闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
――夢を見ていた。
「おい、ユーマ。何してんだ」
「さっさと行きますよ」
「早くしてよ」
「あ、ああ。ごめん」
いつものようなゴミ拾いと呼ばれる最底辺の冒険者が受ける依頼。森の中に潜ってきて素材を集めてこいと言われるもの。
華やかさもなく、得られるものはその日パーティーが生きられる程度の小銭。だとしても、生きるために森の中へと足を踏み入れた。
「……あれ?」
ふと、前のパーティーの顔が思い出せない。
(……まあいいか)
そう思ってついて行く。そうだ。俺は……
「おい、遅いんだよ」
リーダーだった男に、怒られる。
「ごめんなさい」
「もういいよ。置いていこ」
「そうですね。どうせ彼は必要ないです」
「なっ、待ってくれ!」
慌てて走るが、足元に何かが絡みつく。
そうして、俺を置いてあいつらは先へと歩いていく。
「まて、待ってくれ!」
何も言わない。それはそうだ。だって、あいつらは言い残す間もなく死んだのだ。
そうだ。俺は――
「置いていかないでくれ!」
……後悔していたんだ。
嫌な思い出は多くあった。あいつらはバカでうだつの上がらない底辺冒険者だった。いつかは、こんなことになるとは思ってた。
でも、あんな場所で、理不尽に別れるなんて思っていなかったんだ。死ぬなら俺が最初だと、何度も笑いながら話してたんだ。
「お前たちが……!」
「うっせえな、ユーマ。もうお前は俺達のパーティーじゃねえんだよ」
顔の見えないリーダーがいう。大酒飲みで乱暴者。俺を何かと盾にしようとしてくる最悪なやつだった。
……でも、俺を拾ってくれた。俺が困ってれば、最低限手助けはしてくれた。俺を仲間としてくれた。
「じゃあねー、そっちで楽しくやってれば?」
盗賊が言う。性格が悪くて口も悪い。盗む技術もへっぽこで、バカだった女の子だ。
……でも、俺に優しくしてくれた。一緒に何度もバカをやって笑っていた。
「では、そういうことで」
魔法使いが言う。計算高く見えてただケチで小物な青年。魔法使いを名乗っているが、碌な戦闘に使える魔法なんて使えない底辺らしい魔法使い。
でも、俺の友達だった。何度もくだらない話をして、いつかの未来を夢想していた。
「……ああ」
去っていくあいつらの背中を見送りながら……俺は理解した。
(そうか。俺は死にたかったんだ)
あの時、一緒に死ぬのだと思ってた。でも、生き残ってしまった。
五年も付き合った仲間だった。いなくなって、何かが欠けてしまった。向き合うのが怖くて、向き合えなかった。せめて、何かを残して死にたかった。
――だから、ずっと望んでいたんだ。死に場所を。そうして、ザミアが声をかけてくれた。彼女たちを助けて死ねば、そうすれば……生き残った意味があったと思えると思ったから。
でも、振り返らないあいつらを見て……幻覚だとしても、理解した。
「……ごめんな」
生き残ったのは運だった。そこには意味も何も無い。だから……俺が死んだところで意味はない。
あいつらは行って、俺はこっちに残る。それだけの話だった。
「バーカ」
そんな俺を嘲るような笑い声と、その一言。
それを聞いて、懐かしい気持ちになりながら……ゆっくりと目を閉じた。
「……ん……あ?」
ふと意識が戻り、目が覚める。
ガタガタと揺れている風景。……馬車だろうか? 立ち上がろうとしたら全身の激痛に立ち上がれなかった。うめき声を上げると、横から声が聞こえる。
「……ユーマ、気づいた?」
声をかけられてみれば、そこにはザミアが座っていた。
「……泣いてた?」
「……痛くて、泣いてたんだ」
俺は嘘をついた。
「それで、あの後はどうなった?」
「……ユーマがふっ飛ばされて、木の上からボトって落下した……そのせいで骨が折れて全身打撲になったらしい。それに、頭を強く打ち付けて気絶していたから……」
「ああいや、俺はいいんだが……マンドレイクは?」
