闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜   作:フレラガ

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第八話 それぞれの暗躍(準備)

「ユーマ」

「リズ、早いな」

「ん」

 

 マンドレイク討伐という大きな依頼のためにそれぞれのメンバーは準備を進めていた。

 マンドレイクの生息域は今も広がっている。一週間で準備を済ませて出発する必要があり、この緊急性の高さもこの依頼の重要度に繋がっている。

 そんな中で俺はリズを呼び出していた。

 

「リズ、マンドレイクの討伐で準備はしてるのか?」

「してない」

「……素直でよろしい」

 

褒められて自慢げな表情を浮かべるリズ。いや、皮肉みたいなもんだぞ。まあ伝わらないのに行った俺が悪いんだが。

 こういう素直だが、ある意味で一番の問題児でもあるリズだが……冒険者としてのポテンシャルを一番秘めているのもリズなのだ。

 

「何が必要?」

「そうだな……マンドレイクってのは腐食液を使うらしい。だから、リズの持っている武器を保護するための腐食対策の武器油か……後は、遊撃手は状況に対応出来るような物を色々準備するらしい。例えば――」

 

 俺が調べてきた情報を、素直に聞いているリズ。

 ……覚えが良いんだよなぁ。俺の説明でも1を聞いて10を知るのだ。なんなら、実践で発展させて実行することすらある。毎回、見ていると才能の格差を感じる。というか、情報を仕入れて何回か聞き直した俺よりも覚えが良いんだよな。

 

「――ってわけだ。覚えたか?」

「覚えた。ありがとう」

「念のために聞くけど、買う物は?」

「ランタン、火種、腐食対策油。ロープ、魔障石、布」

「完璧だな」

 

 ドヤ顔をしているリズ……いや、無表情なんだけど分かってきた。この子は対人経験が薄いのもあるだろうが、情緒が子供っぽいのだ。

 冒険者というのは割と欲望が強い人間が多い。それはそうだ。危険な世界に飛び込むので、それに見合うだけの望みを抱えているものだ。だが、リズは祖父の言いつけを守る子供のようなものだからそういった強い情動があるようには見えない。

 ……いやまあ、それでも何とかなる才能は凄すぎるんだが。

 

(……冒険者に対する熱量という面ではウチのチームで一番無いんだよな)

 

 多分、彼女からしたら酒場の給仕でも冒険者でも変わらないのだろう。だからこそ、リズの方向性をどうするのか? そして、どう導くのか。それが彼女の今後の冒険者としての人生に関わってくるはずだ。

 ……いや、責任が重いよ。他人の人生が気軽に背中に乗ってくるとは聞いていない。リズの死んだお爺ちゃん、少しくらいは俺が楽になるような何かを教えといてくれよ。

 

「……というか、俺のアドバイスでいいのか……?」

「ユーマの言葉、凄い助かってる」

 

 と、小さくボヤいた俺の言葉が聞こえていたようでリズが返事をした。

 

「だからユーマは信用できる。いい人」

「……もっとちゃんとした師匠とか居たほうが良くないか?」

「信用できない」

 

 そういうリズ……死んだお爺ちゃんの言葉が根付いているのか、生来の警戒心が高いのかリズは以外と警戒心が高いのだ。というか結構人見知りなのかもしれない……うーむ、というか人嫌いしている面があるか。

 だから俺は本当に特殊な例なのだ。お爺ちゃんの遺言でアウトな条件を全て回避したので交流出来るってどんな例だよ。

 

「……まあ、それなら俺にできる限り頑張るよ」

「うん、私も頑張る」

 

 素直に頷くリズだが、その才能を考えると本当に背負う重さに潰されそうな気持ちになるのだった。

 

 

 そして、次の日に俺はアメリアの元へとやってきた。

 相も変わらず自堕落……ではあるが、俺が来ると伝えていたからか部屋自体は綺麗に片付いて本人もちょっとだけキリッとしている。当社比程度の違いだが。

 

「あ、えっと、ユーマいらっしゃい」

「……相変わらず凄い本の量だな」

「えへへ……成功したからお金に余裕が出来たし……その分やっぱり買わないと……」

 

 そんなルールはないが、冒険者のストレス解消は様々だ。これでアメリアがストレス解消出来ているなら問題は無いだろう。

 さて、やってきた理由は……簡単に言えば確認だ。

 

