闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「…………」
目の前には、縛られて動きの取れなくなった暗殺者の姿。
「リズ、お疲れ」
「ん」
「……成功して良かったな」
「うん」
木の上を眺める……恐らく、俺たちの見えない場所で、ふたりの暗殺者は森の養分となっているのだろう。
リズの提案した作戦……それは、罠を仕掛けるタイプの魔物を利用する方法だった。
(リズが指示を出した木に、俺がわざと体をぶつけたりして刺激を与える。そうすると、罠を仕掛けているタイプの魔物が目を覚まして獲物を狙い始める……か)
リズの言うとおりにリスクのある作戦だった。
俺には魔力がない。つまり、魔物からすれば獲物としての価値が低い。逆に木の上で動き回る魔力を持つ獲物がいる。そうなれば、狙う先は決まっている……という理屈だが、実際に成り立たせるのは難しい方法だ。
(冷静に考えて、移動をしながらリズは魔物の痕跡を見つける。で、その痕跡にマーキングをして俺にぶつかるように指示。かつ、それを自然に見せるルートを選んで追跡者に気づかせない……考えるほど、狙って実現できてるのがおかしいな?)
あらためてリズの表情を見る……うん、やっぱりいつも通り冷静だ。今回は俺が見てもいつも通りの気を張っている状態に見えるので、冷静なままなんだろう。
……と、それよりも暗殺者を捉えたのだ。まずは質問をしなければならない。
「なあ、あんた」
「……」
俺の声を聞いても視線を動かさない……じっと黙って、こちらの反応を観察しているようだ。
「なんで俺たちを狙ったんだ? ……リズのことを狙ったのか?」
「……」
当然ながら反応を示すことはない……まあ、そりゃプロだろうからな。
本物の暗殺者であるなら、尋問をしても黙ったままだろう。俺はプロでもなんでもない、ただの一般冒険者だ。この男をどう扱えばいいのか分からない。
「リズ、どうする?」
「え?」
「この男から情報を引き出したいんだが……いつものやり方で……いや、でも普段とは違いそうだから……」
「???」
首を傾げて訝しげな表情をするリズ……うん、すまん。
実は何もない。だが……状況的にはリズに手伝ってもらえば、ここでの対応は実にスムーズになる。
大前提……勘違いをしているのだ、この暗殺者は。つまりは、この暗殺者はリズを殺すべき恐ろしい存在だと認識している。そして、俺のことは理解していない。だが、協力者であり……謎の手段で罠にかけた策士などに見えている可能性は十分にある。
(つまり……)
視線は……あえて向けない。こういうとき、相手の目を見るだけでもこちらの考えを読まれかねない。
まあ、なれないことをするなら相手に情報を渡さない。それが大切だ。
「いや、悪かった。この後はどうする?」
「……ユーマが決めて」
「いいのか?」
「うん」
「……ふむ」
あえて、考える振りをする。そして、小さな声でつぶやく。
「……魔法……記憶を見れるか……?」
「……っ!?」
「それとも……毒は耐性がありそうだな……なら……」
適当に言っているだけだし、相手に意図はバレているかもしれない。だが、やらないよりはマシだ。
……実際問題、どうするかな。放置をしておくというのもいいんだが……うーむ。
「……ぐっ……!」
「なんだ!?」
後ろで、ガクリと男が倒れる……口元から血を吐いて、ぐったりと倒れていた。
「死んだ!? 毒か!?」
「……ううん。違う。魔力を暴走させた」
「魔力の暴走?」
「うん……ちゃんと魔力を制御しないと、こんな風に体の何処かが壊れて死んじゃうの」
「そんな手段があるのか……」
……魔力を意図的に暴走させることができるのか。暗殺者としての手段なのか、誰にでもできる手段なのかはわからないが……そんな方法もあるのか。
魔物を寄せることで、死体も隠蔽をさせることができると考えると理にかなっている。やはり、プロを相手に素人じゃ対処できないな……
「……とはいえ、これで十分にわかったな」
「え? なにがわかったの?」
「この人の所属は、かなりちゃんとした暗殺者集団だ。普通に雇われているとかじゃないらしい」
自決した。つまり、情報を漏らしたくなかったということだ。
命よりも組織の情報を守ることを優先するなら、そうするよう教育されているか、何らかの制約を受けているのだろう。そう考えれば、リズを狙った理由も何となく分かる。
(……つまり、抜けた仲間の処分か?)
