「俺のターン。先攻ドローは……」
「無いぞ」
「わーってる。確認だ。年食うと基本ルールから怪しくなってくるんだよ」
「そんな年でもあるまい」
改めて手札を確かめ、シラベは定石通りの初動を切る。
「『水のルーン』をセット」
場に青白い紋章が浮かび上がる。心躍る演出だ。シラベはそのホログラムに指で触れた。
「水マナを生成。コスト1、『間に合わせの機甲兵』を召喚!」
『水のルーン』
コスト:-
タイプ:ルーン
・〈T〉:水属性マナを1点生み出す。
『間に合わせの機甲兵』
コスト:〈1〉
タイプ:機械・生命体
[1/1]
シラベがカードを置いた場所より前方に光の粒子が集まり、錆びた鉄板を継ぎ接ぎした人型ロボットを形作る。特殊な効果を持たない、いわゆるバニラの生命体。
名前通りの間に合わせでも、この急造デッキでは機械・生命体であることに意味がある。
「ターンエンドだ」
「ふん、貧相な手勢だな。私のターン、ドロー」
レヴェローズは優雅な手つきでカードを引くと、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。
「格の違いを見せてやろう。『機械のルーン』をセット」
重々しい駆動音と共に、歯車を模した紋章が展開される。
『機械のルーン』
コスト:-
タイプ:ルーン・機械
・〈T〉:無属性マナを1点生み出す。
マナ源でありながら、機械としても数えられる特殊なルーン。生むマナは無属性だが機械の頭数を稼げる。その代わりに、機械破壊にも巻き込まれる裏目も抱えている。
「ルーンを起動。無属性マナ生成。来い、『伝結晶を負いし者』!」
『伝結晶を負いし者』
コスト:〈1〉
タイプ:機械・生命体
・伝晶1(この生命体は
[0/0]
胸に小さな水晶を埋め、背負った結晶体の重みに腰を曲げた機械兵が現れる。簡素な装甲はいかにもな量産品であることを物語っている。
素の性能は0/0だが、『伝晶1』で
(ここまでは想定内だ。ドゥブランコ王家のキャラが握るデッキっつーなら、こんなもんだよな)
シラベがそう高を括った矢先、レヴェローズは次の一枚を流れるように叩きつけた。
「さらに、0コストで『夢幻色の宝物印群』を展開!」
「はあぁっ!?」
宣言と共に、レヴェローズのフィールドに煌びやかな宝箱と虹色の光を放つ宝石の山が出現する。
『夢幻色の宝物印群』
コスト:〈0〉
タイプ:機械
・〈T〉:好きな属性のマナを1点生み出す。この能力は、あなたの場にこれ以外の機械が2つ以上ある場合にのみ使用できる。
シラベが目を剝いたのは、効果の強さにではない。
「お、おい! それ一枚一万以上する、お前とは違ってガチのレアカードじゃねえか! しかもお前の収録弾とは関係ない、遥か未来のパックのカードだぞ! 世界観どうなってんだよ!」
『夢幻色の宝物印群』はあらゆる機械デッキへ出張する汎用パワーカードだ。ドゥブランコ王家のデッキで役立つのは間違いないが、その背景ストーリーとは縁もゆかりもない。
「何を言うかと思えば……。勝利のために最良の手段を選ぶ、それが王族として、そして軍を率いる者としての責務だ」
ツッコミを涼しい顔で受け流し、レヴェローズはさらに展開を繋げる。
「『夢幻色の宝物印群』の効果起動。自身の他に機械が二つ以上ある場合、好きな色のマナを生む。『機械のルーン』と『伝結晶を負いし者』、条件は満たしているな」
宝の山が光を放ち、虹色のマナが生成される。初手からのマナ加速にシラベが生唾を飲み込む。
「生成したマナで、『死蝋集積所』を設置!」
『死蝋集積所』
コスト:〈1〉
タイプ:機械
・あなたがコントロールする生命体が死亡したとき、その上に置かれていた
・戦闘
揺れる地面を割って、不気味な黒いタンクがレヴェローズのフィールドにせり上がってきた。中に満ちた粘度のある液体が、禍々しい気配を放っている。
「うわ、マジかよ……そのコンボ持ってくるか」
シラベの頬が引きつった。
『死蝋集積所』は死んだ生命体が持っていたCCと同数を蓄えていき、戦闘位相のたびに生命体へ移せる機械だ。
単体なら何も仕事は出来ない。生命体にCCが乗っていて、それが死亡した時にようやく動くことが出来る。
悠長な機械のように見えるが、これが『伝晶』と組めば話が変わる。
『伝晶』持ちは死に際にCCを味方へ託す。一人死んだところで力は失われないというストーリー上でのドゥブランコの強みが再現された能力だ。
だが『伝晶』持ちの死に際に死蝋集積所があると、『伝晶』が味方へ託した分とは別の処理として、『伝晶』持ちに乗っていたのと同じ数のCCが集積所にも積み上がるのだ。
直感的でない動きになるが、とにかく伝晶』持ちが一体死ぬたびカウンターが倍になると思えば良い。
『死蝋集積所』はドゥブランコとは別勢力が由来のカードでありながら、兵の死すら養分にするその性能がひどく噛み合った。
「ターンエンドだ。さあ、どうする? 迂闊に私の兵を殺せば、我らが誇る伝結晶、
