闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「ソロウ……?」
何故、ここに? というか、サンドワームを倒してくれたのか? ザミアを助けてくれてありがとう……
色々な言葉があった。だが、その全てが言葉に出来なかった。何故なら……前に立つソロウが、異様な雰囲気を纏っていたからだ。
「は、はは、ははは」
ザミアを見て、笑っている。それは、嘲笑などのようなものではない。なんといえばいいのだろうか? やっと、会いたい人に会うことが出来た。そんな笑いだった。
……意味が分からない。姉御と懐いていた、あの俺に意味深な事を言っていたソロウが、何をしているんだ?
「ああ、ああ。やっと、やっとだ。そうだよな。姉御は、助けるんだもんな!」
……異様な光景に誰も動けない。
肉食獣が目の前で食事をしているときに邪魔を出来ないような、触れて爆発すれば生きては帰れない。そんな危ない雰囲気だった。
「長かった……本当に、本当に本当に本当に本当に長かった!! ああ、そうだ! ここで、運命が変わったんだ!」
「なに、あれ」
リズが零した言葉。それは、普段感情を見せない彼女ですら動揺を見せるような狂気。
「姉御……なあ、俺。パーティー作ったんだよ」
ソロウはザミアに笑顔で語りかける。
「今度こそ、間違えないさ。なあ、姉御。大丈夫だ。足手まといはいねえ。もう、姉御がいなくなることはないんだ」
そう言って、グルンと目が斜め上を見る。
「あ? 何言ってんだ? 姉御は目の前にいるだろ?」
「…………」
「ああ、そうだよな? ああ、いや違うか。そうだ。俺が弱いから。俺がカスだからいなくなったんだよな? そうだよな」
グルングルンと、ギョロギョロと。虚空を見るようにソロウの視界が回る。
最初こそ、変だが爽やかな勇者のように見えた好青年は得体の知れない生き物となっていた。
「悪い、姉御。それで、どうかな?」
「……断る」
呆気にとられていたザミアだが、ソロウの質問には一言で答える。
「……私は、今の仲間が気に入ってる。だから、行かない」
あの狂人の、いつ爆発するか分からない男を前にして曲げることなく答えるザミア。
そこまで、俺達を仲間として気に入っていると言い切ってくれる事に照れくさいような誇らしい気持ちになり……いや、冷静に考えて大切な部ー分が抜けている。まずソロウに人違いだと伝えていない。
……まあ、ザミアもテンパってるのか。
「ああ、そうだよな! 姉御なら、そういうよな! はは、いやあ、そうだった。こんだけじゃ、足りないよな。まだ、劇的なものが必要だ!」
だが、ソレも何故かソロウにとっては喜ぶべき事態のようで、嬉しそうに天を仰いで納得をしている。
「ああ、ああ。了解だ! 今はまだ、だよな? ああ、そうだよな。それじゃあ、俺はいったんさようならするよ。大丈夫だ、その時が来るからさ!」
「……その時?」
「じゃあな、姉御!」
だが、答えることなくソロウは未開区域の奥へと消えていった。
……いったい何だったのか。助けてくれたが……それ以上に、俺達にしこりを残した。
「……帰ろう」
「うん」
「……そうね」
「はい……」
本来であれば喝采を上げて、帰還する帰り道。
だが、俺達は素直に喜ぶことが出来なかった。
「――討伐、お疲れ様でした!」
受付嬢さんが帰ってきて歓迎してくれるが、俺達の表情の暗さに首をかしげている。
「あの、どうされました?」
「ああいや、ちょっと嫌なことがあってな……まあ、大丈夫だ。ちゃんとサンドワームの番は討伐した」
「……これだ」
ザミアが取り出したのは大きさの違うサンドワームの牙。そのサイズは中々の物で、それを見た周囲の冒険者たちも感心したような声を挙げる。
