闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
あれから街に戻った俺たちは待っていた冒険者組合の受付に担がれて医療所へとそのまま叩き込まれた。
医療所で医者をしているやる気のなさそうなおっちゃんは俺達を見て呆れた表情を浮かべながら懇切丁寧に解説してくれた。
「まず、リーダーのこえー顔のねーちゃんは治癒で誤魔化してるが腐食毒による中毒症状。というか、回復魔法で応急処置程度だからちゃんと直さねーと最悪麻痺が残るんで入院だ。そっちの無表情のこえー嬢ちゃん。あんたは……これどうなってんだ? 筋肉がズタズタになってるわ、骨にヒビ入ってるわ……よく痛みで顔しかめねーな? まあ、嬢ちゃんも入院。魔法使いのねーちゃんはしっかり休め。魔力の使いすぎだが、まあ適当に寝てりゃ回復する。教会のねーちゃんは教会で見てもらえ。んで、異界人のにーちゃんだが……」
ペラリとカルテをめくって、虫でも見るかのような視線を向けられた。
「全身打撲に骨折。内臓も損傷してる。あと出血しすぎて血も足りてねえ。後頭部にクソでかい打撲痕があるが……よく頭がやられなかったな? 硬い頭に生んでくれたかーちゃんに感謝しとけ。一番の重症だから集中治療室な。異界人は魔法が効かねーから、魔法薬も効きが悪いんだよな……」
ぼやきながら他の二人とは別の場所に運び込まれて、ただただベッドの上で薬を飲んで眠って看病される生活を過ごしていた。
そんなこんなで一ヶ月が経過した。魔力を持たない異界人といえど、ある程度魔法薬などの恩恵は受けれるらしく元の世界ならもっと入院が必要な重症も回復して無事に復帰できるようになった。
「ああ、医療費は組合持ちだ。まあ、マンドレイク討伐の立役者だからな……こっちとしても、こんな小銭でヘソは曲げられたくねえってことだ」
「はぁ……」
「まー、しかしすぐに死ぬと思った兄ちゃんが銀等級ねぇ……わかんねえもんだな」
そう言って俺は医療所を追い出された。
……駆け出しの、まだ何もわからない頃に何度かお世話になった程度。それでも覚えてくれていたことに少しだけ、涙が出そうになった。
「おめでとうございます! そしてありがとうございます! 緊急討伐依頼……それも未知のマンドレイクの討伐でしたが、ザミアさんたちのおかげでその脅威は取り除かれました! 現地に向かった調査員たちも痕跡を確認しましたが、マンドレイクの残滓は確認できませんでした。これにより、マンドレイクの完全討伐を達成した事を称して冒険者組合よりザミアさんたちへ銀等級の冒険者証を発行致します!」
そして完治祝いも兼ねてギルドに集まると、受付嬢からそんな言葉とともに歓迎される。
渡されたのは文字通り銀に魔法的な加工を施されたネームプレート。銅級ではあり得ない加工が入った貴重な物品に、俺たちの名前がしっかりと刻まれていた。
「そちらの認識章は銀素材に、魔術的な加工を施しております。また、魔物由来の素材を使っているため偽造などは不可能となっておりますため、たとえ関係ない第三者に奪われたとしてもその方には使うことは出来ません」
「そうなの?」
「ええ。持っていただければわかると思いますが、本人以外が持っても魔術文字が浮かびません。血液で登録をしているので魔力がないユーマさんでも大丈夫ですよ」
「……そりゃ、気遣い感謝します」
異界人でも問題ないとは至れり尽くせりだ。
……多分だが魔力が何らかの理由で使えなくなった冒険者などに対応しているのかもしれない。
「そして銀等級となったことで、斡旋される依頼の質や数などが増えるようになりました。また、組合から受けられる支援や使える施設なども色々とありますよ」
「……なるほど」
「凄い」
リズがそんなシンプルな感想を言うが、実際にこれは大きなことだ。
言ってしまえば、銀等級冒険者の認識証というのは「この世界でも有数の身分保証書」というわけでもある。この世界では身分を補償する方法は割と少ない。なので、身分関係なく雇って実力さえあれば認識証という身分証明書を貰う事ができる冒険者が増えても減る事が無いのだ。
(……本当に銀等級になれたのか)