レヴェローズは挑発的に笑う。初手だけで彼女のデッキの骨格はほとんど組み上がっているのはシラベの目にも明らかだ。
昔の自分のデッキと軽く遊ぶつもりが、今の自分では到底組めない札束を突きつけられてしまったシラベは肩を落とすしかない。
「お前、俺が使ってた割には昔の俺より明らかに賢いんじゃねえか。どこで学ぶんだよ、そういうの」
「伊達にストレージの中から環境の推移を見守っていたわけではない。精霊の力をもってすれば、己のカードとしての使用状況も把握出来る」
「ネット環境完備かよ」
この総督閣下、思っていたよりも遥かに手強い。カードとしては弱くても、構築センスはプレイヤーと比肩するものだろう。
「俺のターン。ドロー」
カードを引き、盤面を見渡すシラベ。骨格は見えたものの、相手はまだ準備段階だ。攻めるなら今。だが、シラベの手も遅い。
全力で組んだデッキじゃない。喉まで出かかった言い訳を、奥歯で噛み潰した。
「『水のルーン』をセット。ルーンを二つステイして、無属性の機械生命体『灰被りの機甲兵』を召喚」
フィールドに煤で汚れた重装歩兵が現れる。
『灰被りの機甲兵』
コスト:〈2〉
タイプ:機械・生命体
[2/2]
これも能力なしのバニラだが、2/2ならコスト相応ではある。
「そして、バトル
一ターン目に出した1/1のポンコツロボが、軋む音を立ててレヴェローズへ突進する。
『伝結晶を負いし者』に止められれば相打ちだ。だが向こうはCCを受け渡さないとディスアドバンテージとなり、こちらは替えの利く雑兵。交換なら悪くない。
レヴェローズは渋い顔で腕を組むのみだった。
「不愉快だが問題ない。通すぞ」
ポンコツロボの錆びた剣が光の障壁を叩き、王女のライフが一点削れる。
「ターンエンドだ」
「私のターン! ドロー!」
勢いよく引いた一枚を見て、レヴェローズがにやりと笑った。有効札なのが丸分かりだ。
「このターンで、我が軍の戦線は強固なものとなる。『風のルーン』をセット!」
緑色の風が巻き起こる。
風マナ一つを支払い、彼女は怪しげな紫色の瓶が描かれたカードを高く掲げた。
「呪法設置! 『
「は? 潤滑剤?」
聞き返すのと同時に、レヴェローズのフィールド全体へ、ねっとりとした粘液状のエネルギーが撒き散らされた。それは機械たちの関節や装甲を覆い、ぬめった光沢を放ち始める。
『
コスト:〈風〉
タイプ:呪法
・あなたがコントロールする生命体がフィールドに出るか、それの上に
「このカードがある限り、私がコントロールする生命体にCCが置かれる際、その個数は+1される! これにより我が軍の展開速度は加速する!」
「効果は強いけどさ……絵面が最悪だろ、それ」
地面も兵もローションまみれにしか見えず、シラベは顔をしかめた。
レヴェローズの手は止まらない。残った『機械のルーン』と『夢幻色の宝物印群』から2マナをひねり出す。
「そして見るがいい! 潤滑剤によって滑らかに加速した、最強の矛を! コスト2、降臨せよ! 『
爆発音と紅蓮の炎を引き連れ、獰猛に笑う褐色の戦姫がフィールドへ降り立った。
『
コスト:〈2〉
タイプ:機械・生命体
・機械1つを生け贄に捧げる:これの上に
・伝晶1(この生命体は
[0/0]
192cm/88kg/B132(P)/W70/H105
エインヘリヤル・クロニクルの背景ストーリーではドゥブランゴの第一王女、レヴェローズの姉と語られるキャラクター。本来なら『伝晶1』で、実質1/1として出るはずだが──
「『潤滑剤』の効果により、追加のカウンターを付与! よってヴェルガラ姉様は、2マナにして2/2の性能としてで着地する!」
粘液がヴェルガラの全身へ絡みつき、その輪郭を一回り膨らませる。これで『灰被りの機甲兵』と互角の性能となった。
「ふははは! どうだ恐ろしいか! 貴様の貧弱な軍勢など、次のターンには粉砕してくれる!」
レヴェローズは勝利を確信したように豊かな胸を張る。
だが対面のシラベは恐怖に震えるどころか、半開きの口で一点を凝視していた。
(うぉ……すっげぇ)
見ているのは盤面ではない。顕現したヴェルガラ、その肢体だ。
ただでさえ露出度の高いビキニアーマーと豊満な褐色の肉体が煽情的であるのに、そこへ『伝結晶潤滑剤』の光沢が乗っている。オイルを全身にぶちまけたような巨大な双丘は艶めかしく濡れて輝き、動くたび濡れた肌の上で光が滑った。
(実物のヴェルガラともなるとすげえ迫力だな……。しかも潤滑剤のテカリで、なんかこう、オイルマッサージのグラビア写真みたいになってる……)
シラベの脳内ではキーカード襲来という危機より、テカテカおっぱいという視覚情報が圧倒的に強い。エロい絵目当てでカードを集めていた少年の頃の思い出が、まさかこんな形で報われるとは。
「……おい、契約者? 何を呆けている? 恐怖で声も出ないか?」
「あ、いや。うん。すごいな、その……テカリ具合が」
「テカリ? 何の話だ?」
戦闘しか頭にない王女様は、最後まで視線の意味に気付かなかった。