闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「……依頼が、無い?」
「す、すいません……」
ザミアの言葉に申し訳なさそうな表情を浮かべる受付嬢さん。
俺達はいよいよ銀等級の冒険に出よう……と、意気揚々と依頼を訪ねたのだが、そこでの返答は依頼が無いという言葉だった。
「……理由は」
「マンドレイク討伐から調査を繰り返しているのですが……どうにも森の様子が落ち着いていまして。脅威になるような魔物なども見当たらずに、依頼が準備出来ていない状態なんです」
なるほど……中心となる魔物を殺した場合に起きる現象だ。
魔物同士のバランスが崩れた結果思わぬ状態に陥ることが多い。今回の場合はマンドレイクによって空白になった居住地を巡って魔物同士が争い、人に対する被害が及んでいないのだろう。
「それと、『夜明けの月』の皆様は銀等級冒険者になったばかりのため、渡せる依頼が難しくて……そういう意味でも準備が難しいのも原因です」
「銅級の依頼は駄目なのよね?」
「はい……規則上、見合った等級の依頼でなければいけませんので……」
これは仕方ない。数えきれない程いる銅級以下の依頼を奪ってしまえば、下級冒険者が飢えてしまう。それに、下位の依頼で緊急事態に実力のある冒険者が動けない……なんて事態を避けるためでもある。
「……それは困ったな」
「暇」
「えーっと、まあそうね。ちょっと時間が空きすぎるわね」
「そうですね。あまり間を置きたくはありません……」
全員も……いや、アメリアはそうでもないが難色を示す。
依頼を受けられない期間が長くなれば、それだけ金も目減りするし体も鈍って感覚が遠くなってしまう。
「……遠征は」
「しても多分、そっちでも仕事はないと思うぞ。他の冒険者組合で渡せる依頼の選定も同じくらい難しいって聞くし……何より、いきなりやってきた外様の冒険者に対して良い顔はしてくれないだろ」
「は、はい。ユーマさんの言うとおりです。遠征は手続きなどがありまして……特に、相手方の冒険者組合からの要請ではない場合は移籍になってしまいます。そうなる場合は、一からのやり直しであったりなどのペナルティがあります」
「……そう」
遠征は銀等級冒険者が他の冒険者組合へ仕事を求めて一時的に出張をすることだ。銀等級冒険者の実力に見合った依頼を組合が相互で回して解決し、冒険者は仕事を常に出来る状態にして組合も依頼を消化できるというものだ。
ただ、これはいわゆる実績が重要になる。現状、銀等級に成りたての俺たちが銀等級になってどういう依頼を達成したのか……それが分からないと依頼を回せない。あくまでも自分たちで解決出来ない依頼を解決する手を求めて依頼を回すのだ。
そういう意味で、ただ仕事が欲しいからで遠征に行くのは悪手だ。なにせ、あくまでも銀等級冒険者とはいえ外様の人間。優先されるべきは自分たちの抱えている冒険者のため、どこに行っても結果的に仕事がないという羽目になる。冒険者組合からしても、実力ある冒険者が必要なときにはいないとなれば所属させる意味がない。
「どれくらいで次の依頼が準備出来そうですかね?」
「ええっと……それはちょっといつになるのか……」
「……他にはない?」
「えっと……えっと……あ、そういえば!」
と、受付嬢さんがバタバタと走っていく。何事かと待っていると、司書さんを連れてやってきた。
「あれ? 司書さん?」
「あー、どうもユーマさん。受けられる依頼が無くて困ってるんでしたよねー?」
「……そうだ」
ザミアの圧に対しても、にこやかな笑みで答える司書さん。凄いな、肝が据わってる。
「でしたら、二つ手段がありましてー。まず調査をするという手段がありますー」
「調査?」
「ええ、最初にあまりオススメしませんが……魔の森の調査ですねぇ。現状、マンドレイクの討伐によって環境が大きく変化しましたー。そういった調査のために、冒険者組合の手のものだけでは足りず、実績を重ねた冒険者に紹介をしています。『夜明けの月』の皆様は実績が足りないので本来は紹介は出来ないのですがー……」
「……依頼なら、受けたい」
