カスレアクロニクル   作:すばみずる

162 / 162
162 分かりにくくて仕方がないわ

 シラベたちの五ターン目。ステイされていた失伝結晶円盤がゆっくりと再起動し、再び盤面に睨みを利かせる。錆びた装甲の継ぎ目で、噛み合った結晶が低く唸った。

 

 隣ではミトラがチェック位相に入り、自分の場のツクバーンへ指を向けていた。

 

「ツクバーンの効果。山札の一番上を見るわ」

 

 培養槽の中の被験者がぴくりと震え、ミトラの山札の最上段が淡く光る。前のターンはそのまま進行したミトラだが、今度は違った。

 

「これは公開する」

 

 光を纏ったカードが表を晒したまま宙に固定される。

 

 


『塩対応』

 コスト:〈1〉〈水〉

 タイプ:戦略

・生命体でない呪文1つを対象とし、それを打ち消す。


 

 

「戦略カードだから形態変化ね」

 

 ミトラの声に応じて、培養槽がぴしりと罅割れた。中の人型が硝子を内側から押し破り、培養液を撒き散らしながら立ち上がる。継ぎ接ぎの皮膚に能面じみた仮面を貼り付けた、ひょろりと背の高い人影。背からは薄い膜状の翼が広がっていた。

 

 


『仮面偽装者』

 タイプ:生命体

・飛翔

 [2/3]


 

 

 1/1の頼りない被験者が飛翔を備えた2/3へと化ける。ミトラはそのまま、公開された塩対応をドローした。

 

 シラベもカードを引き手札に加える。ようやく勝ちに繋がる形がシラベに見えてくる。

 

「風のルーンをセット」

 

 五枚目のルーンが地に芽吹く。これで使えるマナは五点。

 

「2マナで機械・生命体『失伝結晶機(ロスト・クリス・マキナ)』を設置」

 

 地面が裂け、無骨な砲塔めいた装置がせり上がってきた。胸部に嵌め込まれた水晶が据えられた瞬間に鮮やかに灯る。ドゥブランコからヴラフマに接収された後の鹵獲品として描かれたイラストで、シラベ的にはこちらのイラストの方が密かに好みだった。

 

 本来ならCC一個で出るだけだが、潤滑剤の働きによって乗る数に一つが上乗せされる。

 

 


失伝結晶機(ロスト・クリス・マキナ)

 コスト:〈2〉

 タイプ:機械・生命体

・失伝結晶機がフィールドに出るとき、これの上にCC(クリスタル・カウンター)を1個置く。

・これの上からCC(クリスタル・カウンター)を1個取り除く:生命体1体かプレイヤー1人を対象とし、それに1点のダメージを与える。

 [0/0]


 

 

 

「同じく2マナ、『伝結晶戦姫(クリスタライズ・ヴァルキュリア)ヴェルガラ・ドゥブランコ』!」

 

 爆ぜるような火花とともに、盆地の底に巨躯が落着した。

 

 荒々しく乱れた長い赤髪。同じく真紅の双眸が獲物を探すように戦場をぐるりと舐める。

 

 褐色の肌に纏うのは金属板を最小限に削いだビキニアーマーで、剥き出しの腹と太腿が、飛沫いた潤滑剤を受け艶を帯びている。腕には無造作なパイルバンカーが一基。

 

 姉妹であるレヴェローズやカルメリエルとはまるで質の違う、戦士かくあるべしと言わんばかりの威風がある。

 

 


伝結晶戦姫(クリスタライズ・ヴァルキュリア)ヴェルガラ・ドゥブランコ』

 コスト:〈2〉

 タイプ:機械・生命体

・機械1つを生け贄に捧げる:これの上にCC(クリスタル・カウンター)を1個置く。

・伝晶1(この生命体はCC(クリスタル・カウンター)が1個置かれた状態でフィールドに出る。これが死亡したとき、機械・生命体1体を対象とする。あなたはこれのCC(クリスタル・カウンター)をすべてそれの上に置いてもよい)

 [0/0]

192cm/88kg/B132(P)/W70/H105


 

 

