闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「んー? あ、ユーマ~。やっほー」
「……アメリア、とりあえず何やってんだ?」
「いやー、お休み期間だからゆっくりとダラダラ読書を楽しみながら……うあー!? 引っ張らないでー!」
「ええい! お前に無理は言わんが、せめて人と話すときくらいは座れ! ベッドの上でジュース飲んで菓子食いながら本読みつつ回答してんじゃねえ!」
アメリアの部屋にやってくると、俺がドン引きするレベルで堕落を極めていた。
少なくとも、秘密を知っているとは言え家族じゃない俺の前でこのレベルでだらけた姿を見せれるコイツは凄いと思う。勿論マイナス方面で。
「……で、四日後に備えた話をしたいんだが、いいか?」
「えー……? 本当にしないとダメ?」
「まあ、無理強いはしない。ただ、マジでヤバいからな……ちゃんと、意思の摺り合わせくらいは必要だろ?」
「うぐう……それはそうなんだよね……あたしの実家でも、弱い魔物でも未開区域に行く時は綿密な打ち合わせしてたからなぁ……ちゃんとやらないとダメかぁ……」
貴族の仕事である大討伐というのは、俺はあまり遭遇したことはないが定期的に行われるイベントだ。
それは実力の高い魔法使いを揃えて物量の魔法の力で未界域を焼き払って進んでいくというもの。一見すると、全部これでいいように見えるかもしれないがこれには欠点があるらしい。
「なあ、気になったんだけど」
「んー?」
「貴族の大討伐なんていうのがあるなら、貴族で無理矢理未界域を押し上げたり出来ないのか?」
「あー、そう考える人居るんだよねー。魔法ってスキルと違って長射程高火力で安定した出力の技術だから、過去の皇帝の中にも居たんだよ。大討伐から大征伐だって言って貴族を動員して未界区域を無理矢理開拓する案」
ちょっとムカつく言い方だったが、過去にあったのか。
「それで、どうなったんだ?」
「大征伐に参加した貴族の八割が死亡。その大征伐を指揮した皇帝は責任を持って自刃。で、そのせいで一時期は帝都の居住区域も危うくなる暗黒時代の到来だったんだってー。うちの血筋もヤバかったらしいよ」
「……そんだけ死ぬって何があったんだよ」
「魔力を大量に消費されたことで、餌を求めてきた渡りが続々集まってきたの。魔物でも、本来そこに出てこないような深層で眠ってるような怪物まで目覚める始末だったんだって。まあ、魔物からすれば自分たちの餌になる魔力でアピールされたわけだからね。捕食者からすれば、そりゃ罠だとしても食べに行く価値があるようなものだもん」
……なんとなくイメージが出来た。
釣り場で撒き餌をするようなイメージだ。確かに一見すると貴族が優位かもしれない。だが、魔物というのは万全の準備をした上でようやく対処出来る怪物だ。それが徒党を組んで襲いかかってくるだけでも、ひとたまりも無いだろう。
「ゾッとする光景だったんだろうな」
「そういうわけで、魔法使いの魔力の扱いは見直されたの。魔力は魔物を引き寄せる。扱う規模が大きい程に、それに引き寄せられる数も増えていく。結局、あたしたちは魔物を倒せても魔物に勝てないのよ」
「でも、金等級の冒険者だと倒せる噂は聞くぞ?」
「あー、一緒にしちゃダメ。アレは化け物だから」
……アメリアが一瞬で苦い顔を浮かべてそう断言する。
「化け物?」
「スキルで完全に適応して、素手で魔物と殴り合って倒せるような奴らよ? 貴族の仕事であたしも会ったことあるけど、先ず人間性が潰滅してるし」
「アメリアがそんなに言うくらいか?」
「だって、あたしを見て強そうだから殺し合おうとか言ってくるのよ!? 勝てるわけないし! あんなの、見た目が人と同じだけの魔物みたいなもんよ!」
……うわー、そりゃ凄い。
出会いたくないな……とは思いながらも、ザミアの目指すのはそんな化け物の世界なのだからいつかは耐性は付けておきたい。
「……と、すまん。俺が脱線させたな」
「げっ、真面目な話?」
「いや、「げっ」じゃねえよ。んで、魔法なんだが……サンドワーム相手に有効な手段なんだが……」
その言葉に、寝転んだまま転がって近くの本棚から一冊取り出す。歩けよ。
「サンドワームって火山地帯か荒原地帯に生息してる魔物だったから、相性から言えば水系かなぁ……んー、あたし苦手なのよね」
「相性? そういうのがあるのか?」
俺の知ってる知識だと、魔法使いというのは高火力をぶっ放される固定砲台だ。
それが一般的な冒険者の知識ではあるが……貴族のアメリアからすれば違うのだろう。
「魔物によっては、魔力の性質があるのよ。ガラスのコップに熱湯を注ぐと割れちゃうように、相反する性質をぶつけると魔力同士が作用して高い効果を発揮するの」
「なるほど……つまり、火山とかに適応した生物に真逆の性質をした魔法をぶつけてやればいいんだな?」
「そういうことなんだけど……あたし自身が赤系を得意としてるから苦手なのよね……」
「あー、人でも相性があるのか」
「そりゃそうよ。んー、あんまり苦手属性を使っても効果が薄いのよねぇ……」
頭を抱えて悩んでいるアメリア。
……なんとなく思ったのは、アメリアは応用が苦手なタイプだ。良くも悪くも拘りが強くて融通が効かない。ならば、俺からアイデアを出すのがいいんじゃないか?
