カスレアクロニクル   作:すばみずる

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156 哀しき過去ってやつ?

 夏の足音を感じるより前。湿気た空気のせいでやたらと暑く感じる、不快な夜のことだった。

 

 夜の街には色がありすぎる。看板の赤、信号の青、自動販売機の白い光。ひっきりなしに人が流れ、誰もがどこかへ急いでいる。ノルドリッチはその雑踏の真ん中を、誰にも見咎められることなく歩いていた。

 

 現世に縁薄い精霊や、姿を消している精霊を見つけ出せる人間はそうそういない。ノルドリッチは己の輪郭を空気に溶かし込んだまま、気の向くままにこの世界をうろついている。肩がぶつかりそうな距離をすれ違っても、誰一人として白髪の少女に気付かない。

 

 使い物にならなくなった月山から離れて以来、ノルドリッチには行く当てというものが無い。あの男は良い隠れ蓑だった。社会的な立場とやらを持っていたから、ノルドリッチが好き勝手に振る舞うための便利な足場になってくれた。

 

 杖の質もわりかし良くて、その絶妙な痒いところへ手の届かないところがより良いモノが欲しいという欲の皮を刺激されたのが悔やまれる。あの少年の杖がうまく醸造出来ていれば、本当に良いものになっていただろうに。

 

「つまんないなぁ」

 

 誰の耳にも届かない呟きを、ノルドリッチは夜風に乗せた。

 

 退屈を埋める手立てが無いわけではない。ノルドリッチは九脊界一のワンドメーカー、白き円環のグウェンディ。杖を作る者だ。そして杖の素材は、いつだってそこらじゅうに転がっている。

 

 ノルドリッチは歩きながら、街の隅へ隅へと視線を流した。光の届かない路地、橋の下、シャッターの降りた店先。淀んだ場所には淀んだものが集まる。

 

 やがて、ひとつ見つけた。

 

 高架下の暗がりに、男が一人うずくまっている。垢じみた服、伸び放題の髭、虚ろな目。ホームレスらしき男だった。だがその視線は塀の向こうの公園で遊ぶ子供たちの方へ、じっとりと張り付いている。

 

(あー。あれはいいやつだ)

 

 ノルドリッチの口の端が吊り上がった。

 

 幼い者に欲を向けるろくでなし。そういう手合いを見つけると、ノルドリッチの胸はわずかに弾む。なにせ素材として申し分ないし、痛むべきらしい良心とやらに慮る必要もない。

 

 少女の姿をしたノルドリッチに、向こうから喜んで食らいついてきてくれるというのも非常にやりやすい。

 

 ノルドリッチは輪郭を空気から引き上げた。白い髪が薄闇の中で淡く光を帯び、金の瞳が灯る。薄い胸、細い手足。十かそこらの少女にしか見えない姿が、男の前にふっと現れる。

 

「ねえ、おじさん」

 

 甘く、舌足らずに、ノルドリッチは囁いた。

 

 男の濁った目が見開かれる。そこに灯った色を、ノルドリッチは知り尽くしていた。数多の年月、何千の男から引き出してきた色だ。

 

 あとは易い。誘い、焦らし、昂ぶらせる。男が一番高いところへ駆け上がろうとする、まさにその寸前で──ノルドリッチは指先を男の胸の中心へ差し入れた。

 

 ぞるり、と。何か熱を持った塊が、男の奥から引き抜かれる。

 

「あ……あ……」

 

 男の口から間延びした声が漏れ、やがて全身から力が抜けていく。ノルドリッチの手の中には、いつの間にか一本の杖が握られていた。短く黒ずみ節くれだった、お世辞にも上等とは言えない代物だ。

 

「うん、まあ。こんなもんかな」

 

 ノルドリッチは出来上がった杖を月明かりに翳し、軽く振ってみせる。素材が素材なだけに、出来栄えはたかが知れている。それでも一本は一本だ。

 