「アメリアはマンドレイク討伐に関しては準備はしてるよな?」

「……後でやろうと」

「そうかそうか……もう時間もそんなに無いんだが……影も形もなくないか?」

「え、えーっとぉ……そのぉ……」

「……手伝うから準備するぞ」

「え、えへへ……ありがとうねぇ、ユーマぁ……」

 

 そして、アメリアが明日からの依頼を準備するのを手伝う。

 ……いや、これ居るのか? と思うような道具が幾つもあるので、アメリアに聞いてみる。

 

「このガラス瓶は?」

「それは検体採集用だね……成長したマンドレイクの一部を持って帰れたら研究出来そうだから……」

「こっちの溶液は?」

「マンドレイクは植物だから、植物への毒薬は有用なのかのために持っていく……一応人体には危険は無いから大丈夫……多分、確か……恐らく……」

「……そんな暇あると思うか?」

「や、やっぱりダメかなぁ……」

 

 しかし、個人的には意外な反応だ。

 アメリアは魔物に対してあまり興味を持っていないような印象を持っていたが……マンドレイクの検体やらを採集するつもり満々だとは。

 

「マンドレイク、そんなに気になるのか?」

「ん? 違うよ? こういう魔物の検体を実家に送ると仕送りが増えるし評価されるから狙ってるの! あと、毒は楽に効いたら嬉しいでしょ? だって、マンドレイクってかなり危険だし……」

 

 ワクワクした表情を浮かべるアメリアに、ちょっとだけ尊敬した気持ちが消えて安心感のような気持ちが芽生えた。

 アメリアはそういう奴だよなという納得だ。この短い期間でも、なんとなく分かってきた。

 

「マンドレイク、説明してたけどそんなに危険なのか……」

「き、危険なのは情報が少ないのもあるんだけどね……成長したら恐ろしいんだけど、成長する条件が難しいから、そんなに成長する事も無いし……」

「なるほど……だからこその毒薬か」

「多分効果は無いけど……」

「ん? そうなのか?」

 

 俺の純粋な疑問に頷いて答えるアメリア。

 

「うん。魔物に分類する生物は基本的に魔力によって体を維持してるから……普通の生物みたいな食事や栄養補給を必要としないの。その代わり、他の生物みたいに魔力を自分で賄うことが出来ないから……その不足分の魔力を補うために何でもかんでも食べるんだよね」

「なるほど……」

 

 そんな知識を教えてもらいながら、持っていく道具の選別を終えて背嚢に詰める。

 

「よし。これでいいか?」

「ありがとう、ユーマ……良かったぁ。これで忘れた言い訳しなくて助かる……」

「……もしかして必要ないとか、節約って言ってたの……忘れてたのを誤魔化すために言ってたのか?」

「あっ……」

 

 やべっという表情を浮かべたアメリアに、俺は普段からちゃんとしておけと言うお説教をする事になるのだった……

 

 

 最終的にアメリアが「せめて忘れたら俺にはちゃんと伝える」ということで決着がついたあたりで、最後に予定していたミライの元へとやってきた。

 その理由とは、実は俺が様子を見に来たと言うよりもミライから来て欲しいと呼ばれたからに他ならない。マンドレイク退治を前にして、一体どんな話になるのだろうか……。

 最初に仲間たちに墓の前で挨拶をしてから、教会に入ると……中の椅子に座って話をしているラミィとシスターの姿があった。

 

「ユーマさん、来てくださってありがとうございます!」

「ああ、シスターもお久々です」

「あら、冒険者のユーマさんでしたよね! お久しぶりです」

 

 最初の出会いからちょっとだけ苦手意識はあるのだが、まあ考えて見ると誰が相手でも俺はあっさりとぶっ倒せるよな……と言う事実で押さえ込む。悲しすぎる事実だ。

 そして、ラミィがトコトコと俺の近くに歩いてきて耳打ちをする。

 

「その、ユーマさん。すいません。シスターがお世話になっている冒険者さんから話を聞きたいって言いだして……」

「……どうしてまた?」

「その、ちゃんと冒険者のお手伝いをしている事は伝えているんですが……やっぱりシスターとしては危険な冒険者のお手伝いをしている事は気になるみたいで……わたしから変なことを言ったら、バレちゃいそうですし……お願いを出来るのが、ユーマさんしかいなくて」

 