ザミアの答えに対して、やはり気が進まないという表情を浮かべる司書さん。
「んー、あまり気が進まないのですがねぇ……それでしたら、注意があります~」
「……注意?」
ザミアの疑問に魔の森の調査依頼についてを答える。
「はっきり言ってしまえば、調査依頼は実力以上に実績と経験を重視しますからねー。不確定要素が大きいので、この依頼を受ける冒険者は最低限のノルマさえ達成すれば即時評価。異常などを未発見、未報告だとしても冒険者組合の評価に影響しません」
「それってハズレ依頼ってこと?」
「まあ、ハズレ依頼みたいなものですね~」
「先輩!? 受付でそれ言っちゃダメですよ!?」
にこやかに笑顔を浮かべる司書さんはそんな風に言う。
……ハズレ依頼。冒険者組合が「実績に影響をしない」と評する。つまり、冒険者組合の認定した脅威度に誤りがある可能性が高い。もしくは書いてある以上の事態が起きている。そんな危険な依頼の総評でもある。
(銅級でもあったなぁ……まあ、銅は保証金貰えるから生き残れたら美味い依頼なんだけどな)
冒険者組合は国からの保証をされた組織で調査能力も高い。なにせその実態は魔物から人類の生存権を広げる最前線の戦場を支える裏方であり、あらゆる国家から名指しでの支援と拝命を受けている公的な組織なのだから。つまり、そんな組織が見誤るような依頼は相応の被害が起きる。
本来存在しない魔物に襲われたり、未知の脅威に襲われる。そんな依頼で失敗をした際に評価に影響すれば誰も受けなくなる。だから、あえて「評価に影響しない」という前置きをするのだ。
だが、結局は実力以上の危機に襲われて無事に帰れるかは運次第。怪我をしたり命を落とせば保証金があっても結果的に大損。だからハズレ依頼と呼ばれる。
「調査依頼はまず、魔の森の奥に存在する幾つかの魔力が多い地帯を見回って異常が無いか、何かしらの痕跡が無いかを見てきて貰いますー。実際に見回った証拠として、それぞれの地点での採集物も必須となっておりますー。基本金額はあまり高くありませんが、成果次第で追加報酬が出ますよー」
「……なるほど」
森の見回りであれば銅級でも存在はするが、それは森の周辺を見て回り魔物の痕跡がないかを見つける仕事だった。それと違い、森の奥深くまで潜って異変が無いのかを調査する。それも、具体的な目標や敵は分かっていないからこそ危険度が高いわけだ。
……奥まで潜り、その上で帰ってくる。冒険者としての実力が必要となる依頼というわけか。
「実力はあるとしても、冒険者としての実績を考えるとオススメしませんー。もう一つは、後輩冒険者の教官役としてレクチャーをしてもらう案ですねー」
「あー、そういえばあったな。冒険者組合の指導学校教官」
冒険者には初心者に向けた指導をしている。
教官役には銀等級以上の冒険者がやってきて、初心者たちに現実を教え、時には技術などを与える。確かにそれも普通のパーティーならありだが……
「……なしで」
ザミアの言葉に全員が同意の空気を出す。
……そうだよね。君たちコミュニケーション取りづらいし、初心者を追い出す役割になっちゃうもんね。そして俺もやばい。新人たちに絡まれたら普通に負ける。何なら命が危ない。荒くれを抑える実力があれば問題ないが俺にはないのだ。
「そうですかぁ……んー、最優先で依頼の取り置きは出来ますので、そちらを待つ方が良いとは思いますけどもー」
「……それはどのくらいかかる?」
「んー、調査の関係で最短でも半月はかかりますかね~。精査も必要になりますし、すぐに準備出来るとしてもそのくらいになります」
「半月か……いや、駄目だ」
実際、かなり急いでこちらに有利な条件として提示しているのだろう。
心遣いはありがたい。しかし、対案として出された教官の適性がなさすぎるせいで誰もやりたがっていないのが問題だった。
「んんー、わかりました。ですが、依頼を準備できないのは協会の事情ですし、銀等級冒険者としての実績評価に影響を受けませんから、焦る必要はありませんよ~?」
「……そうなのか?」
「ええ~。我々は実力のある冒険者を引退させたい意図とはありませんので~。あくまでも実績評価のシステムというのは、立場に甘んじて実績を出さない冒険者に対する措置ですからねー」
