闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜   作:フレラガ

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第七話 闇深きパーティーと快進撃

 ――そして、一ヶ月後。

 俺達は冒険者組合でいつも集まっている片隅の机に集まっていた。そして、その机の上にはザミアが奮発して注文した料理が並んでいる。

 

「……皆、お疲れ様」

「うん」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした!」

 

 ザミアが威圧感のある笑みを浮かべている。一見すると獲物を前にしてどうやって処刑をするのか考えているようにすら見えるが、これはご機嫌な表情で嬉しいだけなのだと気付いた。

 リズやアメリア、ミライも満足気だ。それもそうだろう。なにせ……銅級でも上位依頼となる魔獣討伐を達成したのだから。その喜びの前では、悪の組織がこの街を滅ぼすための会議をしている現場にしか見えない事など些細な問題だろう。

 

「食べていい?」

「……いい」

 

 リズの言葉にザミアは頷いた。リズは相変わらずの無表情ながら、嬉しそうな空気をだしながら机の上にいっぱいに並べられた酒場の料理を食べ始める。そしてアメリアとミライの二人も一緒に食べ始め和やかな空気で食事が始まる。

 冒険者組合に併設されている食堂では酒は出ないが料理は出てくる。これは「食事を共にすると仲が深まるが、冒険者という荒くれ者に酒を飲ませてトラブルになるので避けるべし」という組合長の主義からだとか。なので、酒を飲んで騒ぐのが好きな冒険者は酒場に行くということで棲み分けになっている。ちょっとお高い価格なので金のない冒険者は余り利用しない場所ではあるが……

 

(……しかし、快挙だよな。わずか一ヶ月で銅級上位層の依頼を達成できるなんて)

 

 ……さて、この一ヶ月で何があったのか。それは簡単に言えば……魔物討伐を無事に完了したからだ。しかもリベンジとは言わないが、ジャイアントベアーよりも上位の魔物を、である。

 決してすぐに達成できたわけではなく、アドバイスから細かい依頼で連携のために調整こそしたのだが……

 

(俺のアドバイスだけで上手く行きすぎだろ……)

 

 そう、なんとあの俺が横流ししたアドバイス。殆どあれだけで連携が改善されたのだ!

 ……こういうのは何というか、もう一つくらいは山があるもんじゃないか? もっと上手く行かないけど、試行錯誤するもんじゃない? 良い事なんだけど、あまりにも実感がない。

 声出しはすぐに出来るようになったし、リズは言ったことを完璧にこなすし。アメリアもミライも意識的な問題なので本人が気をつけてたら問題が無いのだ。

 

「……大型魔物のグロウ討伐を完了してから、すぐにサイクロプスの討伐だったけども……無事に終えて良かった。本当にお疲れ様……」

 

 以前の薬草採集依頼はわりと評価が良かったこと。そこで、魔物を発見していち早く討伐して冒険者組合で相談をしたこと。それが相当に心象へ影響したのかもしれない。複数の簡単な依頼でチームの連携を調整していた俺達に冒険者組合から直接、大型魔物の討伐依頼が舞い込んだのだ。

 街を繋ぐ街道に、突如として出没した魔物のサイクロプス討伐依頼。

 3メートルを超える巨体に、生半可な武器程度であれば逆に武器の方が壊れる程の恵まれた肉体。そして、罠や武器を使う知性も備えた人を襲う怪物。そんな化け物だが、銅級から銀級に上がりたいのならこの程度は倒せなければならないという試金石ともなる存在だ。

 

(……前のパーティーだったら、一発逆転を賭ける壇上にすら上がれないような相手だったな)

 

