闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
投げ飛ばされた俺は木に背中を打ち付けて痛みに顔をしかめる。
だが、心配をさせないために必死に声を押し殺す。ここで余計な情報を入れれば、集中しているリズの邪魔をしてしまう。追撃は……こない。リズもそれを確認して俺を見る。
「ユーマ」
「ごほっ……ああ、逃げるぞ!」
立ち上がり、そのままの勢いで走り出す。痛みは多少あるが、慣れたものだ。
冒険者をしていたが、万年銅級だった俺には、背後から追ってくる人間の気配なんて感じ取れない。というか気配を感じるってなんだよと心の中で罵倒する。
「げほっ……ふぅ……リズ! 相手は分かるか!?」
「ごめんなさい」
リズは横に首を振る。まあ仕方ない。リズは魔物を相手にするための勉強はしてきた。だが、対人間の技術などは学んでいない。やはり、魔獣を相手にするのと人間を相手にするのでは大きく違うのだという。
(対人向けの鍛え方と魔物向けの鍛え方は違うからこそ、人を狙う奴には気をつけろだったかな……)
危険な魔物を相手にするよりも、危険な魔物を倒して疲れ切った人間を狙う方が楽だと狙いを人に変えた奴らは存在する。だからこそ、信用出来る仲間とチームを組むことが重要なのだ
どれだけ強い人間でも、人であるうちは油断や隙は生まれてしまう。まあ、そういう枠を破壊してしまうような怪物もいるが……それはまた別の話だ。
「なら、このまま皆に合流するように逃げよう。孤立しているところを狙ったって事は、真正面からの戦いが得意……なのかは分からないが向こうも避けたいんだろう」
「うん」
俺の指示にリズは馬車へと戻るためのルートを通ろうとして……いきなり、別の道へと進路を変える。
「リズ? そっちは離れる方角……」
「罠があった」
「……そうだよな。すまん、助かった。どんな罠だ?」
そりゃそうだ。孤立をするまで待っていたのだ。それならば、孤立をした後に俺達を逃がさないための仕込みくらいはしているだろう。
「多分、落とし穴。それ以外にも草むらに何かあった」
「……入念なことだな。確かに。そりゃ通るわけにはいかないな」
この短い時間……と思ったが、スキルなどもあればこちらの世界の人間の能力であれば落とし穴も相対した手間ではないのだろう。
「こっちの道は、獣道。手を加えられない場所」
「そうなのか?」
「森に慣れてないと見分けられない。それに、人の手が入ると分かりやすい」
そう言って通るのは……確かに、獣道というよりも俺からすれば遭難している真っ最中みたいな道だった。
「危険。オススメしない」
「いや、一人なら絶対に入らないから大丈夫だ」
「良かった」
地面は歩ける場所はある。だが、それが道と判別は出来ない。リズの先導でなんとかついて行っている状態だ。
リズはスイスイと歩きながら、俺がついて行けるように足場を作り先導している……やはり斥候としての実力の上達がすさまじい。俺の知ってる斥候、ここまで出来なかったぞ。
「こんな道だと、流石に……」
「木の上を通ってきてる」
そう言われて走りならがきくと、確かに木がガサガサと揺れる音が聞こえないこともない……風もなく、木が揺れる事は無いと考えれば襲撃者か獣の二択だろう。
「……なんだよ、マジで」
「でも、森に慣れてない。多分、知ってるだけ」
「そうなのか?」
頷いたリズ。彼女が言うならそうなんだろう。
「……これなら、ユーマが手伝ってくれたら……なんとか出来るかも」
「というと?」
「成功するか分からない。けど、可能性がある」
……珍しい。リズからの提案。
何かを選ぶ事を好まず、指示に従っていたリズからの提案。それに俺は迷いなく答える。
「分かった。リズが言うなら俺は信じるだけだ。やってみよう」
「ん」
「それで、どういう手を取るんだ?」
「それは――」
真っ直ぐに俺を見てリズは自分が思いついた作戦を伝える……そして、それを聞いた俺はほんの少しだけ、不安の方が勝ってしまうのだった。
「……」
「……」
『闇の手』を名乗った男たちは、無言で木の上からリズとユーマの追跡を続けていた。
全くの無言に見えるが、彼らは暗殺者に伝わる技術によってお互いに意思疎通を取っていた。だからこそ、リズやユーマへ気配を一切漏らさずに、連携して追跡できているのである。
そんな彼らだが、追跡をしながらも追撃を加えられないでいた。
『奴らはどこに逃げている?』
『分からない。こちらのルートは考慮外だ』
『仕方あるまい。これを道とは言わない』
知識がなければ、無謀な突撃をして遭難をしているような状況。
だが、それでも闇の手は足を止めない。何故なら、リズの足取りは決して迷っていない。
木々に体をぶつけ、転びそうになりながらも必死に追いつこうとしているユーマを見ていると、恐らく何かしらの算段があることは考えられた。
『罠の可能性は?』
『だが、罠と行って仕掛けるタイミングはない。見失うことがなければ問題はない』
『確かに。周囲に魔力の気配もない』
強大な魔物であれば魔力を放出しながら餌を求めている。暗殺者たちも最低限、その備えはしている。
例え人が相手であったとしても魔物に襲われる可能性はある。だからこその備えだ。
『だが、このままでは埒があかない。タイミングをみて、次の手を使う』
『分かった。あの男は?』
『人質に使える可能性がある。殺さない方がいい』
『了解した。では――』
そして、算段を付けた暗殺者たちは狙いを定め――
「っ!?」
『なっ!?』
突如として、小さな声を挙げてひとりの存在が消えた。
乱れぬ統率で追跡をしていた暗殺者たちは、予想外の出来事に思考と足が止まる。
『ワンが消えた』
『何が起きた? ツー、見たか?』
『いや、見えなかった。スリーは何か分からないか?』
『すまない。こちらも見ていない』
暗殺者は仲間が消えたことの原因を探っていた。
もしも罠であるのならば、これ以上の深追いは危険だと判断している。しかし、『闇の手』の暗殺者には、撤退が出来ない理由があった。
『……罠だとしてもだ。行くぞ』
『ああ、分かった』
そして追跡を再開する。決して聞こえないように。そして、森の獣にも見つからないように。
――だが、餅は餅屋。リズには「人を狩る技術」の知識はない。だが、逆もまたしかり。リズが積み上げてきた「狩人としての知識」を、彼らは持っていなかった。
決して警戒をしていないわけではない。むしろ、『闇の手』の暗殺者として、あらゆる可能性を念頭に置いた上での警戒をしていた。だが――
『っ!?』
『スリー!?』
仲間が消える。二人でお互いに警戒をしていた。だが、それでいても気付くことなく消えてしまった。
理由も分からず、混乱するツーと呼ばれた暗殺者。
『くっ……これ以上は……』
「ん」
――そして、その油断は当然ながら隙となり暗殺者が認識をする前にリズは男に痛烈な一撃を与えて気絶させるのだった。