カスレアクロニクル   作:すばみずる

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48 えげつねえな

 ミトラの5ターン目。彼女はデッキトップからカードを引き抜くと、手札から光を放つ紋様が描かれたカードを盤面へ滑らせた。

 

「光のルーンを配置」

 

 風、火、水に続き、今度は光。ミトラの陣地に四つ目の属性が灯る。多色構築の極みとも言える盤面だが、彼女の指先に迷いはない。

 

「3マナ、生命体を召喚。『聖印の爆ぜ鼬』」

 


聖印の爆ぜ鼬

コスト:〈1〉〈風〉〈風〉

タイプ:生命体

・聖印の爆ぜ鼬が死亡したとき、あなたは「あなたの山札から基本ルーンカードを最大2枚まで探し、それらを公開し、手札に加える。その後、山札を切り直す。」を選んでもよい。

・(2),聖印の爆ぜ鼬を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。

[2/1]


 

 ミトラが支払ったマナに応え、光と風の魔力が交じり合った旋風が巻き起こる。その中から現れたのは、額に神聖な印を刻まれた巨大な鼬だった。

 

 召喚を終え、ミトラは静かにターンを終了した。

 

「生き物を出せたなら上等だな」

 

 安心した様子のシラベに、レヴェローズは唇を尖らせる。

 

「だがあのスペック差だ。貫通持ちの魔人の攻撃は4点通してしまうぞ」

 

「確かにな。だが、カルメリエルは殴れない」

 

 シラベは盤面で唸り声を上げる福音書の魔人と、新たに現れた鼬を見比べて言った。

 

「『福音書の魔人』の効果は、戦闘を行った際のダメージでも反映される。攻撃を『聖印の爆ぜ鼬』で止められたら、ミトラへ4点のダメージを通す代わりに魔人へ2点のダメージが入る。つまり、場から2枚を生け贄にしなきゃいけない。今のカルメリエルにはだいぶしんどい」

 

 魔人の効果でカルメリエルの場にあるルーンは3枚吹き飛び、その後に出した1枚にまで落ち込んでいた。

 

「如何に貫通を持っていても、相手に攻力がある生命体があると立ち止まってしまうということか」

 

「ああ。おまけに鼬は倒されてもルーンカードを手札へ釣ってくる能力持ちだ」

 

 レヴェローズが納得したように盤面を見下ろす。シラベの言葉通り、ターンを受け取ったカルメリエルは静かにカードを引いた後、失った闇のルーンを1枚補填するだけで行動を終えた。魔人は苛立たしげに大理石の床を削っているが、主の命に逆らうことはできない。

 

 ミトラの6ターン目。彼女は引いたカードを確認し、すぐさま新たな風のルーンを追加した。盤面の魔力がさらに濃密になっていく。

 

「4マナを支払って召喚。『無限増殖ガエル』」

 


無限増殖ガエル

 コスト:〈2〉〈風〉〈光〉

 タイプ:生命体

・監視

・〈風〉:無限増殖ガエルは耐久を得る。(無限増殖ガエルが破壊される場合、代わりにそれから全てのダメージを取り除き、ステイした状態で戦闘から取り除く)

 [3/3]


 

 風と光のマナが渦を巻き、粘液に覆われた醜悪で巨大な蛙が姿を現す。その眼球はぎょろぎょろと周囲を監視し、強靭な後脚はいつでも跳躍できるだけの力を蓄えている。

 

「えげつねえな」

 

 シラベは溜め息を吐く。あいつが居れば福音書の魔人は一歩も動けない。殴れば確実にアドバンテージを失う。おまけに監視能力を持つガエルは攻撃に参加しても隙を見せず、さらに風マナを供給すれば致命傷を負っても即座に肉体を再生させる耐久の力を持っている。

 

「聖印の爆ぜ鼬で、プレイヤーへ攻撃」

 

 ミトラの宣言と共に、鼬が疾風のように駆け抜け、カルメリエルを守る障壁に鋭い爪を立てた。魔人はかち合えば再び盤面を荒らすことになる。動くことができず、カルメリエルのライフが削られる。

 

 しかし、ダメージを受けてもカルメリエルの糸目に焦りの色は浮かばない。彼女は余裕の笑みを崩さず、ターンを受け取った。

 

「私のターンです。『闇のルーン』を配置しますわ」

 

 カルメリエルの6ターン目。ルーンを失っていた陣地に、再び深淵のような黒い紋様が刻まれる。

 

「さて、その目障りな生き物を排除しましょうか。3マナ使用。戦略カード、『風見鶏殺し』」

 


