カスレアクロニクル   作:すばみずる

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04 演算プロセス終了 ※

「ふぅ。目の保養はここまでだ。ゲームに戻るぞ」

 

 ヴェルガラの艶めかしい肢体から、シラベは無理やり視線を引き剥がした。

 

 相手の場には強力なシステムエース。こちらは小粒のバニラが2体。サイズだけなら互角でも、質では明らかに劣る。

 

 それでも手札には、現代でも通じると見込んで残した古馴染みがいる。

 

「俺のターン。ドロー」

 

 引いたカードを確かめ、シラベは口元を緩める。

 

「ルーンセット。『機械のルーン』」

 

 シラベの場にも歯車仕掛けの紋章が重い音を立てて現れる。これで場にある機械は『機械のルーン』『間に合わせの機甲兵』『灰被りの機甲兵』の3枚。ルーンも3枚。そろそろ大きく動く頃合いだ。

 

「2マナ使用、戦術カード『マニュアル閲覧』を発動」

 

「『マニュアル閲覧』? コストは4と水属性マナだと書いてあったはずだが」

 

 眉をひそめるレヴェローズへ、シラベはカードを指で弾いてみせた。

 

 


『マニュアル閲覧』

 コスト:〈4〉〈水〉

 タイプ:戦術

・量産(このカードを唱えるコストは、あなたのフィールドにある機械の枚数分〈1〉減少する)

・カードを2枚引く。


 

 

「こいつは能力として『量産』を持っている。場の機械1枚につき、コストが1減る。今は3枚……だから、1と水マナの計2つで済む」

 

「コスト軽減だと? 味な真似を」

 

「2枚ドロー。……よし、来たな」

 

 シラベは引いたカードをそのままフィールドへ叩きつける。

 

「残り1マナで、2体目の『間に合わせの機甲兵』を召喚!」

 

 再びポンコツロボが出現し、場の機械は4枚に増えた。

 

 そしてシラベの手札には同名カードが2枚揃っている。素のコストは4。そこそこ重いが──

 

「さらに手札から、『野蛮造りのはぐれ機兵』を2体召喚!」

 

「コスト4を2体だと!?」

 

「こいつも『量産』持ちだ。場の機械は4枚。つまり、こいつらのコストは0になる!」

 

 宣言と共に、フィールドへ荒々しい鉄塊が続けざまに落下してくる。

 

 


『野蛮造りのはぐれ機兵』

 コスト:〈4〉

 タイプ:機械・生命体

・量産(このカードを唱えるコストは、あなたのフィールドにある機械の枚数分〈1〉減少する)

 [2/2]


 

 

 スクラップを無理やり溶接したような、粗雑で殺意に満ちた生命体が2体。マナを払わず、シラベの盤面が一息に埋まった。

 

 ユニットは5対2。質で負けていても、数ならシラベが圧倒している。

 

「雑魚風情がわらわらと……!」

 

 レヴェローズがたじろぐ。たとえヴェルガラの効果は凶悪であっても、一体の小粒生命体で止められてしまえばそこまでだ。生命体の体力から超過したダメージをプレイヤーに与える『貫通』能力を持たない以上、頭数で押し込まれるのは面白くないはずだった。

 

「バトル位相(フェーズ)! ……と言いたいが、新入りの召喚酔いも解けてねえし、下手に殴ってヴェルガラに返り討ちってのも癪だ。ターンエンド」

 

『間に合わせ』と『灰被り』で殴っても、『負いし者』と『ヴェルガラ』に止められる。そのまま『負いし者』を貪られれば、ヴェルガラは一気に6/6。おまけに『死蝋集積所』にまでカウンターが乗る。いま殴る意味は薄い。

 

 盤面を固め、勝負どころで一斉に殴る。それしかない。シラベは内心の冷や汗を隠して、口の端を持ち上げてみせた。

 

 5体の機械兵が、屑鉄の壁を作る。レヴェローズは奥歯を噛み締めた。だが、それも束の間だった。

 

「私のターン。ドロー」

 

 声から熱が消えていた。紫の瞳が盤面をなぞる。その冷たさを、シラベは知っている。

 

 これから殺すという決意をにじませたプレイヤーは、総じてそのような冷徹さで高揚を隠す。

 

 まさか、とシラベは頭を振る。こちらのライフは一点も削れていない。まだ序盤のはずだ。

 

「3枚目のルーンをセット。『機械のルーン』」

 

 重厚な金属音が響き、彼女の背後に巨大な歯車が出現する。

 

 これでレヴェローズのマナ基盤は機械・風・機械の3つ。『夢幻色の宝物印群』をステイさせれば、好きな色がもう1つ出る。

 

「1マナ使用。2枚目の呪法、『伝結晶潤滑剤』を発動」

 

 先ほどの粘液が、濃度を増して降り注ぐ。視界が歪むような光沢が、彼女の軍勢を包んだ。

 

「お、おい……まじかよ。2枚張り?」

 

 伝結晶潤滑剤』の効果は重複する。これで生命体にカウンターが置かれるたび、その数は+2だ。

 

「残りは3マナか。……見るがいい、我が王家の負の遺産を。2マナ使用、機械・生命体『失伝結晶機(ロスト・クリス・マキナ)』を召喚」

 

 生じた空間の亀裂から、明滅する水晶塊を背負った異形の機械人形が滑り落ちる。四肢はなく、浮かぶ結晶が不協和音を奏でていた。

 

 