「……あのシカみたいなのは、ユーマが押さえつけたから直ぐに対処できた。だから、皆怪我はない」
「ああ、良かった……」
「よくない」
真っ直ぐに俺を見て、ザミアがそういった。
そのままお前を地獄に送ってやるぞと言わんばかりの形相に、思わず声が出なくなる。
「一歩間違えれば、死ぬところだった。ユーマは異界人だから、ミライの回復魔法が効かなくて……すごく焦ってた」
「……ああ、ごめんな」
異界人は魔力がないから、魔力によって肉体を治癒する回復魔法の効果がない。
「ユーマは、自分のことを大切にしなさすぎる」
「……その、なんだ。俺もパーティーの一員だからさ。そっちが無理をしてるのに、俺だけ大した仕事もできてないからな……俺が死んだとしても、ザミアたちなら――」
「ふざけないで」
真剣な声。
その気迫に、何も言えなくなる。
「ユーマは大切な仲間。私たちにできない事をしてくれて……私達をパーティーとして助けてくれた」
「でも……」
「私の恩人を悪く言うのは辞めて」
「……ああ、ごめんな。悪かった」
もしかしたら、ザミアはどこか気づいていたのかもしれない。
俺が死にたがっているのではないかと。
「……悪かった。今度から無茶はしない……でいいか?」
「……うん、それでいい。ユーマのおかげでみんなは無事だったけど、ユーマのせいでユーマが大怪我をして帰りは大変だった」
「うぐ、そりゃそうか。悪かった……」
まるで小動物をいたぶる悪役のような笑みを浮かべるザミア。
……だが、こんなふうに軽口を言うのは……少しでも打ち解けてほしい。打ち解けたいという意思からなのだろう。
「……じゃあ、交代。他の皆も顔を出す予定」
「ああ……ん? それってつまり……」
「みんな、ユーマの無茶に怒ってる。自分の責任だから、何とかしてね」
ザミアはそう笑って馬車から出ていった。
……そして、すかさずヌルっとリズが入ってくる。珍しく、本気で不機嫌だとわかる感情が見えていた。瞳孔が開いて獲物を見つけた捕食者みたいな感じでマジで怖い。
「ユーマ」
「お、おう。大丈夫だぞ」
真っ黒な目でこっちをじっと見てるリズ。もしかして今からトドメを刺される?
「心配した」
「わ、悪かった」
「お爺ちゃんみたいに、いなくなるかと思った」
「……すまん」
「居なくなったら嫌」
リズの言葉は重い。
彼女は天涯孤独になったのだ。一見すれば感情のない暗殺者にしか見えないが……その本質は、まだ幼く純真な少女だ。そんな彼女に何も言わず離別の辛さを二度も味合わせる事になったのかと自覚させられる。自分で死に別れた仲間を引きずってるというのに……自分を殴れるなら殴りたい。
「……ザミアからも怒られたよ。今後は無理はしない」
「ん」
その言葉に納得したのか、表情が戻る。
……いや、しかし怖かった。本気で怒ったリズの真っ黒な目に睨まれたら死ぬんだと覚悟してしまう。
「元気で居てね。まだ、いろんなことを教えてほしい」
「……ああ、分かった。俺も反省したよ」
……重たい信頼は、それだけ彼女が頼ってくれている事の証左だ。
ならば、それだけの信頼をしてもらえた事を自覚して背負うしかないだろう。
「じゃあ、交代」
「……次は?」
「アメリア」
そう言って、出ていったザミアと入れ替わりでアメリアが入ってくる。
……こっちもこっちで怖い。完全に無の表情になっている。普段は冷徹な魔女という感じなのに怒ると完全に無の表情になるのか。初めて知ったなぁ。
「……ユーマ」
「アメリア……その、心配をかけて……」
「勝手に私の私物の薬液を全部使って……しかも混ぜて……!」
……えっ、それ?
「かなり貴重な薬液だって入ってたのに! それに、偶然効いたけどどれが決めてになったか分からないんだけど! ううう……データに纏めないと私的利用でお小遣いから引かれるのに……!」
「いや、あれ私的利用じゃないなら予算として降りるのかよ」
俺の世界で経費扱いみたいになるの?