「はい、ありがとうございます! 現地で確認を進めていますが、ザミアさん達の報告であれば信頼度は高いです。渡りの討伐……それも未開区域での討伐ともなれば、銀等級冒険者でも中堅以上の実績ですね!」
「……そうか」
だが、その言葉を聞いても複雑な気分だ。
「それじゃあ、俺が手続きを進めて奥から皆は先に酒場で待っていてくれ」
「……分かった」
ザミアたちも疲れているだろう。まずは美味い食事だ。
どうせ、こういうのに慣れているのは俺なので一人待っていると、見覚えのある人が歩いてくる。
「あー、ユーマさん。お疲れ様でした~」
「司書さん」
司書さんがやってくる。
「いやー、見立てを超えましたねぇ……まさかサンドワームが番いだなんてトラブルがあって、解決してしまうだなんて」
「皆が頑張った結果ですよ。俺はッ多少体を張ったぐらいですから」
「……へー?」
何やら、ニコニコと笑っている。
「いいですね。ちゃんと自分がやったって言えるのは~」
「……まあ、多少は恥じない程度には仕事はしたつもりです」
冒険者としての才能がないから……そんな言い訳で、どこか遠慮していた。
だけど、今回のサンドワーム討伐はザミアたちの仲間として仕事が出来た……そんな気がする。
「渡りの討伐、それも未界区域ともなればかなりの評価点になり、これから冒険者組合でも色々と話がありますよ~」
「そうなんですか……あー、司書さんはソロウって冒険者、知ってますか?」
「はい、当然知っておりますよ~」
気になって聞いてみる。
冒険者のことは冒険者組合の人間に聞くのが良いだろう。
「うちのリーダーのザミアを姉御って呼んでるんですけど……」
「……ふーむ、おかしいですねぇ」
「え? 何で知って……」
「ソロウさんがそう呼ぶ当時のリーダーの方は、既に亡くなっていますよ~?」
「……は?」
軽い気持ちの質問は、とんでもない爆弾を投げ付けられるのだった。
――そして、席に戻った俺は説明をする。
「……え? ザミアの元パーティーじゃないの?」
アメリアが呆気にとられた顔をする。
「ああ。司書さんに聞いたんだが……姉御って呼ばれてる人は亡くなってる。だから、ザミアは人違いなんだ」
「そうなの?」
「……否定しようとしたが、タイミングがなかった」
「た、確かに……あの人、一方的に声をかけてきましたからね……」
今回は考えた上で、伝えた方があっさりと解決すると思って伝えている。
ザミアには視線で、変なことを言わなくても大丈夫だと伝える。ザミアも俺の意図を分かったのか、頷いた。
「ただ、冒険者って言うのは思い込みの強い奴が多い……ソロウって冒険者は優秀だが、何かとトラブルの噂が絶えないらしい。だから、今回は警戒をするってことで、あいつを刺激しないようにしよう」
「……ごめん、迷惑をかけた」
「別に大丈夫」
「変な人に絡まれてるだけじゃない、ザミアは」
「ええ……困ったことがあればお互い様ですよ」
全員がザミアの謝罪を必要ないと切り捨てて、笑顔で受け入れる。
「……ありがとう、皆」
「それじゃあ、乾杯しようか。疲れただろ? ここで、ちゃんと食べて元気を出さないとな!」
そうして、俺達はその日は報酬で、腹一杯ご馳走を食べるのだった。
「……ユーマ、ありがとう」
「ん? 何がだ?」
「……説明をしてくれて」
帰り道、ザミアと一緒に帰っていた。
「いや、今回は説明した方が良さそうだったからな……変に勘違いは増やしたくないだろ?」
「……うん、増やしたくない」
ホッとした表情を浮かべている。
……勘違いされやすい彼女たちが抱え込むものは少ない方が良い。
「……これから」
「――よう、ようようよう! 姉御、姉御じゃないか!」
……そして、タイミングが良いのか悪いのか……ご機嫌な様子の、浮かれたソロウが俺達へと声をかけてきたのだ。