闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜   作:フレラガ

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第十五話 闇深きパーティーと調査依頼

 調査依頼ということで魔の森にやってきた俺達は道なき道を進んでいた。

 

「……こっち」

「リズ、大丈夫か?」

「大丈夫」

 

 先行するのはリズだ。この中でも一番森を歩くのになれて戦うことができる。

 俺も多少は知識はある。しかし、運動能力が低すぎる事に加えて、中層の深さ以上に潜ったことはない。だからリズに任せることになったのだ。

 

「しかし、不思議な気持ちです」

「何がだ?」

 

 ミライの疑問に、俺はそんな風に訊ねる。

 

「いえ、森と呼ばれている事しか知らなくて……この森が、正式には魔の森と呼ばれている事も、私達が依頼を受けていた場所が管理区域であるという事も知らなかったので……」

「へえ、ミライは余所の出身なのね。森林地帯生まれの司祭なら教会で教わるはずだし」

「……勉強不足で申し訳ないです」

 

 アメリアの言葉に緊張して応えるミライ……ちょっと危ないラインだったな。ミライの本当の年齢を考えれば、正式な司祭になる前だから教わっていないのも当然か。

 恐らくは下手に分別のつかない子供に詳しいことを教えてしまうと、迂闊に深くまで冒険に出てしまうかもしれないので、あえて森と大きく括って踏み込まないように教えているのだ。万が一約束を破って踏み込んでも浅い場所で発見できるようにということだろう。

 折角の機会だし説明を……いや。

 

「すまん、俺もそこまで詳しいわけじゃないから……アメリア、教えてくれ」

「えっ、あたし?」

 

 急に振られて驚くアメリアだったが、特に拒否する理由もなかったのか説明を始める。

 こういう機会に交流を重ねるのも大切だ。というかアメリアの知識を俺も聞きたいのはある。俺の知識は裏路地に住んでいるおっさんとか、万年銅級の冒険者情報だからな。

 

「別に良いけど……まず、世界は大まかに四つの地帯……森林、火山、大湖、荒原に別れているわ。それぞれが土地が持つ魔力の影響を受けて成長しているの」

「つまり、ここは森林の土地というわけですね」

「その通り。それぞれに特徴があるけど……魔の森の特徴は他の土地に比べて、資源が豊富なことがあるわ。ただ、その反面生命力が強いせいで、常に浸食してくるから定期的に木々を間引いて魔力の浸食を防ぐ必要があるの」

 

 冒険者の話では他の土地に比べて、魔の森がある森林地域は仕事が多い。

 それは日夜、魔の森が成長して浸食し続けている証拠というわけだ。まあ他の地域にも他の地域なりの問題はあるらしいが。

 

「そして、区域は三つに分かれるわ。まずは居住区域。これは魔物の脅威を退けた区域のことね。これを広げるのが冒険者の存在意義よ」

 

 一つ目の指を立ててアメリアはそう説明する。

 冒険者ギルドがあるのも居住区域だ。魔物が侵入してこない完全に人々が住むための地域。次にアメリアは二つ目の指を立てた。

 

「次に管理区域。ここは人が住めないけども魔物の脅威は管理されている地域よ。銅級が任せられる範囲で、時々管理区域に出没した魔物を討伐出来るのも冒険者組合が管理してるからね」

「俺達が今まで受けていた依頼も管理区域ってわけだな」

「ええ、どうしても想定外の出来事も多く起きるし魔物の脅威は常に晒されているけども、人が働いたり生存することは可能ってくらいね」

 

 そう言ってから、三本目の指を立てる。

 

「最後に……ここに関しては、未開域とも未開区域とも言われているけど人によって様々ね。一流の冒険者以外は生存することすら困難な広大な土地。ここを押し広げるのが冒険者の使命ね」

「なるほど……銅級までは管理区域でしか受けられないのは、危険な場所で命を落とさないようにですか」

「そういうこと。で、今回の依頼は管理区域を越えて未探索域に踏み込む事になるわね」

「……では、それだけ危険も大きいのですね」

 

 ミライの疑問に対して、アメリアは難しい表情で答えた。 

 

「……実はなんとも言えないのよね」

「どういうことだ? 今から未開区域に行くんだろ?」

「そうなんだけど……今から依頼を受けた場所は管理区域に近いくらいには開拓されているのよね。管理区域まで認定されるのって色々と大変なせいで、中には魔物の情報も土地の情報も殆ど出揃っているけども未開区域扱いをされている土地もあるわ」

