闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
――『夜明けの月』となったパーティーのリーダーであるザミアの一日は早い。
(……目が覚めちゃった。もっと寝ようと思ったのに……うう、不安で……)
具体的に言うと小心者なので、寝る前に色々と考えてしまって眠りが浅くなりがちなのである。起きようと思っていた時間よりも2時間早く目覚めている。
何を考えているのかというと……
(あの時の受け答え……失敗したなぁ……もっとちゃんと言えたと思うのに……ああ、そういえば装備の手入れしてたよね……銀等級になってリーダーだからもっとしっかりしないと……ユーマに頼り切りじゃダメだよね……でも、リーダーは他のメンバーを信じるのも仕事っていうし……)
こんなことをずっと考え、どこかで意識の限界が来て寝るというのを毎日やっているのである。
「……」
自分が拠点にしている宿の一階に降りると、早起きして宿の清掃や準備をしている店員たちが挨拶をする。
「あ、ザミアさん。おはようございます!」
「ご飯を作りましょうか?」
「聞きましたよ! 銀等級になったんですよね! おめでとうございます!」
その浴びせかけられる言葉に、ザミアはなんとか声を絞り出す。
「……ありがとう。少し出てくる」
(ううう、凄く良い人達なんだけど距離感が近くて困る……何を喋ればいいのかわからないし、ご飯は眠りが浅いからまだ欲しくないし、ここは外で時間を潰してこよう……というか銀等級に昇格したって教えたっけ? もしかして、色んな人に知られてるのかな……そうだとすると、噂になってるのかな……?)
内心では、この分量が出力されている。だが、彼女の口から出てくる情報はたった二言に集約されるのである。
しかし、宿の店員たちはちゃんとザミアの事を理解していた……当然勘違いしたほうで。外に時間を潰しに行ったザミアを見送ってから、店員たちは話を始める。
「やっぱり、寝れなかったみたいですね」
「そりゃ彼女にも過去があるからね……安心して寝るのは難しいと思うわ。悲しいけどね」
「まあ、この宿を選んでくれたんだ。それだけ信頼してくれてるってことだろ? なら、いつかは彼女に安眠して貰うためにしっかりサービスしないとな」
……当然ながら酒場の噂は街にも広まっている。
ザミアの過去も「かつて過去に酷い目にあい、家族の仇を探している復讐者」という噂が広まってほぼ事実として扱われていた。なので、宿の人間もザミアに気遣って優しく接している内情がある。
また、優秀な冒険者は街を滅ぼすような脅威である魔物を退治してくれる。自然と自分たちを守ってくれる冒険者に対しては信頼を持っているからこそ、彼らは優しくするのだ。まあ、それはそうと日々の素行が悪ければ嫌われるが。その点、過去の重さや見た目の怖さはあるがザミア達は基本的に素行もよく金払いもいいので好かれている訳である。
(……どうしよう。外に出たのはいいけど行く先なんて決めてなかった。ううん、朝ご飯を食べる気分でもないし……散歩をするにしても、この辺はもう何度も歩いているから見るものも特にないし……ユーマに相談に……あ、でも早朝かぁ……他の皆も気安く相談に行ったら気遣わせるだろうし……どうしよう)
……宿屋の店員たちが決意をしている間、噂されている本人は歩きながらこんなことを考えているのであった。
「……ご馳走様」
そして結局、街を彷徨って時間を潰し、昼になって空腹になり手近な定食屋に入って食事を済ませたザミアは冒険者組合に向かっていた。
(依頼でも見に行こうかな。銀等級になったんだし、そろそろ依頼を受けないといけないからね。私がリーダーだし、今後はこういう依頼を選ぶのも必要になるから一人で出来るようにならないと)
そうして、組合に入ると周囲の視線がザミアへ向き……一瞬で逸らされる。
「……『夜明けの月』のザミアだ」
「やっぱり威圧感があるぜ……」
「気安く話しかけるなよ? 銀等級になったんだからな」
「やっぱり格好いいぜ……」
周囲がヒソヒソとそんな話をする。だが、半分以上は好意的なものである。実績があるという事は冒険者達にとってはステータスであり、何物にも代えがたい証明だからだ。
とはいえ、ザミアは自分で依頼を探すという目的のために周囲の情報が入ってこないような状況になっていた。なので、周囲の言葉を気にせず受付のカウンターへと真っ直ぐに歩く。その姿を見て「やはりひと味違う……」と尊敬と畏怖を集めることになるのである。
「依頼を」
その言葉に受付嬢が飛んでくる。
「は、はい! ザミアさん! 依頼ですか!?」
「ああ。銀等級のものを見たい」
「では、すぐに準備しますね!」
突然の要求にも、元気よく答えて準備を始める受付嬢。
当然ながら実績を残す優秀な冒険者というのは冒険者組合でも評価が高い。そして、ザミア達『夜明けの月』を担当している受付嬢のリナは、実は彼女たちのファンなのだ。
その理由は、かつてザミア達に絡んで指を折られて余所に移籍した冒険者たちが関係している。彼女も実はその被害に遭っていて、冒険者組合で止めているが限界はあり辞めるべきか、移動を願い出るか悩んでいたのだ。そんな日々から解放してくれた彼女たちは恩人に近かったりする。
……それはそうと、リナは毎回ザミア達に話しかける時にはその雰囲気と怖さに緊張してしまうのだが。