 そうして、入念に準備をしてからサイクロプス討伐依頼へと赴いた俺達は……描写する必要もないくらいにあっさりと倒してしまったのだ。

 ザミアが前線を支えながらサイクロプスの攻撃を受け対処しきり、致命的になりそうな一撃や相手の動きをリズが常に牽制して防ぐ。そんな二人をミライは魔法によってフォローし続け、作り上げた時間で練り上げた魔法によって致命的な一撃をアメリアが急所にぶち込む。安定した立ち回りは見て居て不安どころか、ここまで来たことに感慨深さすら覚えてしまったものだ。そんなことを思いながら俺も料理に手を伸ばす。うん、美味い。

 

「……ユーマ、ありがとう」

「ん?」

 

 ザミアがそんな風に俺に語りかける。

 

「……おかげで、チームの連携が取れるようになった」

「ああ……まあ、俺に出来ることはこのくらいだからさ」

「……ユーマの言うこのくらいが、難しい」

 

 そういう視線には俺に対する信用がある。

 ……まあ、確かに多少は頑張った。とりあえず、酒場で冒険者に酒を奢ったり冒険者組合の人に話を聞いたり。付け焼き刃の知識でそれっぽくアドバイスをしてみたり。まあ確かに大変だったが……実際に戦ってその連携をものにしたのはザミア達のものだ。

 それはそれとして、俺が必要だったのか? と言われると悩ましい。相談役としては他にない役割を果たせただろうと自負はしている。でも冒険者としてはむしろ後ろで腕組んで見守っているスポーツ観戦をしているおっさんくらいの役割しかなかった。いらないじゃん。

 

「まあ、ちょっとでも助けになったなら良かったよ」

「……これからも、頼りにしている」

 

 ちょっとだけブルーな気持ちにナリながらも、そう言ってくれるザミアの信頼に答えよう……そんな風に居住まいを正す気持ちになりながら、もうちょっと料理を味わおうと手を伸ばした瞬間。

 

「す、すいません! お時間いいでしょうか?」

 

 と、俺達の机に慌てた様子の受付嬢さんが走ってきてそう叫ぶ。

 

「……何の用事だ?」

「ひいっ!? ご、ご歓談中でしたのに、ごめんなさい!」

 

 ザミアの冷たい視線が受付嬢さんを迎えて怯えながら謝罪をする。本人としては精一杯外向けに虚勢を張っている対応らしいが、受付嬢さん視点から見れば死刑執行人を前にした罪人くらい絶望的な気持ちなのだろう。

 慌てて俺がフォローを入れる。

 

「あー、大丈夫ですよ。リーダーも怒ってるわけじゃないんで……それで、用事は?」

「えっ? あ、は、はい。分かりました! ありがとうございます!」

 

 俺の言葉にハッと冷静さを取り戻して、息を整える。

 ……同じ言語を喋っていても通訳っているんだなぁ。いやまあ、いるか。

 

「……本日は銅級冒険者であるザミアさん達へ緊急の依頼をお願いしたく、冒険者組合から指名が入りました」

「指名?」

 

 リズの疑問に頷いた受付嬢さん。

 指名という言葉に思わず俺達も驚く。依頼を優先的に回されることはあるが……指名というのは、かなり大きな意味を持っている。

 

「はい。本来であれば銀級冒険者に頼む依頼なのですが……緊急性が高いこと。サイクロプスという魔物を短期間で倒した実績。冒険者組合への貢献度などを総合的に判断して任せるに足りると考えました」

「冒険者組合からの直々の指名……報酬は?」

 

 これ報酬でやるかどうか考えている顔だな……徒最近分かってきたアメリアの言葉に、神妙に頷いて受付嬢さんは答える。

 

「はい。こちらの依頼は正規の報酬に上乗せした倍額でお支払いを。そして……こちらがを達成した際には、銀級冒険者への特例での昇格を約束致します」

「――銀級への昇格ですか!?」

「はい。組合はこの依頼をそれだけ重く見ています。そして、ザミアさん達の実力もそれに見合うものだと」

 