 かつてレヴェローズとの対戦でも使われ、ディーヴァ・アリーナでヒナタが纏った衣装の元ネタだが、味方として間近で観るのはシラベにとって初めてだ。とはいえ見惚れている場合ではない。

 

 使える札を全部盤面に吐き出して、シラベの手は空になった。

 

「店長、そっちは」

 

「2マナで『知的労働』。攻撃前だから、二枚引いて一枚捨てる」

 

 ミトラが宙へ指を滑らせると、痩せた事務官じみた幻影が帳簿をめくる。二枚を引き寄せ、要らぬ一枚をミトラの手札から墓地へ落とす。

 

 


『知的労働』

 コスト:〈1〉〈水〉

 タイプ:戦術

・カードを2枚引く。その後、このターンにあなたが攻撃していなかったなら、カードを1枚捨てる。


 

 

 手札を整えながら、ミトラがちらとシラベの空の手へ目をやった。

 

「シラベ、手札全部吐いちゃってるけど相手のデッキは生き物だけ入ってるわけじゃないんだからね。全除去だってあり得るんだから、ちょっとはケアしなさい」

 

「いいんだよ。そん時はお前が守ってくれんだろ」

 

 塩対応を抱えた手札を顎でしゃくってやる。ミトラは数瞬黙ってから横を向いた。

 

「店長を顎で使うなっての」

 

 呆れている物言いの割に満更でもないらしいのは、その声色でなんとなく知れた。

 

 手が空いたついでに、シラベは足元へ目を落とす。簀巻きにされたまま所在なげに丸まっているミーシャがいた。

 

 シラベは屈み込み、肌着に結んだ細紐をほどいてやる。

 

「すまん、忘れてた。窮屈だったろ」

 

「あ……は、はい」

 

 ぱさりと布が解けて、ミーシャが身を起こす。だが自由になったところで、銀の髪の少女は周囲の異常をようやく真正面から認識したらしい。地に張られた光の網、聳える油の王、虚ろな娘の群れ。みるみる顔が強張っていく。

 

「あ、あの、これは、いったい」

 

 慌てふためく頭を、シラベは軽く撫でて押さえてやった。

 

「とりあえずこのまま、俺の傍にいな。それでいい」

 

 状況は何一つ呑み込めていない顔のまま、それでも素直にこくりと頷いて、シラベの脇へ寄り添った。

 

 よし、と頷きシラベは盤面へ向き直る。

 

「攻撃に入る。リクワーで殴る」

 

「こっちも二体で殴るわ」

 

 モップを担いだ小柄な機械兵が王へ向けて駆けた。続いてミトラの側でも、仮面偽装者と海鳥が翼を広げて空から油の王へ突っ込んでいく。

 

 それぞれの得物が王の身体を抉る。だが手応えはどこか薄い。黒い油から飛沫がいくつも跳ねるもののその嵩は削れた様子をまるで見せなかった。

 

 通したぶんだけ向こうの山札が削れている筈だが、手応えのなさが不安を煮詰める。

 

「ターンエンド」

 

 二人の声が揃う。応じて、ノルドリッチがひらりと杖を振った。

 

「はぁい。じゃ、こっちのターンね」

 

 王の表面が泡立ち、ぼとり、ぼとりと黒い塊が地へ滴る。油が人の形を取り、また次が現れる。

 

 一人、二人と立ち上がり、そして三枚目。溢れ落ちた塊が、他より一回り大きく凝った。広げた翼に、嘴のような面。痩せた体躯に喪服じみた漆黒の羽衣を纏った戦姫が虚ろな目で舞い降りる。

 

 


『鴉統べの戦姫マルファス』

 コスト:〈2〉〈闇〉

 タイプ:生命体 ― 娘・悪魔

・飛翔

・あなたのチェック位相の開始時、飛翔を持つ闇属性の1/1『鴉』代替品を1体生成する。

・あなたがコントロールする他の悪魔は+1/+0の修整を受ける。

 [2/2]


 

 

「また全体強化か」

 

「そういうものよ、ああいうデッキに入ってる奴は」

 

 マルファスが翼を広げた途端、足元に並んだ娘たちの輪郭が膨れる。+1/+0の底上げ。0/1でしかなかった娘達が、軒並み1/1の頭数に化けた。

 

