闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「ん、こっち」
俺達は五日目を迎え……未開区域へと足を踏み込んでいた。
渡りのサンドワームは冒険者組合でも存在を確認でき、その脅威はマンドレイクとも勝らずとも劣らないと認定されている。特に、サンドワームという魔物は大地を喰らいながら掘り進めるために環境への影響も大きい。このまま放置されるだけでも、魔の森へ甚大な影響が考えられる。
(調査依頼の時と違う。取り逃がすだけでも、俺達の評価へは大きい影響があるだろうな)
己の実力を見極められない代償は大きい。
被害は街だけではない。管理区域や居住区域の領域にすら影響する。だからこそ、俺達は背水の陣でこの追跡劇を迎えているわけだ。
「止まって」
リズの言葉に全員が動きを止める。すると、ズシンと巨大な体を揺らしながら魔物が通り過ぎていく。
馬鹿げたサイズのクマ型の魔物。歩くだけで周囲の地面が揺れるかのような錯覚を起こす。
「成熟個体のジャイアントベアーだ……」
アメリアがポツリと呟く。
以前に、マンドレイク騒動で管理区域に迷い込んできたジャイアントベアーをアメリアが倒していたが、あくまでもアレは条件が重なった上で弱体化していた弱い個体だったことが、目の前の巨体を見ていれば分かる。
(……とはいえ、弱い個体だったとしてもコイツを一撃で倒せるアメリアの火力も凄いんだな)
そう思いながらも通り過ぎたジャイアントベアーを見てから、リズは気付いたときには近くの木の上に登っていた。
「さっきのジャイアントベアーを追いかける道を通る」
「……サンドワームを探すのに?」
「うん。こっちで間違いない」
――リズの斥候能力を鍛えるために、今日までの四日間で一緒に過去に冒険者たちから聞いた俺の斥候知識の勉強会をしたのだが……それを見事に実践している。
『斥候の仕事は安全の確保もあるが……魔物の動きを読み切って、自分たちの狩りに有利な狩り場へ誘導することが重要だ。魔物共は生きているだけで魔力の痕跡が残るし、感知した痕跡を元に魔物共も行動を決める。それを理解すりゃ、誘い込んだりするのだって楽だ。それを利用してくる個体もあるが……だが、痕跡は基本的に消すことは不可能だ。それを如何にして利用するか。斥候としての実力はここにも出てくる』
俺には実践どころか前提として魔力の気配を読むという行為が出来ないので、無駄知識として仕入れていたものだが……リズに説明をするとすぐに飲み込んだ。
リズが今まで実践していた猟師としての技術も近いらしいが、冒険者になれば「危険な生物を如何にして利用するのか?」と言う方向性になるようだ。
「ユーマ」
「ん? なんだ?」
「これ」
そう言って俺に渡したのは、紙に書かれた線だった……うん、パッと見てものたうち回るミミズとかみたいにしか見えないな。だが、コレが重要なのだ。
「ああ、了解。ありがとうな」
「ん」
俺は歩きながら、それを自分のノートに書き写していく。
――リズはマッピングが苦手だ。周囲の風景をヒントに、自分の通ったルートは覚えているがそれを地図に書き起こしたり、自分の位置を把握するための情報にする作業は何度か練習したが無理だった。
今後のことを考えるならリズが出来るようになると良いのだが……時間も無く、まずは俺が分担をすることを提案した。
(場所からルートはこう通って……ああ、なるほど)
リズの進む道でその意図が分かる。
ジャイアントベアーが向かっているのは未開区域で確認されている魔力溜まりと呼ばれている場所だ。
元の世界で言うなら森の動物が集う湖のような存在と言っても良い。一定以上に成長した魔物は生存に大量の魔力を必要とする。魔力溜まりでは、そこに存在する植物も水も生き物も多量の魔力を含み、人間が食えば毒になるようなものらしい。
「ジャイアントベアーが向かってるのは魔力溜まり……つまり食事をしにいってるわけだ」
「そう」
「そして、サンドワームは地中を動いているせいでここの魔物たちは奴の動向が感知が出来ないんだよな?」
「みたい。地上に出たら分かるけど、地中からの攻撃は警戒してない」
マンドレイクの時は、疑似餌を使って誘い込む形であり賢い個体であれば対応は出来たのだが……魔の森の生態系に存在しない魔物だからこそ、ここに住む魔物たちはサンドワームの存在に対応出来ない。
「……つまり、サンドワームが捕食を狙っている?」
「うん。食事をする時が食べ時だから」
「でも、なんでジャイアントベアーを狙うと分かるのですか?」
その言葉はもっともだろう。