 真っ直ぐに宣言する受付嬢さんの言葉に、周囲の聞き耳を立てていたであろう冒険者達からザワザワと喧噪が大きくなる。

 銀級はいわゆる冒険者として国に認められた一流の証だ。どれだけ長く冒険者をしていても実績が足りなければ選ばれない厳しい基準が存在している。銀級への昇格が約束されるというのは……あまりにも話が美味すぎる。

 

(ザミア、これは……慎重に考えた方が――)

「……詳しく話を聞かせてくれ」

「ザミア!?」

 

 思わず俺は声を出してしまう。

 話を聞くというのは、依頼を受けるということになる。そんな俺にザミアは真っ直ぐに見て言う。

 

「……躊躇う理由はない。いずれ通る道だから」

「っ……そう、だな。悪い」

 

 ――頭を殴られたかのような衝撃。

 いずれ通る道だから、躊躇う理由はない……か。その言葉は、現実を見えずに墜落する幾百の鉄くずか……輝かしい未来を駆け上がる金色にしか出せない言葉だった。そして、目の前にいる彼女は俺から見れば……黄金よりもはるかに輝かしい光を放っている。

 

「……続きを」

「は、はい……今回の依頼に至った経緯ですが、ザミアさんたちが発見した群れから逸れた個体のジャイアントベアーを調査していた際に発覚しました。サイクロプスもそうですが、本来の生息域から離れた場所に群れ逸れの個体が散見される状況……森の奥の異常ということで調査チームを組み森の奥まで探索をした結果……成長したマンドレイクが発見されました」

「マンドレイクですって?」

 

 アメリアが驚いたように反応する。

 

「マンドレイクが成長したなら、貴族位が出てくる様な案件だと思うけども」

「はい……本来であればそうなのですが……既に成長しているため時間的な問題があるんです。現状であれば銀等級に成り立ての冒険者であれば依頼の範疇ですが……これ以上の成長を続けてしまえば仰るとおり、貴族位の方々が直接討伐に出向く程の脅威となるでしょう。ですので、今このタイミングだからこそザミアさん達に頼みたいのです」

 

 試金石に使いたいと言う訳か。

 今なら失敗しても取り返しがつく。成功すれば貴族の手を借りる必要もなく、新しい銀等級が誕生するという訳か。とはいえ、こちらにもメリットはある。

 

「……全員の意思を確認する。まずは情報が欲しい」

 

 ザミアがそう言って、アメリアへ視線を向ける。マンドレイクの情報が欲しいのだろう。

 ……うん、アメリアは気付いてないな。とりあえず声に出して情報を求める。

 

「アメリア、マンドレイクについて知ってるみたいだけど……解説してくれるか?」

「えっ、あ、分かったわ。マンドレイクというのは、植物型の魔物ね。捕食植物で自分の縄張りに入った存在を喰らって成長する性質を持っているわ。とはいえ、普通なら脅威じゃないんだけども」

「脅威じゃないの?」

「ええ。発生した場所から動けないし、相手を正確に認識出来ないから魔力があればどんな相手でも狙うの。そのせいで、逆に他の魔物から捕食されることが殆どなんだけど……稀に捕食が成功し続ける場合があるわ。そうすると捕食しただけ強くなり、徐々に縄張りを広げていく。過去に一度だけ、そうして成長しきったマンドレイクが大地喰らいと言う名前で指定討伐されたほどよ」

「――なるほど、放置をしていると街も危険なのですね」

 

 促して出てきた情報を聞いて、ミライが険しい顔を浮かべる。

 ……この街の教会を守りたいと考えている彼女からすれば、街の脅威となるマンドレイクを見過ごすことは出来ないだろう。

 

「私は受けて良いと思う」

 

 リズが一番に声をあげた。

 

「ザミアの判断を信じる」

 

 そして、ミライが挙手をする。

 

「わたしも受けて良いと思います」

「あたしも賛成よ」

 

 アメリアもミライと同じように答える。

 俺以外の全員が依頼を受けると言う判断を下した。その表情には迷いはない。

 