そんな風に自分の手元に持っている認識証を見ながらそんな風に呟く。
今までは、住む場所にも困るような始末だった。仲間を失って生きる気力すら失って、無謀な突撃で死ぬ覚悟をしていた。そんな俺が五年間、夢に見ることすら諦めていた銀等級になれた。
(分かんないもんだな……本当に)
ただ、拾われただけでこんな待遇になっても良いのだろうかという気持ちはある。だが、仲間と言ってくれたザミア達を俺自身が仲間として認めて、役に立ちたいと考えている。ならば受け取るべきだ。
(……あと、放置したら絶対に大変だ)
気付いたら複雑骨折したような状況になっている。お互いに事情を知らず、お互いに事情を言い出さない方が上手くいく様な構造になっているチーム。そして、その事情を知っているのが俺一人だけと来た。
……うん、これを放置して逃げ出したり断るのは無責任なんて話じゃないな。
(お金の余裕も出来たし……色々と買いそろえるか)
今までは節約して我慢していたものを買える……というか、そうか。異界人で身分が保障されていないので利用出来なかった店も沢山ある。
魔道具というのは、俺にも使えるようなものがあるのだが出入り出来ないので路地裏で売ってるような出処も効果も分からない非正規品くらいしか使えなかったのだが、俺でも銀等級冒険者の証明があれば見る事ができる。ちょっとだけワクワクしてきたぞ。
「――そして、組合の資料閲覧も可能です! 以上となりますが、他に質問はありますか?」
「すいません、資料閲覧は使えますか?」
思い出して、質問をする。そう、実はこの冒険者組合にはかつての冒険者達が集めた情報を纏めた資料室が存在しているのだ。
銅級以下でも、職員から情報を聞くことはできる。しかし、そういった情報は知りたい情報を聞いた範囲でしか知ることは出来ない。実際に資料を見て、それを参考に出来る……俺の今後の役割を考えれば是非ともやるべきだろう。
「ええ、構いませんよ! 銀等級冒険者であれば資料室の閲覧などは可能です! あ、ただ司書にはちゃんと許可は取ってくださいね?」
「なるほど、ありがとうございます」
よし、今度すぐに利用しよう。
こちらの世界の文字を読めるように勉強をしていて良かった……銅級だとマジで肉体労働が殆どで文字が読めるメリットが無かったが、初めて自分に感謝している。
「他に質問はありますでしょうか?」
考えるが思い当たらない。他の面々を見ると……うん、浮かれてたり普段通りだったり慌ててたり困っていたり。最近見分けがつくようになったが、知らないと世界を征服する準備が整った悪の秘密結社にしか見えないな。
「……大丈夫だ」
「は、はい! かしこまりました! では、以上となります! ……それと、申し訳ないのですが、銀等級に認定されることでパーティー名の申請義務が発生します。識別や周知のために必要となりますので……可能であれば本日中にお願い致しますね? それでは、失礼します!」
そういって緊張した表情で小走りに立ち去る受付嬢さん。
しかし、突然降って湧いた話に全員の顔を見る。全員、そんなこと考えても居なかったという表情を浮かべていた。
「パーティー名、決めてなかったのか?」
「……タイミングが無かった」
バツの悪そうな顔を浮かべるザミア。まあ、タイミングはずっと無かった気がするが確かに言われてみれば納得だ。
冒険者をする上で、パーティー名というのは重要なものだ。この名前はあらゆる場所で広まっていき、そして冒険者の英雄譚として引き継がれていく。まあ、そのせいで駆け出しの銅級冒険者たちが自分たちから名乗っては失敗したり解散したりで黒歴史になっているのが良く見る光景だ。
ちなみに『不敗の竜騎団』とか『輝ける踏破者たち』とか自称で名乗る冒険者は多いが、実際の有名な冒険者たちは『蛇の舌』だの『黒薔薇』みたいなシンプルな名前が多かったりする。
「それじゃあ、決めた方が良いよな……皆は何か希望はあるか?」
「なんでもいい」
「ええっと、私も何でも大丈夫です」
「恥ずかしくなければいいわ」
うん。全員特に拘りは無さそうだ。
ザミアを見る。冒険者を目指していたのなら、なんかアイデアとかあるのではないだろうか?
