闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「……ふわぁ、もう朝か」
ガタガタと揺れる道中。思った以上に何もない。たしかに魔物の襲撃はあるのだが……それも、普段に比べれば相当に平和だ。というか、【夜明けの月】として活動してるときがトラブル続きすぎるだけかもしれない。
馬車の中に備え付けたベッドから体を起こせば、普段暮らしている宿と遜色がない……何ならちょっと豪華かもしれない内装にも見慣れてきたことに自分でも驚きだ。
(……さて、そろそろ未開区域に突入する頃か)
――ここまでの平和な道中は、あくまでも道中でしかない。
帝都に行くためには未開区域を通る必要がある。なぜこのようなことになっているのかといえば……過去に倒した巨大な魔物が関係してるらしい。
「巨大な魔物の結界なぁ」
「それなに?」
「それは……おわあああああ!?」
なぜかリズがいた。隣に。
あまりに驚いて呼吸が止まるかと思ったぞ。
「どこから入ったんだよ!?」
「入口から」
「マジか……いや、本当に気づかなかったぞ……また隠密うまくなったんじゃないか?」
「ん」
ムフーとした表情……は出てねーや。でも態度でわかる。ドヤ顔をしている。
……こうしてみると、意外とわかりやすい。いやまあ、こんだけ生死の境を彷徨いながら一緒に頑張ってきたのだからせめて俺くらいはわかってないといけないが。
「それで、結界って何?」
「……あー、そういえばリズは知らないのか……まあ、帝都に行くってならないと知らない知識ではあるか」
「教えて」
意外とリズは知識欲が高い。
俺が文字を教えたのもそうだが、何かと俺が知っている事があると教えて欲しいと言ってくる。なんというか、この世界に来たばかりの俺を思い出して微笑ましい気持ちになりながら説明をする。
「――まず、帝都っていうのは元々は森林、火山、大湖、荒原のどこからも外れた僻地の中央で偶然見つけられたんだ」
「そうなの?」
「ああ。本来であれば人間が住むことが出来ない魔境……と。言われていた」
――太湖と荒原の未踏領域を超えた先には、別大陸がある。
しかし、そこも決して平和というわけではない。そちらで行き場を失った者たちが流れ着いたのがこの大陸なのだという。
「で、流れ着いた奴らは危険な未開区域を乗り越えて偶然、魔物が寄りつかない緩衝地帯とも言えるような場所を見つけた」
「それが帝都?」
「そうだ。帝都っていうのは、4つの地域の中央地点にあるからこそ、それぞれの魔物が侵略してこない。そんなところを見つけた初代皇帝は街を作った」
流れ着いた人間たちではあったが、それでも未開区域を乗り越えた人達だ。その実力は今で言う金等級冒険者に相当する。
――だが、緩衝地帯なのはお互いに利がないからだ。魔物とはいえ、中央に突如として餌が拠点を構えたのだ。そして……その緩衝地帯周辺を縄張りにしていた巨大な魔物たちは襲いかかってきた。
「だが、当時の精鋭の冒険者たちは迎え撃った……相手が魔物だからこそ、そいつらを同士討ちさせながらな」
「同士討ち……? 攻めてきたのに?」
「そりゃそうだ。勝った後に縄張りがどうなるのか。ここで倒れれば自分の縄張りを増やして更に良質な餌を食える……ある程度、育った魔物は賢くなる。だが、その時は賢さが仇になった。お互いがお互いに争いながら片手間に人間たちを襲った」
――だからこそ、その状況を最大限に利用したのだ。
決してチャンスが来ても倒さず、あえて倒されそうな魔物を加勢し、あえて見逃し、状況を常にコントロールし続けた。その結果……4匹の強大な魔物は疲弊し、それぞれが当時の冒険者たちに倒される程に弱ってしまったのだ。
「――そして、同時に討伐隊を組んで四匹同時討伐を狙ったんだ」
「勝ったんだ」
「討伐には成功。だが、その時に討伐隊は誰も帰ってこなかった……まあ、初代皇帝の最大の功績にして、最大の罪と言われている」
魔物の死体は、土地の栄養となり……新たな生態系を形成した。皮肉にも、その巨体によって作られた未開区域が帝都を守る壁として機能するようになったのだ。
だからこそ、帝都は攻めるも守るも難しい堅牢な場所であり……あらゆる地域の中心点。そして、冒険者たちにとっての聖地となったのだ。
「――っていうことなんだ」
「知らなかった」
「まあ、帝都に行く予定がないと知ることはないからな。で、俺達は魔の森の未開区域に突入する。そこを超える必要があるんだよ」
「大変」
「そうだ。大変なんだ」
……と、雑談も程々に声が掛かる。
「皆さーん、ちょっと外に出て頂けますか~?」
「……ん? 司書さん?」
言葉に従って外に出ると、帝都行きの魔の森未開区域入り口は……倒木によって塞がれていた。
「……これは」
「うわ……これ、流石に乗り越えて行くには馬車じゃ無理よね?」
「そう、ですね……」
ザミアたちも不安そうな表情を浮かべている。
「それで、どうするんだこれ?」
「まー、迂回ですねぇ……迂回ルートだと、ちょっと時間が延びますし……こちらよりも安全の保証がない道になります~」
「運がないな……」
「では皆さん、馬車の旅はもうちょっと続きますので~」
そう言って司書さんに連れられてザミアたちも馬車へと戻っていく。
俺も戻ろうかと考え……ふと、後ろを見るとリズが倒木を見ていた。
「どうしたんだ?」
「……ちょっと、変」
「変?」
「ん。自然じゃない」
そう言って根元を指さす。
……確かに、倒木というのは自然に折れたり魔物によって破壊されたのであれば折られた痕跡がある。
しかし、確かに指し示した倒木の折れた面は一部だけ、妙に綺麗だ。
「……ホントだな」
「警戒するべき」
「皆には……いや、そうだな。言わないでおくか」
「ん」
俺だけに共有したのは信頼をしているからもあるが……基本的には他の皆に未開区域で余計な心配をさせないためだろう。
旅というのは消耗をする。その中でザミアならまだしも、情報の少ない中でアメリアやミライが常に警戒状態を続けて消耗すればいざという時に魔法を使えなくなる危険だってある。
「俺は警戒しておく。リズ、頑張ろうな」
「うん」
仲間に伝えるのも大切だが、余計な不安を与えず万全の状態にしておくのも重要だ。
――俺とリズ、ふたりでこの先の道に対する警戒を強める事を決め……
「――おふたりともー、出発しますよ~」
「あ、すまん。行くか」
「ん」
そして俺達が馬車へと乗り込み……
「…………」
何故か司書さんは、俺達をじっと見ているのだった。