その言葉にホッとする。安全を考えるのであれば、ここは様子見をしても――
「……調査依頼を受ける」
「えっ!?」
「ん」
「えっ、受けるの?」
「受けるのですか?」
リズ以外は、ザミアの言葉に思わず戸惑う。しかし、ザミアはしっかりと自分の意見を伝える。
「……まず、お金の問題……」
「あー、まあ確かにな」
マンドレイク討伐から日が空いている。無駄使いをしたわけではないが、それでも先立つものは必要になる。
今後銀等級の仕事をする上で使う仕事道具のグレードも上げる必要がある。それを考えれば、お金はいくらあっても困ることはない。ー
「……それに何より、流れを止めたくない」
「あー……」
「それは、確かに……」
その言葉でアメリアとラミィも納得の言葉が出る。
――今、俺達は冒険者として流れに乗っている。曖昧な言葉ではあるが、ツキが回っているや全てが噛み合っていると言っても良い。だが、半月という帰還は俺達の噛み合っている歯車を狂わせるのには十分な時間というわけだ。ギャンブルなどでツキが回っているような話ではあるが……気分的なものだとしても、バカにはできない。
(調子が良いときにこそ、大胆に動くべき……流れを失えば、冒険者は簡単に転落する。酒場で冒険者達がよく言ってたな)
安定を望むのであればそれでも良いだろう。だが、冒険者として上を目指すのであれば賭けねばならない。そのタイミングを、見誤ってはいけない。
(マンドレイクを討伐すると決めたザミアの言う通り……ここで、流れを止めるのは今後に影響するかもな)
結局の所はどこで賭けに出るかなのだ。
そしてその判断をするのは俺ではない。このチームリーダーであるザミアだ。
「分かった。俺はザミアの判断に従う」
「私は構わない」
「……そうね、あたしもいいわ」
「はい。わたしも構いません」
約一名、半月休暇にワクワクしていたようで声が元気ないが全員が頷いた。
「……探索依頼、受ける」
「んん、分かりましたー。では、依頼の準備をするので少々お待ちをー」
そう言って司書さんは奥へと引っ込んでいく。受付嬢さんはこちらを心配そうに見ていた。
「申し訳ありません。本来はもっとゆっくりと『夜明けの月』の皆様には依頼を受けて銀等級冒険者としての実績を詰んで欲しかったのですが……ですが、ご安心ください! 皆様以外にも依頼を受けている銅級の熟練冒険者の方々はいますから! 確かに危険ではありますが、不可能な依頼ではございません!」
「……分かった」
ザミアは頷いて司書さんがやってくる。
依頼書には不自然な程に情報が少なく、魔の森でも特定の場所にしか生えないであろう野草などが採集対象として載っている。これが、見回りをした証明となるのだろう。
(銅級の熟練冒険者……『緑の茨』か『子鬼の酒樽』あたりかな?)
顔見知りの冒険者たちではある。酒場でたまに話を聞くために奢りに行ったものだ。
……メモとかを買ったあとで、懐が寂しくなければ話を聴きに行けたんだがなぁ。酔っ払い、ちゃんと酒とか奢らないと自慢話とどうでもいい雑談で八割終わっちゃうんだよな。
「……では、明日に出発を」
そうして頷き、全員が解散する……と、そこで司書の人に手招きをされる。
他の皆を見送ってからそちらに向かうと俺に話しかける。
「気をつけてくださいねー? 特に普段と違うと感じて撤退をするのも大切ですからー。痕跡はなるべく残して、他の冒険者の方に存在を誇示することも必要ですよー」
「そうなのか?」
「結局は相互扶助ですからねー。冒険者が減れば、自分たちに向いてないような依頼まで舞い込みますのでー。調査依頼に出てくれるような冒険者の方々とは協力し合って助け合うのが大切ですよー」
「……分かった。ありがとう」
「いえいえー、情報提供者は大切にしたいですからねー」
まあそうだよな。
そんな風に忠告を受け取って、俺は家路につき……
「……うう、流れで言っちゃった……もうちょっと考えて良かったのかな……」
「……決めたならそれでいいと思うぞ?」
結局悩んで弱音を吐きに来たザミアを慰めるのだった。