闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「ではでは~、長い道中になりますがよろしくお願いしますね~」
「……司書さんが付き添いの組合員なんですね」
「悲しいことに、暇なのが私しかいなくて~。こういう不測の事態の時に、余裕があると駆り出されるのですよね~」
帝都へと向かうための馬車には、司書さんが待っていた。
俺とリズ見知った顔なので多少は話しやすい……いや。どっちだろうか? リズが司書さんをどう思っているのか、よく分からないんだよな。
とまあ、それは置いておくとして……用意されている馬車は立派な物だ。それこそ、俺が以前に帝都に行く羽目になった火山地帯行きの馬車と比べて三段階くらいグレードが違う。なにせ、後ろの客車の部分が住む事が出来るようなサイズだ。
「……凄い」
「んー、久しぶりの馬車だけど……面倒くさいわね。お尻も痛くなるし」
「お前これでお尻が痛いとか言ったら、俺が昔載ってた馬車だと取れるぞ……」
俺と同じ庶民感覚のザミアは感動しているが、貴族育ちのアメリアはげんなりした表情だ……まあ、アメリアはインドア過ぎて外出自体があんまり好きじゃないのはあるんだろうが。
それはそうと、リズは興味深そうに馬をじっと見ている。
「気になりますか~?」
「大きい」
「魔物と掛け合わせて改良された馬ですからね~。帝都でも、あまり飼われていない貴重な品種ですよ~。魔の森という環境ではないと、中々こういう個体は育たないそうですね~」
司書さんの解説を聞きながらも俺達は荷物を積み込んでいく。
まあ、こんな立派な運搬方法を用意してくれたのだ。恐らくは安定した道中になるだろう。
「ユーマさん、楽しみですね!」
ミライも、周囲に気付かれないように俺の裾を引いてテンション高く興奮している。
……まあ、街から出た事のない子供からすれば帝都に行くというイベントに加えて初めての乗り物。そりゃ興奮する以外にないだろう。
「そうだな。お土産も買って帰らないとな」
「はい!」
「みなさーん、そろそろ出発しますよ~」
司書さんから、出発をするという言葉をかけられて馬車に乗り込む。
「ではでは、帝都に向けていきましょうか~」
そして、俺達は高級な馬車に揺られて帝都へと向かうのだった。
――そして、その馬車が出発したのを見て追いかける影があった。
「間違いないか?」
「恐らくは」
「ほぼ、間違いないだろう」
3人組の男たち。黒い漆黒のフードに身を包み、顔を隠して不思議と周囲に聞こえないように木の上で会話をしている。
「おー、出発したなぁ」
「だな。まさか、銀等級になってすぐに居なくなるたぁ……忙しいもんだな」
「まあ、『鉄の薔薇』も帰ってくるらしいからな。万年底辺銀等級だが、先輩として俺達が留守は守らねえとな」
……その木の下を、和気藹々とした冒険者たちが通るが、その気配に気付くことはない。決して経験の浅いわけではない、実績のある銀等級冒険者だというのに。
そして、3人は異口同音に告げる。
『闇の手を抜けし者に死を』
そして、標的を見定める。
「【闇の手】、元第三支部の天才……」
「名すらない。音なき暗殺者」
「ある日失踪し、第三支部を崩壊させた罪人」
そして、馬車を見てその名を告げる。
『冒険者リズ、お前を消す』
……知らないところで、新たな因縁が生まれ……その3人組は馬車を音もなく追いかけるのだった。
「……平和だなぁ」
「そーですねぇ」
俺は馬車の外。荷車の縁に腰かけて揺られながら外の風景を眺める。隣で何故か司書さんもノンビリ見学だ。
……揺られるとはいうが、あまりにも快適だ。俺の知っている馬車というのは、なけなしの身銭を切って体を跳ね飛ばないように押さえつけながら尻と頭の安全を守りながら無事に到着するのを祈るものだった。だが、今は冒険者組合の金で優雅な旅を楽しんでいる。
これが、冒険者として成り上がるということか……
「あ、ユーマさん」
「ん?」
「見てください。あっちに呑気に歩いている魔物ですよ~」
「……ああ、シープカウか」
馬車を見ても反応せずに呑気にモシャモシャと草を食っている魔物。それはシープカウだ。モフモフとした毛に身を包んでいるが、走り出せば下手な馬よりも早い。
魔物の中にも種類がある。基本的に敵対的な種族ではあるが、その中でも温和な存在は多いのだが、その中でも代表例だろう。
「珍しくもないだろ。この地域だと特に、シープカウを畜産して飼っている所も多いし」
様々な地域に依って差はあるが、魔の森に属する森林地帯ではこういった多種多様な生態系。そして、人が扱える魔物の存在が大きい。
シープカウもそうだが、他にも畜産化……人と共生することができる魔物が多く存在している。
「いえいえ、実は私は派遣されてこちらに来たので~。あまり詳しくないのですよね~」
「え? そうなのか?」
「そうではないと、案内役に選ばれるわけないじゃないですか~」
……そりゃそうか。いくら人手不足だったとしても、帝都のことを知らない受付嬢を同行させても意味がないもんな。
「結構馴染んでるから長いと思ってた」
「まー、司書として赴任してからあまり表に出てませんしね~」
「冒険者組合って、そういう赴任とかあるんだな」
「ええ、そうですよ~。これでも帝都で組合に所属したので~」
こんな、牧歌的な話をしながら旅をできるなんて本当に幸せだ。
当時は馬のほうが積荷の俺達よりも偉いので、馬主が動かしている間に馬の面倒を見たりご機嫌伺いをしていたというのに……そんなことを思いながら、もうちょっと詳しいことを聞こうとして……
「……ユーマ」
「ん? ザミア、どうしたんだ?」
「魔物が来てる。戦闘準備」
「ああ、了解」
そう言って行こうとして……なぜか、司書さんに止められる。
「……あの~、ユーマさん?」
「ん?」
「えーっと、戦闘に参加するのですか~?」
「ああ、そりゃ当然だろ。冒険者なんだし」
その言葉に、なんというのだろうか……奇妙な表情を浮かべている司書さん。
まるで、珍しい虫を見つけたときのような感じだ。
「えーっと、行っていいか?」
「……あ、はい~。大丈夫ですよ~」
その言葉に俺はザミアたちの元に合流して、馬車を狙ってやってきた魔物との戦闘に参加する。
「……なるほど~。これはたしかに、狂ってますね~」