闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
――さて、俺達は魔の森を中心とする森林地帯を出発する準備を進めていた。
「まあ、確かに実績を考えれば帝都に呼び出しにはなるよなぁ」
思い返す。冒険者組合で受付嬢さんからの説明は当然のものだった。
『この短期間での危険度の高い魔物の討伐。そして、管理区域の維持と未開区域の開拓。こちらの功績は冒険者組合としても、ただ一地方の冒険者として放置出来るものではない。その功績が実態と合っているか? また、合っているなら適切な保証を受けれているか? 更には、適正から現在に置いてまで保留されている依頼の検討なども含めて帝都へと来るべし。とのことです』
『……帝都』
『運送組合はこちらで用意しております。道中は長くなり、未踏区域をルートに使いますが……一般的な方法よりも安全ではあります。これは冒険者組合本部からの命令となるため……申し訳ないのですが、冒険者であり続けるのなら絶対に出る必要があります』
『面倒ね……まあ、でも久々に里帰りになるのかしら?』
『そういえば、アメリア様は帝都出身でしたね! 一応、当ギルドからも付き添いを出しますので帝都での手続きや案内などはお任せください! ……残念ながら、私は新人なので私以外の方が担当します』
と、まあそんな感じだった。言わば、流石に銀等級冒険者としてあり得ない速度で昇格をした上に危険度の高い魔物をバンバン討伐しているパーティーがいるなら、こっちでも確認させろという話だ。
昔は冒険者としての経歴を偽る詐欺なんかもあったらしい。いずれ帝都に呼び出される事はあると思ったが……ここまで早いのは想定外だった。
……そして、その上で一番の問題があり、俺はある場所へと向かっている。
「うう……シスターにどう説明をすればいいんでしょうか……? 流石に説明をしないとダメですよね?」
「俺が良い感じの言い訳を考えておくから、覚悟を決めとこうな。早いほうが予定を立てやすいだろ?」
「は、はい……」
俺はラミィと一緒に、街角で二人並んで歩きながら打ち合わせをしていた。
帝都へ出かけるために長期間の遠征となり、道中では危険な未界域だって通る事になる。早くても一ヶ月以上は返って来れない……なんなら、帝都で何かしらの出来事があればいつ帰れるのかも不明となる旅だ。
(そうなると、当然親元の確認は必要なんだよなぁ)
教会所属の孤児院育ちの女の子を勝手に連れ出すわけにはいかない。
……というわけで、その許可を取りに教会へ向かっていた。
「帝都にはラミィは行ったことあるのか?」
「いえ……孤児院でずっと過ごしてきたので、この街から出たことは記憶にある限りはないです」
「まあ、そりゃそうか」
「そういうユーマさんは……?」
「実は一回だけあるんだよ。帝都に行ったこと」
「ええええ!?」
驚いた表情を浮かべたラミィ。それはそうだろう。
なにせ、先ほど言ったように危険な未界域を通る危険な道中。つまりは、金を積んで安全を買うか、危険を承知で金を使わずに行くかの二択。そして、俺を見ても金がないので当然ながら危険を承知で行ったことになるからな。
「す、凄いです! 大聖堂は!? 大聖堂は見たんですか!?」
「……一応ちょっとだけ帝都に行ったときに見に行ったことはあるが……」
「そうなんですか!? どうでしたか!?」
大聖堂……教会。しいては僧侶の聖地。
かつて、神聖魔法を作り出した聖者が過ごした終の棲家と言われている。まあ、そんな凄い場所なのだが……俺には縁がなかった。まあ、魔法が使えないって分かってから行ったからしょうがないね。
「あの時はまず、トンデモ依頼だったから観光はしてないんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。昔の……昔の仲間と一緒にな」
少しだけ、痛い。
だけど、それだけだった。
(……ああ)
思い出になったのだろう。前に進めたのだろう。それは嬉しいことでもあり……寂しいことでもあった。
「……ユーマさん?」
「ああ、いや。悪い。まあ、変則的なハズレ依頼でな? 簡単に言えば街道を使って火山地帯まで届け物をするだけだったんだが……渡りが道中で現れてなぁ」
当時の俺達は何も分からなかった。というか、後から聞いて偶然にも助かったらしい。
……今なら分かるが、多分俺達が弱すぎたのが功を奏したのだろう。渡りが求める餌は潤沢な魔力を持つ獲物だ。そういう意味では運が良かったのかもしれない。
「で、ルートを潰されて更に遭難。なんとか正規じゃないルートを必死こいて逃げ回ってたら……偶然通りがかった銀等級冒険者に保護されたんだ」
「その方々に、帝都まで連れて行ってもらったんですか?」
「ああ、まあそこからはギルドに報告して、素直に帰ったんだが……まあ、あの時は必死だったから、せめてちょっとくらいは見ておけば良かったよ」
……そういえば、あの時の銀等級冒険者たちはどうなってるだろうか?