 足元では、男が呆けたように座り込んでいる。もう二度と、その目に欲の色が灯ることはないだろう。根こそぎ抜き取られた者は生涯その機能を取り戻せない。

 

 ノルドリッチは出来たての杖をひょいと振るって、身体の汚れを消し去っていく。

 

淫蕩白野(ヴァナヘイム)なら、こんな選り好みしなくたって良かったのになぁ」

 

 ぼやきが、自然と口をついて出る。故郷では誰もがノルドリッチを愛してくれた。男も女も、老いも若きも。ノルドリッチが微笑むだけで列をなして、我先にと身を投げ出してくれたものだ。杖の素材には事欠かず、ノルドリッチは選り好みをするだけの贅沢が許された。

 

 それが今はどうだ。子供を舐め回すような男を探して、薄汚れた高架下までわざわざ足を運ばなければならない。

 

「落ちぶれたもんだよ、ほんと」

 

 不能になった男には一瞥もくれず、ノルドリッチは踵を返した。ローブを羽織って胸元を直し、襟元を整える。

 

 その時だった。

 

「おい」

 

 物陰から、声を掛けられた。ノルドリッチの足が止まる。

 

 声のした方へ振り返ると、高架の柱の陰から一人の人影が歩み出てきた。黒髪の少年だ。歳の頃は、十ばかりに見える。痩せた身体に、年季の入ったシャツを着ている。

 

(見られてた、かな)

 

 ノルドリッチは内心で首を傾げたが、慌てはしなかった。見られていたのなら、それはそれで都合がいい。それなら今日は二本目もいただいてしまおう。

 

 ノルドリッチは口角を緩め、少年へ向き直った。先ほど男から欲を引き抜いたばかりの湿った笑みを浮かべる。

 

「ボクくん。こんな時間に、こんなところで何してるの」

 

 声を一段、甘くする。

 

「覗き見するような悪いコは、おねえさんが食べちゃおうかな」

 

 ノルドリッチは僅かに身を屈め、少年を下から見上げるようにする。薄い胸元をわざと覗かせるようにローブの裾を引いて、上目遣いに少年の顔を窺う。

 

 年端もいかぬ少女に迫られて平気でいられる男はそうそういない。これが大人であれば特殊性癖が必要になってくるが、少年であれば同年代の少女となると自然な恋愛というものだろう。余程ねじ曲がった性癖を持った者でなければ落とせる自信がノルドリッチにはあった。

 

 だが、少年は何の反応も示さなかった。

 

 ノルドリッチの身体に、視線一つ落とさない。身体にはまるで関心を払わず、ただまっすぐにノルドリッチの瞳だけを見据えている。

 

「お前、精霊なんだな」

 

 少年は、抑揚の乏しい声で言った。

 

「……は?」

 

 ノルドリッチの甘い笑みが、わずかに固まった。

 

 誘惑を無視された。ただなびかなかったのではない。気付いていない。ノルドリッチが何をしようとしていたのか、そもそも目に入っていない。

 

 長く生きてきたノルドリッチにとって、誘いを真っ向から黙殺されるという経験はそう多くなかった。男であれ女であれ、大概はノルドリッチの姿を前にすれば、何かしらの反応を返す。好意ではなくそれが嫌悪であろうと恐怖であろうと、目を逸らすか睨むかはする。

 

 この少年はどちらでもなかった。ノルドリッチは身を起こし、ローブをぞんざいに直した。

 

「だったら何さ。精霊だったらどうだっていうの。言っておくけどタダ見するような奴に──」

 

 声から甘さが抜けてぞんざいな調子が戻ったノルドリッチが言い終わるより早く、少年が動いた。

 

 ノルドリッチの前で、両膝を地に突く。そのまま、額が地面につくほど深々と頭を下げた。

 

「頼む」

 

 土下座だった。少年の声が固いコンクリートに反響する。

 

「俺に、九脊界について教えてくれ」

 

 ノルドリッチは、しばし無言で少年の後頭部を見下ろした。

 

「……えぇー……」

 

 間の抜けた声が漏れる。

 

 誘惑を黙殺された直後に土下座。状況の振れ幅にさしものノルドリッチも処理が追いつかない。

 

(なに、これ。どういう状況?)

