闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
――そして、買い物が終わってから部屋に帰った俺は、メモを取り出して今まで書き溜めておきたかった様々な情報をメモに纏めていた。
そして、感動していた。
「……マジで使い勝手いいなぁ。ペンとメモ……今まではマジで死ぬ気で記憶で覚えたりしてたからなぁ」
メモと侮ることなかれ。
意外と頭で覚えたと思っていたことは間違えたり抜けたりしてしまうのだ。そういう意味で手っ取り早く情報を纏めて残せるメモというのは、とても重要だったりする。値段はそこそこしたが、銀等級冒険者になる際に貰った報酬金などでしっかりと揃えることが出来た。
アメリアのおかげで、過不足のない俺の求める完璧なメモ帳を使えていた。見直したが、その倍くらいのマイナスが脳裏に浮かんで考えないことにした。
(……それに、こうやって元の世界の言葉を書けば暗号にもなるし過去を忘れないで済むからなぁ)
元の世界に戻れるなら戻りたい……という気持ちは残っている。まあ、正確に言うと落ち着いて戻りたいと思える余裕が芽生えたという話でもあるが。
……まあ、いつか。このパーティーから俺が抜けても大丈夫になったとき。その時に探してみよう。
「……それっていつになるんだ?」
俺が帰れるまで皆が成長する未来。その前にどこまで登り詰められるのか? というか、当面の銀等級としてやっていけるのか? そうやって色々と考えて……全く先行きが見えないので、俺は考えるのを辞めるのだった。
そして翌日、準備を終えて冒険者組合に向かうかと歩いていた。
(……えーっと、ここから冒険者組合に向かうとして……その後はどうするかな。飯を食いにいって、ついでに装備品も見ておくか。あー、ラミィの様子を見ておきたいな。他にも……)
そして横を見る。リズが俺の隣に立っていた。
「ぐぶえっ!?」
「?」
……いや、本当に知らない間としか言いようがない。マジでビビった。凄い声が出た。
そしてビックリさせて俺の心臓を止めようとしたリズは、何やってんだろう? みたいな感じの空気を出しながら無表情に俺を見ていた。
「リズ!?」
「うん」
平然と答えるが、声をかけるとかして欲しい。せめて存在感をアピールしてくれ。
「……それで、どうしたんだ? いきなり隣に立っててビックリしたぞ」
「護衛」
「護衛って……?」
「前、変な冒険者に声をかけられてたから。ユーマを守らないと」
いつも通りの無表情……いや、でもちょっと心配と気合いが入っている気がする表情で宣言する。
……ああ、あのザミアに絡んできた謎の人物を警戒しているからというわけか。嬉しいが、護衛対象の俺に声はかけても良いと思うぞ。ホラーで出てくる幽霊かと思った。
「ありがとうな。ただ、今度からは声をかけてくれ。マジでビビるから」
「うん、分かった」
「あと、今から冒険者組合に行く予定だから別に護衛しなくても大丈夫だぞ? ギルドの当たりなら揉め事は起きないはずだ」
「ん、暇だから着いていく」
「……暇なのか」
リズは割と私生活は謎に包まれている。
……いや、包まれているというか必要なことしか言わない子だから分からないんだよな。わざわざ私生活を聞く事ないし。
「普段は何をしてるんだ?」
「お料理だったり、冒険者道具の手入れだったり、家の掃除をしてる」
「……結構充実してるな?」
「でも、装備を新調したから手入れの時間が暇になった」
「だから俺の護衛を?」
素直に頷くリズ。
……まあ、ありがたいけども。他にもっと俺の護衛よりは楽しい趣味とかあるんじゃないかという気持ちはしないでもない。そうして組合に入ると気付いた受付嬢さんがやってくる。
「あ、ユーマさん。今日はどうされました?」
「あの、資料室を利用したいんですけど」
「えっ!? 資料室を!?」
なぜか驚かれる。もしかして、銀等級でも使用に関しては面倒な縛りが……
「ユーマさん、文字が読めたのですか!?」
……そっちかぁ。まあ、この世界で文字を読めない人間というのも多いからな。異界人である俺が文字を読めないと思うのは至極当然だろう。
「ええ、必要だから覚えたんで読めますよ。書く方も出来ます。」
「そうなんですか……ええ、それは……いえ、わかりました。冒険者の方に教わったのですか?」
「いや、居なかったんで裏路地に住んでる人間で、駄賃を渡すと教えてくれるって奴がいたんでその人に教えてもらいましたよ」
「……ああ、なるほど……裏路地ですか……危険じゃなかったですか?」
「いやあ、俺にとってはどこも危険なんで変わらなかったですよ。裏路地でも異界人は扱い分からないんで逆に触れられなかったですし」
そんな俺が払える駄賃程度で文字を教えてくれるのは、裏路地で困窮して小銭を求める爺さんだけだった。その爺さんも、まあ教え方は上手くなかったしなぁ。
俺が転移してきたから文字という物の基礎を知っていた。これが大きかった。そういう素養もなかった場合にあの爺さんから教わっても、余程元の頭の出来が良くなければ覚えれなかっただろう。