「……『夜明けの月』……というのは、どうだろうか?」
「『夜明けの月』?」
夜明け前でも空に浮かび続ける月は、俺の世界だと残月などと呼ぶ。
「何でそんな名前にしたんだ?」
「……夜のような先の見えない暗闇の中で……皆は、私を優しく照らす光だった……だから、そんな名前が思いついた」
「……ああ、なるほど」
ザミアからすれば孤独で入れてくれるパーティーも見つからない中、まぶしい冒険者達とは違う自分を優しく照らすように居場所を作って仲間になってくれた事を指し示してそう言っているのだろう。
……良い名前だとは思う。ただ、一つだけ大きなミスをしている事を除いて。
「……やっぱり」
「ああ……」
「だよな……」
聞き耳を立てている周囲の冒険者がザワザワしている。
……うん、だってそうだよね。ザミアの命名って事情を知ってる俺は意図をくみ取れる。言葉通りだよね。
だが、知らない人間からすれば喋り方と見た目の圧で「復讐の道程の中で見つけた一時の憩いの場」にしか聞こえない。なんならリズやアメリア、ミライまで全員がザミアの言葉に感じいっている。
「良いと思う」
「ええ、良い名前だと思うわ」
「はい、素敵な名前だと思います」
「……ありがとう」
ザミアに優しい笑みを浮かべながら全員から同意を得る。
……まあ、実際悪い名前でもないし勘違いされたがそれが悪い方向に進むかどうかは分からない。そう考えれば、何の問題も無いな。
「……なら、この名前で申請する……昇格祝いに、皆で食事でもしない?」
偉いぞ。ザミアが初めて……と言うほどではないが、珍しく自分から食事に誘ったぞ。
こういう記念は大事だ。仲間の連帯感を高める意味もあるし、リーダーとして皆にそういう場を作るリーダーだと示す意味もある。
「ああ、俺は参加するよ」
「分かった」
「ええっと……はい! 今日は大丈夫です」
「……たまには皆で食事もいいわね」
どうやらミライとアメリアも参加するらしい。言いよどんだアメリアは間違いなく、ミライが不参加なら帰って本でも読もうとか考えてたんだろうが。
とはいえ、大きな出来事も終わってチームの雰囲気も悪くないものになっている。まだ銀等級に昇格したばかり。何も分からない状態だが……それでもこのチームであれば間違いなく順調にいくはずだ。それこそ、何らかのトラブルがなければ……
「――姉御!? 姉御じゃないか!?」
「……お前は」
ザミアの目の前に立った男は、親しげに声をかける。
おそらく冒険者なのであろう、このチームとは違うにこやかな笑顔を浮かべた外套を纏った剣士だ。短く切りそろえた髪に人を安心させるような整った容姿、まるでお伽噺に出てくる勇者のようだ。しかし、その装備は明らかに使い込まれていて、胸に付けている冒険者証は銀等級……それも長い年月でくすんで使い込まれたのが分かるものだった。
そんな彼はザミアに向けて人なつっこい笑みを浮かべていた。というか、姉御?
「いやいや、まさか姉御がこんな場所にいるなんて……そっちは?」
「……仲間だ」
ザミアにそんな風に伝える。
「……新しいパーティーを作ったのか? そっか、まあそうだよな」
「…………それで」
「まあ、今日は良い日だ! とはいえ、仕事があるんだ。もっと話をしたいけどまた後にするよ」
そういって、男はカウンターに向かい財布から金貨を取り出してカウンターへと置く。
「まあ、同じ街にいるならまた会う機会もあるだろうからな! 姉御、それじゃあな!」
爽やかに去っていく男。呆気にとられる俺達と違って、ザミアは男をじっと見送っていた。そして、ミライがおずおずと訊ねる。
「ザミアさん……ええっと、家族の方ですか?」
「……家族じゃない」
「そういえば、ザミアって過去にパーティーを組んで解散してたって聞いたわ。その関係者?」
その言葉に、肯定も否定もしなかった。
ただ、重々しい顔をして立ち上がる。
「すまない……祝いの席は今度に」
そしてザミアは席を去っていく。その様子に全員がどこか不安な様子を見せている。
……過去のパーティー、ザミアが言うには喧嘩別れだった。その喧嘩の内容がどんな内容だったのか。そして、そんな経緯で抜けたのかは分かっていない。
(新しいパーティーとして一歩を踏み出したんだが……)
もしも、過去のパーティーにザミアが思い入れがあるのならば。
(今のパーティーがどうなるか……)
そんな不安を抱えるのだった。
「……だれぇ、あの人ぉ……? 知ってる人かと思って、ずっと考えてたけどやっぱり知らない人だった……うう、怖い……」
……そんなことある?