カスレアクロニクル   作:すばみずる

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161 準備期間はおしまい

 黒狼ヴェルカが、ソロモン兵の人垣へ真っ直ぐに突っ込んでいった。

 

 灰色狼モングレルの背に揺られながら、カルメリエルは斜面の上で繰り広げられる妹の独擅場を眺める。鞍上で身を低く沈めたレヴェローズが、振り抜いたサーベルの一閃で前列の兵をまとめて薙ぎ払う。乾いた音とともに人影が崩れ、夢遊の足取りで部下たちへ群がっていた兵の波が、断ち切られて散っていった。

 

 縁に沿って布陣していた義勇軍と教団の合同部隊が、押し込まれていた戦線を盛り返していく。総督一騎の到着だけで、潰されかけていた陣形に芯が通る。

 

(相変わらず、馬鹿げた膂力ですこと)

 

 糸のように細めた目の奥で、カルメリエルは静かに感心する。頭は空でも、戦場に置けばこの妹は別人だ。その一点だけは、姉として認めてやってもよい。

 

「む?」

 

 ヴェルカを反転させたレヴェローズが、斬り伏せた兵の骸を見下ろして怪訝な声を上げた。返り血を払うように刃を振り、もう一度、近くの兵へ斬りつける。今度も手応えはあったらしい。

 

「なんだ、今度は普通に斬れるぞ」

 

 レヴェローズの呟きが戦場の喧騒越しにカルメリエルの耳まで届いた。盆地へ向かう途上では、同じ兵にいくら刃を立てても通らなかったのはカルメリエルにも見えていた。それが今は、何の抵抗もなく斬れる。その理由をカルメリエルは既に見当をつけていた。

 

 モングレルの脇腹を軽く促し、妹の傍へ寄せる。

 

「おそらく、もうこの辺りの兵は数に入れられていないのですわ」

 

「数?」

 

「ええ。魔術師として──あの対戦に与する者の一部としては、もう認識されていない、ということですの」

 

 カルメリエルは戦場をぐるりと見渡しながら、声を落ち着けて続けた。

 

「思い出してくださいまし。先ほどまで、この兵たちには刃が通らなかった。シラベ様やミトラ様に、対戦の手続きを踏まぬ暴力が届かないのと同じ理屈です。彼らはあの『ソロモン王』とやらの体を形作るために集められ、その身もまた魔術師の体として扱われていた」

 

「なんだそれ、そんなものありか」

 

「機械人もどこまでが自分の身体とするのかあやふやですもの。

 ですが今、盆地で対戦が始まり結界で区切られてもいる。あの油溜まりの王のデッキの中に組み込まれた者だけが、王の体であり対戦の駒として確定したのですわ。つまり、デッキに入りそこねた残りの兵たちは」

 

 カルメリエルは、足元に転がる兵の亡骸を指で差した。

 

「切り離されたようなもの。最早あの王の体の一部ではなく、ただの肉に戻った。魔術師の体ではなくなったから、こうして斬れる。私はそう見ておりますわ」

 

 レヴェローズはサーベルで矢を一本弾き落としつつ、その考察に耳を傾けていた。理屈そのものは呑み込めたらしい。だが、その秀麗な眉が、ぐにゃりと不快げに歪む。

 

「……分からんでもないがな」

 

 馬上で身を起こし、レヴェローズはあからさまに顔をしかめた。

 

「兵を、体の一部だの切り離されただの、トカゲの尻尾や細胞のように言うのは気色が悪い。こいつらは数日前まで、私たちの兵とぶつかり合っていた敵兵だ。仮にも一人ずつ命があった者だろうに」

 

 カルメリエルは、ほんの少しだけレヴェローズの瞳を見た。

 

 名も無き敵兵の死にわざわざ頓着してみせる。この感傷こそが、自分とこの妹を分ける一線なのだろう。下らないと斬って捨てるのは容易い。だが。

 

(こういうところが、シラベ様あたりには好かれるのでしょうね)

 

 そう思い至ると、胸の奥が妙にざらついた。微笑みの形は崩さぬまま、カルメリエルはその小さな不快を顔の裏へ仕舞う。

 

「ずいぶんお優しいこと」

 

「茶化すな。というか姉様」

 

 レヴェローズが、じろりとこちらを睨んだ。

 