サンドワームは地中に潜り、普通に魔力の痕跡を察知することは難しい。だが、リズは簡単に言う。
「違う。狙わせる」
「え?」
リズはそう言いながら真っ直ぐに、ジャイアントベアーに見つからないように奴が通った道を追いかけていく。
しかし、説明になってないリズの言葉に困惑しているミライは俺を見て困ったように助けを求める。
「……えっと、ユーマさん。分かります?」
「ジャイアントワームは魔力と音を頼りにしてる魔物らしい。だから、ジャイアントベアーが通った道をあえて通って、痕跡を残してるんだ」
地面を潜り進んで、捕食するサンドワーム。当然ながら歩く振動と地上に混在する魔力を頼りに地上を目指す。
その狩り方は複数種類存在しており、例えば以前に俺達が狙われたような狩り場に踏み込んだ獲物に飛びつく方法。そして、ルートを巡回しながら魔力量の多い獲物を捕食する方法。
「あえてジャイアントベアーが通った足跡を、リズが追跡しながらサンドワームが気付くように痕跡を残してるんだ。ジャイアントワームからすれば、かなり油断した魔力の多い獲物が居ると勘違いする」
斥候ではよく取る手段らしい。
あえて、魔物同士を同士討ちさせるように追い込む手法。理屈をリズに説明したが、実践はコレが初めてだろう。だから、上手く行くかどうかは分からないが……
(……ただ、そんな不安を見せても仕方ない。仲間には成功すると自信を見せる……リズは本当に教えたことをちゃんと実践してくれるな)
俺がこの四日に教えたことを全て覚えて実践している。
あくまでも口頭で教えた俺の付け焼き刃の知識だというのに、コレを実現させるリズにちゃんとした技術を教える人間がいれば……今以上に優秀な冒険者になることだろう。
(一段落したら、探しても良さそうだよな)
と、リズとザミア、アメリアは感心した表情を浮かべる。
「……なるほど」
「理屈としては分かるわ。でも、気付かれないように追いかけながら痕跡を残すってかなり大変よね……斥候の技術ってことかしら」
「魔力の扱いもそうですけど、魔力を読むのだって難しいんですよね……話に聞いて試したことはありますけど、そこら中に魔力があるのでどれがどれだかも分かりませんし」
……あれ? もしかして俺が思ってる以上に凄いコトをやってるのか?
魔力という謎の力に関することに関しては俺が門外漢過ぎるせいで、無茶振りをしてるのかどうか判断が付かないのだ。だからリズにとんでもない事をサラッとやってみると良いと言って、彼女が実践をするというパターンになって来ているが……うーん、やっぱり師匠が必要なのではないか?
「そろそろ、到着する」
「っと、分かった」
余計な思考を打ち切って、渡された走り書きを地図に書き起こしていく。
リズは、追いかけていた足跡から外れて全員を茂みに呼び寄せる。
「ここで待つ」
「サンドワームとジャイアントベアーが戦ったら余波で巻き込まれないか?」
「大丈夫。前に見た時のサイズなら安全な位置」
……スキルの関係なのか、リズは記憶力と観察力が凄いんだよな。応用をあんまりしないタイプだが、それを補って余りあるレベルだ。
魔力溜まりを見れば、そこでは木に生えた果実を食べ始めるジャイアントベアー。ふと、上空を見るとザワザワと鳥が集まってきている。
「……もしかして、あの上空にいるのってフェアリーバードの群れか?」
「そうだね」
……サンドワームの捕食の気配を感じたらフェアリーバードは近寄ってくるのか?
思わぬ情報にメモを取りながら、じっと待つ。ふと気になり、聞いてみる。
「リズ」
「なに?」
「ジャイアントベアーが居なかったら、どういう手段を取ってたんだ? 他の魔物を見つけて同じようにする予定だったりしたか?」
「うん。見つからなかったら、前みたいな待ってる場所を見つける予定だった。でも、それは最終手段」
サンドワームが待って狩りをしようとしている状況。それはつまり、サンドワームにとっては捕食をする上で最適な条件が整っている場所だという事だ。
だから、あえて狩り場を離れるように。美味しい獲物に偽装して誘い出す。
(……そりゃ、俺が斥候は無理だって言われるわけだ)
この世界において魔力が読めなければ。魔力を使えなければ。斥候としての仕事はこなせない。
これが本物というわけか。
「ちゃんと勉強の成果が出たな」
「うん。練習の甲斐が会った」
「……ん? 練習? リズ、お前なんか危険な――」
「来る」
練習という気になるフレーズについて聞きたかったが……
『GIAAAAAAAAAAAAAA!!!』
リズの一言で、大地が揺れてジャイアントベアーが宙へと放り投げられ……サンドワームが現れるのだった。