 

 ノルドリッチは頭を掻いた。

 

 追い払うのは簡単だし、逃げるのだって思うがままだ。輪郭を空気に溶かして、すっと姿を消してしまえばいい。この少年には、消えたノルドリッチを追う術など無い。

 

 だが、消えなかった。

 

 九脊界について教えろと、そう言った少年の声に、ふざけた響きは一切無かった。本気で地べたに額を擦りつけている。

 

 ノルドリッチは退屈している。月山という足場を失って以来ずっと退屈していた。

 

 そして、退屈しのぎになりそうなもの、面白そうなものに、ノルドリッチはめっぽう弱い。

 

「……ま、いいけど」

 

 ノルドリッチは溜め息混じりに言った。

 

「立ちなよ。話くらいは、聞いてあげる」

 

 

 *

 

 

 少年に連れられて辿り着いたのは、住宅街の外れにある古びた一軒家だった。庭は荒れ放題で、雑草が膝の高さまで伸びている。ノルドリッチの美意識にはそぐわない住居だ。

 

 少年が玄関の鍵を開け、ノルドリッチを中へ通した。

 

 家の中は、しんと静まり返っていた。

 

 ノルドリッチは上がり込みながら、空気を探った。人の気配が、まるで無い。一人分の生活の匂いだけが、淀んだように家の中に染み付いている。

 

「子供なのに一人暮らししてるの? 大変だねぇ」

 

 ノルドリッチは廊下を進む少年の背中に声を掛けた。

 

 からかい半分、同情半分の口ぶりだった。こんな子供が一人でこんな広い家に──そう続けようとしたところで、少年が振り返った。

 

「俺は子供じゃない」

 

「ん? ああ、そうだね。一人で暮らしてるならもう子供じゃあないよね。何かあったの? 哀しき過去ってやつ?」

 

 少年の平坦な声にノルドリッチが混ぜ返そうとするが、違うという言葉に遮られた。

 

「こう見えて五十は過ぎてる」

 

「……は?」

 

 ノルドリッチは目を瞬かせた。どう見ても十かそこらの少年が何を言っているのか。

 

 少年は自分の言葉に少し首を捻り、こめかみを指で掻いた。

 

「いや。こっちの世界だけだと……まだ三十代だっけか。自分でもよく分からなくなってきてるな。年食うと曖昧になるって本当なんだな」

 

 独り言のように呟いてから、少年は肩をすくめた。

 

「まぁ、それくらいだ」

 

 それくらい、で済ませられる話ではない気がしたが、少年の態度には嘘や誇張の気配が無かった。ノルドリッチは口を半開きにしたまま、その言葉を飲み下す。

 

 退屈しのぎになりそうな気配が、ぐっと濃くなった。ノルドリッチは奥の部屋へ通されながら、少年の小さな背中を改めて眺めた。

 

 通された部屋は、本と紙で埋め尽くされていた。

 

 壁の一面を覆う本棚。床に積み上げられた紙や本の山。壁際には大きな机が据えられ、その上には見慣れない道具が並んでいる。インクの瓶、無数のペン、定規、紙を留める器具。

 

 ノルドリッチは適当な場所に腰を下ろし、膝を抱えた。

 

「本題入る前に、いくつか聞いていい?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、まず一つ目」

 

 ノルドリッチは早速、指を一本立てた。

 

「なんで、九脊界について知りたいの。子供……じゃなくて、おじさん? が、わざわざ精霊に土下座してまで」

 

「これだ」

 

 少年は、作業机を手のひらで示した。

 

