待されてるのか。荷の重さに潰れそうな気分になりながら彼女たちに説明をする。
「一応、出来る事で言うなら……冒険者としての基礎は一通り学んで実践は出来ますね。冒険者になってから五年以上は経ってるんで」
「えっ? 五年以上って……ベテランじゃないの。そんな人がどうして拾われる様なことになったの?」
魔女さんが驚いたようにそう言って、ようやく俺を見る。
他の二人も、ベテランである俺の経験を聞いて期待に満ちた表情を浮かべて視線を向けていた。しかし、俺が拾われる事になった理由を聞けば期待を裏切る事になるだろう。
……とはいえ、拾ってくれ復讐者さんに対する恩義がある。だから、ここで躊躇っても仕方ないと覚悟を決める。
「俺は……異界人なんだ」
俺は、何年も前にこの世界へと落ちてきた。元の世界で言うなら……異世界転移という物によってこの世界へやってきたのだ。
――思い出されるは過去の記憶。最初は異世界にやってきたことに興奮して期待をしていた。自分が選ばれた勇者なのではないかと。異世界で見知らぬ出会いがあるのではないかと。異世界で何かの能力に目覚めて活躍出来るのではないかと。今考えれば、現実逃避も入っていたのだろうが、それでも希望だったのだ。
……この世界では、異界人という称号は役に立たないどころかお荷物になるものだという事実を知るまでは。
「異界人?」
「……この世界では無い場所から来た者のことだ」
「……どこ?」
復讐者さんと暗殺者少女の会話で、この世界ではないに対して復讐者さんが返答に困っている。
そこへ、補足するように魔女さんが告げる。
「この世界には壁を隔てて幾つもの違う世界が隣り合ってるのよ。普通なら行き来することは出来ないけど……時々、魔力によって穴が空いてしまう事があるの。普通なら一瞬だけしか開かないのだけど……運が悪いのか良いのか、その一瞬に穴の真上にいた生き物は落ちてきてしまうのよ。それが異界人や異界物ってこと」
「初めて聞いた」
「実際に見たのはあたしも初めてだわ。だって、異界人は魔力を一切持たず、スキルも使えない……この世界にとっては完全なる異物だもの」
それを聞いて、暗殺者少女はじっと俺を見て素直な感想を口にする。
「どうやって生きのびるの?」
「……だから珍しいらしい」
「はい。ザミアさんの言うとおりです。こちらの世界にやってきた異界人の大半は……不幸な事故によって命を落とすそうです」
――そうなのだ。この世界に存在する魔力という力を他の世界からやってきた生物は使うことが出来ない。そのせいで、スキルや魔法という超常の力……そして付随する恩恵に俺はあやかることすら出来ないのだ。魔力は肉体も強化する力らしく、生物的なスペックも圧倒的に違うこの世界はハードモードといえる。
異界人に出会えないのも当然だろう。何故なら出会うまでには大抵が死んでいるからだ。そうして運がよく行き伸びて人に出会えたとしても、大きな問題が待ち受けている。
「俺はスキルも魔法も使えない。だから、俺の技能や出来る事は全部スキルや魔法に依存しないものばっかりなんだ。生き残れたのは……まあ、運が良かっただけなんだ」
この世界に落ちてきたのが最悪の不運だと言える程度には、この世界に来てからの俺は運が良かった。
生き延びて街に辿り着けたこと。街に潜り込んで冒険者になることが出来た。そして、死ぬことなく食いつないで生きて来れたからだ。だが、その幸運の連続も綱渡りであり……そうして、先日ついにその綱は切れてしまったわけだ。
「……それでも凄い事です。冒険者というのは、長く続ける事は難しいですから。冒険者組合に一定の実績を認められなければ、資格が剥奪されるはずです」
「まあ、つい先日まではパーティーに所属していて……銅級から昇格は出来なかったけども」
冒険者には等級がある……その中でも銅級は下から二番目。
才能が無い人間が燻る等級であり、大抵の冒険者がこの銅級の先を見ることなく死んでいく。そして銅級は、中でも格差が激しい等級でもある。まあ、俺が所属していたパーティーは五年もやって銅級から降格ギリギリの下位パーティーだったが。
「それでも降格せず、冒険者を続けれたことは凄いですよ……本当に魔法が使えないのですか?」
「一切使えない。それどころか、魔力が体に存在しないから体もこっちの世界の人に比べて圧倒的に弱いんだ……だから、俺に出来るのは戦闘とかじゃなくて、雑用とか誰にでも出来るような仕事ばかりなんだ」