「準備出来ました! こちらの依頼です!」
そう言って並べられる依頼書。
それらは銀等級になって初めて受けることの出来る依頼。報酬も高いが、危険度もそれ相応に高くなっている。それを見てザミアは……
(……ど、どうしよう! 分からないよぉ……これ、どういう依頼なの? うう、こういう情報はアメリアとかユーマに任せてたし……危険度だけじゃ判断できない……どういう魔物なんだろう……やっぱり、思いつきでやろうとしてもダメなんだ……でも、出してくれたのに断るのも……いや、そうはいっても皆を危険にさせる方がダメだよね……)
テンパっていた。
銅級の感覚で見るには、銀等級からの依頼というのは複雑であったり情報が足りない事も増える。何故なら、それは腕前を信用した上で銅級には任せられない依頼を載せるからだ。
例えば内容は銅級であろうとも、情報の不足さや不確定な要素が多ければ銀等級の難易度になることも多い。ザミアは決断をすることは出来るが、情報を出された段階で判断をする知識などが圧倒的に不足していた。
「……また、検討する」
「そうですか、分かりました! ザミアさんの御眼鏡に適うような依頼を準備しますね!」
「ああ、頼む」
そう言って冒険者組合を去っていくザミア。
ちなみにザミアはホッと安心しながら「身の丈に合った依頼を選んでくれるんだろうなぁ」と考えていたが、受付嬢や冒険者組合の人間の認識は違っていた。
「……すげえな、あの程度の依頼じゃ不足ってことか」
「まあ、銀等級になりたてってのは銅級からクラスアップした程度の依頼だからな……まあ俺たちだと無理だけど」
「あの視線……自分たちの実力に見合う敵を探すような目だったぜ……」
「ああ……あの目で睨まれたいもんだ……」
そう、ザミアが依頼を見て去っていったのが「この程度の依頼では受ける必要はない」と言ってるように受け取られてしまったのだ。
銀等級冒険者の中には、そういった昇格してからも困難な依頼を求める求道者的な冒険者も多い。だからこその勘違いであった。そして、受付嬢も決意を固めていた。
(よおし……ザミアさんにピッタリな、凄い依頼を見つけないと!)
……勘違いは加速していき、高難易度の依頼ばかりが彼女たち『夜明けの月』が受ける依頼の選択肢になっていくのだった。
(ああ、失敗したなぁ……)
そして、冒険者組合から出たザミアはそんな風に自己嫌悪していた。
……まあ、当然ながら本人も色々と先走って失敗した自覚はあった。それが本人の思ってない方向性で勘違いされている事には気づいていなかったのだが。
(今度はちゃんと依頼を見るときはアメリアかユーマと一緒の時にしよう……)
そして反省したザミアは、そのまま自分の武器を預けている鍛冶屋へと足を運ぶ。
「……おう、出来てるぜ」
「ありがとう」
無骨な店主はザミアに対しても、他と同じようなただの客として扱う。そういう関係性が心地よかったのでザミアはこの鍛冶屋で装備を揃え、手入れなどを任せていた。
武器を手に持って振るう。
「どうだ? だいぶ消耗してたから少し打ち直したぞ」
「とても良い仕事だ。ありがとう」
「おうよ」
言葉少ない会話で、武器を受け取って代金を支払う。
と、そこで珍しく店主が武器などに関係ない話をする。
「聞いたぜ」
「……何を?」
「銀等級に昇格したんだろ?」
「知ってるの?」
「噂になってらぁ。こんだけの速さで銀等級になった冒険者パーティー……それも、危険なマンドレイクを討伐したってなりゃな」
そう、冒険者相手の仕事をしている店主には様々な情報が入ってくる。
街の噂で聞くような内容ではない、冒険者の実情に近い踏み込んだ詳しい話も知っているのだった。
「ありがとうよ。俺の武器もそんな化物をぶっ倒せたなら本望さ」
「……こっちこそ、良い武器をありがとう」
「はは、褒められて悪い気はしねえな」
ちなみに、かまどのことを思い出したのはこの鍛冶屋の店主が作業をしているのを見ていたからだ。ある意味ではマンドレイク討伐の立役者の一人かもしれない。
そしてザミアへ武器を渡してから仕事に戻り、店主はぽつりという。
「嬢ちゃんの目的が叶うといいな」
「……きっと、叶えて見せる」
そう言って機嫌よく鍛冶屋を去っていくザミア。冒険者として認められてきている現状に喜びながら、もっと上の……金等級になる決意を彼女は固めるのだった。
……ちなみに、先ほどの店主の発言も「復讐を目的に活動している冒険者」という認識なので実はズレていたりする。店主は復讐を果たすことを応援しているくらいの意味で言っていた。
こうした行き違いによって、ザミアの復讐者という風評はもはや動かせない程に固まっていくのであった。
――そんな一日を終えて、ザミアはベッドに眠りながら息を吐く。
(……今日は、色々あったけど……良い一日だった)
冒険者として認められた。
ユーマという異界人である彼を仲間に入れて良かったと思い、次は彼とも話をしようと考えて――
(……ああ、そういえば冒険者組合でやらかしちゃった……どうして、思いつきで行動しちゃったんだろ……ちゃんと眠れなかったからなぁ……でも、考えてみると歩いてご飯を食べたんだから冷静になる時間はあったんだから……うう、考えるより寝ないと……あれ? 目の置き場ってどこだっけ? 舌ってこの位置でよかったっけ……?)
……いつものように眠れない夜を過ごすのであった。