(……そうだな。止まるべきタイミングはここじゃない)

 

 そして俺も答える。

 

「依頼を受けよう、ザミア」

「……それじゃあ、出発はいつ?」

「はい! 明後日の朝に馬車を出します!」

 

 想像以上に早いが、全員が納得して立ち上がる。

 

「……では、全員明後日まで準備を」

 

 そして全員が解散し、マンドレイク討伐のための準備へと向かった。

 

 

 ――その夜。

 俺に相談があるといってザミアが部屋へとやってきた。

 ……そして眼の前で思いっきり凹んでいる。昼の格好良さはどこにいったんだ。

 

「……本当に、大丈夫だと思う? なんだか……私の言葉で、流されてないかな……」

 

 しょんぼりとしながらも表情は暗く、まるで罪のない子供を殺すか逡巡しているかのようだ。何で出力がこうも物騒になるのだろうか。

 

「ちゃんとマンドレイクという魔物に関する情報をアメリアから聞いたんだ。ザミアに流されたわけじゃない」

「……それなら、いいんだけど……調子が良い時こそ、気をつけないとダメなのに……つい、イケるって思って……」

 

 ザミアの悪癖……と言う程ではないが考えすぎて落ち込むことがある。その結果、パフォーマンスを落としたり判断を間違えそうになるわけだ。普段口下手で上手く伝えられないのもそこに起因している。

 咄嗟の判断力や決断力は見事だ。だが、人見知りでコミュニケーション能力に難があるので、考える時間が多いほどに彼女は悩んで自分の判断を疑ってしまう。誰にだってあるだろうが、ザミアはその傾向が他の人以上に強い。

 

(……だけど、俺はザミアの直感……いや、判断は間違っていないと思っている。例え失敗したとしても、それは結果論だ)

 

 冒険者として上を目指す。ならば、こんな場所で足踏みをするようでは届く事は無い。

 だから、俺の仕事はザミアの判断を違う視点から判断することだ。

 

「ザミアがあの時選んだ選択は間違ってない。俺はそう思った。だから胸をはっていこう」

「……うん、ありがとう……ユーマには助けられてる……」

「相談くらいなら、いくらでも受けるさ。俺は戦えないからな」

 

 悲しいことにこのパーティーは多少失敗してもなんとかなるのだ。俺以外。

 異界人の脆さは驚きだ! 魔力がないせいで子供と腕相撲をしても負けるレベルで弱いぞ!

 

「……戦えなくても、問題無い。私が守るから」

 

 ザミアはそう言って真っ直ぐに俺を見る。

 ……ちょっと怖いけど、その信頼と決意の気持ちは嬉しい。

 

「それならいいんだが……俺を守ってたら負担じゃないか?」

「……むしろ、気合が入る」

 

 ……気合いが入るのか。まあ安心できないもんな。俺って。

 実際、緊張感があったり余計な事を考える時間がない方がザミアは調子がいい。つまり俺が存在する事自体がマイナスなのだが、それがいい感じにザミアのパフォーマンスに作用するらしい。そんな事ある? と思ったがあるんだから仕方ない。

 

「……マンドレイク討伐まで、準備を進めておく……頑張ろう」

「ああ。ぶっ倒して銀等級になろうな」

 

 そう言って拳をぶつける。

 冒険者同士の挨拶であり約束の作法だ。自身がついたのか、ザミアは気合の入った表情に……いや、うん。凄い怖い。今にも復讐されそうだ。

 

「……ありがとう。ユーマ、おやすみ」

「ああ。おやすみ」

 

 そして部屋を出たザミアを見送って、俺はベッドに横になる。

 

「……だ、脱臼……してねえよな……?」

 

 思った以上に強い勢いで拳を打ち付けたせいで激痛の走る肩に、俺は情けない負傷をしてないか心配をしながら痛みを堪えるのだった。

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