「なるほど……まあ、ほいほい認定して困るのは死ぬ事になる銅級冒険者だしな」

「そういうわけね。で、今回の依頼は見回りだけど管理区域から一歩踏み出して先に異変を察知したり、本当に問題が無いかどうかを己の視点で報告する必要があるってわけ」

 

 なるほど……正しい講義を聴いたのは初めてだった。だから感心してしまう。

 五年もこの世界に生きてきたが、やはり知識というのはなんとなく自分が知らないといけないものに限定されていた。管理区域かどうかはそこまで重要じゃなかったからな。自分たちが行ける範囲で頑張れるか……それだけだったからだ。

 

「ありがとうな、アメリア」

「ありがとうございます、アメリアさん。とても分かりやすかったです」

「……別に、教えるのは嫌いじゃないからいいわ」

 

 照れながらそういうアメリア。通常の姿を知っている身からすれば、割と語りたがりだから教師だの相談役みたいな方向性が向いているのかも……ああいや、対人関係が終わってるからダメか。

 と、そんな風に知識を仕入れながら俺達は探索を続け……

 

 

 

「――変」

「リズ?」

 

 突如として、そんな風に言ってリズが俺達を制する。

 森に入る前から首をかしげていたが、何を見て確信に至ったのか、そんな言葉を呟く。その言葉にアメリアが首をかしげて質問する。

 

「この森の何が変なの? 別に普段通りに見えるけど」

「でも、マンドレイクの時もリズさんは異変にすぐに気づいていましたよね」

 

 ミライの言うように、山育ちだったからか森の気配や様子に詳しいリズは魔の森の異変を一番に察知する。

 しかし、リズ自身も無表情……だが、どこか自分でも納得がいかないというような気配の分かる表情を浮かべて呟く。

 

「生き物が、多い」

「……それが、妙?」

「どういうことかしら? 生き物が多いのは良い事じゃないの?」

「そうじゃない」

 

 全員が首をかしげる。魔の森に生き物が少ないのが以前までの異変だったが、今度は多い?

 だが、リズ自身が違和感を言語化出来ていないからかもどかしそうにしている。

 

「もしかして、特定の魔物が増殖してるとかか?」

「違う」

 

 違うのか……魔物の異常繁殖による暴走による災害や事件はとても多いのだが。

 ……ん?

 

「あれ?」

「……ユーマ、どうした?」

「あの動物……何でここに居るんだ?」

 

 そこに居たのは、ノンビリと飛び跳ねる可愛らしい鳥。

 

「わあ、可愛いですね!」

「……えっ? フェアリーバード!?」

 

 アメリアも俺と同じ事に気付いたらしい。

 

「なんでいるの? 警戒心が強くて、人前になんか絶対に出てこないはずじゃ」

「他も同じ。普通なら出てこない獣ばっかり」

 

 そう言われて、周囲を見る。

 ……無警戒に飛び回っては地面を飛び跳ね、鳴きながら果物をつつき、ノンビリと過ごしている。まるで、警戒心を失ったかのように。

 何なら数羽はこちらに飛んできて、ミライなどの肩に止まっている。

 

「見てください! 肩に止まりましたよ!」

「フェアリーバードなんて、まず気配を感じたら速攻逃げるのに……ここが警戒心を無くすような何かがある……ってことかしら?」

「それなら他の獣がいないのは変」

「確かに……人だけじゃなくて、フェアリーバードって美味しいから森でも狙う奴が多いらしいのよね。それに羽にも希少価値があるし」

 

 アメリアの疑問も、リズの言葉で否定される。

 確かにその通りだ。他の獣が獲物が要るというのに狙いに来ないのはおかしい。

 

(考えろ。考えろ。異常には理由がある)

 

 必死に頭を回転させる。

 俺の役割は、考えて情報を出す役割だ。戦闘では役に立たないのなら、それ以外で役に立て。

 理論を組み立てる。

 

(フェアリーバードは無警戒に姿を見せている。つまり、俺達を警戒していない)

 

 俺達が捕食者だと見做していない。つまりは脅威に感じていない。

 ならば、何故そうなったのか? 恐らく、このまま近くに歩いて首根っこを掴んでもそのままだろうと思える程の呑気さだ。

 

(ダメだ。俺の頭じゃ出てくる発想に限界がある。こういう時は……)

 

 そうしてアメリアに話を振る。こういった現象を話す場合には、知識量の多いアメリアが適任だ。

 