 ミライの時は穏やかで、胡散臭いように見えるが常識人でブレーキ役だった。しかし、その実は年齢制限を誤魔化しながら教会のために立身出世をしようとしている、チームで一番事情が重たい子なのだ。

 バレてしまえば、彼女は少なくとも冒険者としては活動禁止をされるだろう。まず、貴重なスキル持ちの魔法使いというだけで国や教会の上層部から何らかの措置が取られるに決まっている。俺がやるべきことは、事実をどうにかして誤魔化しながら彼女の頑張りを伝える事だろう。

 

「分かった。任せろ」

「ユーマさん……!」

 

 俺は覚悟を決めてラミィに頷き、シスターへと向き合う。

 

「えーっと、ラミィの普段を聞きたいって話ですよね?」

「ええ、突然の話ですいません。どうしても、ラミィがちゃんとできているのか気になって……ユーマさんは冒険者でもベテランでチームを支えている方なのでしょう? 折角ならお話を聞きたいと思いまして」

 

 シスターは本当に心配……というか、母親が自分の子供がちゃんとできているのか心配している表情を浮かべる。

 ……なるほど、本当に心配をしているだけのようだ。

 冒険者は、子供を働かせるシステムはない。だが、『見習い制度』として冒険者の手伝いや指導を受けることが出来る。これは本来は裏路地に住むような子供や、冒険者の現実を街の子供に教えるための仕組みなのだがラミィも見習いとして登録しているのだ。

 なので、シスターは実際に冒険に出ているとは思わず、冒険者チームの手伝いをしたり冒険者としての仕事を教えてもらっていると思っているわけだ。

 ……難易度高くない? そう思いながら説明をする。

 

「ラミィはいい子ですよ。俺たちのために気づいて手伝ってくれて、訓練だって真面目に受けてくれている。彼女のおかげで俺たちは躍進できていますし……今の依頼が終われば銀等級になりますから。その一助になってくれているんですよ」

「まあ、本当ですか!?」

 

 驚くシスター。嘘はついていない。

 実際に手伝ってくれてるし、俺が教えた事も素直に受けてくれた。ラミィ……というかミライのおかげで躍進はしているからな。

 そうして彼女の日常の気遣いや良いところをシスターに教える。嬉しそうな顔をしてきているシスターの横で、ラミィがちょっと恥ずかしそうにしていた。

 

「ありがとうございます、ユーマさん。ラミイったら心配をかけたくないからか自分のことをあんまり話してくれないんですよ。それがお世話になってる方からこうしてお話を聞けるだけでうれしいです。それに、ラミイも緊張してたからか朝から普段ならしないはずの……」

「し、シスター! あんまり関係ない話をして困らせないで!」

「ふふ、困らせちゃったかしら?」

 

 悪戯っぽく微笑むシスター。

 ……なんというか、母親っぽくもあり年上の姉っぽくもあるな。この人。

 

「でも、よかったわ……ラミィは色んな事を自分で抱えて無茶をしちゃうから。冒険者の見習いになりたいって言ったときも色々と大変だったんですよ?」

「そうなんですか……でも、安心してください。ラミイの事は頼りにしてますし、俺もチームの皆も信頼していますんで」

「そうなんですね……ありがとうございます。ラミイの事、よろしくお願いしますね」

 

 そう言って頭を下げるシスターさん。

 ……前の俺をぶっ飛ばしたの、よほど慌ててたんだなぁと分かるくらいに落ち着いた対応だ。それだけラミィの事を娘として大切に思っているというわけだ。

 ……そんな人を詭弁でだましてるの? 罪悪感で胃が痛くなりそうなんだが。

 

「ふふ、それだけ聞ければ安心です。では、私は失礼しますね」

「ああ、なら俺も失礼します。次の依頼の準備がありますんで」

「あら、ならラミイもお手伝いかしら?」

「うん! ……じゃなかった、はい。ユーマさんのお手伝いです」

「それじゃあ、気を付けてね? ユーマさん、ラミイの事よろしくお願いします」

「分かりました」

 

 そして、シスターに別れを告げて教会を出ていく。

 ……そして横に連れ添って出てきたミライに話しかける。

 

「これでよかったんだな?」

「はい! 本当にありがとうございます、ユーマさん! 凄かったです! だって、シスターって下手な嘘はあっさり見抜いちゃうから……」

「えっ、そうなのか?」

「教会で教えてもらった技術らしいんです。だから、教会に迷い込んできた人もシスターがちゃんと見分けてくれているんです」

 