「俺は漫画家だ。……絵で、物語を語るんだ」

 

 ノルドリッチにはいまいちピンと来ていない事に気付いた少年が付け足す。

 

「今度、エインヘリヤル・クロニクルについての漫画を描く。俺はそれを出来るだけ詳細に、緻密に描き込んで作りたい」

 

 少年は机の上の白い紙を一枚摘み上げ、ノルドリッチの方へ向けた。鉛筆で薄く下描きされた、脊椎のような樹木の姿があった。

 

「本物そっくりに描かなきゃいけない。嘘の混じってない本物をだ。だったら、その世界の住人だった精霊に話を聞くのが一番いいだろ」

 

「ふぅん」

 

 ノルドリッチは気の無い相槌を打ちながら、視線を本棚の方へ滑らせた。

 

 ぎっしりと詰まった本の中で、ひときわ目を引く一角があった。同じような装丁の本が十数巻、背を揃えて並んでいる。その背表紙には、エインヘリヤル・クロニクルという文字が記されていた。

 

「あ。これ」

 

 ノルドリッチは立ち上がり、本棚に近付いた。一冊を抜き取り表紙をしげしげと眺める。

 

「これがキミの描いた漫画ってわけだ。ファイティングデュエル? って副題付いてる」

 

 ノルドリッチが振り返って言うと、少年は首を横に振った。

 

「確かに描いたのは俺だ。だが、それは十五年前に完結したやつだ。今度描くのは、新作になる」

 

 少年は作業机の椅子に腰を下ろし、背もたれに身を預けた。痩せた身体には大きすぎる椅子だった。

 

「当時はな、カードゲームの販促のために描いてた漫画だ。売るために、色々と歪めて描かなきゃいけなかった。盛って、派手にして、子供受けするように作り変えて。エインヘリヤル・クロニクルの本当のストーリーについては触れられなかった」

 

 少年の声に苦みが混じる。長く腹の底に溜め込んできた、澱のような苦みだった。

 

「十五年経ってようやく、今度こそ、カードの背景にある世界について描くことが出来る。この機会は逃せない。俺が描かなきゃいけない」

 

「ふぅん」

 

 ノルドリッチは漫画を棚に戻し、振り返った。指を二本立てる。

 

「じゃあ、二つ目の質問。キミ、なんで精霊について知ってるの」

 

 ノルドリッチは周囲を見やる。カードの漫画を描くというだけあって、いくらかのカードが置かれているのが目に入るが、それらに精霊の気配は感じられない。

 

「精霊ってのは、カードを通じて、人間と精霊が欲望で通じ合うことでこの世界に出てくるもの。あちこちで仲間が顔を出してるみたいだけどさ。キミも、どこかでそういうのと会ったことがあるのかな。あるいはキミの傍にもいたりする?」

 

 もし精霊が他にいて様子を伺っているのであれば、ノルドリッチにとって面白くはない。少年は少しの間黙ってから、慎重に口を開く。

 

「精霊が現実に出てくる理屈については知らない。だが──」

 

 言葉が、一度切れる。

 

「俺は、精霊を見せてもらったことがあった。だから、知ってる」

 

 ノルドリッチの片眉がわずかに上がった。妙な言い回しの引っ掛かりが胸の隅に残ったが、ノルドリッチは追及を一旦脇に置いた。

 

 代わりに、指を三本立てる。

 

「じゃあ、三つ目」

 

 ノルドリッチは少年の机の縁に腰を乗せ、足をぶらつかせた。

 

「エインヘリヤル・クロニクルのお話について知りたい、ってのは分かったよ。でもさ。カードのことならカードを見た方が早いんじゃない? わざわざボクなんかにこうしてインタビューするより、ほら。人間が作った、ウィキ? とかいうのに、お話はまとめられてるんでしょ。なんでそうしないの」

 