 シラベの目が自分の失伝結晶機へ流れる。マルファスの体力は2。これのCCを二つ打ち出せば、あの厄介な強化をこの場で撃ち落とせる。

 

「やめときなさい」

 

 考えを読んだように、ミトラが横から釘を刺した。

 

「あれは次のこっちのターン、仮面偽装者で止められる。焦って撃つことないわ」

 

「……また全体強化が置かれたらどうする?」

 

「その時は捲られた札が場に置かれる前に飛ばせばいい。あんたの砲台はフィニッシャーになり得るんだからこんなとこで無駄遣いしてらんないのよ」

 

 ミトラの言葉にシラベは頷き、娘五体とマルファスが一斉にシラベ目掛けて殺到した。

 

「また俺かよ。別に通り先は同じだからどっちでもいいけど」

 

「なんか変なフェロモンでも出てるんじゃない?」

 

「お前が言うなよ」

 

 ブロックに回せるのはこのターンで攻撃していない駒だけ。攻め込んだリクワーと、ミトラの仮面偽装者・海鳥は行動済みで動けない。残るはシラベの円盤二基、失伝結晶機、ヴェルガラの四体。

 

「円盤2枚で娘を受けて能力起動、2/2の方にCCを乗せるぞ」

 

 シラベの宣言に従い二つの円盤が娘の前へ割り込み、そのまま唸りを上げる。残り一つのルーンをステイさせ、円盤自身にカウンターを一個。すかさず潤滑剤が呼応してもう一個を上乗せした。

 

 合わせてCC二個ぶん膨れ上がり、二枚目の円盤も四個積みの4/4へ育つ。

 

「一枚目も同じことをしてやりたいがマナが足りないか。まあいい、失伝結晶機とヴェルガラでも娘を一体ずつ止める」

 

 砲塔を持つが娘を遮り、ヴェルガラがパイルバンカーを構え獰猛な笑みを浮かべる。

 

「マルファスと余った娘一体はスルーね。そのままシラベが食らうわ」

 

「おい。いやそうなんだけど」

 

 飛翔持ちのマルファスはそもそも地上の駒では受けられない。四体の壁で止めきれなかった娘を一体、そして空のマルファスがシラベに迫る。

 

 ダメージ処理に入り、硬い衝突音が連鎖した。

 

 ブロックした四体の娘は機械たちやヴェルガラに一方的に吹き飛ばされ、油の飛沫を上げて掻き消えた。受けた側は負傷をものともせず、全員が立ったままだ。

 

 通した娘とマルファスの一撃がシラベの目前で障壁を削り取る。ライフ表示がかちりと数を減らした。

 

 共有ライフ、47から44へ。

 

 四個積みに育った二枚目の円盤を見やって、シラベは肩で息をつく。壁は一枚も欠けず、むしろ太った。被害はライフ三点きり。悪くはないはず。

 

「うーん、なかなか削らせてくれないねぇ」

 

「そうそう通すわけないだろ。そら、俺たちのターンだ」

 

 六ターン目。スタンドするカードを横目にシラベはドローする。

 

(……ルーン。まあ、贅沢は言えねえ)

 

 有効牌を期待した手が肩透かしを食う。だが運次第の引きに文句は付けられない。

 

「風のルーンをセット。それで俺は終いだ」

 

 六枚目のルーンがシラベの場に出たところで、ミトラがあー、と妙な声を出す。

 

「どうした」

 

「いや、そう言えば入れてたの忘れてたわ。まぁ頭数が必要だしいいか」

 

 ミトラが4マナを支払い、一枚のカードを盤面へ叩きつけた。

 

「来なさい、カルメリエル」

 

 宣言と共に地面から光が吹き上がり、光の中から人の形が現れる。

 

 シラベにも見覚えのある豊満なシルエット。だがその手には不釣り合いに無骨なフレイルが握られ、純白の裾には乾きかけた黒ずんだ飛沫が点々と散っていた。

 

 カルメリエルはきょとんと辺りを見回す。

 

「あら。良いところでしたのに」

 