風見鶏殺し

 コスト:〈2〉〈闇〉

 タイプ:戦略

・〈風〉の生命体1体を対象とし、それを破壊する。それは耐久できない。

・カードを1枚引く。


 

 カルメリエルの手から放たれた黒い刃が、空間を切り裂いて無限増殖ガエルへと襲い掛かる。風属性の生命体をピンポイントで死に至らしめ、さらに再生すら許さない凶悪な呪殺だ。

 

 ガエルは断末魔を上げる間もなく両断され、汚い体液をぶちまけて消滅した。カルメリエルはその成果を確認することなく、効果によって手札を1枚補充する。

 

「風属性で、しかも耐久を許さないカードを引き込んだだと? まさかイカサマでもしているのではないか!」

 

 レヴェローズが信じられないというように叫び、シラベは半眼でそれを見る。

 

「お前はカルメリエルに勝ってもらわないと、あの馬鹿げた神輿が出場出来ないことを忘れているのか」

 

「む。そ、そうであったな。しかし、都合が良すぎるだろう」

 

「構築済デッキならそういう幅の狭い、使いにくいカードが採用されることは珍しくないんだよ。あのデッキの製作者がどういう意図で入れたのかは知らんがな」

 

(もしかするとあの二つ、デュアルコンストラクションでペアになってるデッキかもしれないな)

 

 強力なデメリット持ち生命体と、それを防げる耐久持ちのカードと、それを禁止するカード。ある種の噛み合いを感じる関係性。シラベはデッキを取り出した順番を思い出す。たしか、ミトラがいくつかデッキを見比べている間に、カルメリエルはいまのデッキひとつだけを狙って取っていた。

 

(カルメリエルはミトラが取りそうなデッキを見越して、敢えてそれに相対するようなデッキにした?)

 

 後出しでデッキの持ち主が選ぶならそれくらいは普通に出来る。それが決定的な有利不利を生むかは、デッキ次第としか言いようが無い。

 

 だが。ペアになっているデッキは、基本的に同程度に揃っているものだ。互いに互いを想定して作られたデッキ。絶対的な相性差は生まれづらい。今回のデッキで言えば、攻撃力なら一時カルメリエルが上に見えたが、それを受け止める柔軟さがミトラのデッキにある。極端な偏りは感じない。

 

 そうなると、カルメリエルは敢えて対となるデッキを選んだということは、ミトラとのフェアな対戦を選んだということになる。

 

(あの腹黒のカルメリエルが?)

 

 似合わない。全然似合わない。シラベは眉根を寄せ、考えを打ち切った。狂人なら狂人らしくしていてくれないと、調子が狂わされてしまう。

 

 ミトラの7ターン目。彼女はガエルを失っても顔色一つ変えず、盤面に揃った四色のルーンを見下ろした。

 

「5マナを支払い、戦術カード。『ルーン博物館』」

 


ルーン博物館

 コスト:〈4〉〈水〉

 タイプ:戦術

・プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分がコントロールするルーンの中の基本ルーンタイプ1種につき、カードを1枚引く。


 

 ミトラの陣地にある風、火、水、光のルーンが共鳴し、ステンドグラスの光を集めて空中に巨大な幻影の書庫を作り出す。場にある基本ルーンの種類の数だけ知識を引き出すドローソースだ。

 

 四つの光の帯がミトラの手元に集束し、彼女はデッキから新たに四枚のカードを引き抜いた。一気に手札を潤沢にした彼女は、再び聖印の爆ぜ鼬でカルメリエルへと攻撃を仕掛け、確実にライフを削り取る。

 

「ターン終了」

 

「では、私ですね。『闇のルーン』を配置します」

 

 カルメリエルの7ターン目。彼女は手札から新たな生命体を場に投じた。

 

「3マナを使用。『徴税官の伝書鳩』を召喚しますわ」

 


徴税官の伝書鳩

 コスト:〈2〉〈闇〉

 タイプ:生命体

・飛翔

・徴税〈2〉〈闇〉(あなたのチェック開始時に、これが直前のあなたのチェック開始時よりも後にあなたのコントロール下になっていた場合、その徴税コストを支払わないかぎりそれを生け贄に捧げる)

・徴税官の伝書鳩がフィールドに出たとき、機械でも〈闇〉でもない生命体1体を対象とし、それを破壊する。

 [1/1]


 

 バサバサと不吉な羽音を立てて、骨と腐肉で構成された異形の鳩が空を舞う。その鳩が甲高い鳴き声を上げると、死の呪いが鼬へと降り注いだ。

 

 機械でも闇属性でもない生命体を問答無用で破壊する能力。鼬は黒い炎に包まれ、悲鳴を上げて灰と化す。

 

「鼬の死亡時効果。デッキから風のルーンと火のルーンを手札に加える」

 