「なるほど……ユーマさんも苦労されたのですね。分かりました……こうして、真っ当に資料を読みたい冒険者さんは歓迎なのでぜひご利用ください! 司書をしている職員がいるので、そちらに声をかけてくださいね」
「司書の職員もいるんですか? 結構冒険者組合って忙しそうなのに」
「ええ、必要なんですよねぇ……資料持ち出して売ろうとする方が居るんで。銀等級になっても後を絶たなくて……だから、監視をする必要があるんです」
「ああ、なるほど……」
わざわざ銀等級になって小銭稼ぎをしようとするのはせせこましいというかなんというか。
知識は金になるが、冒険者組合の公開している知識ならある程度広まってるから大した金になんてならないだろうに……まあ、そういうことを考えないから盗んで売ろうとするのだろうが。
「じゃあ、分かりました。利用させてもらいますね」
「はい、ではどうぞごゆっくり!」
そして資料室へと歩いていくと、リズが声をかけてくる。
「ユーマ。文字が読めるの?」
「ああ。読めるぞ? 書くのも多少できる」
まあ、さっき言った通り裏路地で小銭で酒を買って飲んでは寝るを繰り返す爺さんに教わった程度だが。
それでも、文字の読み書きというのはこの世界においては意外と出来ない者も多い。
「なら、教えて」
「……えっ? 俺がリズに?」
頷く。突然の頼みに動揺するが、山暮らしで他人とそう関わらないお爺ちゃんと二人暮らしなら、文字を教わる機会が無かったのも仕方ないだろう。
……まあ、自信は無いが頼まれたのなら頑張ってみるか。
「分かった。それじゃあ……都合が良いときに声をかけてくれ。そん時に教えるよ」
「ん、分かった」
そう言って満足げな表情を浮かべるリズ。
……もしかして、自分が文字が読めないことが悔しかったのだろうか? 意外と負けず嫌いなのかもしれない。感情が薄いように見えるリズだが、こういう部分は可愛げがあって良いな。
そして、資料室に足を踏み込んで思わず声を挙げる。
「……おお!」
俺が居た世界の図書館と遜色がない。こちらを押しつぶしそうな本棚にいっぱいに詰め込まれた本や資料。
「ご利用ですか~?」
「あ、はい」
と、表では見覚えのない糸目の受付嬢さんが声をかける。
「銀等級冒険者のユーマさんとリズさんですねー? ご利用される場合に資料の持ち出しは厳禁ですよ~」
「おお、すぐに分かるんだ……えーっと、メモはいいですか?」
「メモを取れるんですか? まあ、そちらは禁止されてませんので構いませんよ~。あくまでも原本を紛失される危険を避けるためなんで~」
「ありがとうございます」
そして、踏み込んで俺は幾つかの魔物に関する資料を手に取る。
「……ほう」
風来鳥。いわゆる鳥系の魔物だが、その巨大な体によって捕まえて獲物を嬲る魔物。習性として獲物を串刺しにして保存しておくらしい。回復スキルによって獲物を生存させて更なる獲物の呼び水とすると。
(……えっぐ。モズの早贄に似ているけど、悪意が凄いなこれ)
弱点は……攻撃のリソースは大したことはないので、高い火力で一瞬で倒すこと。回復をさせる隙を無く殺せば問題は無い。
「……」
参考にならねえよ。弱点って言わなくない? 一瞬で殺すための方法書いてないの? 書いていないなぁ……そっか。まあ攻撃方法は自分で用意するのは当然だよな。うん……
「……他には」
空喰猪。魔力によって小規模な壁を作り出し、足場にして軽快に空中を飛び回る猪。突撃する際には、自分の正面へ魔力の壁を作ることで広範囲を押しつぶす攻撃を得意とする。
「……空を飛ぶ猪って凄いな」
対処法は壁は平面なので受け止めるか、空中で地面に落ちる前に撃ち落とせば倒せる。相手の自由にさせる前に先手を打って撃ち落とせばいい。
「いや、参考にならねえよ」
全部書いてあるのがそんなノリだった。
いや、最終的に暴力で倒せっていうのは対処法とは言わないんだが? いやまあ、それでも特性が分かるだけでも十分に収穫ではあるんだが。
「……まあ、銀等級冒険者ってのは大抵自分なりの必殺技というか何かしらを持ってるからなぁ」
商売の種となる手札を晒すものは少ない。なので、バレても問題がない人間が情報を提供する。そして、その情報は当然ながらバレても問題が無い人間の圧倒的な実力でたたきのめした以外の情報が少なくなるわけだ。
(まあ、生態やら情報が乗ってる組合が抱えてる調査員の報告書もあるんだけどな)
だが専門用語や独特の符丁などが多いので読むのが難しい。
……と、四苦八苦していた俺は、ふと横を見る。そこにはボーっと俺を眺めているリズと目が合った。まあ他人が本を読んでいるだけってのは退屈だよな。
「なあ、リズ。今のうちに文字の読み方を教えようか?」
「いいの?」
「ああ、まあそんなにメモを取るような内容じゃなかったしな。えーっと、そうだな……手頃な本は……」
そうして、リズに近くの魔物に関する本を使って文字を教えるのだった。
……何しに来たんだっけ俺?