どんな立場でも文句を言わず、率先してパーティーの雑務や嫌がる仕事をこなしてきた。金だって俺が一人食いつなぐだけのギリギリで要求すれば相手も納得してくれる。そうした最低限のラインで必死に生き延びてきたわけだ。
「……まあ、それもこの前の依頼で失敗して……俺だけが生き残ったんだ。残ったのは経験だけはあるが戦力としては計算外の異界人だけ……そのせいで進退も決まらずに行き倒れていたんだ」
五年という時間は経験とも取れるが、銅級で無為に過ごしてきたとも言える。誰だって自分よりも弱い年齢だけ重ねた人間を仲間にしたいとは思えない。そして、異界人である俺は身体能力も劣っている。そんな人間をリスクを背負ってまで仲間にしようという奇特なパーティーはそうそう存在しない。
行き倒れになる前に、冒険者以外の仕事に就けば良いのではないか? と思うだろう……だが、この世界では身元の保証は重要であり後見人が居なければ真っ当な仕事は貰えない。それでもスキルなど次第では雇うことはあるが……魔力すらない、貧弱な異界人。まあ俺が逆の立場なら門前払いも納得だろう。
まあ、そのまま食うにも困って死ぬかどうかの境目で俺を拾ってくれた奇特な人に出会えたんだが。
「裏路地で飢えて倒れてたところを……そっちの剣士さんに拾われたんだ。身の上話で、俺が冒険者としての経験だけは長いことを伝えたら、ここに連れてこられたんだけど……」
俺の話が終わると、四人の美女は考え込むように黙り込んだ。
(……どうなるのかな、俺)
常識で考えれば異界人をパーティーに入れる理由はない。
未知なる地域を探索する際に必要な斥候なんてのはスキルを使うことが前提だ。そして、敵となる存在もスキルや魔法を使ってくる。そんな戦いで俺に出来ることはない。つまり、戦闘時以外にスキルや魔法の関与しない仕事をする事しか出来ないわけだ。
(なんとか拾ってくれたときに飯は食わせてくれたから命は繋いだけど……これからどうやって生きていくかな……)
飢えは満たせた。拾われた恩はいずれ返すとして、このパーティーから追い出されるなら……恩を返すために自分が生き残る方法を考えるか。
他の街を目指すというのも良いが……一度街を出ればもう一度出会えるかも分からない。どうするべきか……
「……皆の決は?」
「大丈夫」
「ええ、私も構わないわ」
「はい。とても経験豊富で頼りになります」
「……ということで、パーティーに貴方を入れる」
「えっ!?」
だが予想と違って、彼女たちからかけられたのは歓迎を意味する言葉だった。
思ってすらいなかった言葉に、思わず思考が止まる。
「名前は?」
暗殺者少女が俺に名前を聞く。
こんな風に名前を聞かれるなんて、何時以来だろうか。
「あ、えっと、俺? 雄馬っていうけど……」
「ユーマ……よろしく」
「えっと……本当に、いいのか? 俺は異界人で……戦力的な役に立たないし……」
思ってもいない言葉が口を出る。だけども、俺を真っ直ぐに見て俺を必要としている視線に混乱してしまっていた。この世界に来て、俺は無力な動物を見るような目で何度も見られてきた。だから……この反応に心がグチャグチャになってしまう。
だが、そんな俺を見ても彼女たちの反応は変わらない……いや、まあパッと見た彼女たちの見た目と重圧からは、俺が今から処刑されるようにしか見えない構図だろうが。それでも、彼女たちは歓迎をしてくれていた。
「……私はザミア」
復讐者さんは、ザミアと名乗った。
「リズ」
暗殺者少女は、リズという名前を。
「期待してるわ。私はアメリア」
魔女さんは、アメリアと名乗る。
「私はミライと言います。まだ、私達は銅級に昇格しましたけども……経験の浅いパーティーですから。ユーマさん、頼りにしてます」
聖職者さんが、微笑む。
ああ、なんということだろうか……この世界に来てから、初めてかもしれない。ここまで優しい言葉に思わず涙が零れそうになる。だが、それでも男としての涙を見せたくないという意地で我慢しながら頭を下げた。
「これからよろしくお願いします」
「……よろしく、ユーマ」
そういった彼女たちを見る。
……失礼な感想としては、元の世界で見た悪の幹部の集合シーンみたいだな……とか思ったのは内緒だ。それでも、彼女たちは俺の居場所を作ってくれた。ならば、その恩義に応えるべきだろう。
――そうして俺はこの闇の深そうな美女パーティーの一員となるのだった。