 ほっとした表情を浮かべるミライ。

 ……こわ~。そういう技術を知ってるシスターってなんだよ。いあまあ、正しいんだけどさ。

 

(……とはいえ、誤魔化し続けるのは良い手段じゃないとは思うけどなぁ)

 

 ここら辺はまだミライも子供だから仕方ないのかもしれない。優しくて自分を大切にしてくれている母親のようなシスターのために、無理をしてもなんとかしないといけないと考えるのは自然なことだろう。方法は色々とぶっ飛んでいるが。

 どうにかしたくて嘘を吐いて冒険者として活動をし始めた彼女の嘘は、きっとどこかで剥がれてしまうだろう。だが、彼女を止めることは出来ない。これほど優秀な才能を持っていて、聖職者としての技術を持った冒険者なんて替えが効かないのだ。なら、俺に出来ることは……いずれ嘘がバレた時に彼女たちが喧嘩別れもせず、今まで通りになれるように積み重ねることか。

 

「あの、ユーマさん」

「ん?」

「マンドレイクの討伐……頑張らないといけませんね。だって、これ以上大きくなったら……街だってきっと襲われちゃいます。」

「……そうだな。アメリア曰く、成長しきったマンドレイクは魔物ではなく災害として記録されるレベルになるらしい」

 

 アメリア情報を教えながら、ふと思い出す。

 アメリアに魔法について準備をしながら聞いたのだ。

 

『魔法は技術っていうけど、結構人によって差があるよな』

『それはそうだよ。うーん……ユーマにも分かるようにいうなら、料理みたいなものかなぁ……?』

『料理?』

『あたしたちの手には魔力という材料があります。それでどんなレシピを作るか。どんな手順でやるかは自由です。ただ、何もなければ難しいし……世に出回っているレシピを使うと完成品は同じような見た目になるでしょ? でも、その味付けや見た目は人によって個性が出るよね? 大雑把な説明だけど、魔法はそういう感じかなぁ……本当に大雑把だし、本来はもうちょっと複雑なんだけどね?』

『なるほど……なら、我流の適当な料理でも効果さえ出ていれば成立するってことか?』

『まあ、言っちゃえばそうだね……あたし達みたいな貴族が使う伝承魔法とか教会で使われる神聖魔法に関しては違うけど』

『そうなのか?』

『うん。伝承魔法は貴族が昔から伝えてきた魔法で、これに関しては……才能とか積み重ねかなぁ……スキルに近いかも? で、神聖魔法は神聖魔法の基礎を作った開祖がいて、教会はこの人が使っている魔法にどれだけ近く完璧に出来るかを求めているの。回復だったり守護だったり、一つ間違えれば被害が大きいのと開祖が完璧すぎるのが原因なんだけどね手順や工程がしっかり決まってるお菓子作りみたいなものだね』

「……料理とかお菓子、好きなのか?」

「図書館の本で読んだんだよね……面倒だからやらないけど」

 

 余計なことも思い出したが、神聖魔法をうまく使えるミライがどれだけ真面目に取り組んでこなしているのかも良く分かる。

 そんなことを考えているとラミィが足を止める。

 

「今日はありがとうございました。わたしも、明日からの準備をしてきますね」

「ああ、分かった。ラミィの仕事には期待してるからな」

「ありがとうございます!」

 

 ラミィは笑顔を浮かべて俺に頭を下げる。

 

「本当に、シスターを安心させてくれましたし……わたしの事も助けてくれて、本当にありがとうございます!」

「俺は戦うことは出来ないからな……それ以外の部分で頑張るしかないからさ」

「でも、立派です! 絶対にユーマさんの事を守って見せますから!」

「ああ、頼りにしてるよ」

 

 ラミィからそんな風に心強い言葉を貰える……でも、絵面は酷いな。小さい女の子に守られる宣言をして頼りにしてるってなんだよ。

 そうして、分かれて俺は部屋へと戻ってベッドへと倒れ込んだ。

 

「……不安だ」

 

 マンドレイクの事は色々と考えているのだが、激動の日々を過ごしているせいかぐるぐると思考が回ってうまく結びつかない。

 ……あまりにも順調だからだろうか?

 

(……どうなんだろうな……ううむ)

 

 そうやって考えてこんでいるうちに、自然と意識が落ちて俺はマンドレイク討伐当日を迎える事になるのだった。

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