失伝結晶機(ロスト・クリス・マキナ)

 コスト:〈2〉

 タイプ:機械・生命体

・これが場に出るとき、これの上にCC(クリスタル・カウンター)を1個置く。

・これの上からCC(クリスタル・カウンター)を1個取り除く:生命体1体かプレイヤー1人を対象とし、それに1点のダメージを与える。

 [0/0]


 

 

 サイズは0/0。効果により、CC(クリスタル・カウンター)を1個乗せて場に出る。CCが乗る、ということは、潤滑剤がうごめくということでもある。

 

「『潤滑剤』2枚の効果適用。基本の1個に+2され、計3個のカウンターを乗せて着地する」

 

 低い駆動音とともに、人形の周囲へ3つの光点が灯った。

 

『失伝結晶機』は一見すれば2マナ1/1相当の生命体。だが能力として、CC1個を1ダメージへ換える歩く砲台という一面を持つ。

 

 その砲撃にはマナは要らず、1ターン内の回数制限もない。乗っている数が、そのまま弾数になる。

 

「……ッ! まさか、お前」

 

 シラベは即座に計算を始めた。嫌な予感どころではない。詰みの匂いがする。

 

 レヴェローズの場には機械を生け贄にCCを得る『伝結晶戦姫ヴェルガラ』がいる。機械1つにつき3つのCCとなる。つまり、それは。

 

「演算プロセス終了。──契約者は壁打ち(ソリティア)がお望みだったな」

 

 レヴェローズが指を鳴らす。

 

 それを合図にヴェルガラが凶悪に笑い、隣の『伝結晶を負いし者』の首を掴んだ。

 

「能力起動。ヴェルガラ姉様で『負いし者』を仕留める」

 

 金属が砕ける。『負いし者』が生け贄となり、ヴェルガラの上にCCが1個──ではない。『潤滑剤』2枚の効果で、3個になる。

 

 

 

 ヴェルガラのカウンター:2個 → 5個。

 

 

 

「そして『負いし者』の死亡時効果。乗っていた1個のカウンターを、ヴェルガラ姉様へ移動させる」

 

 残骸から飛び出した光がヴェルガラへ吸い込まれる。移動するために飛び出たのは1個。だがヴェルガラに乗る瞬間に、また『潤滑剤』が作用する。

 

 

 ヴェルガラのカウンター:5個 → 8個。

 

 

 

「同時に『死蝋集積所』の効果が誘発。死亡した『負いし者』が持っていた1個分のカウンターを、タンクに貯蔵する」

 

 黒いタンクの目盛りが1つ上がる。だが、まだレヴェローズの宣言は終わらない。

 

「続けて、ヴェルガラ姉様自身の能力を起動。生け贄は……ヴェルガラ姉様自身」

 

 ヴェルガラが自らの胸へパイルバンカーを突き刺す。凄惨な光景を置き去りにして、計算だけが先へ進んだ。

 

「ヴェルガラ姉様は死亡する。自己強化の効果は解決されないが、死亡時の『伝晶』は発動する。彼女が抱えていた8個のカウンターを全て、『失伝機』に託す!」

 

 爆散したヴェルガラから光の奔流が溢れ出す。結晶8個の移動に『潤滑剤』の補正+2が加わり、計10個が『失伝機』へ装填された。

 

 

 

 失伝機のカウンター:3個 → 13個。

 

 

 

「そして『死蝋集積所』の効果。ヴェルガラ姉様が抱えていた8個分のエネルギーを回収する」

 

 

 

 集積所のカウンター:1個 → 1+8 = 9個。

 

 

 

 残ったのは不気味に唸る『失伝結晶機』と、溜め込み続けた『死蝋集積所』。

 

 シラベのライフは20。失伝機の弾丸は13発。それだけならまだ耐える。まだ死なない。

 

 だが、レヴェローズは無慈悲に位相(フェーズ)を進行させる。

 

「──バトル位相(フェーズ)開始時。『死蝋集積所』の効果発動」

 

 宣言に応じて、黒いタンクのバルブが全開放される。

 

「集積所に貯まった9個のカウンターを全て、対象の生命体、『失伝結晶機』へ移動する」

 

 ドス黒い液体が砲台へとなだれ込む。9個の移動。そして、三度(みたび)適用される『伝結晶潤滑剤』2枚の効果。

 

 9+2 = 11個の追加。

 

 

 

 失伝機のカウンター:13個 + 11個 = 24個。

 

 

 

 シラベは目の前の数値を呆然と見つめるしかなかった。

 

「……オーバーキルじゃねえか」

 

「行け、『失伝結晶機』」

 

 レヴェローズが軽く手を振る。

 

 総統閣下の意思の通り、砲台が駆動する。結晶が閃光を放ち、24発の魔弾がマシンガンめいてシラベに殺到した。ライフカウンターはゼロを通り越し、瞬く間にマイナスへ叩き落とされる。

 

 煙が晴れる。残ったのはライフを-4まで削られて倒れ伏すシラベと、腕を組んで勝ち誇るレヴェローズだった。

 

「見たか。これがドゥブランコ王家の、美しくも完璧なリソース管理だ」

 

 王女は豊かな胸を張り、勝利の余韻に浸る。

 

「さあ約束だぞ、契約者。貴様のデッキの主役は、この私だ!」

 

 カスレアの主役採用と最優先召喚。再会したその日のうちに、シラベは自分のデッキへ呪いを常駐させる羽目になった。

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