「さっきから喋ってばかりではないか。少しは戦え。棒切れでもなんでも構わん、振って手を動かせ。見ろ、お前の乗っている狼の方がよほど戦っているぞ」

 

 言われてカルメリエルが視線を落とすと、確かにモングレルが牙を剥き、寄ってきた兵の腕に食らいついて振り回しているところだった。乗り手が手綱を遊ばせている間も、灰色狼は実直に己の仕事を果たしている。

 

「……まったく」

 

 カルメリエルはわざとらしく長い溜め息をつき、肩を竦めてみせた。

 

「私は荒事は得手ではございませんのよ。本来こういう泥臭い真似は、武辺者のあなたや信徒たちに任せておきたいところですけれど」

 

 そうは言いながらも、傍にいる信徒へ片手を差し出す。機械人形の信徒は心得たように、手にしていたフレイルを恭しく主の手へ預けた。

 

 鎖の先で棘付きの鉄球が、じゃらりと重い音を立てて垂れ下がる。淑女が握るにはあまりに無粋な得物だが、嫌いではない。刃の違い当て方にこだわらなくて良いというのが素晴らしい。

 

「仕方ありませんわね」

 

 カルメリエルはモングレルの腹を軽く蹴り、寄せてくる兵の一団へ向けて流れるように得物を振るった。

 

 唸りを上げた鉄球が、ソロモン兵の一人の側頭を捉え、まるで熟れた果実でも潰すように軽々と弾き飛ばす。返す動作でもう一人の腰を刈り、崩れたところへ鎖を巻きつけて引き倒す。

 

(あぁ、嫌ですこと。血の脂が跳ねますわ)

 

 表にこそ出さないが、内心ではしかめ面だ。それでも手だけは容赦というものを知らない。眉一つ動かさず、カルメリエルは寄せ来る兵を一人また一人と地に沈めていく。

 

 そうして数体を片付けたところで、カルメリエルは自分の内側に異変を感じ取った。

 

 胸の奥──ドゥブランコの娘たる己が宿す、結晶の在処。そこに据えられた伝結晶が、外から注がれた何かを受けて、ぐぐ、と質量を増していく感覚があった。

 

 見れば、戦場のあちこちで同じ色の光が灯っている。レヴェローズの腰に連なる伝結晶が紫電を撒き、それが束となって周囲へ放たれていた。兵たちの装具に、信徒たちの継ぎ目に、紫の輝きが次々と点っていく。

 

 そしてその輝きは、レヴェローズの部下でも何でもない、姉たるカルメリエルの内にまで、当然のように流れ込んできていた。

 

(……これは。あの子の力ですわね)

 

 道理だ、とカルメリエルは合点する。自分とて伝結晶を冠する身。その名を負う者へ恩恵を撒くというのなら、この身がその網に掛からぬ道理はない。妹が率いる勝手な宣言で同胞とされた名も無き兵と寸分違わぬ扱いで。

 

 膨れ上がった結晶の力が四肢の隅々まで巡る。フレイルがまるで羽根のように軽い。次に振るった一打は、先刻までの倍は遠くまで兵を吹き飛ばした。

 

「どうだ姉様!」

 

 離れた場所から、レヴェローズの弾んだ声が飛んでくる。

 

「私の力が乗ったろう。戦いやすくなっただろう!」

 

 ふんぞり返らんばかりに豊かな胸を張る妹の顔が、こちらの加勢を誇らしげに見やっている。手柄を立ててやったとでも言いたげな心底得意げな顔だ。

 

 事実だから否定はできないものの、なんだその何の含みもなく自慢してくる無邪気な顔は。助けてやったぞと言わんばかりの表情。それを正面から浴びせられると、どうにも面白くない。

 

 私はお前を陥れたというのに、何故こうも邪気が無いのだ。私はあれを追いやったのに、何を仲良しこよししているのだ。刻まれている物語(エッダ)が妹をひしゃげた目で見て、そしてカルメリエル自身をも睨む。

 

 いつもなら、ぴしゃりと皮肉の一つも返してやるところだ。下らぬ思い込みで効果を撒く愚妹だと、嘲笑ってやれば気も済む。だが今この瞬間自分に与えられる恩恵自体はどう愚弄しても変わらない。礼を言うのも癪だが、嫌味を言えば負け惜しみになる。