 縁の戦場で兵を狩っている真っ最中に引っ張り出されたらしい。返り血をたっぷり浴びた聖女の登場に、簀巻きを解かれたばかりのミーシャが小さく悲鳴を上げ、シラベの背に隠れた。

 

「お前どんだけ殺ってきたんだよ……」

 

 ドン引きするシラベを尻目に、ミトラは気怠げに手を振る。

 

「行ったり来たりで悪いけど、こっちにも手を貸しなさい」

 

「勿論ですわ、我が主。ふふ、妹のお守りも飽きてきたところで──」

 

 そう言いかけて、ぐるりと戦場を見渡したカルメリエルの動きが、ぴたりと止まった。

 

 その視線の先にはシラベの場で仁王立ちするヴェルガラがいる。赤い髪を戦場の風に遊ばせる、カルメリエルとレヴェローズの姉だ。

 

 カルメリエルが謀殺したその人。カードのヴェルガラなら店のショーケースにも普通に並べられている。カルメリエルもそれを見ているはずだが、特に何の反応を見せたことはない。

 

 だが、こうしてリアルな質量で当人が殺した姉が眼前に屹立しているのをどう感じるのか。シラベにはまるで見当がつかなかった。

 

 とはいえ、他の生命体と同じく命じられるのを待つだけの存在。

 

「ひっ……」

 

 答えはすぐに出た。

 

 カルメリエルの顔から貼り付いた微笑が音を立てて剥がれ落ちた。摺り足で後ずさったかと思えば、あろうことかミトラの場の仮面偽装者の背後へ回り込み、その影でがくがくと震え始めた。

 

「おい、カルメリエル」

 

「お、お呼びにならないでくださいませシラベ様! カルメリエルは、ここにはおりませんわっ!」

 

「いるだろうが目の前に」

 

 裏返った声で無茶苦茶な言い分だった。姿を見ただけでここまで取り乱すとは。どうやら想像の数倍、この女はヴェルガラに恐怖を刻みつけられているらしい。

 

 仕方なく、シラベは宥めにかかる。

 

「落ち着け。こいつは精霊ってわけじゃねえんだ。ただのカードだよ。意識も記憶も無え。お前を恨んだりなんかしねえって」

 

「……本当、ですの?」

 

「ああ。ただの案山子だよ」

 

 おそるおそる、カルメリエルが仮面偽装者の影から半身を覗かせる。ヴェルガラは赤い目を戦場へ据えたまま、震える妹を一瞥もしない。その無関心さに、ようやく聖女の喉から安堵の息が漏れた。

 

「……ええ、そうですわ。そもそもヴェルガラ姉様がシラベ様ごときに大人しく使役されるはずもございませんもの。九脊界だからと言ってあの暴力女がここにいるわけがありませんわね」

 

 呟きに反応するように、じろりとヴェルガラの赤い双眸がカルメリエルへ向いた。

 

「ひぇっ」

 

 聖女は再び首を引っ込めた。ミトラはその有り様を見て額を押さえる。レヴェローズの前では余裕たっぷりに振る舞うくせに、姉の前では見る影もない。

 

「まぁ好きにしてろ。攻撃に入るぞ。リクワーで殴る。海鳥も飛ばせ」

 

「ええ。ただし仮面偽装者は出さないわ。対空に残す」

 

 ミトラの判断に頷き、シラベはリクワーを、ミトラは海鳥を王へ叩き込む。空恐ろしいのは、これだけ斬りつけ突き刺してなお、油の王が一向に嵩を減らさないことだ。飛沫こそ散るが、相変わらず削れた手応えは霧の中だった。

 

「ターンエンド」

 

 ノルドリッチが、待っていたとばかりに杖を掲げる。

 

「こっちのターン。まずはマルちゃんのお仕事からね」

 

 空に侍るマルファスの羽衣がはためき、その足元に一回り小さな黒い影が生まれた。一羽の鴉だ。

 

「鴉自体は出した本人の強化を受けないのって、やっぱ昔のカードデザインって変よね」

 

「分かる。でも俺はそういうの好きだけど」

 

「私は勘弁ね、分かりにくくて仕方がないわ」

 