それならば、いろいろな情報が腑に落ちる。勘違いしたのは色々と文句を言いたいが、リズを狙う理由は納得できる。足抜けをして真っ当に冒険者をしている暗殺者とか挑発しているようにしか見えないからな。人違いなことを除けば納得はできる。
……さて、それはそれとしてだ。
「ユーマ、早くいこ。魔力を暴走させたせいで、魔物が来て危ないから」
「ああ……しかし、みんなには心配をかけただろうなぁ。かなり時間を使ったし」
「うん……謝らないとね」
……すっかり時間も経過したし、俺たちを探しに来る前に戻らないと。リズの先導を頼りに俺たちは元の道へと戻っていく。そして、背後からは巨大な生き物が捕食をするような不気味な音が森の中へ響くのだった。
「……というわけだ。どうにも、リズを狙った奴らがいるらしい」
戻るのが遅い俺たちを心配していたザミアたちに謝罪をしてから、リズと一緒に遭遇した出来事についていつも通り事情をある程度伏せながら伝える。
リズが暗殺者に狙われて俺と一緒に森を逃げていたこと。リズの過去の事情と関係があるかはわからないこと。そして、ここで終わりではないかもしれないから帝都へと可能であれば急ぎたいということ。
(少なくとも、3人だけで殺せると判断してるのは甘く見すぎだろうからなぁ)
こういうのは噂に聞いただけでも、簡単に諦めてくれないらしい。まあ、そりゃ威信に関わるし同じように抜ける可能性もあるからな。
俺の言葉を聞いてザミアが判断を下す。
「……わかった。みんなで行動しよう」
「いいのかしら? 暗殺者なんて相手にする練習はしてないけど」
アメリアの言葉は至極真っ当だ。まあ、違法な冒険者を相手に戦うことはあるが、基本的に対人戦の技術は別物だ。
真正面から戦う場合は暗殺者のほうが強くてもおかしくはない。
「……悲しいです……こんな場所で人同士で争うなんて」
ミライも、暗殺者という存在そのものに悲しみを抱いているようだ。
とはいえまだ幼い彼女にとっては、覚悟はしているとしても実際に存在を見て聞いたらそんな感想になるのも仕方ないだろう。
「すみません~。横から失礼しますが、であれば提案があります~」
「提案?」
突然、司書さんが声をあげる。
「帝都に到着すれば、一旦は大丈夫かと~。ただ、道中で襲われる危険はありますが、夜は視界もなくて通れません~。なので、ある地点で迎え撃ちませんか~?」
「迎え撃つって……冒険者組合の人がそんなこと言っていいの?」
アメリアが驚いたように聞くが、司書さんは当然だというように頷いた。
「ええ~。冒険者には、人を狙うようなものもいますし……これも、ある意味ではよくある話です~。こういった事情があるならば冒険者組合としても馬車などに無理をさせる事を許容してもらえますので、そこまで急ぐのがよいかと~」
「なるほど……でも、その地点っていうのはどんな場所なんだ?」
「この森には安全なルートと、危険なルートの2つがあります~。その休憩地点は危険なルートにある開けた広場ですね~。一見すると安全に見えますが、魔物の休憩地点としても使われるので基本的には避ける場所なんですよねぇ~」
……なるほど。
休憩しているところに魔物がやってくれば、休憩どころじゃないだろう。というか、かなりの犠牲者が発生してわかったような場所っぽいな……
「それでも、襲撃者がいる場合にはそのリスクを飲み込んでもいいくらいには迎え撃ちやすいってことか」
「そのとおりですよ~。魔物が休憩に選ぶくらいですから、暗殺者といえど忍び寄ることは難しいですし、森に隠れてというのも魔物に遭遇する危険を考えれば襲撃者は選べないので、冒険者さんのほうが自由に動き回れますし、魔物を相手にする知識があるので有利といえるでしょうね~」
確かに理にかなっている提案だ。しかし……
「でも、魔物か……」
「そうですねぇ……そこに関しては、どうしようもないかと~」
司書さんも困ったように息を吐いた。暗殺者が命をかけてくるのであれば、俺たちは二正面から戦うことになる。魔物も暗殺者も本来の実力を発揮できないとはいえ、実質的には二つの勢力を相手にするようなものだ。そのリスクは決して無視はできない。
……だが、リズは声を上げた。
「なら、任せて」
「任せてって……」
「魔物は、私がなんとかする」
……全員が驚きながらも、リズの言葉に信頼を置く。
過去に未熟だった彼女。だが、常に成長を続けてパーティーを支える斥候となった彼女には仲間としての信頼がある。ザミアはゆっくりと頷いた。
「……わかった。なら、迎え撃とう」
その決断に、俺はどこか嬉しい気持ちがあった。
安全よりもリスクを取って何かを得る。そうした選択ができるザミアだからこそ……俺たちは帝都へと向かえるようになれたのだから。
俺達の意思は固まった。そのまま馬車は危険な休憩地点へと向かって出発するのだった。