 ミトラは淡々とデッキからカードを探し出し、手札に加えた。

 

 そして彼女の盤面の壁が消え去ったことで、ついに怪物が動く。

 

「さあ、お待たせいたしました。『福音書の魔人』で、ミトラ様へ直接攻撃」

 

 カルメリエルが優雅に指を振ると、魔人が巨躯に見合わない速度で突進する。ミトラの障壁が激しく軋み、重い一撃が彼女のライフを大きく削り取った。衝撃に耐えながらも、ミトラの瞳の奥には冷たい炎が宿っている。

 

 ミトラの残りライフは10点。半分まで落ち込んでいた。

 

 ミトラの8ターン目。彼女は引いたカードを手札に加え、ルーンカードを場に出す。

 

「『ケナズとベルカナのルーン板』をステイ状態で配置」

 


ケナズとベルカナのルーン板

 コスト:-

 タイプ:ルーン

・ケナズとベルカナのルーン板はステイ状態でフィールドに出る。

・(T):〈火〉か〈風〉を加える。


 

 火と風の魔力を併せ持つ複雑な紋様が刻まれた石板が、大理石へ沈み込むように現れる。すぐさま魔力を引き出すことはできないが、次のターンへの布石となる。

 

「すぐ使えないルーン、そういうのもあるのか」

 

「あっちが普通なんだよ」

 

 贅沢なことを呟くレヴェローズにシラベは苦言を呈する。複合属性はこれだから苦手だ。低速に耐えられず猫も杓子もレアルーンばかり使う羽目になる。

 

「そして2マナを使用して、戦術カード。『博物館の失火』」

 


博物館の失火

 コスト:〈1〉〈火〉

 タイプ:戦術

・生命体1体かプレイヤー1人を対象とする。博物館の失火は、それにX点のダメージを与える。Xは、あなたがコントロールするルーンの中の基本ルーンタイプの数に等しい。


 

 ミトラがルーンに魔力を流し込むと、風、火、水、光の四色の魔力が一つに融合し、焦熱の炎となって魔人へと直撃した。

 

 ルーンの種類の数に等しいダメージ。4点の熱線が魔人の肉体を焼き焦がす。

 

「魔人に4ダメージ。さあ、対価を払いなさい」

 

 ミトラの冷ややかな宣告。魔人は致死量には至らなかったものの、そのダメージの数値と同じ数だけ、コントローラーに存在の生け贄を要求する。

 

「ええ、仕方がありませんわね。これらは不要となりました」

 

 カルメリエルはわざとらしく頭を振り、魔人自身と、空を飛ぶ伝書鳩、そして自らの魔力源である闇のルーンを二つ選んで砕き散らした。自分の盤面を自ら更地にするような行為だが、彼女の糸目は楽しげに弧を描いたままだ。

 

「さらに3マナを支払い、『聖印の爆ぜ鼬』を再び召喚。ターン終了」

 

 ミトラの陣地に再び印を持つ鼬が姿を現す。

 

 カルメリエルの8ターン目。盤面を失いながらも、彼女のドローには澱みがない。

 

「闇のルーンを追加しますわ。そして、1マナ、『強欲な闇』を使用。さらなる闇マナを3つ引き出します」

 

 カルメリエルの周囲で再び濃密な瘴気が渦を巻く。彼女は残されたマナと合わせ、重々しい声で告げた。

 

「5マナを使用し、生命体を召喚。『プリアヘクスンの収税吏』」

 


プリアヘクスンの収税吏

 コスト:〈3〉〈闇〉〈闇〉

 タイプ:生命体

・〈T〉,プリアヘクスンの収税吏を生け贄に捧げる:生命体1体を対象とする。それはターン終了時まで-4/-4の修整を受ける。

・生命体を1体、生け贄に捧げる:生命体1体を対象とする。それはターン終了時まで-1/-1の修整を受ける。

 [4/4]


 

 盤面が黒く染まり、泥のような闇の中から、豪華な装飾品を身に纏った醜悪な怪人が這い出してくる。血に塗れた帳簿がその手に握られており、神経質そうに空を舞う羽ペンが帳面をなぞっている。

 

「あ、契約者。あのカード、姉様に似ているな」

 

 金勘定にうるさそうな生命体へ指を差してレヴェローズがカラカラと笑う。頷き掛けたシラベだが、それより早くカルメリエルの口が開いた。

 

「レヴェローズ? 声は聞こえなくとも、唇は見えているのですからね?」

 

 ひぅ、としゃっくりの様な声をあげるレヴェローズ。咄嗟にシラベの背に顔を隠すが、糸目の奥から放たれる圧力はしばらく収まらなかった。

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