もしかしたら、帝都に行って会えるかもしれない。期待しておこう。
「……と、ついたな。ラミィ、ちゃんと覚悟はいいか?」
「は、はい! きっと説得して見せます!」
……そして、俺達は教会の門を叩き――
「ダメです」
当然のように断られていた。
「ええ!?」
「ええ! じゃあありません! ラミィ……貴方、分かっているんですか!? 帝都に行くには恐ろしい人の開拓していない道を通らなければいけないのですよ!」
……シスターの危惧は当然のものだ。
今までも危険ではあるが、未開区域ではなく管理区域内で活動をするのであれば余程の不幸がなければ生きて帰る事は出来るだろう。だが、帝都に向かうのは余程の不幸など待たずとも死んで会えない可能性だってある。
「ユーマさん! 流石に言ってあげてください! 子供が軽い気持ちで行けるような場所ではないのですから!」
「……むう」
困った。俺達『夜明けの月』が呼ばれている以上はミライとして、彼女には来て貰わなくてはならない。
だが、シスターが許可を出さなければ当然出発できない……もしも、ここで不満を募らせてしまいシスターがラミィの行動制限やら、冒険者活動の手伝いを打ち切ると言ってしまえばそれまでだ。
……難しい。どう説得をすれば良いのか。
「でも、シスター! 大聖堂が見れるんですよ!」
「はぁ……ラミィ、確かに魅力的なのは分かるけども……」
……そうだ。
「すいません、シスター……確かに危険なのは分かります」
「そうですよね……ラミィに何かあると思うと……それに、今でも長い時間を離れる事が多くて心配ですし、最近では危険な魔物まで出没していると聞きますし……」
「ただ、それだけの価値が……いや、ラミィを連れて行きたい理由があるんです。俺は昔、帝都に一時期滞在していた時期がありまして……その時に大聖堂で偶然出会った神父さんと仲良くなったんです。優秀な子のラミィを、その友人に紹介できたらなと思いまして」
「えっ? ええ? え!?」
……俺の言葉でシスターが目を丸くする。何ならラミィも聞いてないと言う顔をしていた。
実はこれは嘘では無い。かつて大聖堂に行ったときに偶然出会った神父見習いと話をして、ちょっとした約束をしていたのだ。
「無理を言ってる自覚はあります……でも、優秀なラミィに大聖堂へと繋がる道が用意できるかもしれない……なんて考えてる俺の我儘です。ただ、この機会を逃すと俺達が帝都に行く機会は殆どありません。だから、ラミィを帝都へ連れて行くことを許可して頂けませんか?」
「…………」
シスターはその言葉に悩んだ表情を見せる。
……ラミィの目的は、この教会の存続……引いてはシスターが残ってくれることだ。だが、シスターは恐らくここを離れる可能性を考えて覚悟している。だから、危険だとしても……シスターがいなくなった後に、ラミィに新しい道が開けると考えれば悩んで当然だろう。
……なんだか、シスターの両親につけ込んでるみたいで嫌だなぁ。
(ゆ、ユーマさん……聞いてません!)
(言ってないからな……それに、当時見習いだったんだよ。その友達。今はどうなってるか分からないから、別に繋がるかどうかも未知数だ。ただ、シスターを説得する材料がこれしかなくてな……)
(それは分かりますけども……ああ、神様……嘘つきな悪い子になった私を許してください……)
内緒話をする俺達を見て、シスターは悩んだ末に答えを出す。
「……ユーマさんは、熱心にお墓参りをしてラミィの面倒を見てくれて……そして、冒険者としても活躍をしていて信用出来る方だと分かっています」
「はい」
「だから……本当は、絶対にダメだと言いたいです。でも、ラミィに新しい道が開ける可能性があるのなら……許します。ですが、ラミィ。勘違いをしないように。これはユーマさんの信頼の上で、許したことです」
「は、はい! 分かっていますシスター!」
「……それと、もう一つ」
そう言ってから、立ち上がってシスターはラミィを抱きしめる。
「……絶対に無事に帰ってきてね……いつだって、見送った後は心配で眠れないくらいなんだから」
「……いつも心配かけて、ごめんなさい……シスター」
「謝らないの……元気に行ってきますでいいから」
……俺、場違いだなぁ。
動く事すら出来ず、ふたりに存在を思い出して貰うまで空気を読んで黙ったままお茶を啜るのだった。
「すいません、ユーマさん……!」
「ユーマさん、ごめんなさい」
「いやいや、シスターの心配は当然ですから。ラミィも出発準備はしっかりな?」
「はい!」
「ラミィのこと、よろしくお願いします」
そう言ってシスターたちを別れて俺は帰路につく。
……しかし、帝都か。本当に久々だ。改めて実感が湧いて、ワクワクする気持ちを抑えながら俺は足取り軽く歩くのだった。