 

 たっぷり一拍、カルメリエルは沈黙した。

 

 そして降参とでもいうように、ことさら大きな溜め息を一つ吐く。

 

「……まぁ、よろしいでしょう」

 

 諦めにも似た呟きを零して、カルメリエルはモングレルの脇腹を蹴った。灰色狼が応えて駆け出し、兵の渦中へその身を運んでいく。

 

 微笑みだけは、最後まで崩さぬまま。

 

 

 *

 

 

 縁の上から響く喧騒を背に、シラベは盆地の底で自分の山札へ手を伸ばしていた。

 

「俺たちのターン」

 

 三ターン目。ミトラはツクバーンの形態変化を見送り、そのままドローする。シラベも引いたカードを手札へ加え、シラベは小さく奥歯を噛んだ。

 

(……悪かねえ。悪かねえんだが)

 

 来る札は、どれも腐ってはいない。盤面を整え、数を並べ、死を糧に回していく、レヴェローズが使うデッキに酷似したシラベのデッキ。だが、肝心の止めを刺す一枚が一向に顔を出さない。守りを固める手は揃うのに、攻めて勝ち切る形がまるで見えてこない。

 

 

「光のルーンをセット。……2マナで、機械・生命体『失伝結晶円盤』を設置」

 

 地面が割れ、錆びた円盤状の装置がせり上がってくる。本来ならCC(クリスタル・カウンター)が1個乗った状態で出るだけだが、先置きの『潤滑剤』が働き、乗るカウンターに1つが上乗せされる。2/2となった円盤が唸りを上げた。

 

 


『失伝結晶円盤』

 コスト:〈2〉

 タイプ:機械・生命体

・失伝結晶円盤は、CC(クリスタル・カウンター)が1個置かれた状態でフィールドに出る。

・失伝結晶円盤が死亡したとき、これの上に置かれているCC(クリスタル・カウンター)1個につき、飛翔を持つ無色の1/1の『飛行機械』機械・生命体・代替品(レプリカ)を1体生成する。

・〈1〉,〈T〉:失伝結晶円盤の上にCC(クリスタル・カウンター)を1個置く。

 [0/0]


 

 

 

 守って、死んで、数を残す。盤面は着実に厚くなる。だが厚くしたところで、向こうのライフを削る算段がなければ意味がない。残る1マナを宙ぶらりんにしたまま、シラベはミトラへ顎をしゃくった。

 

「店長、そっちは」

 

「水のルーンをセット。『水晶食いの海鳥』を場に」

 

 ミトラの場に、嘴の長い痩せぎすの水鳥が舞い降りる。たいした体躯ではないが、ぱさりと広げた翼は飛翔の証だ。

 

 


『水晶食いの海鳥』

 コスト:〈水〉

 タイプ:生命体

・飛翔

・〈7〉〈水〉:この生命体の上にCC(クリスタル・カウンター)が置かれていないなら、これの上にCC(クリスタル・カウンター)を4個置く。この能力を起動するためのコストは、あなたの墓地にあり戦略か戦術であるカード1枚につき〈1〉少なくなる。

 [1/1]


 

 

 起動には重いマナが要る上に、墓地の戦略・戦術を肥やしてからでなければ旨味は薄い。今はただの1/1の飛び物だ。それでもミトラの横顔には焦りの影一つない。手の中の答えを既に握っているのか、それとも握っていないことすら織り込み済みなのか。判じかねる涼しさだった。

 

(こいつのこういう顔は、強い時も詰んでる時も変わらねえんだよな)

 

「ターンエンド」

 

 二人は声を揃える。

 

 応じて、ノルドリッチがひらりと手を振った。

 

「はーい。でも、こっちはまだ動かないんだよね。じゃ、次のターンどうぞ」

 

 相変わらず、油溜まりの王は身じろぎ一つしない。シラベは舌打ちを噛み殺して、次の山札へ手を掛けた。

 

「俺たちのターン。ドロー」

 

 四ターン目。引いた札もまた、決定打ではなかった。

 

「風のルーンをセット。2マナで、2枚目の『失伝結晶円盤』を設置」

 

 錆びた円盤がもう1基、地を割って現れる。これも『潤滑剤』の恩恵で2/2。守りの壁がまた一枚厚くなった。

 