「……なあ、アメリアが使える魔法ってどういう種類があるんだ?」
「基本的に貴族に求められるのって火力だから……あたしは殆ど火力ばっかりね。最適化してるし、好きなものだからそっちばっかり伸ばしてたんだけど……」
「なあ、いきなり応用を覚えるんじゃ無くてさ」
なので、アイデアとして言ってみる。
「いっその事、もっと特化させたらどうなんだ?」
「……えーっと、どういうこと?」
首をかしげるアメリアだが、その目は興味を引かれたらしい。
「あー、いや。俺が良く知らないんだが魔物に魔法が通用しない理由って分かるか?」
「さっきも言ったけど属性のせいね。自分と近しい属性の魔法だと通りが悪いのよ」
「つまり鎧を着てるようなもんだろ? なら、重ねがけするとかあえて弱い魔法で属性を打ち消し合ってそこに当てるとか……」
「……あ、あー? 出来なくはない……? そういうのやってる奴いたような……んん? でも、可能? 理論的には……魔力のロスを考えて……あー、いや。そっか。貴族のルールとかはどうでもよくて……」
俺の言葉で何かを思いついたのか、急に立ち上がったかと思えば机に向かって何かを書き始める。
「……アメリア?」
「理論としては……あー、それなら魔法自体の座標固定を別属性で……んー、でも打ち消して……いや、それなら……」
(……集中してるなら放っておくか)
アメリアの魔法に対する情熱は本物だ。
ならば、俺の言葉でやる気が出たなら後は結論を待つだけだろう。
「頑張れよー」
返事は帰ってこず、しかしそれだけ集中してるという事の証だ。
そうして、俺はアメリアの部屋を後にして……教会へと向かう。
「ユーマさん!」
「よう、ラミィ」
……名前の使い分け、面倒くさいなぁと思いながらラミィに挨拶をする。
「それで、どうだった?」
「シスターに外泊の許可は貰いましたけども……ちゃんとお勉強をする事になりました」
「……意外とシスター、優しいよな。冒険に出るのを許してくれるなんて」
これだけ才能がある聖職者の子供なら、教会本部に預かってもらい将来を考えて代わりに育てて貰うという話も良く聞くんだが。
「ちゃんと話をして事情を伝えれば許してくれるんです。シスターとしては、教会で聖職者になる以外の道も考えて欲しいってことらしいので」
「そうなのか……ん? じゃあ他にも働きに出てる子もいるのか?」
「そうですよ? 教会が身元を保証して、働きに出て……そこで気に入られて就業する子もいますし、教会に戻ってきてお勉強をして別の道を選ぶ子もいます」
……なるほど。俺も教会に拾われていたら冒険者という道は通らなかった……いや、なんかこれは前提がおかしいな。
「それじゃ……ラミィとしても、いいんだな? 危険だぞ」
「……はい」
少しだけ迷いを見せて……それでも、決意に満ちた目を俺に向けるラミィ
……本音を言えば、俺としてはラミィにはどこまで冒険者として……いや、大人として扱うのかを考えあぐねていた。
彼女は能力で年齢を誤魔化していた。つまりは、子供だ。その選択は……勢い任せで正しいとは言えない。そして、それを正す事ができる大人は俺だけなのだ。
「冒険者として……本気で上を目指すことになる。命の危機も増えるし、ラミィに無理を頼む事も増える。それでもいいんだな?」
「……覚悟してます。わたし、ずっと心の中ではモヤモヤしてたんです……だって、騙してるから……皆さんが本気で冒険者として頑張ってるのに……子供の私が、いいのかなって」
俺が何かを言うまでもなく、己の選択に対する覚悟をラミィ自身が考えていた。
「でも、あの人に応用力がないって言われて思ったんです」
多分、ソロウに指摘されたことだろう。普段から良い子なラミィも、あの指摘に対して思う所が……
「お前に何が分かるんだ! って! ムカつくって!」
……うん、想像以上にストレートな感想だった。
「それをシスターに相談したんです。こういうことを言われて、こんな風に思ったって事」
「……」
「そうしたら、笑ってこう言われました。「本気だからムカついたんだね。それだけ冒険者見習いは楽しい?」って。わたし……きっと、冒険者のお仕事が好きなんです。皆さんと一緒に頑張れるのが好きなんです」
……この幼い少女は、そう言って俺に笑みを向ける。
それは、俺が何度も見てきた……一人前の冒険者としての表情だ。
「だから……頑張って、あの人を見返してやります! 騙してるかもって後悔しないくらい、皆さんのことを本気で守ります! サンドワームを倒して、それを証明してみせますから!」
その決意に、俺から言う事は無い。
「分かった、ラミィ……いや、ミライ。俺も本気で手伝う。だから……絶対に勝とうな」
「はい!」
そして、ラミィは俺に手を上げてアピールする。
「……はい、ラミィ」
「それで応用ってどうすればいいですか!? 教えてください!」
……うん、まあ気持ちですぐに答えが出るものじゃないよね。そういうのって。