「あ、ご利用終わりですかー?」
「ええ、ありがとうございます」
気づけば良い時間になっていたので、帰るために司書の受付嬢さんに声をかける。
リズは文字の勉強をしてご満悦そうな表情を浮かべていた。
「すいません、騒がしくして。本を読むよりも文字を教えてる方が長くなっちゃって……」
「あはは。どうせ利用する冒険者なんてそんないませんし、別に気にしなくてもいいですよー。むしろ、暇だったんで良い感じに眠りやす……じゃないや。勉強になりましたからね~」
……暇だったから寝てたのか。
多分、ちゃんとギルドに報告すると怒られるんだろうなぁと考えていると、じっとこっちを見てから笑顔を浮かべる。
「……ここだけの話なんですがねー?」
「えっ?」
「実は組合って、魔物に関する情報を買い取ってるんですよねー。で、精度によって見合った報酬を渡してるんですよ~」
「はぁ」
何の話かと思ったが、ピンと思い当たることがある。
「……もしかして、情報を売る冒険者が足りてない?」
「ご名答ですよぉ。ある程度実力があると価値があるから情報を独占しますし、まず多少の報酬で面倒な聞き取りだの情報提供をしたくない方が大多数なんですよねぇ。ギルドの諜報員は、生態調査に使うほどの余裕はないわけですしね~」
「つまり、俺から情報を買い取りたい?」
「まあ、知ってるだけでいいですよ? 私も情報が入って組合に提供すると色々と助かるので~|」
これ、交換条件か。サボってたことを黙っている代わりに情報を買ってくれる事を教えてくれたと。
……さて、どうするか。
「ああ、それとここだけの話なんですがね……」
と、司書さんが俺に小声で囁く。
「私にもちょっとだけ組合の受付に権限があるので……依頼の優先とか取り置きなんてのも親切にされたら出来るかもしれませんね~」
「……むむ」
割とありがたい話だ。銀等級以上の冒険者は難易度の高い、もしくは組合からの信頼が必要な依頼も受けれるので選択肢がとんでもなく増える。
だが、選択肢が多いからと言って良い選択肢が残っているとは限らない。
情報の揃っている依頼や、割りが良い依頼。そういったものはあっという間になくなってしまう。そこで受付嬢さんとのコネが作れるなら価値はあるはずだ。
「……分かった。とりあえず、最近戦ったサイクロプスとマンドレイクの情報でもいいか?」
「ええ、とっても助かりますー。それじゃあ今後もいいお付き合いをしましょうね~」
笑顔でそういう司書さんに、挨拶をしてリズと一緒に冒険者組合を出る。
「ユーマ」
「ん? なんだ?」
「手伝うことはある?」
……さっきの話を聞いていたのかもしれない。
とはいえ、この程度の仕事は俺がやるべきだろう。
「いや、俺の役割だから大丈夫だよ。気を使ってくれてありがとうな」
「ん」
いつも通りの無表情で答えるリズ。だが、どこかお互いに理解をして仲良くなったような気がするのだった。
「あ、洗濯物忘れてた。帰るね」
「えっ」
驚いて振り向いたらリズは消えていた。
……ごめん。やっぱり理解したのは気のせいだったかもしれない。