「水のルーンを置いて、終わり」

 

 ミトラもまたルーンを一枚伏せただけでターンを閉じる。シラベなら焦りが態度に出そうな盤面の隙だというのに、その有り様はひどく落ち着き過ぎていた。

 

「ターンエンド」

 

 告げた、その瞬間だった。

 

 盆地の中央で、不格好に蹲っていた油溜まりの王が、ずず、と蠢いた。

 

「お、やっと来たよ。準備期間はおしまい。──こっちのターンだ」

 

 ノルドリッチが、待ちかねたように王へ侍り寄る。

 

 王の身体の表面が泡立ち、その一部がぼとりと地へ滴り落ちた。黒い油の塊。それが地面の上でぐにゃりと膨れ、形を変えていく。

 

 手が伸び、脚が割れ、髪が垂れ──現れたのは、一糸まとわぬ裸の女の姿だった。

 

 ミトラが語っていたルールの挙動がシラベの脳裏をよぎる。山札のトップをめくり、それが代替品なら場へ出して、まためくる。この湧き出しが、そのめくりなのだろう。

 

「カードの扱いとしては、闇属性の、0/1の娘・悪魔の代替品(レプリカ)ね」

 

 ミトラが呟く。シラベもなるだけ裸体を見ずに視線を送ると、そのステータスがホログラムで表示される。詰めていた息をほっと吐き出した。

 

「なんだ。0/1かよ。そんなんなら、何体殴られたって痛くもねえな」

 

「ええ。あれは本来なら、呪法カード『七十二の娘』の効果で出てくる代替品よ。一体一体は、ほとんど数にもならない雑兵」

 

 ミトラの声にも、わずかに安堵が滲んでいた。

 

「そうなんだよねぇ」

 

 ノルドリッチが、心底つまらなそうに肩をすくめる。

 

「『娘』っていうだけあってさ、これ一枚じゃ何にもならないんだよ。か弱いったらありゃしない。困っちゃうよねぇ」

 

 愚痴とも前振りともつかない物言いに、シラベは嫌な予感を覚えた。その予感を裏付けるように、王の身体が再び泡立つ。

 

 ぼとり。2体目。

 

 ぼとり、ぼとり。3体目、4体目。

 

 めくれた札が代替品であるたび、油は娘の形を取り、また次がめくられる。安堵を上書きするように、虚ろな目をした裸の女たちが、盆地の底へ次々と並んでいく。5体目が立ち上がった、その次。

 

 ひときわ大きな塊が、王の胴から剥がれ落ちた。

 

 他の娘の倍はあろうかという質量が、みしりと音を立てて人の形に凝る。逞しい四肢。野獣じみた体躯。そしてシラベには、その姿に確かな見覚えがあった。

 

「……ビム」

 

 巨大な狼に跨り、ミトラに敗れていった戦士。あの時のまま、片手を切り落とした姿だ。上背も身幅も変わらない。だが生気のこもらない顔のせいか、記憶の中の威容には遠く及ばない。

 

 


『群狼の戦姫ビム』

 コスト:〈1〉〈闇〉〈闇〉

 タイプ:生命体 ― 娘・悪魔

・他の悪魔・生命体は+1/+1の修整を受ける。

・〈1〉〈闇〉,〈T〉:あなたの墓地にある悪魔・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。

 [2/2]


 

 

(あいつも、デッキに混ぜられてやがったのか)

 

 胸の奥で、苦いものが滲む。あれだけ堂々としていた戦士が今は溶かされ、雑兵の群れを束ねるだけの一枚として叩きつけられている。気色のいいものではない。

 

 だが、感傷に浸る間も無かった。ビムが立ち上がった途端、並んだ娘たちの輪郭がぶわりと膨れ、いつの間にか剣を手にしている。他の悪魔・生命体に+1/+1を撒くビムの効果。ほぼ無きに等しかった0/1の娘たちが、軒並み1/2へと底上げされていく。

 

 そして、5体の娘と1体のビムが、揃ってシラベへと殺到してきた。

 

「は……っ、おい!」

 

 シラベは思わずのけ反った。

 

「お前ら、たった今フィールドに出たばっかりだろうが! なんで殴れるんだよ!」

 

「「あれ、言ってなかったっけ」」

 

「お前らマジでそういうとこだぞ!」

 