 観察するシラベの前で、王が再び泡立ち始める。

 

 先程までとは異なり、より多くの娘たちが姿を現し始める。七体目が出て、そして八枚目、滴った塊が大きく凝り翼を備えた、城砦じみた甲冑の戦姫が舞い降りた。

 

 


『築城の戦姫ハルファス』

 コスト:〈2〉〈水〉

 タイプ:生命体 ― 娘・悪魔

・飛翔

・これがフィールドに出たとき、闇属性の0/1の『娘』悪魔・代替品・生命体を2体生成する。

 [2/3]


 

 

 降り立った途端、ハルファスの足元にさらに娘が二体湧いた。残っていた一体と、新しく出た七体、そしてハルファスの随伴の二体。娘は十体に膨れ上がる。そしてマルファスの補正で娘が1/1、ハルファスは2/3から3/3へと強化された。

 

 空に三体の飛翔持ち、地に十体の娘。じりじりと数に押し潰される感覚にシラベは歯噛みし、その顔を見てノルドリッチは満足げにする。

 

「げんなりしてる顔も可愛いねぇ。さ、攻撃だよ」

 

「何が可愛いだよ、虫けらくらいにしか思ってないような顔で言いやがる」

 

 娘十体、マルファス、鴉、ハルファス。十三体が一斉にシラベへ押し寄せた。

 

「仮面偽装者でマルファスを止める」

 

「残りは全部ぶつけるだけでいいな。失伝結晶機、ヴェルガラ、円盤二枚、それとカルメリエル。五体で娘五体を受ける」

 

「あらシラベ様、私の主はミトラ様ですのよ。そちらの暴力女の隣は遠慮したく……」

 

「うるせえやれ。それとマナが余ってる。円盤二枚、両方とも能力を起動するぞ」

 

 消費しきれないルーンが何本も立っている。使わなければ無駄になるだけのマナだ。太らせておくに限る。

 

 二基の円盤が同時に唸り、それぞれにCCが一個ずつ置かれる。すかさず潤滑剤が呼応し、置かれる数に一つを足す。起動の一個に潤滑剤の一個で、どちらの円盤もCCが六個へと膨れ上がった。

 

「飛んでる鴉とハルファス、それと残り娘五人は通しだな」

 

 止め切れなかった鴉とハルファスと娘達がシラベへ抜ける。一度に攻撃を受け障壁が軋み、共有ライフが35となった。

 

「くそ、こっちは削られてるのが晒されるくせに、湧き出て来やがる王の図体が変わりゃしねえ。一体どんだけ削れてんだよ、これ」

 

 愚痴を吐き捨てたシラベに、ノルドリッチが小首を傾げてみせる。

 

「知りたいの? 分かるよ、簡単に」

 

「あ?」

 

「デッキの枚数って公開情報でしょ? ほら、カードの能力欄を覗くみたいにすれば、いつでも見られるって。普通の対戦でも見えたはずだけど」

 

「……だからそういうのは先に言えよ」

 

 愚痴るものの、エリューズニルのテストプレイをしていた頃から、シラベはデッキ枚数を確認なんてしていなかった。相手のデッキ枚数を気にするタイプのデッキを使っていなかったせいだ、と言い訳したいものの、確認不足だったとしか言いようがない。

 

 シラベは王を凝視した。カードのテキストを読み込む要領で意識を集中させると、油の王の輪郭に薄ぼんやりと数字のホログラムが浮かび上がる。

 

 残り枚数:75

 

「……」

 

「うーん、二人相手に大人げない数字にしちゃったかな? ごめんねぇ、でもほら、ずっとこうして遊び続けてくれればいつかはかてるかもしれないしさぁ──」

 

「いや」

 

 勝ち誇るような物言いをするノルドリッチの声を遮るシラベ。それは先ほどまで焦れていたものとはまるで違う温度になっている。

 

「ミトラ、これ」

 

「そうね」

 

 ふぅ、と溜め息を吐くミトラ。ミトラもまた、シラベたちと同じ考えに達している。

 

「私達の勝ちよ」

 

 ぱちくりと、ノルドリッチがまばたきをした。

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