「というか、このパーティーの魔法使いとして勝手に行動して危険になってるユーマもムカッてしてる」
「……」
「あたしの事情を知ってて、気兼ねなく相談して助けてくれる人なのに……死んじゃったら、あたしは多分どうしようもなくなるよ」
その言葉には含みも何も無い。真っ直ぐな事実として伝えられる。
「……反省したよ。リズにもザミアにも怒られてるからな……」
「だよねぇ……他の子達のフォローしてるっぽいもんね、ユーマって。事情は知らないけど、それだけ助けてくれる人がいないと困るよ?」
「ああ。アメリアもすまんな」
「はぁ……良かった。じゃあこれね」
と、何かの紙を渡される。
首を傾げて見ると……
「は!? 何だこの請求!?」
「えっ、あの薬液」
「俺が!?」
「だって投げたのユーマだよ。せめてデータに取れる形なら良かったけど……」
ぐっ……確かに、あれに関しては俺の独断専行だった。多分植物なら効くだろうという浅い考えだったし、こうしてその思いつきの代償を支払うのは仕方ないのだが……
「いや、金額が……」
「これ返すまでは無茶したらダメだよ? あたしは優しいから利子はつけないであげる!」
無表情を崩して普段通りのドヤ顔を浮かべてそんな事を言ってのけるアメリア。
……こいつ一回痛い目見たほうがいいんじゃねえかなぁとは思うが、今回に関しては俺が悪い。それに、これは俺が無茶をしないようにするための理由を作っているのだろう……多分。
「分かった分かった……払うよ」
「銀等級になれたし、返すのだって多分そんなにかからないんじゃないかな? それじゃ、次に代わるね」
「ああ……最後はミライか……」
「泣いてたよぉ~。ミライって聖職者だから自分の力が及ばず命の危機だったってすごく気に病んでたし」
そう言ってアメリアは出ていった……いや、気が重い。
そして入ってきたミライの顔は……うわ、さっきまでは落ち込んでいる位に見えたが俺を見た瞬間に子供のように涙をポロポロこぼし始めた。
「ミライ……なんだ……」
「ゆーまざん……ぐすっ……しんじゃうかと……ううぅ……」
そう言って、下を向いてボロボロと涙を流して泣いている。
言葉も出てこないほどにショックを受けて泣かせてしまった事実を目の前に見せられて罪悪感でおかしくなりそうだ。
「すまん……」
「ほんどに……し、しんじゃ……まほう……ぎがなくで……ぐずっ……うう……」
普段の余裕のある大人なミライ状態で、子どものように泣きじゃくる姿は俺の罪深さをまじまじと見せつけてくれる。
……いやあ、命を大事にしよう。四人の中でこの反応が一番心に来る。頑張ってる孤児院の子どもに死の責任を負わせるところだったんだぞ、ふざけんなよ俺。マジでゴメン俺。
「……」
「ひぐっ……うう……ぐずっ……」
そして、落ち着くまで待ってからミライが話し始める。
「ごめんなさい……その、本当に怖かったんですからね……」
「分かってる……本当に反省してる」
全員に心配をかけて、何なら子どもを泣かせてるんだ。
どこの最低人間だよ。俺だな。死んだ方が……死んだら泣かれるな? どうしようもないぞ俺。
「ええっと……そういえば、ユーマさん。街に到着したら冒険者組合の医療所で治療を受けてくださいね」
「ん? ミライが見てくれたんじゃないのか?」
「えっと……ユーマさんは異界人ですから……その、治癒魔法が効果が薄くて……だから、ちゃんとした治療や検査を受けないと何があるかわかりませんし……」
「ああ、そうか……分かった」
魔法による治癒は存在しているが、それだけでは治癒はできないことも多いらしい。そのため、冒険者組合の医療所のようなちゃんとした医療機関も存在している。
俺も何度かお世話になった事はある……高すぎて、本当にやばい時以外は利用できなかったが。
「こっちの馬車はユーマさんのために貸し切ってるので、ゆっくり休んでくださいね」
「ああ、分かった……」
「大変だったんですよ。倒れたユーマさんを魔道具で呼んだ馬車が来るまで看病しましたし……治らなくて、色々と試して……」
そうして、ミライから素直な何が起きたのかという話を聞く。
……まあこれは迷惑をかけた自分の責任だな。
「……というわけで、あともうちょっとですね。重症者用の馬車なんで、普段よりもゆっくり動いているので」
「だから、揺れが心地良いくらいなんだな」
「そうですよ。ちゃんと元気になったら教会へ見せに来てくださいね?」
そう言って俺の横に座るミライ……ん?
「……出てかないのか?」
「看病をしないといけませんから」
「いや、でも……」
「全身がひどい状態で動けないですよね? 任せてくださいね」
そう言って笑顔を浮かべるミライに、年下に看病をされる情けない自分にこれも罰か……と甘んじて受け入れる事にするのだった。