 ミトラとノルドリッチの声が、見事に重なった。

 

 怒鳴り返すシラベに、ミトラが悪びれもせず付け足す。

 

「大群の生き物は全部、出たそばから殴ってくるの。全員『早撃ち』持ちになる裁定なの」

 

「だからルールは先に言えっつってんだ!」

 

 悪態をつきながらも、シラベの頭は既に切り替わっている。攻め手が全員こちらへ来るというなら捌くしかない。

 

 攻撃は同盟のプレイヤー個人を狙う代わりに、ブロックはチーム全員の生命体で受けられる。だが今、ミトラの盤面から駒を引くのは勿体ない。

 

 6体の攻撃。シラベの盤面には、リクワー、失伝結晶円盤が2基。ミトラの場には、ツクバーンと海鳥。

 

(全部は止められねえ。なら、止める相手を選ぶ)

 

 シラベの目は、まず娘たちの真ん中で胸を反らすビムへ向いた。あれを放置すれば娘たちは膨れたまま。次のターンもその次も群れを底上げし続ける。

 

「最初に出した方の円盤で、ビムをブロック」

 

 2/2の円盤が、2/2のビムの突進へ割って入る。相討ち上等の差し違えだ。

 

「リクワーで娘を1体。2枚目の円盤で、もう1体止める」

 

 リクワーがモップ片手に娘の一体へ組みつき、もう一基の円盤がさらに一体を受け止める。ミトラの1/1たちは温存だ。雑兵を止めるためだけに盤面を磨り潰すのは下策と踏んだ。

 

 残る3体の娘は、止め切れずにシラベへ素通りする。

 

「そしてブロック指定後、最初に出した円盤の能力を起動する。1マナ支払い、こいつ自身にカウンターを1個」

 

 立たせていたルーンを一つステイさせ、マナを絞り出す。応じて円盤が低く唸り、伝結晶潤滑剤が呼応して円盤に付く結晶体を磨き上げた。

 

 起動で乗る1個に潤滑剤の1個が重なって、この一手で2個。元から乗っていた2個と合わさり、円盤の上で結晶が4個、ぎちりと噛み合った。

 

 円盤はブロックに就いたままステイするが、ステイ状態になってもブロックの処理は変わらない。殺意の増した鉄塊が、突っ込んできたビムを正面から組み伏せる。

 

「ダメージ処理」

 

 硬質な衝突音が連鎖した。

 

 4/4に育った円盤がビムの一撃を装甲で受け流し、逆にその質量で戦姫を捻り潰す。たかが2点の傷では円盤はびくともせず、対するビムは円盤の叩き込む4点に耐えきれず一方的に砕けた。

 

 リクワーと2枚目の円盤に組み止められた娘も2体とも一方的に打ち砕かれて、油の飛沫を上げて消える。

 

 そして、素通りした3体の娘の刃がシラベの実体へ届く寸前で障壁を削る。視界の端のライフ表示がかちりと数を減らした。1体1点、3体で3点。

 

 共有ライフ、50から47へ。

 

「っ……まぁこれくらいなら、まだ何ともねえな」

 

 頬を伝う冷や汗を拭いながら、シラベは盤面を見直す。その口元はわずかに緩んでいた。

 

 ビムが砕けたことで生き残った娘たちの輪郭からすっと力が抜けていく。握っていた剣が掻き消え、ふたたび牙のない0/1へと萎んでいった。群れを底上げするロードを真っ先に潰せたのは大きい。これで向こうに残るのはただの雑兵の山だ。

 

 しかも4/4へ育った円盤を筆頭に、シラベの盤面は一枚も欠けていない。失ったのはライフ3点きり。第一波の捌きとしては、文句のつけようがない。

 

(……だが、これで終いってわけじゃねえんだよな)

 

 ちらと、盆地の中央へ目をやる。あれだけ娘を吐き出してなお、油溜まりの王は痩せた素振りもない。底の見えない山札。めくれば湧き、湧いては殴ってくる、終わりの見えない物量だ。

 

 こちらの壁がどれだけ堅かろうと、押し潰される前に向こうの山札を掘り尽くせるのか。逃げ場のない籠城は、まだ始まったばかりだった。

 

 盆地の縁から、レヴェローズの号令と狼の咆哮が途切れずに降り続いている。

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