「ここら辺にはフェアリーバードしか居ないけど、それは何でだと思う? 俺達を脅威に感じてないだけで逃げないわけじゃないだろ?」

「え? そう、ね……分からないけど……理由を考えるなら、今居るここが安全だと分かっているから?」

 

 ……ふむ。ここが安全だと分かっているか。

 つまりは餌が豊富で危険が少ないと。餌……

 

「フェアリーバードって何を食うんだ?」

「食べるもの? 基本的には虫ね。ただ、魔力の豊富な虫を好むらしいわ」

 

 魔力の豊富な虫か……虫も発生する前に食べたもので魔力量が豊富になるらしい。特に魔力を持つ生物を餌にするといい。そんな雑学が脳裏に浮かび……ふと、元の世界での記憶が蘇る。脳裏によぎったのはカラスだった。

 もしも……もしも、フェアリーバードの知性が高ければ、己が体を晒すことで捕食者を油断させた場合はどうなる? もしも、そこに更に上位捕食者がいる場合に……そいつが食べ残したカスから蛆などの虫が捕食すれば? フェアリーバードは労せず魔力の豊富な虫を食べることが出来る。

 

「……罠、って事か?」

 

 フェアリーバードに気を取られて致命的なまでに時間を……!?

 

「――リズ!」

「ん!」

 

 俺が脳裏で可能性に行き着き声をかけると……リズは咄嗟に俺とアメリアを抱えて退避。ザミアは武器を構える。

 その瞬間――大地が割れた。

 

『GOGAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 上空へと伸びていく一本の巨大な塔……ではない。バラバラと降り注いでいく石や土。場所によっては出来損ないの竜と呼ばれる魔物。

 ――サンドワームだ。

 

「嘘だろ!?」

 

 この地域に存在しない魔物――渡りか!?

 魔物の中には異常に成長した結果……一つの縄張りでは己の体を維持することが出来なくなった特殊な個体が存在する。それは、常に魔力という餌を求めて住処を変えて狩りを続ける生体から渡りと呼ばれている。

 本来のサンドワームは、流砂のような細かい砂を掘り進めていく。だが、目の前の奴は固い地面を削りながら出現した。つまりは、本来の生息域を超えてやってきている。

 

「――戦闘、開始!」

 

 ザミアの言葉に全員が武器を構える。ザミアは、サンドワームに食われる寸前で武器を口内に突き立てて耐えていた。

 あとちょっと遅ければ、ザミアは食われ俺達の誰かが被害に遭っていただろう。だが、それでも時間の問題だ。巨体で浮かび上がるサンドワームに地中まで連れて行かれれば後は死を待つしかない。

 

 

「【焦熱・燃焼】!」

 

 魔法を咄嗟に唱える。しかし、サンドワームの皮膚は水分の蒸発する音を立てるが無傷のままだ。

 

「サンドワーム、相性が悪いわ……」

 

 アメリアが小さい声で呟く。

 

「大丈夫か?」

「……あんまり……ダメかも……砂漠に住んでるから、熱耐性があるし……」

 

 アメリアの得意とする魔法は火に関するものだ。確かに、本来の敵よりも効果が薄い。

 

「【我らと歩みし大いなる力よ。かの者に力を与えたまえ】!」

 

 ミライは詠唱をし、ザミアの肉体を強化する魔法を使っている。

 だが、それはザミアが受けるダメージをそのままミライの魔力で肩代わりをしているだけだ。ドンドンと消耗して体力が削られていくのが分かる。

 

「っ……!」

 

 リズもザミアを救出しようと狙うが、巨体とその慣性を活かした動きを前に追いつけない。

 間に合ったとしても、正面の口に飛び込むリスクを考えればリズでも無事に逃げ切れるのか分からない。

 

(不味い、不味い。どうするべきだ!?)

 

 サンドワームという存在は知っていた。だが、情報は殆ど仕入れていない。どんな生態をして、どんな攻撃をしてくる?

 後悔は先に来ない。ザミアの捕食が難しいと判断したサンドワームは頭部を地面へと向け、そのまま垂直に体を落下させていき――

 

 

「あれ? 姉御、何してるんすか?」

 

 爆音と共に、慣性を無視した挙動でサンドワームの頭部の軌道が捻じ曲がる。

 ――それは、たった一人の男が剣によって弾き飛ばした結果だった。そして、ザミアはその男が小脇に抱えて救出していた。

 

「あの時の……!?」

 

 ザミアを姉御と呼んだ勘違い男が、渡りのサンドワームを吹き飛ばしたのだった。

 

 

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