 その問いに、少年の表情が歪んだ。悔しさを噛み締めるような顔だった。

 

「カードに描かれた部分や、公式から出ているストーリーだけじゃ、駄目なんだ」

 

 少年は身を乗り出した。

 

「公式から明かされてるストーリーには描かれてない部分が多すぎる。火、水、風、光、闇。その五属性に続く第六の属性について。九脊界と魔術師どもを引っ掻き回したはずの渡界者について。脊界卵(ユミル)を都合よく九脊界に組み込んで、削ぎ落して、明かされてる世界観には嘘が紛れてるんだ。あれはダメだ」

 

 少年の指が、机の上の下描きを叩いた。

 

「そんな嘘の混じった舞台の上でストーリーを描くのは、ソロモン王に対して不敬だ。俺は今度こそ本物を描かなきゃいけない」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 ぶらつかせていた足を引き、ノルドリッチは机から腰を上げた。今、この少年は聞き捨てならないことを言わなかったか。

 

「キミ、今。公式は情報を明かしきってないって、言ったよね」

 

「言った」

 

 ノルドリッチは少年の顔を、まっすぐに覗き込んだ。

 

「なんで明かされてない情報をキミが知ってるの。第六属性だの渡界者だの、知らないということを知ること自体が不自然だ」

 

 ノルドリッチは言葉を紡ぎながら、一つの可能性について思い当たる。

 

「まさか、キミ──」

 

 ノルドリッチの動揺を見て、少年は笑った。

 

 自虐めいた、乾いた笑みだった。

 

「そうだ」

 

 少年は、自分の小さな手を持ち上げ、それを眺めるように言った。

 

「俺は、九脊界に行ったことがある。この体が十歳から成長してないのもそのせいだ。向こうで飲んだ薬のせいでこうなっちまった」

 

 ノルドリッチは声を失っていた。

 

 確かに、九脊界には外から飛び込んでくる者があった。世界の理の外側から境を越えてくる、渡界者と呼ばれる存在。脊界樹の枝を伝うもの、脊界の裂け目を抜けてくるもの、本来そこにいるはずのないもの。

 

 ノルドリッチもその存在を知識としては知っていた。九脊界と魔術師たちを引っ掻き回し、引っ掻き回した末にどこかへ消えていった異物。だがその実物を目の当たりにするのはノルドリッチをもってして、これが初めてだった。

 

 驚きに固まったノルドリッチを見て、少年はかえって肩の力を抜いたようだった。

 

「言っとくけどな。俺自身は正直、どうでもいい存在だよ。偶然九脊界に紛れ込んで、そこでソロモン王に拾われて一緒に旅をして、そんで帰って来た。それだけだ」

 

 少年は自嘲を深めた。たった一言で旅の年月を畳んでしまうその語り口だが、しかし軽さは無い。むしろ背負いきれない重さを無理やり押し込めたような響きがあった。

 

「でも。俺はどうでもいい存在でも、俺と共にいてくれたソロモン王はそうじゃない。あいつとの約束を俺は守りたい」

 

 ソロモン王という名前にノルドリッチは聞き覚えがない。ノルドリッチよりも後に生まれた存在か、それともこの少年のように異物として紛れ込んだものなのか。

 

「俺は。新谷エダハは、俺を救ってくれたソロモン王のために、漫画を描かなきゃいけない」

 

 少年は椅子から滑り降り、再び床に膝を突いた。固い床に額が押し当てられる音がした。

 

「協力してくれ。頼む」

 

 二度目の土下座だった。

 

 ノルドリッチはその下げられた頭を見下ろす。黒い髪のつむじ。痩せて骨ばった小さな背中。その中には五十年と、世界を跨いだ旅と、誰かへの拭いきれない執着が詰まっている。

 

 ノルドリッチは何も言わなかった。

 

 ただ、にやりと。久しく忘れていた種類の笑みが、ノルドリッチの口元にゆっくりと広がっていった。

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